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7. vsゴブリン

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E+『ゴブリン』

【人族に仇なす魔人族の中で最弱の種族。

500年前の人魔大戦では、この上位種が魔王軍の雑兵として各地で略奪・破壊に従事したが、戦乱の終焉とともにその姿もほとんど見られなくなった。】

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 ゴブリン......!やっぱりいるよな。ファンタジー異世界なんだから。

 クソみたいにブサイクな顔してるくせに、この僕に槍を投げて刺しやがった。

 さっきとったばかりの『集中』で、何とか意識から痛覚を遠のけようとしたが、それでも痛い。このまま倒れてしまいたい。

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名前:行島千秋

種族:人間Lv7  SP:14

状態:出血

HP:48/54  MP:32/66

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 こんなに痛いのに、これでもHPはたったの6、1割くらいしか削れてない。

 喜ぶべきなのか、ステータスがあてにならないと怒るべきなのか。


「ギィ"ィ"!」


 一匹のゴブリン――称号に『統率者』がある個体が甲高い叫び声を上げ、僕に向かって飛びかかってきた。

 その手には、粗末な骨の棍棒が固く握られていた。

 跳躍の勢いで、頭上高く振りかぶった棍棒を、僕の頭部めがけて叩きつけようとしている。


 奴の攻撃力は棍棒併せて29、盾の防護値の18を大きく上回っている。

 普通なら、正面から受けず『ステップ』で回避するのが最適解。

 だが、僕の練度のステップでは着地時にわずかに隙が生じ、さらに連続使用も難しい。

 こんな対集団戦では、ステップは温存しておくべきだろう。


 左手に構えた盾に魔力を流し、強化する――『シールド・ガード』。

 盾には打撃耐性Lv12が付いている。

 盾の損傷は避けられないだろうが、攻撃はギリ防げると信じる。


 その時、ゴブリンが振り上げた棍棒が赤黒く光る。

 あれは魔力だ。俺のそれとはずいぶん違うオーラではあるが、魔力。

 奴のスキルを見るに『スマッシュ』だ。

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『スマッシュ』

【武器全体に魔力をまとわせ、振り下ろす瞬間に一気に解放する攻撃スキル。

打撃を増幅し、敵に重い衝撃と吹き飛ばし効果を与える。】

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 奴は、振り上げる前には棍棒に魔力を込めていなかった。

 振り上げながら発動するスマッシュは、やつのLv5の練度では威力不足に落ち着いてしまうだろう。

 それでも、奴はこのタイミングで発動してきた。

 事前にスマッシュを使えば、僕が反応して受け止めず、避けると読んでのフェイントか、それとも、ただの気まぐれか。

 腰をわずかに落とし、衝撃に備える。


 ――盾に凄まじい衝撃が叩きつけられ、轟音が鳴る。

 腕越しに衝撃が抜けきらず、上体が後方へ押され、重心を崩されて態勢が揺らぐ。

 木製の盾が激しく軋み、みしりと不吉な音を立ててひびが走った。小さく木片が弾け飛ぶ。


 倒れるわけにはいかない。

 『ステップ』の応用で、右足だけを瞬時にわずかに後方へ引き、支えとすることで重心を安定させる。

 

 こいつはこの一撃のために『ジャンプ』を使い、飛びかかって攻撃してきた。

 そして今、地面に足を付けたばかり。

 横に剣を薙いで斬りつけてやる。


 ――しかし、その攻防の隙を見て、もう一匹の棍棒を持った個体が僕の右側に移動し、棍棒を横に振り上げていた。

 こいつは既にスマッシュの準備を終えている。

 十分にスマッシュを付与させた一撃なんてまともに胴体に受けられない。


 身を右回りにひねり、左手に持った盾を、右わき腹を守るように構える。

 さっきの攻撃を防いだせいで、シールド・ガードの魔力はほとんど散ってしまったため、今回はほぼ素の盾で受ける。

 

