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27. 友達だから

《技能経験値が一定に達しました。『ダッシュLv6』がLv8にレベルアップしました。》

《技能経験値が一定に達しました。『ステップLv7』がLv8にレベルアップしました。》


 ヘルガの背後から一匹が迫る。僕は間合いに踏み込みと、横から前蹴りで蹴り飛ばした。


《技能経験値が一定に達しました。『キックLv2』がLv3にレベルアップしました。》


「ち、チアキ!」


 骨を砕く感触が足裏に返り、グレー・ラットの身体がサッカーボールのように跳ね飛ぶ。

 木の幹へ衝突した瞬間、胴が破裂し、赤黒い粘液が周囲に散った。


《グレー・ラットを討伐しました。経験値+36。次のレベルアップまで残り293です。》


 続けて左へ回り込み、もう一匹を足の甲で蹴り上げる。身体は回転しながら宙へ舞い、鳴き声は途中で途切れた。


《技能経験値が一定に達しました。『キックLv3』がLv5にレベルアップしました。》

《グレー・ラットを討伐しました。経験値+36。次のレベルアップまで残り293です。》


 右から僕へ飛び掛かってきた個体には、踏み込んだ勢いのまま拳を振り下ろす。


《技能経験値が一定に達しました。『パンチLv1』を得ました。》


 そして、噛みつこうと跳ねる、残った一匹に対しては、盾を振り抜いた。

 金属の縁が頭部を捉え、グレー・ラットは横へ弾かれて転がる。


《技能経験値が一定に達しました。『パリィLv2』がLv4にレベルアップしました。》


《グレー・ラットを討伐しました。経験値+38。次のレベルアップまで残り255です。》


「クソネズミが!」


 僕はそのままヘルガの足元へかがみ込み、噛みついている個体の頭と顎を掴む。

 そして、力任せにこじ開けてそのまま引き離した。


 ――これで終わらない。

 両手で顎と頭部を握り直し、さらに力を加える。

 グレー・ラットの骨が軋み、肉が裂ける感触が掌に伝わってくる。


「っぐあ"ぁぁ!」


「ギッァ」


 皮膚が徐々に引き伸ばされ、裂け目がゆっくりと広がっていく。

 歯列の付け根からは赤い筋が走り、肉が裂けて骨が折れる音が耳に届く。


 ――次の瞬間、抵抗が途切れ、グレー・ラットの身体が背中の部分と顎の部分で二つに千切れて内臓がこぼれる。

 赤黒い肉と粘ついた血液が掌にまとわりつき、草地に散って染みを作った。


 僕は掴んでいた残骸を放り捨てる。

 そして、苛立つように手を振り、張り付く粘液を払った。


《グレー・ラットを討伐しました。経験値+42。次のレベルアップまで残り213です。》


「だ、大丈夫?......チアキ?」


 次に離れたロー・ウルフの方に目をやる。


 ロー・ウルフは二体を同時に噛みつき、地面に押さえつけている。

 胴体に食いついていた個体はすでに剥がされたようだが、それでも身動きが取りづらいようだ。


 ――その背後から、もう一匹が迫ってきている。

 ロー・ウルフは目の前の二体に意識を奪われ、そいつに気づいていない。


 僕は準備していた力魔法『フォース』の魔法陣に魔力を投入し、淡く発光させる。


 ――魔法陣から透明な"何か"が放たれた。

 空気が波打ち、目に見えないはずの力が歪んだ輪郭となって走る。


 それは一直線に突き抜け、狙った個体へ叩きつけられると、グレー・ラットの身体が歪に折れ曲がり、胴が潰れるように変形しながら吹き飛んだ。


《グレー・ラットを討伐しました。経験値+42。次のレベルアップまで残り171です。》 


 胸の奥に残った興奮が中々引かず、指先にまで力が入る感覚が抜けない。


「じょ、女王は......倒せたみたいだね」


 背後からヘルガの声が聞こえる。

 振り返ると、ヘルガが少し距離を取ったままこちらを見ていた。目を見開き、僕の顔色を探るような表情をしている。


「うわっ、やっぱり酷い怪我。本当に無茶するんだから。」


 だが、僕の噛み傷だらけの脚を見た瞬間、ヘルガは顔をしかめると、それを言い終えるより早く僕へ近寄り、膝をついて両手を前に出した。

 淡い白光の魔法陣が地面に浮かび上がり、円の中を細かな文字列が走る。


「『サニタイズ』」


「へ、ヘルガ。僕のことなんていいんだから、自分の怪我を治......いや、消毒しないと!」


 僕は魔法陣の光を避けるように、脚を引こうとする。

 残った魔力で魔法陣を崩すこともできそうだが、それをやれば、ただでさえほぼ空のヘルガのMPを無駄にしてしまう。


「で、でもチアキの傷は酷すぎるよ。早く処置しないと、こんなに噛まれたらどんな病気にかかるか分からないから。」


「僕には耐性があるんだって!」


「つべこべ言わない!」


 ヘルガは珍しく怒ったように声を荒げ、僕の足首を掴んで地面へ押さえつけた。


 魔法陣の白い光が、僕の脚の血と泥を淡く照らす。


 ヘルガの額には汗が滲んでいる。

 当たり前だ。肉が大きくえぐれて骨にまで響き、血が流れ続けるような怪我。

