33. vs クセノサロス
《技能経験値が一定に達しました。『集中Lv8』がLv9にレベルアップしました。》
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名前:行島千秋
種族:人間Lv18 SP:94
状態:通常
HP:121/121 MP:10/141
攻撃力:40+27 敏捷:43-4 防護:19(盾15)
魔力:46 知力:47
特性
『ヘルプ』『スキルポイント』『取得経験値2倍』『技魂』『武術の才能Lv14/20』『魔導の才能Lv15/20』『力魔法適性』『闇魔法適性』
特技
『剣術Lv9/20』『盾術Lv7/20』『闇魔法Lv10/20』『調教術Lv11/20』『力魔法Lv8/20』『炎魔法Lv1/20』
魔法
『ダークミストLv6/20』『デコイLv10/20』『グラヴィティLv10/20』『フォースLv10/20』『ファイア・アローLv3/20』
スキル
『ステップLv9/20』『シールドガードLv6/20』『集中Lv8/20』『ストライクLv8/20』『ダッシュLv8/20』『受け流しLv1/20』『テイムLv8/20』『マナ・リンクLv4/20』『ジャンプLv6/20』『一閃Lv8/20』『パリィLv4/20』『キックLv5/20』『パンチLv1/20』
称号
『異世界人』『ミラクルボーン』『冒険者』『ガラン王国カルデン公爵領臣民』『平民階級』
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名前:--
種族:クセノサロスLv24/43
状態:洗脳Lv5/30、バーサークLv5/20
HP:198/198 MP:48/86
攻撃力:52(46) 敏捷:52(45) 防護:31
魔力:43(39) 知力:22(31)
特性
『魔獣の鱗』『魔獣の牙』『肉魂還元』『病耐性Lv13/20』『毒耐性Lv2/20』『魔獣の爪』『嗜虐』
特技
『察知Lv5/20』
魔法
スキル
『噛みつきLv15/20』『ダッシュLv13/20』『ステップLv10/20』『ひっかきLv12/20』『キックLv8/20』『スラッシュLv8/20』『再生Lv13/20』『破陣の咆哮Lv13/20』『恐怖の咆哮Lv10/20』
称号
『D+ランク魔獣』『従魔』『ジャイアントキリングLv7/20』『嘲る恐獣』
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『嗜虐』
【恐怖を帯びた魔力の波長に強く反応し、対象が怯えるほどバーサーク状態が深まる。
また、殺傷による取得経験値が僅かに上昇する】
『再生』
【高位の回復スキル。
魔力を用いて肉体を、その生物が本来持つべきと運命づけられた状態へ再構築する
どんなに重症であっても、再生後の肉体には傷痕や歪みは残らない。】
『恐怖の咆哮』
【胸腔から放たれる咆哮に闇属性の魔力を乗せ、周囲を恐怖に陥れるスキル。
熟練度が高いほど広範囲の対象へ影響を及ぼす。】
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......『再生』、ね。
効果はラッシュ・ボアやナブンが持っていた『回復』と大差ない。
だが、問題はMP効率だ。ラッシュ・ボアはMPに対して二倍程度だったが、果たして『再生』はどうだろうか。
それ以上の効率であれば、再生し終える前に、特に頭部や首へ攻撃を連続で叩き込む必要があるだろう。だが、幸いなことに、こいつは他のステータスに比べてMPがかなり少ない。
先程の身体強化と咆哮で、残りMPが48しかないことを考えると……本来こいつは、意外と持久戦に弱いのかもしれない。今回の僕達のMPでは、それはできないが。
次に『恐怖の咆哮』について。
僕の魔力が46で、こいつの魔力が補正込みで43であることを踏まえると、たとえ僕が闇属性の魔力に慣れているとしても、安易に直撃を受けるべきではない。
……だが、先程も言及したように、こいつはMPが少ない。『破陣の咆哮』だけでもMPを10程度使っていた。
さらに、『破陣の咆哮』と『恐怖の咆哮』の効果を一度の咆哮で両立できないと仮定するなら、むしろこちらの咆哮は、ヘルガやキズが精神汚染さえ受けなければ、魔法攻撃の好機になる。
そして、接近戦について。
こいつと正面から白兵戦をすれば、多分僕が死ぬ。
状態異常のバーサークは、ある程度捨て身の攻撃を誘発するだろう。
HPが198、防護が31もあるこいつにとってはそれでもいいのかもしれないが、僕からすればたまったものではない。
だが、グレー・ラットの群れの状態異常『アジテーションLv20』とは違い、こいつにあるのはLv5程度の『バーサーク』だ。この程度ならば、大きな攻撃――ヘルガの雷魔法のような一撃を受ければ、こいつだって多少は怯むだろう。今回はそこを突きたい。