 盾に轟音がとどろく。

 盾全体が、打撃点を中心にして外側へと曲がる。

 

 衝撃を受け止めきれず、盾の裏側が僕の胴体にぶつかった。

 内臓が揺さぶられる感覚とともに、身体が僅かに後方へと押し飛ばされる。

 とっさに、魔力が残る左足で後方に地を蹴り、ゴブリンたちから数歩分距離をとる。


 ――ここで、槍を持っていたゴブリンの方へと、顔を守るように反射的に盾を向ける。

 合理的な判断に先行した無意識、戦闘勘。

 

 構えていた盾に衝撃が走る。

 白く細長い骨の槍が盾を貫き、僕の首の手前で止まった。

 

 投げ槍……盾が貫かれた。

 散々盾を傷めて、耐久が大きく落ちたからか。

 本当にギリギリだな。


 『統率者』のゴブリンが棍棒を振りあげてこちらに向かってきている。

 その顔から余裕が消え、驚いたように目を見開いていた。


 大して身体能力が高くない僕が、すべての攻撃を間一髪で防ぎ切ったことに驚いているのだろう。


 僕を殺そうだなんて、百年早いんだよ!

 ゴブリンに向かって剣を突き出す。

 今回は刃全体ではなく、剣先に集中して籠めている――『ストライク』。

 狙うは回避しにくいだろう胸元。突きであれば、腕も武器も僕のほうが長い。

 この間合いを最大限に活かせる。


 ゴブリンは身をよじって回避しようとしたが、僕の瞬時の反撃には明らかに反応できていなかった。

 やせ細った胸元、ちょうど胸骨に剣先が突き刺さり、直後、魔力が弾けるような爆裂音が鳴る。

 鈍く重い手応えの奥から、骨の砕ける嫌な音が聞こえた。


 「ギィ"ァ"......」


 ゴブリンの体が後ろによろめく。

 その胸元から鮮血が滲み出し、その身体を赤く染める。

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名前:--

種族:ゴブリンLv14/22

状態:出血

HP:53/68  MP:37/44

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 これで15ダメージか......


 ――すぐ右を見れば、もう一方の棍棒持ちのゴブリンが、棍棒を振り上げ、僕の腹めがけて『スマッシュ』を叩き込もうとしていた。


 シールド・ガードは間に合わない。

 たとえステップでかわしても、棍棒の先端がかすめるはずで、完全には避けきれない。

 それなら。


 突きのために伸ばしていた右手を、振り下ろされる棍棒めがけて右へ薙ぐように振り抜く。

 剣と棍棒がかち合い、棍棒はその軌道とは垂直に横から衝撃を受けたことで、狙いが大きく逸れた。

 逸れた棍棒は、そのまま僕の右足元の地面に叩きつけられ、鈍い衝撃音と共に土埃が舞い上がる。


《技能経験値が一定に達しました。『受け流しLv1』を得ました。》


 まさかこんなふうに受け流されるとは思っていなかったのだろう。

 ゴブリンは、本来狙っていた僕の胴体ではなく、地面に棍棒を叩きつけたせいで、わずかに前のめりに体勢を崩していた。

 その隙を逃さず、僕はゴブリンの喉元に剣を突き立てる。


 ストライクに魔力を使ったため、剣には十分にスラッシュを付与できていないが、もともとこの剣は鋭利な斬撃武器。

 首の骨を砕くには至らなかったが、それでもどこかの太い血管、おそらく動脈を切ることができた。

 ゴブリンの首から、鮮血の飛沫が噴き上がる。


「ギッ......」


 ゴブリンは棍棒から手を放し、噴き出す血を押さえるように首に手を当てた。

 そのまま膝をつき、地面に崩れ落ちる。

 首から噴き出した血が地面に散り、乾いた土に赤い斑点が染みる。

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名前:--

種族:ゴブリンLv11/21

状態:大量出血

HP:29/62  MP:31/37

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 戦意喪失と認識していいだろう。

 即死ではないが、放っておけばいずれ出血多量で死ぬ。

 

