17. 神からもらった剣
なんでこんなに強いやつが鍛冶師なんてやってるのか、警備の冒険者より強いってそれ雇う意味あるかとか、色々気になるな。
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『騎士契約当事者』
【貴族階級以上の者と軍役契約を結んだ人物。
契約期間中は主君への軍事奉仕義務を負う代わりに、一定の特権が付与される。
代表的なものとして、非課税権や身体不可侵権が挙げられる。】
『騎士階級』
【支配階級、その下級。
契約、領国法次第ではあるが、より上位の支配階級からの制約を受ける。】
『貴族階級』
【支配階級。その中では最も一般的。
契約、王国法次第ではあるが、基本的に王からの制約を受けない。そのためしばしば両者は対立する。】
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ヘルガとの会話の時には「騎士契約」「貴族」に『ヘルプ』が機能しなかった。だが今は機能した。何故だ?
......相手のステータスから遡るか、実物に対しての使用のみ反応する、とかか?
いや『ダーク・ドワーフ』は反応してたからそれは違うか。
全く分かりにくい。説明書くらい寄越せよクソ神。
.....まぁ、とにかく、この説明を見るに、この世界には『王』や『貴族』で構成されてる『支配階級』なるものが存在していて、『騎士』ってのはそいつらと契約して下っ端として仲間に入れてもらってる感じか。なんか生意気だな、王も貴族も騎士も。
軍役ねぇ。
この世界はレベルが戦闘能力に大きく影響する。騎士達を統べるだろう『王』や『貴族』は高レベルなんだろうか。
傲慢な連中だったら今後厄介になるだろうな。
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『アース・ウォール』
【高位の土魔法の一種。
土地ごと隆起させ、一定範囲内に魔力を付与した土の壁を作る。
同種のより下級土魔法と比較して、魔力消費は多いが、規模の制限がほとんどない。】
『アース・スパイク』
【高位の土魔法の一種。
土地ごと変幻自在に隆起させ、魔力を付与した土の槍を敵を串刺しにする。
同種のより下級土魔法と比較して、魔力消費は多いが、規模の制限がほとんどない。】
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完全な高火力アタッカーの構成。高位土魔法、スキル『投擲』も持っているのを見るに、ただの脳筋というわけでもないようだ。
『ヒート』から先の魔法はどうやら鍛冶関連であるようだ。熱したり、軟化させたり、研磨したり。
「買いに来たのか?それとも売りに?」
ラーズ――さっきから客の相手をしていた鍛冶師の男が自身有りげな足取りで近づいてくる。
「今日は見に来た。元々は鎧のつもりだったんだが……ここの剣や盾を見てたら少し気が変わっちゃったよ」
「そうか……で、その背中に背負ってるのは……剣か」
視線が、僕の肩越しに落ちる。
今僕は剣を腰に下げていない。布の袋に入れて背負っているだけだが、それでも鍛冶師の目には形が分かるらしい。
この袋はレヴァンから借りたものだ。
レヴァンが昔使っていた袋で、縫い目も布も頑丈で、武器の角が当たる部分だけ革で補強されている。
ヘルガから聞いた話では、城壁内で帯刀するのは好ましくないらしく、袋に入れて持ち運ぶのが普通だそうだ。
ただ、地位の高い者や、ルールを知らない――あるいは無視する冒険者は普通に腰に下げているとも言っていたから、結局は暗黙の了解に過ぎないのだろうが。
「そう。今の僕には少し軽すぎてね。さすが職人。分かるんだな」
「まあな。三十年もやってればそりゃ分かるさ。どれ、見せてみろ」
「……あぁ。」
袋の口紐をほどき、布をめくって剣の柄を露出させる。
正直、見せるべきかは少し悩んだ。
これは神からもらったもので、本職の鍛冶師が見てたらどう反応するのか。
