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20. 冒険者ギルド、そして登録

ーーーーーーーーーーーーー


 冒険者ギルドの会館はこの街で一番有力なギルドだそうで、都市の中央広場に面して建っていた。

 広場は石畳で、中央に噴水があり、周囲を露店と常設の商店が取り囲んでいる。

 干し肉や香辛料、布地などを扱う商人の声が絶えず、子供たちが噴水の縁を跨いで走り回っている。

 身なりの良い商人や役人もいれば、鎧の継ぎ目がずれたままの冒険者、靴底の減った労働者も混じっている。

 特定の階層だけが占拠している空間というわけでもなく、様々な人が集まり、言葉や物、金が行き交す場所であるようだ。


 ギルド会館は三階建てで、石造りの下層、木組みの上層とはっきり分かれていた。

 正面入口は幅が広く、開かれた重い扉には金属の補強帯が打たれ、中央にはギルドの紋章が浮き彫りにされているのが見える。剣や獣、あるいは都市そのものを象った意匠だ。


 上階には張り出した小さなバルコニーがある。

 祝辞や布告があるときには、そこから声が落とされるのだろう。


 また、壁には珍しく、透明度は低いがガラス製の窓がはめ込まれていた。

 内側の動きがぼんやりと影になって映り、人の出入りが多いことが外から見て分かる。


「正面から入るとギルドの人達の邪魔になるから、今日は裏口から行くよ。」


 ヘルガは観光気分で浮かれて周囲を物珍しそうに見上げる僕の背中を押し、会館の脇にある裏道へと僕を誘導する。


 少し歩くと、正面の門と比べて随分小さく狭い木製の扉にたどり着いた。

 看板も装飾もなく、知らなければ倉庫か事務用の出入り口にしか見えないだろう。


「入りまーす。銅級のヘルガです。」


 ノックを二度して声かけした後、ヘルガがその扉を開けると、狭く暗い室内が見える。


 奥はカウンター状の仕切りで区切られていた。

 腰ほどの高さの壁があり、その上にさらに壁が続いている。上下の壁は完全には塞がれておらず、間には横に細長い顔一つ分ほどの幅の隙間が設けられている。

 その右端には、職員が出入りするためのドアがある。


 隙間から、男の話し声と書類をめくるような音が聞こえてくる。


「すみません。友人の冒険者登録のお願いに来ました。お時間よろしいですか?」


 ヘルガがその隙間から顔を覗き、そう声を掛ける。

 僕も真似して隙間を除き、その内装を見る。 

 

 壁際に並んだ棚、そこには巻かれた書類、束ねられた帳簿、木箱が無造作に積まれている。

 そして、年が四十前後見える3人の男。 


 彼らは革の前掛けや地味な上衣を着ており、腰には剣を下げている。

 その内の二人は顔を寄せ、書面を指さしながら短く言葉を交わしている。


「錬金ギルド、西区の本部から直々に依頼が来てる。月光草と血止苔を来月までに三十包とのことだ。」

「またか。あそこは金払いは良いんだが、無茶ぶりが多い。」

「あぁ、本当に軽く言ってくれるもんだよ。特に月光草は今年は雪があまり降らなかった分育ちが悪い。三十包は多分無理だな」

「森深くの探索になりそうだし、銅級じゃ不安だな。銀級指定つけるか?」

「いや、銅級であの地域に慣れてる奴らがいるから、そのパーティーを指名しよう。そんで案内人をなんとか錬金ギルドに一人取り付けてもらって......」


 依頼についての調整か。面白いものを見られたな。

 冒険者ギルドってなんかもっと放任主義的なイメージがあったんだが、そういうわけでもないようだ。

 それと興味深いのが、こいつらレベル10前後でそんなに強くない。

 『冒険者』の称号はついていて実務経験はあるんだろうが、専ら事務作業が仕事っぽいな。

 

「おぉ、ヘルガちゃんか。」


 すると、残る一人で作業をしていた男が書類から視線を上げ、こちらに気づいてきた。


「久しぶり。うまいことやってるみたいだね。」


「まぁ......ぼちぼちですかねぇ。」


 ヘルガは気まずそうに、一拍置いてからそう応えた。

 昨日色々あったもんな。ジョンとか、それとジョンとか。


「そうかい。で、冒険者登録だったね?」


「はい、こちらのチアキさんです。」


「はじめまして......僕はチアキ、ユクシマ。」


「"ユクシマくん"だね、よろしく。じゃあ早速これに手を当てて」


 男は台の下から、大きな事典ほどの大きさがある石板を引き寄せた。

 黒ずんだ表面にかすれた細い文字が刻まれていて、角は丸く擦り減っている。

 随分使い込まれてるようだが、これは......

----------

『試しの石板』

【石板に、中位以上の聖職者が『鑑定』の祝福をかけたもの。

魔力を流した対象のステータスの一部が映し出される。

映し出される内容と方法は石板に込められた術式と祝福による。】

----------

 なるほどね。


 少し悩んだが石板に手を当てる。

 間を置いて、刻まれていた文字が左上から順に薄く光り始めた。

 暗い室内でようやく分かる、ロウソク程度の明るさだ。


 そしてその文字の内容は......『ヘルプ』が通用するようだ。読める。


 見よ、此は試しの石なり。

 正しき務めに立ちし聖徒の手により識る祝福を刻まれしもの。

 掌を置き、力を注ぐ者の、

 その魂と肉の兆し、

 石はこれを映し出さん。


 然れども、

 欺きて触るる者、

 定めを越えて求むる者には、

 何ものも示されず、

 石は闇に帰るべし。


 随分格好つけた文章だな。

 魔力を流してこの文字が浮かんできたのではなく、元々この刻まれていた文字が光った感じだが、これで僕の何を図るんだ?


