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32. 嘲る恐獣

「ヘルガ!とりあえず、ここを離れるよ!荷物を持って!」


 僕はそう言って、急いで地面に置いていたリュックと盾を手に取る。


「わ、分かった!『ヒール』」


 ヘルガも床に置いていた荷物を背負う。


 そして、その動作とほぼ同時に、ヘルガの両脇に二つの『ヒール』の魔法陣が展開された。

 片方の魔法陣から放たれた淡い光はヘルガ自身へと注がれ、もう一方の光は僕へ向かう。

 光に包まれた瞬間、脚の無数の裂傷が、じわりと熱を帯びる。その直後、包帯の下で、傷が急速に再生していくのがはっきりと感じられた。ひびの入った骨は修復され、破れた筋肉が締まり、皮膚は引き寄せられるように閉じていく。


 魔法陣を二つ同時に展開、か。

 ......たとえ同種の魔法陣だとしても、これは簡単なことじゃない。部屋の中で落ち着いて集中すれば、僕にもできなくはないかもしれないが、余裕のない時にやるのは無理だ。かなり高度な技術だと思う。

 グレー・ラット戦のとき、『スタティック・ウェブ』を二重に展開していた場面からそうだったが、いつの間にかヘルガの特技欄に『二重詠唱Lv4/20』が追加されている。


 加えてもう一つ、本来『ヒール』は、僕の『デコイ』のように、魔法陣から出る光が直接当たった部位にしか効果を及ぼさないはずだが、今は、包帯やズボン越しに僕の傷を修復している。

 これについては、僕には仕組みを推測することすらできない。

------

名前:ヘルガ・バウアー

種族:人間Lv17

状態:通常

HP:99/99  MP:22/147

攻撃力:28  敏捷:33  防護:16+2

魔力:49+4  知力:45

-------

 さっきの光魔法で使用したMPを差し引くと、この一、二時間の瞑想の間に約1/4の魔力が回復したようだ。

 睡眠時よりも回復してないかと思ってスキルの欄を覗いてみると、女王や不気味な『シャーマン・ラット』も持っていた『マナドレイン』がLv2で追加されていた。

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『マナドレイン』

【外部に存在する魔力を吸収し、自身の魔力として取り込む技能。

魔力濃度の高い場所ほど効果を発揮しやすく、環境中の魔力や他者の魔力を奪い取ることも可能。

過剰に使用すれば、肉体に大きな負担を与える。】

-----

 色々驚かされるが、とにかく今考えるべき情報は、MPが残り22だということ。

 これなら、ヘルガは高火力の雷魔法を最低でも一発は打つことができるはずだ。もし戦闘になったとしても、足止めの魔力は残っているだろう。


「ヘルガが前を走って!」


「分かった!」


 ヘルガが僕の言葉に返事をすると、ナブンの背中に乗っていたキズを片手で抱きかかえる。

 抱えたそばから、キズの身体から魔力が滲み、ヘルガへ流れていくのが見えた。

 なるほど、走りながら『マナドレイン』で、少しでも魔力を回復させるつもりか。


 ヘルガはそのまま、魔力で強化した脚で、素早く僕の前を走り出した。


 僕もそれを追って走る。

 ナブンは僕の隣に並んで走り出した。


 ――しかし、地面を踏み鳴らす不規則な足音は小さくなるどころか、距離を徐々に縮めるように大きくなっていく。


「グォゴゴゴッ!」

「ウ"ォンッ!ウ"ォォォォンッ!」


「お、追ってきてる......!?なんで!」


 ヘルガが、走りながらそう声を漏らす。


 最悪中の最悪だ。

 まだ視認していないはずなのに、明らかに僕達に向かって近づいてきている。

 ......これは、ただの野生の魔獣ではなく、何か特別な理由と殺意をもって僕達を標的にしている、と考えるのが自然だろう。


 さらに、その足音の重なり方からして一体ではない。音の間隔からすると......二体か?