最後に、今回は『スキルポイント』は死にスキルだ。
なぜなら、これで取得できる能力は、どれもある程度のMP消費が前提になるからだ。
今回は、残ったMPは専ら『ステップ』と『シールドガード』にしか使わない予定だ。
怯んだ隙の連打も、基本はファルシオンをぶんぶん振るだけになるだろう。
結論を出していこう。
基本的に白兵戦ではこちらが不利だ。だから今回は、僕が牽制と囮に回る。MP的に『デコイ』は使えない。
僕がこいつを牽制しつつ、ヘルガから意識を逸らす。そこでヘルガが雷魔法を浴びせ、怯んだ隙に全員で猛攻を仕掛ける。最低でも首の血管を破壊する。それが今回の勝ち筋だ。
《技能経験値が一定に達しました。『集中Lv9』がLv10にレベルアップしました。》
「グォォ......」
凝縮された刹那の意識の中で、クセノサロスが喉の奥で低く籠もった声を鳴らした。
赤い鱗に覆われた頭部は、周囲を窺うように揺れ、その目は忙しなく周囲へ走る。
意識の大半は周囲の環境へ向いているようだ。
......どうやら、僕をさしたる脅威とは考えていないようで......むしろ外部を気にしている?
確かに、今のところ大した動きもできていない小柄な僕より、ヘルガやキズのような魔導士の方が、こいつにとって脅威なんだろう。
......ヘルガに意識を向けられたら面倒だ。
「こいつは精神汚染の咆哮も持ってる!魔法の判断は任せたぞ!」
叫ぶついでに、『マナ・リンク』の応用で、状況に対する僕の恐怖心の魔力波を、僅かにこいつの方へと送った。
「お前、こういうの好きなんだろ?」
さらに僕は、あえて構えたファルシオンと盾を少し下げ、力を抜き、隙を僅かに見せる形でクセノサロスへ歩み寄る。
「グォッグォッッ」
クセノサロスの喉の奥で、短く濁った音が、僕を嘲るように鳴る。
そして前脚が一歩、また一歩と、落ち葉と土を押し潰しながら、ゆっくりと僕の方へ出た。
「羽毛も生えてないようなトカゲが、二足歩行なんか生意気にしやがって......」
赤い鱗に覆われた頭が少し低く下がり、爛々とした黄緑色の目が、はっきりと僕の姿を捉える。
......来るか。
柄と盾縁を握る僕の手に、自然と力が強く入った。
手の甲の血管がわずかに浮き出る。
――しかし次の瞬間、クセノサロスは僕から視線を外し、僕の右後方の森――"ヘルガがいる方向"へと目を向けた。
「ヴォォォォォォンッ! ウ"ォオンヴォォォンッッ!!」
クセノサロスは、先ほどのものとは比較にならないほど濃い魔力を乗せた咆哮を、ヘルガのいる方向へ放ち、森全体を震わせる。
――脳を握り潰されるような錯覚を覚えるほどの恐怖感が全身に駆け巡り、体幹に込めていた力が四散する。
僕はそれを聞いた瞬間、最初に遠くから聞こえてきた咆哮と同じもの――『恐怖の咆哮』だと瞬時に理解した。
重く淀むようなその魔力は明らかに闇属性であり、女王ラットから受けた『フィアー』とは比較にならない規模と質だ。
「ま、まじかよお前......」
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名前:--
種族:クセノサロスLv24/43
状態:洗脳Lv4/30、バーサークLv6/20
HP:198/198 MP:33/86
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この一発でMPを15も消費しやがった。一対多なのに正気じゃない。
『再生』に回すのでもなく、短期決戦を明らかに志向している。
僕は、咆哮の直撃を免れ、なおかつ闇属性への耐性もあるからこの程度で済んでいるが、ヘルガは一体どうなっているのか。
焦りと緊張もあって、クセノサロスから目を逸らし、木陰に隠れるヘルガの様子を確認することができない。
「グォガッ!ゴゴゴッッ......」
クセノサロスは、喉の奥で嘲るような低い鳴き声を転がすと、前脚を素早く持ち上げ、ヘルガの方へ一歩踏み出そうとする。
「ま、待てよ!」
僕は慌てて脚に込めていた魔力を腕とファルシオンへ移し、クセノサロスのヘルガへの動線に立ちはだかるため、足を走らせようとする。
「お前の相手は僕だっ......」
「グォ"ォ"ッ!」
――その瞬間、ヘルガの方へ向けていた顔が、素早く僕の方へ向き直された。
開かれた大口の無数の鋭い牙が、僕に迫る。
――僕は咄嗟に、腕とファルシオンに込めた魔力を炸裂させる。
ファルシオンが弾かれるように上へ振り抜かれると、開かれたクセノサロスの下顎へ叩き込んだ。
《技能経験値が一定に達しました。『一閃Lv8』がLv9にレベルアップしました。》
赤い鱗――他の部位と比べて比較的薄い――に覆われた顎骨が砕けて貫かれ、鋼の刃が上顎の内側まで到達する。
その衝撃で、クセノサロスの頭部は上へと大きく跳ね上げられ、縦に開いた顎から血と唾液が飛び散る。
フェイントかよ......!
