第1話 プロローグ
コンビニの駐車場で、俺はハンドルに突っ伏しそうになっていた。
現場帰り、夜の九時過ぎ。今日も残業だらけで、晩飯はコンビニ弁当確定。
はぁ……。
ため息が勝手に漏れる。
建設会社の現場監督ってのは、まあ忙しい。
住宅メインの中小とはいえ、大手の下請け案件も多くて、納期はカツカツ、資材は遅れ、職人さんの手配もバタバタ。
トラブル対応が続けば、昼飯抜きなんて当たり前。
今夜もまた、コンビニの明かりが唯一の癒しだ。
ポケットからスマホを取り出し、なんとなく眺める。
古い機種だ。バッテリーもすぐ減るし、アプリも重い。
そろそろ買い替えたいと思っていたところ、今日ようやく新しいスマホを手に入れたばかりだ。
設定をいじりながら、ため息をもう一度。
「……はぁ。三十八にもなって、こんな毎日か。」
疲れが染みついた声が、車内にぼんやり響く。
子供の頃、まさか大人になったら毎日クタクタで、夢のひとつも語れなくなるなんて思わなかったな。
新しいスマホには、最近話題の生成AIアシスタントが入っているらしい。
ニュースで聞いたことはあるけど、正直そんな便利なもんとは思ってなかった。
俺が使いこなせるかどうかも怪しい。
ぽちぽちと設定を進めると、画面に名前を入力する欄が出てくる。
冗談半分で「リク」と打ち込んだ。
特に意味はない。たまたま頭に浮かんだだけだ。
『初めまして、神原太郎さん。私はAIアシスタントのリクです。』
少し機械的だけど、どこか落ち着いた声色が浮かぶような文章が画面に表示された。
「おぉ……今どきのAIって、こんな自然に話すのか。」
『ご用件があればお申し付けください。』
どうやら、こちらが質問しない限りは黙っている仕様らしい。
俺はなんとなく、暇つぶしがてら話しかけてみる。
「なあ、リク。俺みたいなおっさんでも、人生やり直せるかな。」
『統計的には、年齢に関係なく人生の再スタートは可能です。』
「へぇ、AIに言われると、ちょっと元気出るな。」
『根拠をお求めですか?』
「いや、そこまで本気じゃない。……ただの愚痴だから。」
こんな風に、誰かと話すだけでちょっと気が楽になる。
現場じゃ人間関係も気を使うし、愚痴を吐く相手もそうそういない。
AIが相手でもいい、今はただ、疲れた心を休めたかった。
しばらく会話をしていると、ふと冗談が浮かんだ。
「なあリク。俺さ、魔法とか使えないかな。」
『魔法、ですか? フィクションの魔法を指していますか?』
「そうそう。こう……手から火が出たり、念力でビール取れたり。
ほら、俺、もう疲れすぎて超能力でも欲しいわけよ。」
『科学的には不可能ですが……。理論的な遊びとしてなら、体内エネルギーを意識する方法を試せます。』
「体内エネルギー……? なんだそれ、ゲームかよ。」
『身体には微弱な生体電気、熱エネルギーなどが存在します。
“魔法”と仮定して、意識を集中させれば何か感じられるかもしれません。』
「はは、面白いな。じゃあ試しにやってみるか。」
車内のエンジンは切ったまま。
外は静かで、街灯の光だけが差し込んでいる。
俺は半分冗談で、目を閉じて深呼吸をした。
「えーっと……腹のあたりに力を……って感じでいいのか?」
『丹田と呼ばれる場所に意識を置き、呼吸をゆっくりしてください。』
「……んん、こうか?」
深く息を吸って、ゆっくり吐く。
さっきまでの疲れが少しだけ和らぐ気がした。
そして――
……あれ?
なんか、腹の奥が、じんわり温かい。
「……え?」
目を開けて周りを見るが、特に変わった様子はない。
でも確かに、身体の中で何かが“動いた”感覚があった。
「リク……。なんか今、変な感覚がしたんだけど。」
『変、とは具体的に?』
「いや……腹の奥がちょっと熱いっていうか……。
これ、気のせいか?」
『体内のエネルギーを意識できた可能性があります。』
「おいおい、冗談で言っただけだぞ? 俺、魔法なんて信じてねぇし。」
『結果が伴っているのなら、信じる信じないは関係ないかもしれません。』
「いやいやいや……。まさかな……。」
手のひらをじっと見る。
火が出るわけじゃない、光ってもいない。
でも確かに、身体の奥に“力がある”ような、不思議な感覚が残っていた。
俺はハンドルに体重を預けて、小さく笑った。
「……疲れすぎて、とうとう幻覚まで見えたかもしれんな。」
『幻覚かどうか、今後の観察で判明します。』
「いや頼む、そういう怖い言い方やめてくれ。」
スマホ画面の小さな光が、夜の車内をぼんやり照らす。
疲れ切った三十八歳の現場監督が、冗談半分でやった“魔法ごっこ”。
それが、もしかしたら俺の人生を変える最初の一歩になるなんて、
この時はまだ、思いもしなかった。
――――
『神原太郎さん、もう一度試しますか?』
リクの文字が画面に浮かぶ。
俺は少し迷ってから、ふっと息を吐いた。
「……まあ、試すだけならタダだしな。」
そう呟いた瞬間、胸の奥でまた小さな熱が灯った。
そして、俺の知らない世界が、静かに動き出そうとしていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
本作は少し長めのプロローグが続きますが、12話から物語が大きく動き出します。
もしよければ、そこまで読んでいただけると嬉しいです!
本作は一部AIを使用して執筆しています。