 ......最低でも二体、と思ったほうが良いか。


 クソ役に立たなかった情弱クソクソギルドの話では、このあたりはせいぜいD-の『フォレスト・ディア』がいる程度だと聞いていたが、明らかにそれより数段強い。Dではない。恐らくD+か、出会ったことがないからよく分からんが、最悪C-だ。

 Cは多分ないだろう。確かに空気に漂う魔力の質は重いが、ギルドの話ではCは災害レベルで、地域のギルドが本腰を入れて迎え撃つ存在らしい。だが、そこまでの魔力を奴らには感じない。

 しかし、D+だとしても、ナブンのステータスを見れば分かるように、複数の殺意を持ったそれに追われている現状は、万全でない僕達には確実に厳しい。


 女王の土魔法と『従魔』、闇魔法を使えたシャーマン・ラット、そして今回の、何故か追ってくる化け物ども。偶然と言うには重なりすぎだ。おかしい。この森は何かがある。


「ち、チアキ!追ってきてる!これじゃ、村に戻るべきじゃないよ!」


 ヘルガは前を向いて走りながら、僕に聞こえる声で言う。


 ……ヘルガの言う通りだ。今僕達は、出発のときに立ち寄ったエバなんちゃら村に戻る形で移動している。

 追ってきている何かが、明確な殺意を僕達に向けているのだとすれば、村に逃げれば確実にその村を巻き込むだろう。

-------

名前:行島千秋

種族:人間Lv18  SP:94

状態:通常

HP:121/121  MP:18/141

攻撃力:40+27  敏捷:43-4  防護:19(盾18)

魔力:46  知力:47

-------

 僕のMP回復はヘルガと異なり非常に鈍い。これでは身体強化がギリギリ間に合う程度で、魔法はほとんど使えない。


「グゥ......」


 ――その時、隣を走っていたナブンが立ち止まり、僕達とは反対側、向かってくる何かの方へ身体を向けた。


「バウッバウバウッ!」


 姿勢を低く落とし、迫りつつある何かに向かって吠える。


 僕達は思わず走るのを止めた。


「お、お前......!」


〚ここはまかせて、はやくいけ、だってさ〛


 その時、キズの思念が僕の意識に割り込んできた。


 確かに、ナブンが相手をしているうちに、追ってくる奴らを振り切ることはできるかもしれない。何なら、その内の一体くらいは倒してくれる可能性もある。


 ......ナブンは敏捷が59ある、敏捷型のステータスだ。

 ゴブリン戦、ラッシュ・ボア戦、グレー・ラット戦――僕の経験から導かれた勘では、一対多数の戦いで重要なのは攻撃力と防護だ。敏捷型は一対一では特に有利だが、ナブンが同格以上の複数を相手に立ち回れるとは、あまり思えない。


「......無理は、するなよ」


「バウッ!」


 短く吠えると、ナブンは一歩前へ出た。


 自分でそう言っておきながら、本心ではナブンは無事では済まないと思っている。

 ......でも、仕方ないだろ。何より大事なのは僕とヘルガの安全だ。それに、ナブンが自らこの土壇場で殿を買って出ているのに、それを妨げるのもパーティー全体として不合理だ。


 僕は再び走り出し、立ちすくんでいるヘルガの背中を押す。


「早く!走って!」


「ち、チアキ!そんなの......」


 ヘルガは背中を押す僕の力に、足を踏ん張ってやや抵抗する。


「他に方法はないだろ!」


「そ、そんなことはな......」


 ヘルガの目尻に涙が滲む。


「早く!走って!」


「......っ、ナブン!ごめんね......!」


 僕のその言葉に、ヘルガは思いを振り切るように前を向き、再び走り出した。


「ガァォォォオオオオ!!」

「ウ"ォォォンンンッ!!」

「グォォオオンングォングォオオオオッッ!!」


 背後で迫っていた足音が途切れた直後、ナブンの咆哮と化け物たちの咆哮が正面からぶつかり合い、森の中に反響する。その後、重い物体同士が激突したような凄まじい衝撃音が響く。