こいつ、ヘルガを標的にするふりをして、『恐怖の咆哮』で判断力が鈍った僕を噛み潰すつもりだったのか。
確かに、この方法なら僕を殺すついでに、ヘルガを恐慌状態へ持ち込めるだろう。僕が闇属性に適性を持っていなければの話だがな!
今まで戦った相手の中で、一番頭が回るじゃぁないか!
「グァ"ォ"ッ!」
頭部が大きくのけぞったまま、間髪入れずにクセノサロスは右前脚を横へ振り払う。
僕は鋭い爪を視界に捉えたまま、地面を右へ強く蹴ると同時に、盾を胸へ引き寄せる。
――剣のように太く鋭い爪が、盾に叩きつけられた。
乾いた破砕音とともに、木製の盾板が割れ、破片が四方へ弾け飛ぶ。
その衝撃はそのまま腕を通って体幹へ伝わり、僕の身体は弾き飛ばされた。
背中から地面へ落ち、落ち葉と土を巻き上げながら転がる。
僕はその勢いに逆らわず、肩と背を使って回転を逃がすと、即座に体を起こす。
「くそっ......」
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名前:行島千秋
種族:人間Lv18 SP:94
状態:通常
HP:120/121 MP:0/141
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最悪だ。今の一連の動きで、MPが完全に空になった。
特に『一閃』が良くなかった。
『噛みつき』を弾き飛ばすために使ったのだから、ファルシオンに付与する方の魔力はゼロでもよかったのに、焦ってそこそこ流し込んでしまった。
これじゃ、回避行動も含めて、もう全部素のステータスで相手をしな――
――目前に、再びクセノサロスの赤黒い大口と牙が迫る。
砕かれ、大きく割れたはずの下顎は、既に癒合し始めていた。
牙の並びは多少崩れているが、それでもなお、僕の上半身を噛み砕くには十分だ。
「ちょっ......」
僕は咄嗟に盾を引き寄せ、胸元を庇う。
同時に、右手のファルシオンを、開かれたクセノサロスの口内へ真っ直ぐ突き上げる。
〚ちあき......!〛
――その瞬間、僕の盾の前方に、虹色の五角形の魔力塊――キズの『シールド』が展開された。
「グゥ"オ"ッ!」
――牙の先端が『シールド』の表面に触れた瞬間、表面全体に亀裂が入り、一瞬のうちに虹色の破片となって砕け散った。
牙はそのまま盾へ突き込み、割れ残っていた木板を押し破ると、胸の肉と肋骨の表面へ食い込んで止まる。
「ぐあ"ぁ"......!」
「グォォ......」
口内へ突き出した僕のファルシオンは、頭蓋骨へ向かう角度で上顎に深く突き刺さり、これも噛み潰しの勢いを殺した。
だがそれでも、上顎の牙が僕の首と肩の皮膚を破って、骨の表面をわずかに削り砕いた。
――すかさず、クセノサロスは鋭い左爪を横から、身動きの取れない僕へ振り薙ぐ。
――しかし同時に、虹色の五角形の魔力塊、キズの『シールド』が再び現れた。
虹色の魔力塊に、鋭い爪が叩きつけられる。
虹色の表面に細かな亀裂が走り、五角形の輪郭は震えるように歪む。
だが今度は砕けず、その衝撃を受け止めた。
――その刹那、僕の背後から、赤い魔法陣が開ききったクセノサロスの口内へ、滑るように素早く入り込む。
魔法陣の中心には、既に赤く凝縮された熱の球が形成されていた。
これは、キズの炎魔法か......!
