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16. 武具屋

ーーーーーーーーーーーーー


 広さの割に窓が少なく、全体的に薄暗い店内。

 棚には剣や斧が十数本ほど並び、壁には槍や長柄武器が、これも等間隔に十本ほど掛けられていた。

 奥には兜や籠手なども飾られているが数は少なく、ほとんどが武器。

 どの品にもギルドの印章――金床と槌の刻印がある。


 ――僕は今、一人で武器屋に偵察に来ている。

 レヴァントとの会話のあと、彼から洗濯屋と"武具屋"の場所を教えてもらったので、その順に回ってここに来た。


 まず、洗濯屋について。

 レヴァン曰く、パデッドアーマーほど厚手になると洗濯に一週間ほどがかかるらしい。

 だが、明日か明後日にでも冒険者として働きたい僕にとって、それは致命的だ。

 そこでレヴァンに相談すると、金に余裕があるのなら洗濯の間くらいは魔獣討伐以外の仕事をするべきで、それでも魔獣討伐の仕事を受けたいなら、洗っている間に使う予備の防具でも買えと言われた。


 ……僕としては、冒険者としてどれほど稼げるかまだ分からない以上、出費はできるだけ抑えたい。

 一瞬レヴァンに内緒で、汚れたままパデッドアーマーを使おうかとも考えたが、すでに詰め物には血が染み、鉄臭い匂いが漂っている。

 数日もすればさらに酷い悪臭を放つのは明らかだったので、やっぱり洗濯が終わるまではアーマーなしで過ごすことに決めた。


 洗濯屋は街の東端、川沿いにあった。

 そこだけ城壁が途切れ、自然の堀のように川が街の一角を塞ぎ、古びた石造りの橋が一本架かっていた。


 川は中々汚い色をしていてビビった。

 川は淡い灰褐色に濁っていて、洗濯女に聞くと、上流の屠殺場が原因だと教えてくれた。

 これでも、三十年ほど前に廃棄物を溜める池が都市から少し離れた場所に作られ、マシになったらしい。

 現代の上下水道技術は偉大だったんだな。


 洗濯の代金は前払いの3マリャルだった。五日後に取りに来てくれとのこと。思ったより早い気がする。

 綺麗に仕上がったら追加で1マリャル払うと伝えると、相手は喜んでいた。


 話を戻して、今僕はレヴァンおすすめの武具屋にいるが、日も低くなってきて、体感ではもう十六時に近い。

 街の活気も落ち着き始め、多くの店が店じまい始めだした。

 悠長に街巡りをする暇は無さそうで残念だ。


 今いる武具屋も人気は少なく、客は僕を含め二人だけ。

 一人の痩せ型の男冒険者が店主らしき人と話している。


 ドア脇の椅子には、あくびをしている、おそらく警備役であろう冒険者が一人。

 小さい鉄板たちを生地の表面に貼り付けた鎧、スケイルアーマーを身に着け、腰には細めの片手剣を下げている。


 この世界は結構武具の補正値が高いからな。

 たとえあくびをしていても、武器を持っているだけで威圧感が少しある。

------------

名前:クラウス・ハンゼン

種族:人間Lv15

状態:通常

HP:75/75  MP:80/80

攻撃力:25+13  敏捷:29-2  防護:12+9

魔力:25  知力:27

----------

 それにしても、称号欄には『冒険者』とあるものの、『洗濯屋』や『パン屋』といった職業を示す称号は、今のところここの店主の『鍛冶師』以外に見当たらない。

 称号がつく職業と、つかない職業......基準がよく分からんな。

 まあ何でもかんでもついてたらUI的に見にくいが。


 この武具店についてだが、レヴァンによれば、ここ以外は見る価値がないらしい。

