2. 異世界転移
立ち並ぶ樹々が風にそよがれ、その隙間からは柔らかな光が差し込んでいる。
草と土の匂いが混じる空気は、湿り気を帯びつつ澄んでいる。
太陽はまだ高くなく、木々の間からのぞく空は青白く滲んでいた。
スポーン地点は森。
まさかの人里じゃなかった。
多少騒ぎになっても、町に転移された方が良かった。
今は朝なのか夕方なのか。
肌寒さで腕をさすると、厚みのある布の感触に気づく。
深い緑の上着を着ていた。
細かく縫い込まれていて、全体的に張りがある。
特に胸や腹は詰め物でも入っているのかぶ厚く、わずかに弾力もあり、軽い衝撃なら吸収しそうだ。
その下はスリムな厚手のズボン。
擦れにも強そうな丈夫な布地で、ポケットはなく、色は暗い灰茶。
足元の革製ブーツは足首から脛にかけてしっかり締まっており、脛は硬質な感触がある。
どれも糸のほつれや汚れはなく、まるで買ったばかりのように清潔だ。
......中世ヨーロッパのコスプレとしてメ〇カリに出せば、それなりの値で売れそう。
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『普通のパデッド・アーマー』
ランク:E+
必要筋力:7 防護:+5 敏捷:-3
能力:
打撃耐性Lv7/20
【布や革を何層にも重ね、綿や動物の毛を詰めて縫い合わせた防具。
打撃をよく吸収する】
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突然、青白い光を帯びた半透明のパネルが、機械音と共に浮かび上がってきた。
表面には光の粒子で編まれた文字、数字、記号がホログラムのように立体的に浮かび上がっている。
まじでゲームみたいだな。
それにしても、E+か。
もっと良いやつくれよカス。
こんなところでケチんなよ。
頑丈と敏捷でプラマイゼロに近いんだけど意味あるんかこれ。
加えて、地面には剣と盾、そして革のリュックサックが置かれていた。
剣を手に取る。
直剣型で、刃渡りは腕の長さほど。
柄の革巻きは手になじむが、剣は全体的に重量があり、下手に振れば手首を痛めかねないだろう。
ベルトに剣を吊るす部位があったので、そこに掛けておく。
盾は円形で、持った感触から木製だろう。
表面は革で覆われ、縁は金属板で補強されている。
中央がわずかに盛り上がっており、恐らく受け流しを意識した造りだ。
どれも使われた跡はなく、新品に近い。
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『黒鋼のアーミングソード』
ランク:E+
必要筋力:9 攻撃力:+8
特殊能力:
斬撃武器
【鋼を鍛造して作られた片手剣。
切れ味と突き性能のバランスに優れ、盾と併用しやすい。
特に軽装の敵に有効。】
『木製のラウンド・シールド』
ランク:E+
必要筋力:9 防護:18(固定)
能力:
斬撃耐性Lv16/20、刺突耐性Lv16/20、打撃耐性Lv12/20
【軽量な木材を芯とする丸盾。
革や金属を張って補強されている。
未知の素材が使用されており、あらゆる物理的な攻撃に耐性がある。】
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またE+。
お情け程度にプラスが付いてるのも癪に障る。
ただ、盾の解説にある【未知の素材】は気になる。
確かに、手で叩いてみても、音がほとんど響かない不思議な感触はある。
というか、僕のステータス見たいな。
それ見ないと、こんな数値ぱっと見せられても困る。
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名前:行島千秋
種族:人間Lv1 SP:10
状態:通常
HP:30/30 MP:40/40
攻撃力:9+8 敏捷:11-3 防護:5+5(盾18)
魔力:13 知力:13
特性
『ヘルプ』『スキルポイント』『取得経験値2倍』『技魂』『武術の才能Lv14/20』『魔導の才能Lv15/20』『力魔法適性』『闇魔法適性』
特技
魔法
スキル
称号
『異世界人』『ミラクルボーン』『自由人』
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……これ、僕だいぶ弱くないか。
比較対象がないにしても、多分森の中に放り出されていいステータスじゃない。
血の気が一気に引いていくのを感じる。
……ここは人里からどれくらい離れてる?
この森には、どのくらいの強さのモンスターがどれくらいいる?
食料は?僕は サバイバルなんてもちろん、キャンプすらろくにしたことがないぞ。火なんて起こせるはずもない。水はどうする。
それに、今でも十分寒いけど、夜になったらもっと冷えないか?