だが、おかしいな。キズは『シールド』の魔法陣を二つ出したんじゃなかったのか。
この一瞬で新たに炎魔法陣を出すのも、キズの習熟度ではあり得ないはずだが......
......いや、もしかして、今の二つの『シールド』は一つの結界魔法陣から出現したもので、この炎魔法陣こそ並行して構築されていたのか。
本来、魔法陣に魔力を流すと、その圧力に耐えられず術式構造がある程度四散してしまう。だから普通、同じ魔法を連射するのは難しい。
だが、魔力感知に特に優れ、魔力波長すら高度に操る『マジカル・スライム』なら......流す魔力量を通常より少量に調整しさえすれば、その四散を抑えるのは不可能ではないだろう。
――口腔の内部で、指向性を持った爆炎が頭蓋骨と喉奥へ向かって爆裂した。
焦げた血肉と牙の破片が、僅かにこちらへ噴き出す。
「グォ"ォ"ォ"ッ!!」
クセノサロスは激痛に、頭を思い切り振り払った。
僕はそこに命の危険を感じ、口内に突き刺さるファルシオンの柄を思わず手放して、口から逃れる。
「っぐ......」
僕は数歩よろめき、足元の落ち葉を踏み崩す。
――その瞬間、クセノサロスの右前脚が横から振り払われるのが、不安定に揺れる視界の端に映った。
僕は反射的に左腕を持ち上げ、砕けた木製盾を胸へ引き寄せながら地を蹴る。
――鋭い爪が盾を叩きつけると、既に割れていた盾板は、木片を四方へ弾け飛ばして一撃で砕け散り、さらに盾を突き抜けた鋭い爪が、腕と脇腹の肉を切り裂く。
身体を斬り飛ばされ、僕は地を転がった。
鋭い痛みが、皮膚なんかよりもっと深い場所に走る。
僕の温かい体液が腹から漏れ出ていくような、気味の悪い感触が脳へじんわりと伝わる。
「あ"ぁ……」
興奮のせいで揺れてぼやける視界を押し、なんとか手のひらを地について視線を起こす。
――クセノサロスの口からは黒煙が吹き出しており、激痛に振った頭からは焦げた血肉が飛び散っていた。
だが、それでも、その足は既に僕へ向かって走り出そうとしている。
すぐに身構えないといけない。
まだ身体に力はなんとか入る。まだ戦える。
次は何が来る。まだ噛みつきか、それとも爪の薙ぎ払いか。
範囲の広い爪の薙ぎ払いは、横への回避が難しい。かといって屈めば、脳みそを差し出すだけだ。後方へ回避しようにも、『ステップ』が使えない今、その直後に噛みつかれたら詰みだ。
剣はもうない。攻撃を弾くことも、牽制することすらできない。
一応、肩に張り付くキズが慌てて『シールド』と『ファイア・ボム』の魔法陣を再構築しているが、間に合うかどうかは怪しい。
......また『噛みつき』が来るという前提で、がむしゃらに横へ飛び退くしかないか!