 ――だが、すぐにまた、規則的な足音が一種類だけこちらへ迫ってきた。


 おそらく、そのうちの一体がナブンを無視して僕達を追ってきているのだろう。


「グォォゴッゴゴッ!グォォォォッ!!」


 鳴き声と足音は徐々に近づき、恐らく距離はもう数十メートルしかない。

 この調子では、数十秒もすれば追いつかれる。


「け、結構早いなぁ、こいつ!」


「......チアキ!迎え撃とう!やっぱり、それしかないよ!」


 僕が悪態をつくと、ヘルガが僕に聞こえるようにそう叫んだ。

 杖を握る手には強く力が込められており、僕の一声があれば、ヘルガはいつでも戦闘態勢に入れるだろう。


「.....」


 ヘルガは、このまま逃げれば村に迷惑がかかると思って、こうして僕に迎え撃とうと言ったのだろう。

 だが、あと数百メートルほどで村の外縁には着きそうで、もしかすると、強めの村人に助力を頼める可能性が僅かだがある。

 村に寄った時、村長に少しだけ挨拶をしたが、その一家にはLv15前後の戦士が何人もいた。ステータスもどれも30前後で、武器さえ持っていれば一応の戦力にはなる。


 ......何より、もうこの際割り切って、その村人たちを囮にすれば、最悪C-だったとしても、もしかしたら逃げ切れるんじゃないか。

 ......人道に反しているのは分かっているが、僕達だって余裕があるわけじゃない。

 それに、根本として、悪いのは僕じゃない。意図を持って僕らを殺しに来てる奴らが悪いんだ。


 それに、D+だったら別に僕らが戦えばいい話だ。ただ、C-ならそうしないと確実に詰むってだけで。


 ――僕が返事をせずに走り続けると、ヘルガは突然立ち止まって振り返り、背負っていたリュックを投げ捨てる。

 そして杖を追ってくる何かに向かって構えた。


「っ......なら!チアキは!村とギルドにこのことを伝えに行って!危険な魔獣が出てきたかもしれないって!」


 僕も急なことに驚いて、ヘルガの前で止まる。


「お、おい!ヘルガ!何やって......」


〚もう、どうせ、おいつかれる。かまえたほうが、いいよ〛


 僕の発言に割り込むように、キズの思念がかかる。


 ......キズの言う通り、今ここで止まってしまったせいで、村に到着するのはもう無理だ。


 ......なら、僕も腹をくくるしかない、か。


「......あぁ、分かったよ!」


 僕もヘルガと同様にリュックを投げ捨て、剣を鞘から抜き、盾とともに向かってくる何かへ構える。

 

