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28. 戦後処理

ーーーーーーーーーーー


 山積みの遺骸から立ち上がる炎が上へ昇る。

 グレー・ラットの乾いた毛と脂肪に引火するたびに、炎は一瞬だけ強まる。煙は炎の上で揺れるもののすべてが空へ昇るわけではなく、多くは横へ流れていく。焦げた毛と肉の匂いが空気に混じる。


 三つに分けられた炎の中には、それぞれ人の腰ほどの高さに、数十匹のグレー・ラットの死体が積み上げられている。灰色だった体表は焦げ、黒く変色していた。熱で身体が収縮したのか、四肢が不自然な角度に固まった個体が、炎の隙間から露出している。


 僕は山からこぼれ落ち、燃え残っている死骸を掴み、炎の強い場所へ放り投げた。

 黒ずんだ肉の塊が火の中へ沈み、赤い炎が一瞬だけ膨らむ。


「だいぶ時間かかったなぁ......」


 熱気で顔の前の空気が揺れる。

 煙が鬱陶しく、後ろに下がると、噛み潰された脚の怪我に鈍い痛みが走った。


 僕達は今、ギルドの指定の通り、グレーラットの死体を山積みにしてから燃やしている。

 できる限り集めて、事前に買っておいた高額の着火剤を巻いてから、燃やした。

 他のパーティーが臨時で日雇い運搬役を雇用する理由が何となく分かった気がする。たった銀貨一、二枚で一人この作業を手伝ってもらえるんなら当たり前に雇うよな。というか雇えばよかった。

 ......もし雇うなら、戦闘現場よりも離れた場所で待機してもらって、作業の時だけ呼び寄せるとかが良さそうだな。次機会があればそうしてみるか。


 もう一つ、ちょっと思ったより燃えなかったから、ポイントがもったいないが、仕方なく炎魔法を新たに取得し、なけなしのMPで火力を補った。

 いや、正直、もうスキルポイントが惜しいとかとかどうでもいいから早く帰りたい。マジで疲れた。

 だが、ここで焼却作業サボって、死骸散乱を見かけた他の冒険者がギルドに報告しても面倒だ。ギルド職員に助言を仰いだ際、行き先も伝えてしまったしな。


「......結局大半、チアキにやってもらっちゃった。ごめんね。」


 ヘルガは少し離れた場所で、膝を曲げたまま中腰に近い姿勢になっていた。

 手の甲で額の汗を拭こうとして、途中で動きを止める。指先には灰と乾いた血がこびりついていた。


 炎の明かりが頬に当たると、少し顔色が悪いのが見える。ヘルガは元々そんなに身体が強い方ではないのだろう。

 ......というか、腕と脚に肉がえぐれる怪我をした後、ここまで作業をすれば普通は誰でも体調は崩れるはずだ。


「気にしないで、僕の方が元気だし。それに、僕達は"仲間"、なんでしょ?だったら、余裕がある方が作業するのは当然だし、むしろ何度も言ったようにヘルガは休んで魔力回復に専念するべきだよ。」


 僕は焼け残りの枝を拾って火の山の裾を崩し、空気が入るように死骸の位置を少しずらした。火の勢いが少し強くなる。


 脚は痛いが、顔に出すとヘルガが気を遣って面倒になる。


「......えへへ、そうだね。"仲間"......だもんね。」


 ヘルガは火の明かりの方へ顔を上げた。口元を緩ませ、目は少し遅れて細くなる。


 だが次の瞬間には、痛みが響くというように眉が寄る。

 包帯の巻かれた左足首を押さえて、その腰を下ろすと、それぞれの遺骸の山を見比べた。三つの火のうち、端の一つは火力が落ち始めていて、黒い煙が太く横に流れていた。


 ヘルガは戦闘後、多少回復した魔力で『サニタイズ』と止血程度の『ヒール』を最低限受けた。だから大事になることはないだろうが、それでも早く人里に戻って休むべきだろう。

 僕達の街ネファレスは遠いだろうから、近隣の村で一泊することになりそうだな。


「とりあえず、僕が火は見ておくから。ゆっくり休んでて」


 燃え広がりそうな乾いた草をむしって火から遠ざける。

 この森の植物、特に枯れていない青々としている草は地球のそれと違って火が移りにくいように見える。

 最初ギルドに森の中で遺骸を燃やせて言われた時は耳を疑ったが、これならまぁ、納得できんこともない。いつか大火事が起こりそうな気はするが。


 山の側面から崩れ落ちたラットの脚を、少々暑いが素手で掴み、頂上へ投げて戻す。ステータスの『防護』は、どうやら火にも作用しているようだ。

 炭化した表皮は、掴むと乾いた音を立てて割れた。


「......でも、私がやる。やっぱり、怪我の酷いチアキが休むべきだよ。本当に、なんでそんなに歩けるのが分からないくらいの怪我だよ。」


 ヘルガは地面に片手をついて立ち上がると、痛む足を庇うような歩き方で焚き火へと近づいた。


「いや、ヘル......」


 僕は声をかけかけて、寸前でそれを止めた。唇を閉じ、行き場を失った息を鼻から吐く。


 ......それについてなんだがな。

 ヘルガの言う通り、僕の怪我はヘルガのと比べてだいぶ酷い。具体的には、怪我一つ一つの重症度はヘルガと変わらないが、その数が多く、特に脚に集中していて、肉が噛み潰された箇所もあれば、骨にまで届いて、恐らくひびが入っているだろうところもある。

