4. 余韻、そして洞穴
地面に刺さった剣を引き抜く。
剣身には酸性のジェルが付着しており、わずかに煙を上げている。
ジェルを拭うために、剣を地面にこすりつける。
こびりついた砂を払い落とすと、刃には黒ずんだ斑点が残っていた。
目を凝らすと、刃先の一部がかすかに剥離しているのが見える。
包丁とは違い叩きつけるように斬るため、多少の刃こぼれは大丈夫だろうが、それでもちょっと残念だ。
遅れて、盾も酸を浴びたこと思い出し、目をやる。
もう煙は上がっていなかったが、革張りの表面は広く焼けただれ、黒くまだらに変色していた。
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『黒鋼のアーミングソード』
ランク:E+
必要筋力:9 攻撃力:+8
特殊能力:
斬撃武器
『木製のラウンドシールド』
ランク:E+
必要筋力:9 防護:18(固定)
能力:
斬撃耐性Lv14/20、刺突耐性Lv15/20、打撃耐性Lv12/20
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ラウンドシールドの斬撃耐性、刺突耐性が少し下がっているだけ。
見た目はともかく、使う分には問題なさそうだ。ひとまず安心する。
生まれて初めて大型の生き物を殺めたが、大して心は動かされない。
まあ、所詮スライムだからね。
このサイズの昆虫とかの方がショックを受けただろう。
それより、スラッシュのレベルが上がったのは朗報だ。
こんな簡単に上がるものなのかと、少し驚いてる。
魔力を込めまくったのが良かったのか?
もう一回やってみよう。
魔力を剣に籠める練習なんてしたことないはずなのに、方法が自然に身についている。
変な感覚だ。
体の奥底からせり上がってくる熱のような何か――魔力。
それを、手のひらを通して剣に流す。
瞬間、剣のグリップ付近がじんわりと熱を帯びはじめる。
そこから刃へと魔力を送ろうとすると、僅かに抵抗を感じる。
これを無視して強引に押し込むと、魔力は刃全体に行き渡る。
さらに魔力を注ぎ込む。タイヤの空気入れで、限界を越えて無理やり空気を押し込んでいくように。
グリップから自分の魔力がじわじわ漏れ出していく感覚があるものの、それでも構わず、ただひたすら流し続ける。
.......何もアナウンスがこない。
スラッシュを解除する。
これ以上魔力を無駄に垂れ流すのは良くない。
やっぱりそんな上手くはいかないか。
同じ事やってもダメなのか、それとも熱意が足りないのか。
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名前:行島千秋
種族:人間Lv1 SP:0
状態:通常
HP:30/30 MP:33/40
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MPの消費はさっきと合わせて7。
今回はコストなんて考えずに魔力をひたすら流し込んだから、それだけ多く消費されたのだろう。
通常の使い方ならもう少し節約できたはずだ。
スラッシュは今の僕にとって唯一の切り札と言っていい。
MPがどの程度の速度で回復するのかすらまだ分かっていないのだから、今はむやみに連発せず、慎重に使っていこう。
今回のスライム討伐で得られた経験値がたったの4だったのは、正直結構ショック。
レベルアップまであと6、つまりスライムをあと2体倒さなければならないという計算になる。
正直、かなり疲れる。
体力的にはまだ何とかなるが、精神的に消耗する。
経験値2倍の能力があるからまだいいが、それがなければスライムを5体も倒して、ようやくレベルアップということになる。
スライムがこの森にどのくらいいるのかも分からないし、運よく出会える保証もない。
レベルが上がらないまま、もっと強い魔獣と出くわす可能性は十分にあるだろう。
それだけは避けたい。
今後、スライムを見かけたら、多少寄り道になっても、積極的に狩っていこう。
休んでいる暇はないな。
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あれから体感で数十分ほどが経った。その間、スライムに二匹エンカウントした。
一匹目はさっきみたいに一発で殺せたが、二匹目は途中で見失ってしまった。
本当に悔しいし手痛い。
あと一匹でレベルアップだっていうのに。
スライムごときと舐めて普通に近づいたら、10メートルくらい離れてたのに気づかれて逃げられた。
