第103話 秘密基地計画本格始動
「リク、相談があるんだけどさ」
《はい、どうぞ》
「駐車スペースの下に秘密基地を作るとして……入り口どうする?」
《入り口ですか。隠し扉方式ですか?》
「いや、もっとこう……“秘密基地感”が欲しいんだよ。ついでだからさ、三階まで吹き抜けにして、念動魔法で行き来できるようにしたら楽じゃね?」
《……休日の思いつきでやる規模ではありませんが、確かに効率的です》
「だろ? で、一階の床を魔力鍵にしてさ。魔力を流すと“スッ”て開く。吹き抜けの移動は全部念動魔法! 完璧じゃね?」
《まるで小荷物用エレベーター跡のように偽装すれば、来客時にも自然に説明できますね》
「おお、それだ! “昔ここに業務用のエレベーターがあって~”って言っとけば信じるだろ」
《では、まず位置決めです。配管や基礎と干渉しない場所をスキャンで探しましょう》
足元から魔力を流すと、地中の様子が立体で浮かび上がる。配管も柱もかすかに反応がある中、ぽっかりと“空き地”のような場所を発見した。
「よし、ここなら既存の地下室にも被らないな」
《決定ですね》
作業開始。
ゴミ捨て魔法を使って、三階から地下まで一気に吹き抜けをくり抜く。ずるずると土が消えていき、ただの空洞が出現した。
「……あっけないな。掘るっていうより、土が“なかったこと”になる感じだ」
《ですが、そのままでは土壁が崩れてしまいます》
「だよな。じゃ、土魔法で固めとくか」
庭で練習した通り、土の粒子を締め固めるイメージを流し込む。すると、むき出しの土壁がぎゅっと圧縮され、コンクリみたいに硬くなった。
「おお、意外とそれっぽい!」
《次は偽装用の壁ですね》
「残ってた石膏ボードとクロスがあるから、それで仕上げれば他と見分けつかなくなるな」
リペアで下地を作り、ボードを張ってクロスを仕上げる。
結果――ただの細い吹き抜けが完成した。
「これ、知らない人が見たら“古いビルの名残”にしか見えねぇな」
《その意図通りです》
「じゃ、魔力鍵をつけようぜ」
《了解です。以前解析した曽祖母様の魔力鍵システムを再現します》
「さすが!リクは万能だな」
《万能ではありません。ただ、これは単純に再利用可能な仕組みです。鍵の魔力比率を太郎さん専用に設定します。壁部分に設置……》
リクの指示に従い、俺は魔力を流し込む。
すると、ただの床板が“見えない鍵”を持ったようにカチリと反応した。
《これで太郎さんが開ける場合は、魔力を流すだけで解錠。他の方が開ける場合は、別の比率変換キーが必要になります》
「うわ、本格的じゃん。やべぇ、秘密基地感マシマシ!」
「よし、実験な!」
床板に魔力を流すと――スッ、と音もなく板が左右に分かれ、下に暗い縦穴が口を開けた。
「おおおっ、マジで開いた! やべぇ、秘密基地感すげぇ!!」
《太郎さん、興奮しすぎです》
「いいんだよ、こういうのはテンションが大事!」
俺は念動魔法を使って、すうっとゆっくり降りてみる。
着地した下の空間は――まだ一人立つのがやっとの小部屋。
「……なんだこの“落とし穴にすっぽり”感。笑うしかねぇ」
《拡張工事はこれからです》
「だな。まぁ、第一段階はクリアってことで」
上を見上げると、吹き抜けの先に小さく光が差している。
胸の奥がわくわくして仕方なかった。
「じゃあ次は駐車スペースの地下だな。ここを広げて秘密基地にしよう」
《はい。ただし安全第一です。まずは再度スキャンで地中の状況を確認しましょう》
足裏から魔力を流し込むと、地層が立体的に浮かび上がる。
榊の根が斜めに伸びている部分、配管が走っている場所――全部見える。
「よし。土魔法で固めてるから大丈夫なはずだけど、念のため……リク、結界強めに張っといてくれる?」
《承知しました。崩落を防ぐ強度で展開します》
ふわりと空気が張りつめる。見えない壁が地下を覆ったような感覚がした。
「じゃ、抜くぞ」
ゴミ捨て魔法を発動すると、地中の土がごそっと消え、ぽっかりと空間が生まれる。
同時にリクの結界がぴたりと広がり、周囲を固定する。
《崩落の心配はありません。今のうちに仕上げをお願いします》
「了解!」
生活魔法のライトを灯すと、地下に柔らかい光が満ちた。
俺はすぐに土魔法を流し込み、壁面をぎゅっと締め固めていく。
仕上げに強度アップをかけた瞬間――
「……あっ。やっぱ黒くなるんだな、これ」
《はい。太郎さんの強度アップは“結晶化”の方向に偏っているため、色調が黒に変化するのです》
「いや、説明されても見た目がダンジョンなんだけど! これ誰かにバレたら怪しまれるだろ!」
慌てて外に出て駐車スペースを確認。
……普通の地面だ。真っ黒になったのは地下だけらしい。
「ふぅ……外観は無事か。よかった……」
改めてスキャンしてみると、地下一・五メートルほどの深さに、縦横数メートルの空間がぽつんと確認できた。
「よし、とりあえず“形”はできたな」
《初期段階としては十分です。今後は拡張や内装を整えれば立派な秘密基地になります》
「……なんか子供のころ夢見てた秘密基地作りが、めちゃくちゃ本格的になってきたな」