 だが、そうだとしても.......不思議なことに、僕の怪我はヘルガと違って、別に"痛いだけ"だ。


 本当はこんな大怪我したら、ヘルガみたいに痛みで作業がこんなにはかどらないというか、しゃがんで死骸を集めたりする焼却作業云々どころではないというか......現代日本の常識で考えると、担架で運ばれていくほどの怪我だと思う。

 でも、今の僕の体感では「あー、ガチ痛いわぁ、だるいわぁ」くらいのノリでなんとかなってしまいそうな程度だ。


 ......こういうのは全部『異世界人』だからで、あの神が僕のために調整してくれてるんだろうか。

 他にも些細なことではあるが、元々僕は格闘技はもちろん、野外キャンプなんて積極的にする方ではなかった。にも関わらず、体力は常人よりもあるし、戦闘中の頭の回りや身体の動きは我ながらキレッキレだ。


 もちろん、これは別に悪い方向じゃないし、むしろ良いことではある。

 だが、戦闘が終わって、こうやって興奮が冷めた今、色々考えてしまうのだが......何って言うか


 ――僕は本当に"僕"なんだろうか。


 脳みそや身体を異世界用にいじられているそのこと自体もそうだが、それ以前に、そもそも僕はどうやってこの世界に"転移"させられたんだ。


 ......答えは何となく……いや、もう出ているか。

 転移直後からずっと持ってる称号『ミラクルボーン』にそれが書いていた。

------

『ミラクルボーン』

【神の御業によって直接生み出された原初の存在。

あらゆる種族は創造の祖を神に持つが、本称号はその創造の瞬間に最も近い存在であることを示す。】

------

 ......地球には『スワンプマン』という思考実験があった。

 ある日、雷が男Aと沼地に同時に落ちる。Aはその場で死ぬが、偶然にも沼地からAと分子配置が同一の存在Bが生成される。両者は記憶も性格も外見も一致している。だがBは、Aの続きではなく、因果的な連続性を持たないただの複製にすぎないという話だ。

 この話は、青狸のどこ◯もドア都市伝説にも通じる。人をワープ先に転移させているのではなく、単に転送先に個体を再構成しているだけで、オリジナルは処理されているのだというホラーだ。


 ――もし僕が、神の技によって直接生み出されたのだとしたら。


 それは転移というよりただの再構成なんじゃないか。地球で生きていた僕はその時点でもう死んでしまっていて、今ここにいるのは、その僕の情報を下に再編された最も近い分子配置の"何縺九□縺ィ縺励◆繧峨?


「おーい?チアキ、どうしたの?大丈夫?」


 いつの間にかヘルガが僕の眼の前近づいていた。

 煙たいのか、袖で口元を押さえながら僕の顔を覗き込んでいる。


 ――あれ?

 今、何考えてたんだっけ


「ん、あぁ、いや.......えっと、ヘルガは休むべきだよ。ヘルガの方がさっきから作業してても辛そうだっていうのと、何より僕達はまだお互いに『サニタイズ』と軽い『ヒール』くらいしか使ってないじゃん?ヘルガはもう休んで少しでも早く魔力を回復して、そんで僕達に回復魔法を使ってもらわないと困るっていうか......確か、長時間経ってしまった傷は治しにくくなっていくんでしょ?それが数日レベルの話だったとしても、なるべく早いほうが良い。瞑想だっけ?魔力回復が早くなるとかいうそれをやっといてよ」


 僕は火の落ちた端の山に近づき、崩れた死骸を枝でまとめ直す。

 食欲底知らずのスライムが近寄ってきたから、その内の一匹を投げて寄越す。


 そういえばこいつ、『デコイ』解除したあと、ヘルガやロー・ウルフの戦いに混ざらず死骸漁りに徹していたおかげかノーダメージだったな。

 随分賢い判断をしてるが、こいつって知性あるの?条件反射だけじゃなくて。

 こいつは本当によく分からんな。『マナリンク』で読み取ろうとしても、飯を探す思念しか感じない。

---------

『マナ・リンク』

【感情によって揺らぐ魔力の波長を感じ取るスキル。

高位の使い手であれば、日常会話に近い意思疎通も可能。】

---------

「で、でも......チアキ、本当に......痩せ我慢じゃないの?す、凄い怪我だよ?血だって、まだちょっと滲んでるし」


 ヘルガはそう言いながら、僕の脚へ視線を動かす。

 その先にあるのは、裂けたズボンの隙間、そこから覗く血が滲む包帯、乾きかけている血。


「......もちろん、痛いよ。でも、何って言うか、怪我って"こんなもん"だったかなって。ヘルガのほうが随分きつそうに見えるんだよね。そりゃ見た目は僕の方がやばいけど......なんか、言うほど苦痛ではないと言うか。」