 頼むからD+であってくれよ......そして変なスキルのない、なるべく無印なやつであってくれ。ラッシュ・ボアみたいに突進しか能がないとかなら嬉しい。

 ......いや、それはそれで結構厄介か。


「ヘルガは下がって。遠距離からの魔法を頼んだよ」


 ヘルガは驚いたように目を開く。


「う、うん!......ありがとう。ごめんね。」


 そして、僕の言葉にそう返すと、素早く後ずさりし、木の陰に隠れる位置へ移動しようとした。


〚あぁ、まってぇ〛


 その時、ヘルガの肩に乗っていたキズが飛び降り、僕の脚元に張り付くと、そのまま僕の身体を這うように素早く登っていく。


 ヘルガは一瞬それに手を伸ばしたが、時間がないと悟ったのか、そのまま後ろへ下がった。


〚あたしは、ちあきとたたかう〛


 キズは慣れた様子で僕の左肩まで駆け上る。小型犬ほどの大きさと重さが肩に乗る。


 ステータスが上昇した今、その重さは大した負担ではないが、それでも刹那の戦闘では僅かな差が結果を左右する。

 だが、足音がすぐ目の前まで迫ってきているこの状況で、張り付くキズを振り払うのも得策ではない。


「お、おいキズ!お前重いん......」


〚これなら、じゃまにならないよ〛


 その思念とともに、肩に張り付いているキズの身体が急速に縮み、重さが軽くなる。

 その分、周囲に魔力が拡散され、濃厚な甘い花のような匂いが鼻についた。


 ......これはスキル『膨張』の逆をしたのか。

 確かに、この程度の重さなら何の支障もないし、なんなら僕の接近戦を魔法で補ってもくれるだろう。


 実際、キズは今『スティック・スワンプ』と『シールド』を二重に展開し始めた。

-----

『スティック・スワンプ』

【中級水魔法の一つ

地面の土を高粘度の泥に変質させ、踏み込んだ対象の足を沈ませて動きを鈍らせる。

必要な魔力やその泥の性能は、元の土の性質による。】


『シールド』

【初級結界魔法の一つ。

周囲に防護盾を形成し、敵の攻撃から身を守る。】

-----

「おぉ......結構頭良いじゃんか」


「チアキ!前!」


 ヘルガの声が背後から飛ぶ。

 迫ってくる何かは、僕達が待ち構えているのを感じ取ったのか、走る速度を緩めていた。


 そして、木々の間からその姿を現すと同時に歩みを止めた。


 ――その姿は、一目で恐竜を思わせるものだった。

 僕の身長と同程度の高さの体は赤い鱗に覆われ、太く発達した後ろ脚で体を支え、太く長い尾を地面すれすれに引きながら重心を保っている。

 突き出すように目立つ大きな頭部には、細長い牙が何本も並んで露出しており、槍の穂先のようなそれが若干前へ向いて突き出ていた。


 ただ、異様なのは巨大な前肢だ。

 地球の有名な肉食恐竜に見られるような小さく縮んだ前脚とは違い、胴体の前方から長く伸びた腕は鼻先まで持ち上がり、明らかに可動域が広い。

 先端には曲がった爪が三本並び、それぞれが剣のように太く鋭い。

 その形状は退化した痕跡器官には到底見えず、肉を引き裂くためのはっきりとした攻撃部位だろう。


「グォ"オ"オオンン......ッ」


 金属の筒を強く叩いたような振動が空気を震わせる。

 一般的な獣の声帯による声というより、硬質な骨か何かを震わせているような響きだ。


 ――出会ってすぐに攻撃してくるかと思いきや、ジリジリと距離を測るように詰めてくる。

-------

D+『クセノサロス』

【過酷な環境下で邪悪な心を肥大させた、下級恐獣『エオサロス』の進化形。

常に飢餓と闘争に晒される環境で淘汰を重ねた結果、骨格と筋繊維は強化され、鱗は刃物を弾く硬度を持つ。

さらに特筆すべきは、発達した胸腔から生じる恐るべき咆哮である。】

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名前:--

種族:クセノサロスLv24/43

状態:洗脳Lv5/30、バーサークLv5/20

HP:198/198  MP:62/86

攻撃力:52(46)  敏捷:52(45)  防護:31

魔力:43(39)  知力:22(31)

特性

『魔獣の鱗』『魔獣の牙』『肉魂還元』『病耐性Lv13/20』『毒耐性Lv2/20』『魔獣の爪』『嗜虐』

特技

『察知Lv5/20』

魔法

スキル

『噛みつきLv15/20』『ダッシュLv13/20』『ステップLv10/20』『ひっかきLv12/20』『キックLv8/20』『スラッシュLv8/20』『再生Lv13/20』『破陣の咆哮Lv13/20』『恐怖の咆哮Lv10/20』

称号

『D+ランク魔獣』『従魔』『ジャイアントキリングLv7/20』『嘲る恐獣』

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 恐竜か......小学生の頃、というか結構成人した今でも大ファンなのだが、まさかこんな風に文字通り牙を向けられるとは思いもしなかったな。

 博物館や映画で見る時はカッコよく見えたが、こうも殺意を向けられると怖くて仕方がないんだが。

 色んな意味で蛙化だな。爬虫類に睨まれてるという意味では、僕も蛙になるが。


 ......ただ、C-ではなかったことには、正直安堵している。楽勝とは言わんが勝てる。

 問題は痛い思いをしたくないことだな。倒したとしても、僕が大怪我した状態でヘルガ魔力枯渇とか洒落にならん。


 それと、やはり『従魔』はあるか。ガチで飼い主ぶち殺したいな。僕が権力者なら火あぶりに処してやりたい。

 状態異常には、洗脳とバーサークあり......か。ステータスが微妙に上がっているのは恐らくこれらのせいだろう。

------

『洗脳』

【外部から精神を強制的に支配されている状態。

命令への服従が優先され、自己判断能力が低下する。

精神への負荷が蓄積すると暴走を引き起こすこともある。】


『バーサーク』

【精神を昂揚させ、痛覚や恐怖を鈍化させる代わりに攻撃性が極端に高められる状態。

攻撃能力が一時的に上昇するが、判断力は低下し、防御行動は粗くなり、疲労は急速に蓄積する。】

------

 攻撃力と敏捷50超えとかマジでふざけんなよ。こいつの牙と爪もだいぶ鋭そうに見えるし、実際にそれを首とか内臓にでも僕が食らえば一発でアウトだろうな。


 あと気になるのが『破陣の咆哮』と『恐怖の咆哮』だが、こ......