胸の奥で心臓が速く脈打ち始め、鼓動が強く響く。
……とりあえず落ち着こう。
心を落ち着けようと、肺の奥まで空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出すのを何回か繰り返す。
しかし、鼓動は収まらない。
......そうだ、リュックが残ってる。
見てみよう。
分厚い革と金属の留め具で補強されており、現代のバックパックとは異なる無骨な外見。
背中側は薄く詰め物がされており、肩紐は粗い麻縄を編み込んだものに見える。
金具を外し、中を確認すると、一番上には麻袋が大小二つあった。
大きい方を開けてみると、小分けの干し肉や固い乾燥パン、干したリンゴ片、燻製チーズの塊が詰められていた。
少しずつ食べれば4日…...いや、3日持ちそうだ。
とりあえず食料はある。良かった。
小さい方の麻袋には、厚みのある透明ガラス製の小瓶が3本。
中には緑の液体が入っている。
全体は丸みを帯びた短い円筒形で、手のひらに収まる小ぶりなサイズだ。
口元には金属キャップがしっかりと閉じられており、中の液体が漏れる心配はない。
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C+『身体回復ポーション(高級)』
【中位の回復ポーション。その高級品にあたる。
回復量はHP30程度。軽度な状態異常を打ち消す作用もある。
飲用・外用の両方に対応した珍しい複合型。】
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C+……武器よりもずっと高ランクだ。
HP30回復ってことは、僕の最大体力とちょうど同じくらい。
しかも3本もある。
もし大けがをしても、致命的な状況から逃げ延びさえすれば、何とかなるかもしれない。
試しに少し使ってみたい気持ちはあるが、下手に使って一本丸ごとダメになったら元も子もない。
必要になるときまで取っておこう。
本当に助かる。
これがあるのとないのとでは安心感がまるで違う。
その二つの麻袋の下には、丸い袋状の革製水筒もあった。
飲み口には金属の蓋が差し込まれ、その上を布で覆って紐で縛ってある。
中には水が入っており、逆さにすれば蓋から少しずつ漏れそうだ。
気を付けよう。
リュックの底にはずっしりとした、綺麗に折りたたまれた毛布がある。
広げてみると、何層にも重ねて圧縮したフェルト状の厚手の毛布で、表面はざらざらしており、重いが温かい。
……でも、夜はこれだけじゃちょっと寒いだろうな。
最後に、毛布の下に沈んでいた柔らかな布袋を取り出す。
中には、金貨が8枚、銀貨が9枚。どれも見たことのない紋章が打ち抜かれている。
今使えないのが悔しい。
......物色していくうちに、少し落ち着いてきた。
食料、水、毛布、そして何よりポーションがあったのが大きい。
よし、拠点つくるか。
まずは、水の確保と寝床の確保。
川の近くで、雨風しのげて、多少は遮蔽になるような場所が必要だ。
そういえば、神からスキルポイントなる能力。
あれで生活に必要なスキルとか得られるんじゃないか。
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残りのスキルポイント:10
特性
『病耐性Lv1/20』(1)、『毒耐性Lv1/20』(2)
基本特技
『剣術Lv1/20』(1)、『斧術Lv1/20』(1)、『槍術Lv1/20』(1)、『体術Lv1/20』(1)、『弓術Lv1/20』(1)、『盾術Lv1/20』(1)、『調教術Lv1/20』(1)
魔法特技
『力魔法Lv1/20』(1)、『闇魔法Lv1/20』(1)、『雷魔法Lv1/20』(1)、『風魔法Lv1/20』(1)、『氷魔法Lv1/20』(2)、『炎魔法Lv1/20』(2)
特殊魔法特技
『魔法規模拡大Lv1/20』(1)、『魔法制御Lv1/20』(1)
基礎スキル
『ステップLv1/20』(1)、『ダッシュLv1/20』(1)、『ジャンプLv1/20』(1)
体術スキル
『パンチLv1/20』(1)、『キックLv1/20』(1)
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ない。
サバイバル術とか、探索とか、索敵とかそういうのを期待してたけど一切ない。
......今更だけど、僕闇属性なんだ。
一応命かけて子供救ったんだから光属性でもよかったでしょ。
なんかチート能力の中に魔獣化とかもあったし、しっくりこんな。
......調教術が気になる。
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『調教術』
【魔獣、精霊などの意志を読み取り、言葉・支配・共感などによって従わせる特技。
調教した魔物は完全に支配できるとは限らず、精神的な繋がりや適切なケアを怠れば反逆・暴走することもある。】
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これ森のモンスターとかいけるんじゃないか。
寝てる間の見張りがいるだけでも、大分違う。
必要なスキルポイントは、特技の右にある()の中の数字だろう。ほとんどが1。
取るか?
いや、他のやつの解説を見ておこう。
ここは慎重に見極めていきたい。