 この都市の武具屋は基本的に中古品を主に扱うようで、新品が欲しければ鍛冶師にオーダーメイドするのが一般的だそうだ。

 中古市場が盛んなのは恐らく、武器の性能差が大きく、格下相手に損耗しにくいというだけではないだろう。

 この世界ではレベルが上がるごとに身体能力も上昇し、それに応じて武器を新調する必要があることも大きいはずだ。


 普通の店は中古品を多少整備して売る程度らしいが、ここは整備が丁寧で、粗悪品を避け、中には新品同然のものもあるという。

 そのぶん、この街で一番高値を付けてはいるそうだが......。


 レヴァンの話は間違いではなかったと思う。

 たしかにこの店の品揃えは質だけでなく量も充実しており、必要筋力も20弱から40弱まで幅広く揃っている。


 ただ、本命の鎧は3つしか飾られて居ない。

 どれも今の僕のステータスには補正値が低すぎたり高すぎたり、また大きさも僕のとは少しサイズが違うように見える。

 値段も武器類と比べて結構高い。一番安いのでも134マリャル。

 期待していただけに少し残念だ。


 だが、剣と盾に関しては中々良さそうなものを2つずつ見つけた。

 "買うとしたら"の候補だ。

----------

『黒鋼のサーベル』

ランク:D

必要筋力:19  攻撃力:+13

特殊能力:

斬撃武器

【鋼を鍛造して作られた、片刃で反りを持つ片手剣。

突きよりも斬撃を重視しており、馬上でも扱いやすい。】


『黒鋼のバスターソード』

ランク:D

必要筋力:25  攻撃力:+26 敏捷:-8

特殊能力:

斬撃武器

【鋼を鍛造して作られた、分厚い刀身を備える片手剣。

叩き斬ることに特化している。

威力は高いが、片手では少々重く扱いが難しい。】


『香杉のヒーター・シールド』

ランク:D

必要筋力:20  防護:18 敏捷:-2

特殊能力:

斬撃耐性Lv4/20、刺突耐性Lv2/20

【香杉を加工しつくられた逆五角形の盾。

軽量で、防虫効果のある香りを放つ香杉を用いたこの盾は、非常に人気が高い。】


『鉄皮樹のカイト・シールド』

ランク:D+

必要筋力:24  防護:27 敏捷:-7

特殊能力:

斬撃耐性Lv4/20、打撃耐性Lv10/20

【鉄皮樹を加工しつくられた、やや細長い逆五角形の盾。

他の木製盾と比べても、非常に重厚で頑丈である。】

----------

 それぞれ、サーベルは95マリャル、バスターソードは200マリャル、香杉盾は23マリャル、鉄皮樹盾は42マリャル。

 盾に関してはどれも中古というよりほぼ新品なように見える。


 手持ちは両替がうまくいけば240マリャルほど。一番高額な組み合わせにギリ手が届くかどうかってところか......


 邪神特製のパデッドアーマーには随分助けられた。

 鎧はなるべく早くに準備したほうが良い。


 だが、今は盾はクソイノシシに破壊され、剣は今のレベルアップ後の僕にとってはもうずいぶん軽い。

 正直鎧ではなく剣盾を新調するのはかなりアリではある。


 ......まぁ、どちらにしろ、今日買う予定はない。

 明日ヘルガに街を案内してもらう時に両替商で金貨を銀貨に替え、それからまたここに戻ってくるつもりだからだ。

 今日は色々目を肥やしながらゆっくり考えたので良い。むしろそうするべきだろう。


 ......それにしても、見た目には良さげな武具でも、ランクにプラス補正がほとんど付いていないのが気にかかる。

 中古品だからかもしれないが、プラス補正が付くのは想像以上に難しいのかもしれない。


 ......あの邪神がくれた装備って実は良質なものだったんだろうか?