 興奮や混乱で動けない人の方が多いはずだ、本来は。


「......ごめん、ヘルガ。痛かったよな、ヘルガは止めてくれたのに、僕が巻き込んで、酷い怪我までして......」


 僕は自分の裾を掴んで力任せに裂き、その布を、血が流れるヘルガの腕へ巻こうとする。


 だが、ヘルガはその手を払う。


「まだウルフが残ってる!」


 そう言って急ぐように立ち上がると、草を踏み散らしながら、ロー・ウルフの方へ向かった。


 ヘルガが懐から取り出したナイフで、ロー・ウルフが噛みつく二匹のグレーラットに素早くトドメを刺すと、ロー・ウルフの傷口へ『サニタイズ』の魔法陣を展開した。


《グレー・ラットを討伐しました。経験値+2。次のレベルアップまで残り169です。》 

《グレー・ラットを討伐しました。経験値+2。次のレベルアップまで残り167です。》 

------

名前:ヘルガ・バウアー

種族:人間Lv17

状態:出血

HP:88/99  MP:0/147

攻撃力:28  敏捷:33  防護:16+2

魔力:49+4  知力:45

-------

 ヘルガには、もうMPが残っていない。それでも僕とロー・ウルフを消毒するために、魔法陣を工夫して消費を抑え、最低限の効果を引き出したんだろう。だが、その代わりに自分の傷は処置できていない。


 MPは一晩眠れば回復する。起きている状態でも、十時間もたてば八割方回復する。

 ヘルガの最大MPなら、あと十分もすれば『サニタイズ』を一回使える程度には回復するはずだが、それでも、それを待つべきじゃない。『病耐性』を持たないヘルガこそ、本当は最優先で消毒を受けるべきだった。


「これでよしっ......っあいたた」


 ヘルガはこれで仕事が終わった、というようにそう言うと、同時に片腕を押さえて顔をしかめた。


 そして、懐から布を取り出すと、自分の腕へ手慣れた動きで巻きつけ始めた。巻き方は雑だったが、手つきは慣れている。


 僕は近寄り、しゃがみ込む。


「貸して」


 ヘルガの布を掴み、巻き直す。

 包帯の巻き方は、学校の授業で一度習ったことがある。当時、それが妙におもしろくて、暇なときに何度も練習していた。


 傷口の上に当て布を固定し、包帯を斜めに回して巻いていく。巻き目がずれないように丁寧に交差させ、最後は締めすぎない程度に結ぶ。


 圧がかかるとヘルガが顔をしかめたが、巻き終えると、ヘルガは巻かれた腕を見ながら、表情を徐々に緩める。


「えへっ、ありがとうチアキ......結構巻くのうまいね」


 その言葉が胸に刺さる。


 なにが、「少々は耐えてもらおう」「僕だって結構痛い思いしたんだ」だよ。

 ヘルガは、最初はこのネズミ狩りに難色を示していた。それでも、僕の説得でついてきてくれて。

 あまりにも、僕は自分本位だった。


「ヘルガ、ごめ.....」


「チアキ!」


 ヘルガが遮るように声を上げた。


「さっきから、本当にどうしたの?なんで謝ろうとするの?何も悪いことしてないじゃん。」


 その問いが、逆に僕を追い詰める。


「……ヘルガをネズミ狩りに駆り出して、こんな大怪我を負わせたのは僕だよ」


 ヘルガは呆れたように目を丸くし、眉を寄せた。


「チアキ、何言ってるの?私だって最後はネズミ狩りに賛成したんだし、チアキの方が酷い怪我だよ。」


 ヘルガは僕の脚を指差すと、少し言葉を強めた。


「それに、何より私たちはパーティー……『森の熊さん』じゃん。仲間なんだよ?」


 その瞬間、胸の奥で張りつめていた気持ちが、少しだけ緩んだ。


 パーティー名はヘルガが決めてくれた。

 

 熊――『モスバック・ベア』は今では数こそ少ないが、この地域でも強力な肉食獣で、ランクはD+。

 畑を荒らすラッシュ・ボアや、フォレスト・ディアを狩って数を減らしてくれる存在で、村では守護の獣として軽く信仰されている場所もあるらしい。

 この名前には、強く、人々の生活を守る存在になりたいという思いが込められている。


 そして『森の熊さん』の『さん』は、この地域では軽い敬意と親しみを混ぜた呼び方で、日本の童謡みたいな響きではなく、柔らかい憧れの混じったものに近い。

 まぁ、それでも、僕の頭にはどうしても別の熊が浮かぶ。ある~貧血♪の方の熊さんだ。


「っあは......『森の熊さん』って......そういやそうだったな」


「え、な、何がおかしいの?」


 ヘルガが戸惑ったように首を傾げる。

 その顔を見た瞬間、なんとなく、ヘルガに視線を合わせるのが辛くなくなった。


「......ありがとう、ヘルガ」


 言った瞬間、視界の端が滲み、袖でそれを拭う。


「私は......何もしてないよ?」


 ヘルガはしばらく黙って僕を見ていたが、ふと眉を寄せると、僕の足に手を触れて心配するように見上げた。


「も、もしかして、よっぽど傷が痛むのかな」

次話は二週間以上開くかもしれません。すみませんが、気長にお待ちください。

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