――その時、ヘルガがクセノサロスの尾に触れる寸前まで、やつの背後から近づいているのが、視界の端に映った。
その両手のひらには、淡い雷光を帯びた金色の魔法陣が二つ、広く展開されている。
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『インパルス』
【上位の雷魔法の一つ。
自身の魔力を瞬間的に雷に変換する。有効範囲が極端に狭い。
理論上は最大級の瞬間火力を発生させることが可能だが、術者の身体周囲で雷変換を行うため、魔力制御を誤れば術者に重大な損傷を招く危険がある。】
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ヘルガは、暴れる尾へ身体を投げ出すように地を蹴ると、両腕で抱え込むように尾へしがみついた。
「グォッ.....」
――次の瞬間、両手のひらに展開された二つの金色の魔法陣が、一斉に強い光を放つ。
尾へ触れたその両手から、圧縮された雷撃が一気に流し込まれた。
クセノサロスの体の各所から、白く裂けるような細い稲妻が外へ漏れて弾ける。
「グォォオオッグォオオオオ!!」
クセノサロスの体が痙攣し、僅かに硬直した。
前脚が宙を強く掻き、頭部が下方向へ引きつる。
だが次の瞬間、クセノサロスは尾を振り上げるようにして全身を激しく捩る。
――太い尾が空気を裂き、しがみつくヘルガを、傍らの幹の太い木へ叩きつけた。
轟く衝撃音とともに、樹木の繊維やヘルガの骨が砕けて裂けるような破裂音が鳴る。
「がはっ……!」
押し潰されたヘルガの肺から、声ともつかない音が漏れる。
ヘルガの口元から飛んだ唾液が、砕けた樹皮とともに散った。
「ヘルガ!」
僕は身を起こし、もつれる脚でヘルガのもとへ走り寄る。
――ヘルガは、それでも両腕を離していなかった。
金色の魔法陣は歪みながらも消えず、明滅を強め、連続した電撃がなおもクセノサロスへ流れつづけていた。
「グォ……ッ、グォォオ......ッ!」
――金色の魔法陣の中心へ、クセノサロスから滲む淡く濁った魔力が吸い寄せられている。
クセノサロスの体内を巡る魔力が、その流れに逆らうように無理やり引き剥がされ、ヘルガの側へ流出する。
......『マナドレイン』。
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『マナドレイン』
【外部に存在する魔力を吸収し、自身の魔力として取り込む技能。
魔力濃度の高い場所ほど効果を発揮しやすく、環境中の魔力や他者の魔力を奪い取ることも可能。
過剰に使用すれば、肉体に大きな負担を与える。】
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電撃が筋肉の動きを乱しているだけでなく、回復や身体能力に必要な魔力まで奪われているとなれば、確かにこいつも動きづらいはずだ。
......だが、これはあまりにも......通常の運用の範疇を超えている。相手の魔力操作を乱すほどの吸収を、しかも得体の知れない魔獣相手にやれば、体が持たない。
獣の生き血を、胃の容量を超えて飲み続けるようなものだ。このままではヘルガが死んでしまう。
「ヘル......!」
――クセノサロスまであと数歩という距離に迫ったその時、僕の眼前に赤い魔法陣が二つ浮かび上がる。
キズの魔法陣――そう理解すると同時に、肩に張り付くキズの体から、抑えきれない憤怒の思念がそのまま魔力波となって伝わってきた。
僕は反射的に足を止める。
その魔法陣の構造は、精密とは言えないものだった。
指向性の制御術式は荒く、細部はほとんど省略されている。
だが、ただ一つの目的――大量の魔力を押し込んでも崩壊しない耐久性のために、多くの術式が割かれていた。
この距離で撃てば、巻き込まれかねない。
僕は背後へ地を蹴り、クセノサロスから距離を取る。
――その直後、赤い魔法陣の中心から放たれた火球が膨れ上がり、一直線に飛んで、クセノサロスの頭部へ叩き込まれた。
圧縮された炎が頭部で弾け、焦げた鱗と焼けた血肉が爆風に乗って周囲へ散る。
衝撃に押され、クセノサロスの上半身が大きく後ろへ仰け反った。
ほぼ同時に、もう一方の赤い魔法陣が強く発光する。
中心に再び炎の球が形成され、間を置かず射出された。
同時に、それを見たヘルガは尾から体を離す。そして、地面を横に転がって身を低くし、クセノサロスから距離を取る。
――二発目の炎が分厚い胸板へ叩き込まれ、鱗の隙間から焼けた血肉が噴き出す。
前脚が空を掴み損ね、体が大きく後ろへ傾く。
「グォ……」
――"それ"は声にならない音を漏らすと、背中から地面へ叩きつけられるように倒れ込んだ。
《クセノサロスを討伐しました。経験値+222。》
《人間Lv19にレベルアップしました!スキルポイントを24取得しました。次のレベルアップまで残り501です。》
「はぁ......はぁ......あぐっ......」