---------------

名前:行島千秋

種族:人間Lv11  SP:43

状態:通常

HP:73/73  MP:49/86

攻撃力:25+8  敏捷:26  防護:11

魔力:28  知力:29

-------------

 今の僕のステータスだ。

 こうしてみると大分強くなったな。


 警備をしてる冒険者やジョンよりも、レベルの割にステータスが高い気がする。

 理由は『異世界人』であることだけではなく、『武術の才能Lv14』と『魔導の才能Lv15』も十分関係しているだろう。

------

『異世界人』

【神の御業によって、異世界から招かれた者。

多様な補正が与えられる。】


『武術の才能』

【戦闘技術を素早く習得し、正確に実戦で使える資質。

HP、力、敏捷、防護に補正がかかる。】


『魔導の才能』

【魔力を知覚し、制御する資質。

具体的には、魔力操作や魔法陣展開などがある。

MP、魔力、知力に補正がかかる。】

------

 どの武具を選ぶかは、結局は今後の戦略次第だ。

 違いは単純で、『攻撃力』を取るか、『敏捷』を取るかになる。


 ただし注意すべきは、『敏捷』の補正値が常に実際の動きにそのまま反映されるわけではないだろう点だ。

------

『攻撃力』

【個人が、その攻撃部位を以て敵に与えられる損害。筋力なども含む。

しかし、身体の大きさは考慮されていない。

人の場合、攻撃部位は基本武器である。】


『敏捷』

【主に敏捷性。

ただし、移動速度は『敏捷』の値だけでなく、身体の大きさに強く左右される。】

------

 これまでの戦闘、とくにジョンのラッシュ・ボアーとの立ち回りを見て感じたことがある。

 おそらく、ステータスの数値や武器による補正値は、あくまで様々な動作における"平均値"や"推定値"を示しているにすぎない。


 例えば、重い武器を持つと、"敏捷"のマイナスの補正値よりも"振りの速さ"はずっと落ちるが、"走る速さ"や『ステップ』での"回避における速さ"にはそこまで影響しない。

 逆に防具による補正は、"移動や回避における速さ"には大きく響くが、腕を振る"動作の速さ"への影響は限定的だ。


 当たり前といえば当たり前のことだが、『ヘルプ』では数値が強調されるため、かえって合理的でない武具の選択をしてしまいかねない。

----------

『黒鋼のサーベル』

ランク:D

必要筋力:19  攻撃力:+13

特殊能力:

斬撃武器

【鋼を鍛造して作られた、片刃で反りを持つ片手剣。

突きよりも斬撃を重視しており、馬上でも扱いやすい。】


『香杉のヒーター・シールド』

ランク:D

必要筋力:20  防護:18 敏捷:-2

特殊能力:

斬撃耐性Lv4/20、刺突耐性Lv2/20

【香杉を加工しつくられた逆五角形の盾。

軽量で、防虫効果のある香りを放つ香杉を用いたこの盾は、非常に人気が高い。】

----------

 今までの僕のスタイルは、4つうちの軽量の2つを選べば継続できるだろう。

 しかし、それでは今日のラッシュ・ボアーなどの高耐久の相手と戦った際、火力不足で勝率は大きく落ちる。

----------

『黒鋼のバスターソード』

ランク:D

必要筋力:25  攻撃力:+26 敏捷:-8

特殊能力:

斬撃武器

【鋼を鍛造して作られた、分厚い刀身を備える片手剣。

叩き斬ることに特化している。

威力は高いが、片手では少々重く扱いが難しい。】


『鉄皮樹のカイト・シールド』

ランク:D+

必要筋力:24  防護:27 敏捷:-7

特殊能力:

斬撃耐性Lv4/20、打撃耐性Lv10/20

【鉄皮樹を加工しつくられた、やや細長い逆五角形の盾。

他の木製盾と比べても、非常に重厚で頑丈である。】

----------

 かといって重量の2つを選べば、その取り回しの悪さで繊細な戦術は取りにくくなるだろう。

 つまり、3匹のゴブリンと戦った時のような、複数の同格に近い相手との戦闘には不適だ。


 ......となると、今後はどんな相手と戦うかをイメージするべきだな。


 ヘルガの話によれば、冒険者の仕事は危険な森での採集や魔獣討伐、そして警護や警備だ。

 その起源は、各地を渡り歩いて戦いの経験を積み、その都度立ち寄った村や町の問題を解決していた者たちだという。


 活動様式は地域によって違い、この街ネファレスでは数人のパーティーを組み、役割分担によって効率と安全性を高めているそうだ。

 資源採集では目利き、労働役、護衛。

 魔獣狩りでは攻撃役、斥候、荷物持ちといった役割があるらしい。


 もっとも儲かるのはギルドが提示する魔獣討伐であるようだが、収入の大半はリーダーである攻撃役に集中するとのこと。

 リーダーの取り分が七~八割、斥候が二割、荷物持ちは日銭程度。


 ......僕は今後、"魔獣討伐"で"攻撃役"として稼いでいくつもりだ。


 この異世界は今日パッと見ただけでも想像以上に複雑で、人々の生活が深く根づいている。

 『神の居る場所』なんて突き止められたとしても、そこに至るのは、物理的にだけでなく社会的にも過酷な道のりになるだろう。

 そう考えると、序盤で"資源採集"を選ぶなんて及び腰になっていては寿命が先に尽きかねない。

 