「ふんふん、合格だよ。名簿に名前書くからちょっと待ってね。この後に4マリャル払ってくれたら登録は終わり。帰っていいからね。」


 男はそう言うと、台の下から大きめの本を引き出した。革張りの表紙は厚く、角は擦り切れている。

 留め具は金属製で、何度も開閉されたせいか、噛み合わせが甘くなっている。

 中は羊皮紙で、薄いが硬さがあり、長い時間を経た独特の色をしている。


 ページ一面に、小さな文字が隙間なく書き込まれていた。

 行と行の間はほとんどなく、余白を残さない書き方。

 さらによく見ると、文字――人名の列の中に、その上から赤や青の線が引かれているものがある。


 ......なんで引かれているかは察しが付く。

 死んだか引退したかだろう。


「今の石板はチアキのレベルを計ったんだ。光の具合で大体が分かるんだけど......15、くらいかな?」


 名簿をじっと見てる僕に、ヘルガがそう話しかける。


 ......レベルの概念、この世界の住民知ってるんだ。

 魔物倒すと超人的な力が手に入る、くらいの知識程度は持ってるだろうと思ってたが、具体的なレベルの数字まで知っているようだ。

 僕の実際のレベルの11に近い数値をヘルガが言ったことを踏まえると、これから世間一般に話されるレベルと僕が『ヘルプ』で見てるレベルは同質と思っていいだろう。


「いやぁ、これは10くらいだな。15にしては光具合がちょっと弱い」


「えっ......そうなんですか。」


 職員の男がそう返すと、ヘルガは少し驚いた顔をした。

 確かに僕は、同レベルの冒険者と比べてステータスが高めで、スキルも充実している。

 イノシシ相手に立ち回る僕を見たヘルガからすれば、もっとレベルが高いと思っていたのだろう。


「ヘルガもやったらどう?ラッシュ・ボアー倒したからだいぶん上がってるんじゃない?」


「あっ、そういえば確かに......」


 ヘルガが思い出したようにそう呟く。


「ん!?ヘルガちゃん、ラッシュ・ボアーを倒したの?本当に?近くにいただけじゃなくて?」


 職員の男が驚いたように声量を少し上げる。


「あ、えっと、私はほぼ何もしてないんですけ......」


「あぁ、ヘルガが魔法で仕留めた。雷魔法でこう、バチバチィッっと。」


 僕は杖を両手で握るふりをして、あの時のヘルガの真似をする。


「おぉ、そういえばヘルガちゃん雷魔法使えたんだったね。うわぁー、それは凄い。ちょっとこれはギルドとしてはそれ相応の対応をしないと。」


「ヘルガ、あの牙今持ってる?見せたらどう?」


「あ、いや、わ、私はその......」


 ヘルガが少し慌てたように手を振る。

 褒められ慣れてないのか......それとも、僕余計なこと言っちゃったか?


 そういえばヘルガって他の冒険者とつるんでるところあんまり見ないし、目立ちたくない系なのかも。

 やべ、やっちゃったか。


「あ、でも、牙は換金したいです。討伐部位でしたよね、牙。パーティーは『熊の如く』です。ジョンさんのやつです。」


 そう言うと、ヘルガは背負っているリュックを探り、昨日取った牙を取り出して机の上に置いた。


 まあ、どのみちヘルガがこれを換金するつもりだったなら、いずれこの話題にはなっただろうし、この男もヘルガの雷魔法については知っていたみたいだから……セーフ、だよな?


 というか、ジョンのパーティーの名義で換金するんだ。

 あいつら散り散りになってたし、パーティーとして崩壊してると思うんだが。

 それに『熊の如く』って、格好つけすぎだろ。『脱兎の如く』とか『散らす蜘蛛の子』とかがお似合いだと思うがな。


「私の取り分はこの証書の通りでお願いします。」


 さらにヘルガは、リュックから短い文章と印が押された分厚い小さな木板を取り出し、カウンターに置いた。


 そういう感じなんだ、冒険者パーティーって。


《条件を満たしました。『冒険者』を得ました。》

《条件を満たしました。『ガラン王国カルデン公爵領臣民』『平民階級』を得ました。》

《条件を満たしました。『自由人』を失いました。》


 その時、突然、僕の目の前に、白い光とともに通知のホログラムが浮かび上がった。

------

『冒険者』

【世界を巡り、新たな地を切り拓く者。

人類の歴史において欠かすことできない存在。】


『平民階級』

【被支配階級の一つ。

上位の支配階級からあらゆる制約を受ける。】


『ガラン王国カルデン公爵領臣民』

【ガラン王国カルデン公爵領の被支配民。

この領土の正当な支配者からあらゆる制約を受ける。】


『自由人』

【あらゆる社会に属さず、その拘束を受けない者。

世界教皇に認可されていない小規模な共同体の構成員も、これを保持することがある。】

------

 えぇ……どゆこと?

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ウオオオオアアアア\('ω' )/アアアアアッッッッ!!!!!チアキ・ユクシマ!!チアキ・ユクシマ(ノ≧∀≦)ノバンザーイ(ノ゜∀゜)ノバンザーイ
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