 ――その瞬間、視界の大部分が赤い鱗と暗い口内、鋭い牙で埋まった。


「グォッ!」


「速っ......」


 僕は脚に込めた魔力を解放して背後へ飛び、それを寸前で避けた。


《技能経験値が一定に達しました。『ステップLv8』がLv9にレベルアップしました。》


 先程まで僕がいた空間で、クセノサロスの顎が勢いよく閉じられる。

 牙と牙が激しくぶつかり合い、硬い衝突音が響く。


 ......ほんの一瞬でも踏み込みが遅れていれば、あの顎の中に僕の頭が収まっていたはずだ。


 これは、明らかにステータスの敏捷値を超えるすばやさだった。

 ......『ステップ』を使ったんだろう。このスキルは回避だけでなく、間合いが重要な戦闘で一気に攻撃を仕掛けるのにも非常に有用だ。

 そのスキル、僕の特権だったのに、魔獣の癖してそれ持つのは反則だろ!


「グォゴグァッ!」


 クセノサロスは、空を噛み潰したその勢いのまま、間合いを詰めて、今度は爪を僕の胸へ振り下ろす。


 左手に構えていた盾でそれを受け止めると、盾が鈍い音を立ててひび割れ、爪が当たった部分から木片が弾け飛んだ。砕けた木の振動が生々しく手に伝わってくる。

 さらに、その衝撃から、身体が数歩分ほど飛ばされた。


《技能経験値が一定に達しました。『シールドガードLv5』がLv6にレベルアップしました。》


「ぐっ」


 僕は地面に足を踏み込み、体勢を立て直す。

 靴底が土を抉り、乾いた土が弾けるように跳ね上がった。


 ――だが、その一方で、クセノサロスの足が、地面にわずかに沈み込んでいるのが見える。

 地面はさっきまでの乾いた土とは違い、黒く湿ったように粘っており、踏み込んだクセノサロス足に絡みつくように広がっている。


 キズの『スティック・スワンプ』か。

 無駄に広い効果範囲に、泥の粘度のばらつき......随分粗い魔法にも見えるが、少なくともクセノサロスの踏み込みは鈍っている。今後の成長に期待といったところか。


 同時に、ヘルガのいる背後から、弾ける細かな電気の破裂音が連続して響く。


「『ライトニ......!」


「ヴォォォォォォォォンッ!!」


 ――その瞬間、クセノサロスが胸腔を震わせて咆哮を放った。

 空気そのものが揺れ、低い振動が一瞬で周囲に広がる。

 

 その咆哮には、ざらついた魔力が乗せられていた。


 ――同時に、僕の周囲に展開されていたキズの魔法陣と、ヘルガの魔法陣が歪み、形を崩す。

 幾何学的な魔力線が乱れ、一部は弾けるように霧散した。


「え......」


 背後から、ヘルガが声を漏らすのが聞こえた。

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『破陣の咆哮』

【胸腔から放たれる強烈な振動に魔力を乗せ、周囲の規則的な魔力配列を乱す咆哮。

主に、魔法陣を破壊・霧散させる効果を持つ。

熟練度が高いほど広範囲の魔法構造に干渉する。】

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 随分良いスキルを持ってるなぁ!

 魔法が使えないヘルガとキズは大した戦力にならないし、これじゃ実質一対一じゃないか。


 ......ただ、この魔力干渉は一時的なものに過ぎないはずだ。

 それに、咆哮の向きと距離次第では効果を半減以上させることができそうに見える。


 僕が生きるか死ぬかは、二人の立ち回り次第だ。 


「ヘルガ!こいつの咆哮は魔法陣をかき消す!ヘルガはこいつの視界から隠れつつ、隙を伺ってくれ!」


 僕は叫びながら、盾を構え直す。

 そして、泥から抜け出し、再び間合いを測るように足を踏み込むクセノサロスから視線を外さない。


 ほんのわずかでもこいつの動きを見誤れば、その牙か爪が僕の身体に届くだろう。

 僕は歪んだ盾を前に出したまま、剣を握る手に力を込め、次の攻撃に備える。

次話更新は約1週間後を予定しています。


追記

やっぱり期間が空きそうです。すみません(^_^;)

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