 ......魔獣討伐で稼ぐといっても、一つの討伐に攻撃役が複数入れば取り分は減る。

 よほどの大物相手でない限りは、複数の攻撃役と組むのは合理的ではない。

 それに大物狩りの機会に恵まれたとしても、今の実力では僕は企画側ではなく取り分が少ないであろう参加側になるだろう。


 だから現実的には......ヘルガが僕とパーティーを組んでくれるのなら、僕とヘルガ、この二人で挑むだろう魔獣に対して最適となる装備を整えるべきだ。


 ――結論を出していこう。

 ヘルガは要領の良さに加え、攻撃魔法や回復魔法を備えているため、僕が配置転換や回避に集中する必要はない。

 ただし、魔法の使用は一回でMPの1割前後を消費していたため、火力や撹乱を過度に期待するのは危険だ。

 彼女の主な役割は攻めというよりむしろ僕が不利な局面に陥った時の援護、つまり防御寄りの立ち位置になるだろう。


 そうなると僕担うべき役割は、"高い火力"を維持しつつ、"不利を極端に招かない程度の敏捷性"を確保した攻撃役だ。


 であれば、僕が選ぶべき武具は……

------

『黒鋼のバスターソード』

ランク:D

必要筋力:25  攻撃力:+26 敏捷:-8

特殊能力:

斬撃武器

【鋼を鍛造して作られた、分厚い刀身を備える片手剣。

叩き斬ることに特化している。

威力は高いが、片手では少々重く扱いが難しい。】


『香杉のヒーター・シールド』

ランク:D

必要筋力:20  防護:18 敏捷:-2

特殊能力:

斬撃耐性Lv4/20、刺突耐性Lv2/20

【香杉を加工しつくられた逆五角形の盾。

軽量で、防虫効果のある香りを放つ香杉を用いたこの盾は、非常に人気が高い。】

------

 ......ジョンもあの『騎士階級』のパウルも、そして道行く高レベルリーダー格の冒険者たちも重量武器を装備していたのは、同じような理由からかもしれないな。

 結局はレベルの高い人が火力を担い、他メンバーがそれを補助するのが集団として合理的なんだろう。


 ――でも、そしたら経験値取得が攻撃役に集中して、レベル帯がパーティーの間で二極化しないか?

 ......まあ、これ以上の考察は野暮だな。


 とにかく、この二つで合わせて223マリャルだ。

 両替商にぼったくられさえしなければ、両替した明日にそのまま買えそうだ。


「よぉ兄ちゃん、待たせたな。」


 店員、というより、風貌や振る舞いから恐らく店主。

 ひとしきり他の客に武器を語っていたようだが、客のほうが帰ったようで、それで僕に声をかけてきた。


 割烹着のような緑のチュニックに、茶の厚い革の前掛け、腰には使い込まれた革帯を締め、そこから小槌や火箸が吊り下がっている、白髪交じりに粗く蓄えたヒゲを持つ男。

 足元は磨かれた上等そうな革靴で、手入れが行き届いているのが分かる。

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名前:ラーズ・シュタール

種族:人間Lv20

状態:通常

HP:110/110  MP:129/129

攻撃力:39  敏捷:33  防護:19

魔力:45  知力:42

特性

『武術の才能Lv7/20』『魔導の才能Lv12/20』『土魔法適性』

特技

『斧術Lv8/20』『土魔法Lv13/20』『炎魔法Lv11/20』『鍛冶術Lv14/20』『錬金魔法Lv3/20』

魔法

『アース・ウォールLv10/20』『アース・スパイクLv8/20』『ヒートLv13/20』『エンチャントLv14/20』『ホーンLv11/20』『ソフテンLv8/20』『セパレートLv3/20』

スキル

『ステップLv5/20』『ダッシュLv3/20』『受け身Lv4/20』『投擲Lv9/20』『鬼回しLv4/20』

称号

『ガラン王国カルデン公爵領臣民』『騎士契約当事者』『騎士階級』『元冒険者』『鍛冶師』

-------------

 良いステータスをしている。

 ジョンなんかより数段強い。

 それにこいつは『騎士階級』だ。

 この『騎士階級』を保持しているのはパウルとこいつで二人目だ。

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