 残り二体に目をやる。

 リーダー格のゴブリンは左手で棍棒を持ちつつ、右手で血が滲む胸を押さえている。

 出血はあるが、首を切られたやつよりはだいぶんマシだ。動脈は無事だったんだろう。

 体を前かがみにしながらも、悔しそうに血が垂れているその口元の歯を剥き出し、憎しみを滲ませている。


 1対2、さっきの不意打ち1対3と比べれば状況はずいぶんましになった。

 2体ともステータスは僕とほぼ同格だが、装備とスキル、体格ではこちらが勝ってる。

 順当に戦えば勝てる。


 「......ギィ」


 ――『統率者』のゴブリンは限界を悟ったのか、鋭く息を吐いた。

 そして一転、身を翻して背を向けると、よろめきながらも森の奥へと駆け出していく。

 遅れて、手にしていた骨槍をすべて使い果たし、武器を持たないままのもう一体のゴブリンも背を向けてリーダーを追う。


 草を踏み分け逃げ去るその背中は、木々の向こうに消えていった。

 

 首を斬られて地にうずくまっているゴブリンを見る。

 頸動脈から溢れ出す血であたりが赤く染まっている。

 地面にうずくまり、震える手で首の傷を押さえているが、指の隙間からは止まることなく血が溢れ出していた。

 顔面は土色に近く、もう手遅れだ。

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名前:--

種族:ゴブリンLv11/21

状態:大量出血

HP:20/62  MP:31/37

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 正直、HPは見た目よりあてにならんな。

 怪我の場所や度合いによっては、HPが半分くらい残ってても戦闘不能になることもあるっていうのが分かった。


 剣を振り上げ、息の根を止めるためにその細い首に振り下ろす。


「ギッ.......」


 鈍く重い音とともに剣が肉と骨を断ち切り、ゴブリンの首はあっけなく胴体から離れる。


《ゴブリンを討伐しました。経験値+124。》

《人間Lv9にレベルアップしました!スキルポイントを38取得しました。次のレベルアップまで残り22です。》


 首の断面からはなおも脈打つように血が溢れ、乾いた地面をたちまち赤黒く染め上げる。

 あたりに生暖かい鉄臭さが立ち込めた。


「ぐっ......あ”ぁ......」


 張りつめていた緊張がふっと緩み、背中の痛みが一気に押し寄せた。

 わずかに身じろぎしただけで槍が肉の中で擦れ、鋭い痛みが襲ってくる。

 痛みのあまり膝をつく。

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名前:行島千秋

種族:人間Lv9  SP:52

状態:出血

HP:50/63  MP:24/75

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 痛い。痛すぎる。

 息が乱れる。


 ポーションを使おう。

 傷口に直接塗る余裕なんてない、飲もう。

 どのくらい経てば効いてくるのかは分からないが、少なくともHPを30回復させるとは書いていた。


 震える指先で腰の留め具を外し、つけていたポーションを取り出す。

 ぎこちない動きで瓶の蓋を開け、そのまま口に押し当て、一気に飲み干す。


 薬液が喉を伝い、体内へ染み渡っていく。

 全身に冷たい清涼感が走り、熱を持ってうずいていた傷口の痛みがほんの少しだけ和らぐ。


 不思議な感覚だ。

 まだ傷そのものは癒えてないが、口の渇きや冷や汗が治まる。

 重かった身体も少しだけ軽く感じる。


 ......突き刺さった槍は、今抜けば確実に出血量が増える。

 止血しようにも、肩のこの位置ではどう処置すればいいのか分からない。

 ある程度ポーションの効果が出てから抜くのが最善か。


 とりあえず拠点に戻ろう。

 あそこにはリュックがあり、色んな荷物を置いてきた。

 背後の安全も多少あそこは保証されてる。

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