僕は堪えきれず、地面に膝と手をついた。
腹はかなり深く裂かれている。
内臓には多分達していないと思う。だが、脇腹から腹部にかけての筋肉は奥まで断たれているらしく、身体に力を入れるたび、裂けた筋繊維が互いに噛み合わないままずれるのが分かった。
血も止まらない。
まるで水を吸ったスポンジをハサミで断ったように、傷口から次々と溢れ、服を濡らし、脚を伝って土へ落ちていく。
「っ……ぐ、ぅ……」
首もまずい。
噛みつかれた箇所――頚椎の奥に鈍い激痛が根を張っている。
視界が揺れ、吐き気が込み上げる。
――僕の肩の上で、再び赤い光が灯った。
赤い魔法陣が、また一つ、そしてもう一つと、クセノサロスの倒れた巨体へ向けて構築される。
「……もういいって、キズ」
こいつが死んだことが、キズには分からないのだろうか。
知能が芽生えて初めての狩りだったろうし、仕方のないことではある。だが、魔力を無駄にしてほしくない。
「やめろって……こいつは死んでる」
言葉の途中で、脇腹の奥の断たれた筋肉がずれ、思わず息が詰まる。
だが、それが聞こえないのか、無視しているのか、赤い魔法陣はなおも発光していた。
――その時、飛んできた小さな魔力の塊が、赤い魔法陣の一つへぶつかる。
すると、魔法陣が乱れ、積み上がっていた構造が一気に崩れて四散した。
顔を上げると、手をかざしたヘルガが、杖を支えにして、僕の元へ近寄っていた。
両脇には二つの光魔法陣が展開されており、一つはヘルガ自身へ、もう一つは僕に向けられていた。
「『ヒール』」
――ヘルガの眼球の白い部分は、血管が破れたように真っ赤に染まっていた。
鼻からは血が細く流れ、唇の端からも赤い筋が顎を伝って落ちている。
さらに、爪の先からも血が滲み、指先を伝って地面へ滴っている。
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名前:ヘルガ・バウアー
種族:人間Lv18
状態:出血
HP:57/104 MP:7/161
攻撃力:31 敏捷:36 防護:17+2
魔力:55+4 知力:53
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これは......木に叩きつけられたせいではなく、『マナドレイン』の副作用か。
立てているということは、背骨あたりの損傷は優先して治したんだろう。
だが、外見と比べてHPが低すぎる。『マナドレイン』の過剰使用で、身体の内部を相当に損傷しているのかもしれない。
内臓の機能まで傷ついた場合、ヘルガは治せるのか。
......いや、ヘルガなら治せそうな気もする。
だが、途中で気を失ってしまった場合、自分自身を治せなければ、どんどん悪化していってしまうだろう。
――僕の頚椎にあった痛みが静まる。続いて脇腹の裂傷が熱を帯び、裂けた筋肉が噛み合うように収まっていく。
溢れていた血も、次第に止まっていくのを感じる。
「へ、ヘルガ!もういい!僕はもう良いから、自分に魔力を使ってくれ!」
痛みが急速に引いていくのを感じながら、僕は立ち上がると、ヘルガの肩へ手を添えて制止した。
すると、僕に向けられていた光魔法陣がふっと掻き消える。
――その直後、ヘルガは僕の胸元へ倒れ込むように抱きついてきた。
そのまま膝から力が抜け、ヘルガの身体が崩れ落ちかけるのを、僕は慌てて抱き留める。
「だ、大丈……」
「良かった……なんとか無事で……」
泣きそうな震える声が、僕の言葉に被さるように漏れた。
「……もし、もしチアキが死んじゃったら......私は、私なんて......」
――その時、森の奥からナブンの咆哮が再び響いた。
直後、何か巨大なものがぶつかったような重い衝撃音が続き、周囲の枝葉が揺れる。
その音に、ヘルガの身体が強張った。
「ヘルガ……とりあえず、ここから離れるよ。荷物は捨てていこう。ヘルガは僕の背中に……」
その時、ヘルガは崩れかけていた膝にぐっと力を入れた。
まだ震えている脚を無理やり支え直すと、僕の肩に乗っていたキズへ血で濡れた手を伸ばし、キズをそっと持ち上げて自分の肩へ乗せた。
――キズの体から染み出る、淡い魔力がゆっくりとヘルガへ引き込まれていく。
それと同時に、ヘルガ自身へ向けられていた光魔法陣の輝きが一段強くなった。
「……ヘルガ、それ大丈夫なの?身体の中の損傷とか治せ......」
「チアキ……」
僕の言葉を遮るように、ヘルガの声が重なった。
さっきまでよりさらに余裕のない、息を削るような声だった。
「な、ナブンを……助けに、行こう。」
僕は唖然としてしまい、何も言えず、真っ赤に染まり見開かれたヘルガの目をただ見つめる。
「ち、チアキが嫌なら......私一人でも行く......チアキは、私なんかに気を遣わないで、帰って良いんだよ。それでチアキを嫌いになったり絶対しないから」
少し遅くなりました(^_^;)
追記
次回更新も日にちが空きそうです。
いつも低頻度ですみません(-.-;)