追いかけたけど、走る音を立てないし、森で視界が悪く下草も多い場所だったから、そのまま見失った。
本当につらい。
他には、スライムじゃない魔獣を二匹見た。
一つは大柄な鹿。
筋肉の起伏がくっきりと浮かんでたゴリマッチョで、頭部からは滑らかに湾曲し、複雑に枝分かれした角が伸びていた。
その角にはわずかに魔力が宿るのか、かすかに蒼白い輝きを放っていた。
体高が僕の身長くらいあり、日本の鹿というよりも北のアカシカを思わせる雰囲気があった。
しかし、角は木々に引っかからないようにか、細長く伸びていた。
もう一つは少し大きめの野ウサギ。
灰色の体毛とぴんと立てた耳が印象的だった。近づいたら勘が良くてすぐに気づかれて逃げられた。
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D-『フォレスト・ディア―』
【森林地帯や平原に広く生息する、低級の魔獣。
肉は食用に、毛皮は衣服に、角は装飾品や薬の触媒と、その各部位は多くの人々に利用されている。
主な食性は草や木の実であるため、村の農地を荒らすことは珍しくない。】
E『フォレスト・ラビット』
【森に生息する小型の魔獣ウサギ。
素早い動きと跳躍力が特徴で、危険を察知すると木陰や茂みに素早く逃げ込む。
基本的に臆病で人間や大型動物には近寄らない。】
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鹿はガチで強かった。ステータスが全部僕の2倍以上あった。
風魔法も持ってて、なんなら「ウィンド・カッター」とかいう遠距離攻撃系だった。
地球の鹿の何倍も強い。これでD-なんてこの世界の人類滅びないか。
まあみんな僕より強いってことか。普通に腹立つな。
野ウサギは、敏捷特化って感じだった。
敏捷以外のステータスは僕が一回り上だったから、もし向こうが戦闘狂でこっちに襲い掛かってきてたなら、僕が勝ったはず。
スライムといいウサギといい、弱いやつはなんで僕から逃げようとするんや。かかってきてさっさと経験値になれよほんま。
こんなふうに色々あったけど、良いことはあった。
拠点になりそうな洞穴を見つけた。
森の斜面がゆるやかに上っていく先、苔むした岩壁に、人が通れるほどの暗い入口がぽっかりと開いていた。
周囲はシダや蔦が絡みついている。
洞穴の中は外光がほとんど届いておらず、奥の様子は見えない。
洞穴の奥は空気がよどんでそうだから、入り口付近を活用しようと思ってる。
別に洞穴の奥でなくても雨風はしのげるし、何より開けた森よりも格段に遮蔽があるのは精神的にでかい。
......でもその前に。
その洞穴の入り口近くで、蛇とネズミが血みどろの弱肉強食を今繰り広げている。
こいつらが邪魔で洞穴に入れない。
僕の腕より少し細いくらいの緑の蛇が、地球のウサギくらいの大きさの灰色のネズミに巻き付いて締め付けている。
ネズミは足を僅かにばたつかせているが、もう成すすべはないようだ。
ほとんど蛇の勝利に見えるが、ここまでの争いでか蛇の体にも数多くの咬み痕が刻まれていて、ところどころ肉が痛々しく剥がれている。
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名前:--
種族:グレー・ラットLv4/10
状態:通常
HP:4/39 MP:34/38
攻撃力:12 敏捷:17 防護:5
魔力:10 知力:18
特性
『草魂還元』『肉魂還元』『不浄』『魔獣の牙』『病耐性Lv20/20』
特技
『察知Lv11/20』
魔法
スキル
『噛みつきLv3/20』『ダッシュLv4/20』
称号
『Eランク魔獣』『病の運び屋』『群れの従属者』
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名前:--
種族:ニードル・スネークLv13/15
状態:通常(幼体)
HP:15/39 MP:18/29
攻撃力:14 敏捷:15 防護:4
魔力:8 知力:11
特性
『肉魂還元』『魔獣の牙』『魔獣の鱗』『魔獣の骨棘』『病耐性Lv17/20』『執念』
特技
『察知Lv4/20』
魔法
スキル
『噛みつきLv7/20』『組みつきLv10/20』『棘噴射Lv6/20』『ジャンプLv8/20』
称号
『E+ランク魔獣』『幼体』『鼠の天敵』『ジャイアントキリングLv3/20』
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まあ、これは漁夫るしかないよね。