あまりにも価値があるものだったら扱いに困るし、慣れていない都市生活で早々に目立つことも正直したくない。なんかやっちゃいました?じゃ済まない。
......まぁ、そうだったらテンション上がるなとも思うが。
僕は剣をゆっくり引き抜き、 刃先が木に触れないよう、袋の上に刃を寝かせるようにしてカウンターの上へ置いた。
「むっ……これは……」
鍛冶師は驚いたように息を吸い、眉が上げて表情を固めた。
剣を見る目が、品定めの真剣なそれに切り替わる。
剣に手を付けた。
まず指先が触れたのは刃ではなくその柄。
親指と人差し指で、柄巻きの革を押す。沈み方と戻りの速さで、革の乾き具合と芯の固さを確かめているようだ。
続いて剣を持ち上げる。
刃を水平に保ったまま、重心がどこに落ちるかだけを確かめるように持ち上げると、その両手でゆっくりと角度を変える。
そして、窓から漏れる日が当たる位置へ刃面を傾け、光の反射を走らせる。
そして剣を再び寝かせると、ようやく、刃に指が近づく。
だが触れるのは刃先ではなく、厚い中央の部分。
次の瞬間、刃に触れている指先から出た、微かな魔力が刃の中へ流し込まれる。
――その時、剣を中心にかすかに、”魔力に似たなにか”が部屋中に広がり、それが僕に伝わってきた。
これと似た感覚を味わったことがある。スライムとロー・ウルフに使った調教術スキル『テイム』。
となると、”魔力に似たなにか”っていうのは魔力の波動そのものなのかもしれない。
「……兄ちゃん、これはどうやって手に入れたんだ」
ラーズは剣から視線を外さないまま、こちらを見ずに声を投げてきた。
どうやら結構良いものなようだ。
……”結構”良いもの、だよな?
「故郷の師匠から譲り受けた。もう僕には合わなくなっちゃったんだけどね」
まぁ、嘘だが。
でもそれ以外に良い言い訳思いつかないじゃん?
この鍛冶師の鑑定結果を聞いてない今、拾ったとか買ったよりもそういう設定にしたほうが話が噛み合いやすいだろう。
「随分良いお師匠さんだったんだなぁ、えぇ?」
鍛冶師は僕の真意を図るようにじっと僕の目を見つめると、短く吐き、視線を剣へ戻した。
口角がわずかに下げ、眉間の皺を消した。
はじめはこの剣と神に結構悪態をついてしまったが、Lv1の僕の身の丈に合う中で良い装備をあの神は与えてくれたのかもしれない。
……そういえば、この町の人達、一般人は基本的にはLv5前後で、『冒険者』の称号持ちになるとレベルがぐっと上がる感じだったな。子供らしい子供、児童はほぼ全員Lv1だったが。
そう考えると、僕のスポーン時点でのLv1って相当クソ雑魚ナメクジだったんじゃないか?
「んで、今日はいくらもって来てんだ」
「そこそこあるよ……だが、あいにく“この状態”で、払えるもんでもないんだけどな」
僕は足元のリュックを引き寄せ、口を少し開く。
中から革の袋を取り出し、音がなるように袋を少し揺らして開き、鍛冶師の方へ傾ける。
袋の中で、厚みのあるグリヴナ大銀貨が一枚、そして淡い金色のオルフェス小金貨がいくつも覗く。
それを見た鍛冶師は、ほんの僅かに眉を寄せた。
「……おぉ」
口元がわずかに引きつり、短く息を吐く。
僕はすぐに袋の口を閉じ、またリュックの中へ戻した。
「兄ちゃん……あんた何もんだよ」
鍛冶師の声が少し低くなる。
やっぱりちょっと怪しいか。
僕の身なりや振る舞いにしては良い武器と高額通貨だからな。
この老年の男は僕の身分をどう思っているのやら。
……どこかの良いところの坊っちゃん、知られていないような辺境の里の者……最悪の場合盗賊といったところか?
「僕は……ただの駆け出し冒険者だよ。まあ、両替したらまた今度来るよ。他にも武具屋はあるらしいしね」
必要以上には嘘をつかないつもりだ。
ただでさえこの世界のことを僕はよく知らないのに、嘘吐きまくっても良いことはあんまりない。
「いや、待て」
――だが、鍛冶師の男は こちらへ手のひらを出して止める仕草をして、即座に遮った。
「”今”商品買って行きな。金貨も相場の、1枚32マリャルで換金してやるからよ。手数料はタダだ。」
そう言い切ると、髭の奥で片側の口角をわずかに釣り上げた。