「え、えぇ......」


 ヘルガは返しかねたまま、火の方へ顔を向けた。

 中央の山でラットが崩れて転げ落ちる。焼けた骨の一部が赤熱して見えた。


「まぁ、とりあえずヘルガは休んでてよ。もちろん、僕がしんどくなったら交代頼むから、その時はよろしくね。こんなのさっさと終わらせて帰ろう。結構時間を食っちゃった。多分街に直接戻るよりも、出発の時通った近くのあの村に一泊お世話になった方がよさそうだね。......んじゃ、そういうことで」


 僕は枝を持ち直して三つの火の山を順に見た。中央の山はまだ強いが、右の山はもうほとんど燃え尽きてきた。左の山は火力じゃ徐々に弱まっているが、まだまだよく燃えている。

 完全に片付くまで、もう少しかかりそうだな。

 ガチめんどいなこれ。ちょっとキレそう。


「ん、ん~......分かった」


 ヘルガは名残るように僕を見てから、倒木のそばへ下がって座った。

 ロー・ウルフが一匹、ヘルガの近くで腹を地面につけて横になる。


 ヘルガは足首を曲げた瞬間に顔をしかめると、小さく息を吸い込んだ。

 ゆっくりと脚の位置を調整すると、両脚を組み、足の甲を太腿の上に乗せる形であぐらをかいた。

 そのまま背筋を伸ばし、膝の上に両手を置いて目を閉じる。


 まんまヨガのポーズだな。というかその姿勢、足首の怪我痛まないか?流石にそこまで口を挟むつもりはないが。

 ……僕はめんどくさくて瞑想とかそういうのやったことないが、あの姿勢って本当に精神統一に役立つんだろうか?

 まぁ、ヘルガは役立つからその姿勢をしているんだろう。 


 ――ところで、一つ大きな、嬉しいニュースがある。


 グレー・ラットとの戦いに貢献してくれたロー・ウルフ君と、今のところ活躍ゼロのスライム君についてなのだが......なんと、レベルが最大になった。

-------------

名前:--

種族:ロー・ウルフLv23/23

状態:衰弱の呪いLv5/20

HP:58/75  MP:11/43

攻撃力:15(22)  敏捷:22(26)  防護:11

魔力:8(15)  知力:15(19)

特性

『魔獣の毛皮』『魔獣の牙』『肉魂還元』『病耐性Lv6/20』

特技

『察知Lv10/20』

魔法

スキル

『噛みつきLv15/20』『ダッシュLv13/20』『ステップLv7/20』

称号

『E+ランク魔獣』『元群れの長』

---------

名前:--

種族:コモン・スライムLv10/10

状態:通常

HP:17/17  MP:7/36

攻撃力:5  敏捷:6  防護:5

魔力:10  知力:11

特性

『ジェルの肉体』『草魂還元』『肉魂還元』『魔力感知Lv13/20』『酸性』『毒無効』『病無効』『変異個体』

特技

『体液操作Lv12/20』

魔法

スキル

『膨張Lv11/20』『組みつきLv7/20』『体液噴射Lv11/20』

称号

『E-ランク魔獣』

-------------

 元々最大レベルに近い二人だったから、それ自体は予想の範囲内だったが、問題は、魔物でレベルが上限に達すると起こりそうなこと......"アレ"だ。


 いつもの青白光のパネルが機械音と共に浮かび上がる。


《この個体の進化先を選択する権利があります。しかし、一定時間が経過すると放棄とみなし、通常の進化が開始します。》

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E+『ロー・ウルフ』

進化先

D-『ベータ・ウルフ』

D『アルファ・ウルフ』

D『シャドウ・ウルフ』

D+『ヴァガボンド・ウルフ』

D+『グレイウルフ』

---------

E-『コモン・スライム』

進化先

E『ラピッド・スライム』

E+『グレート・スライム』

E+『アシッド・スライム』

D-『セリーン・スライム』

D-『マジカル・スライム』

---------

 まるで◯ケモンじゃないか。

 友達がやってるのを見てただけでやったことないが、ずっとソフトを持ってるその友達が羨ましかったんだよね。小学生の時は友達の3◯Sをちょっと貸してもらって、よく遊ばせてもらってたな。懐かしい。まさかそれに近いことを現実でできるとは胸熱だ。

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