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15/22

15. 宿屋

14話が長すぎたので、分割して14、15話ということにしました。

ーーーーーーーーーー


 路地をさらに進むと、その町並みは活気を失い、道幅も狭くなり、薄暗く湿った様子を見せる。

 道や建物はところどころ苔や草が生え、湿った生ゴミのような匂いが鼻を鋭く突く。

 倉庫や工房のような建物群から、歩を進めるごとに黒ずんだ壁の汚れた家並みに置き換わり、看板にも居酒屋やいかがわしい文言が目立つようになった。


 ......どうやら『ヘルプ』の自動翻訳機能は読む文にも働くようだ。

 これは本当にすごい。

 もしこれがどの言語にも通用するようなら、これだけで食っていけるんじゃないか。

 冒険者やるよりも稼げて、自由度が高いようならそっちに転職するのも正直ありかも。


 「着いた。あれだよ。」


 ヘルガは二階建ての木造の建物を指さす。

 建物としては、隣接する建物たちと比べても結構広い敷地をもっているようだが、黒ずんだ漆喰の外壁や、わずかに歪んで見える屋根のせいで、全体としては古びた印象を受ける。

 ただ、屋根の端にはこの辺りでは珍しく石造りの煙突が突き出しており、そこからは薄い煙が立ちのぼっていた。


 とはいえ、漆喰の壁には補修の跡があり、部分的に色も新しい。

 瓦や板もきちんと並び、雨を防ぐには十分そうで、建物そのものはかなり古そうだが、手入れは行き届いているのが分かる。


 入口には看板がなく、通りに面しているのは一枚板の戸口だけ。

 その姿は店というより大きな住居に近く、外から見ただけでは宿屋だとは分からなかった。


「ごちそうさーん。」

「また来るわぁ。」


 灰色や褐色の厚手のウールの上着に、黒ずんだ革の前掛けを掛け、泥と汚水の跡がついた革靴を履いた、三人の男。

 彼らは店の中へ声をかけながら戸を引いて開け、外へ出てきた。

 服装を見るに、何らかの職人だろうか?


 三人は僕たちにちらりと目を向けただけで、気にも留めない様子のまま、逆方向へ雑談を続けながら去っていった。


「じゃ、入ろっか。」


 ヘルガはためらうことなく木の押し戸を開けて中へ入り、僕も続いた。


 まず目に入ったのは、低い天井に走る木の柱と、黒ずんだ壁、そして床に敷かれた藁だった。

 暖炉の煙の匂いに、湿った藁や煮えた野菜の匂いが混じり、さらに酒の発酵臭と人の体臭が重なって鼻を刺す。


 窓はあるが小さめで、ガラスではなく木の板で蓋をする造りとなっており、昼間であるのに室内は薄暗い。

 奥には石造りの暖炉が据えられ、火がわずかに燻り、煙の匂いが漂っていた。

 荒削りの長椅子と木の卓が並び、卓上には飲み残しの木杯や木皿がいくつか残されている。


 暖炉のおかげか、外に比べればここは暖かいが、快適なぬくもりというよりも"寒すぎない"程度。

 上着を脱げるほどではない。


「レヴァンさん、ただいま。」


 ヘルガが声をかけた先、店の奥に立っていたのは――濃い紫色の肌に、額と鼻筋が突き出た異様に彫りの深い顔立ちの男だった。

 真っ白な髪は後ろへとかき上げてまとめられ、無造作に伸ばした長い白い髭が胸に垂れている。

 僕より背丈は10cmほど低いようだが、筋肉で太く締まった体つきが強い威圧感を放っていた。

 灰色のチュニックに黒ずんだ革の前掛けを掛け、その姿はいかにも居酒屋の店主といった風だった。


 なんというか......本当に人間か?

 人の顔に近いのに、どこか別物で、グロテスクというか、ホラーものに出てきそうな面相をしている。

 薄暗い場所だからこそ、余計にそう感じるのかもしれない。


《ステータス情報の取得に失敗しました。再試行してください。》


 ――いつものようにステータスを確認しようとしたが、表示が妙に遅いと感じたその時、突然見たことのないテキストウィンドウが現れた。

 《再試行してください》とあるが、何度試してもこの文章が現れる。


 突然のそれに驚き、胸の鼓動が速まる。

 反射的に脚が半歩下がり、後ずさってしまう。


 『ヘルプ』が通じない?

 ......【大悪魔カタストロフと結託したドワーフ】だから、神が与えた『ヘルプ』は効かないということか?

 いや、その理屈なら『魔人族』とされたゴブリンのステータスはなぜ表示された。

---------

E+『ゴブリン』

【人族に仇なす魔人族の中で最弱の種族。

500年前の人魔大戦では、この上位種が魔王軍の雑兵として各地で略奪・破壊に従事したが、戦乱の終焉とともにその姿もほとんど見られなくなった。】


『魔人族』

【遥か太古より存在する、人と魔獣の性質両方を併せ持つ種族。

その人族への憎しみは宿命づけられている。】

---------

 【人族に仇なす魔人族】であっても、神とは敵対しない......ということなのか。

 だが、どうにも筋が通らない。

 『大悪魔カタストロフ』はもう消滅したんだろう?


 考えれば考えるほど、答えが見えてこない。

 判断を下すには、あまりにも情報が足りていない。


「あぁ、ヘルガか。」


 ヘルガが"レヴァン"と呼んだそのダーク・ドワーフは、カウンター裏の手元に視線を落としたまま、ヘルガを見ずに無愛想に返事をした。

 木の台に刃物が当たる乾いた音が小さく響いており、何かを切っているのだろう。


 やがて手を止めて顔を上げ、僕の方へ視線を向けると、眉間に皺をよせ、じっとこちらを見据えてきた。


「......そいつは?」


「私の......友達のチアキ!チアキは今日この街に来て、宿を探していたのでここを紹介しました。レヴァンさんが、この前部屋がいくつも余ってると言ってたのも思い出して。」


 ヘルガが明るくそう返すと、レヴァンは手元へ視線を戻し、再び作業を続けた。


 こいつ、ずいぶん無愛想だな。

 こんな態度で居酒屋なんて、ただでさえダーク・ドワーフなのにやっていけるのか?

 ……いや、嫌われ者だからこそ、これくらいでないとやっていけないのかもしれない。


「チアキです。よろしくお願いします。」


「......仕事は何をやってる?金は持ってんのか?」


 僕が姿勢を正してそう言い、お辞儀をすると、レヴァンは少し間をおいてから僕にそう尋ねた。


「冒険者をやる予定です。金は一月分を今出せます。その後も泊まり続けるかどうかは、二週間前までには伝えます。」


「......そうか。まあ、それでいい。だが......」


 レヴァンはそう言うと、手元の作業を止め、再び僕をじっと見据える。


「俺が"出ていけ"と言ったときには、口答えせずに出ていけよ。」


「......はい。」


 レヴァンは低い声でそう言い切ると、再び視線を下げて手元を動かし始め、刃物の乾いた音をカウンターから響かせる。


 かぁっ!

 まだ何も悪い事してないのにその言い方はないだろ。

 こちとら客やぞ、腹立つな。

 日本でそれやられたら、絶対レビューでボロクソに書いてやるが......そういえばこいつ元々評判悪いか。

 そんなダメージ受けなさそう。


 ヘルガに目をやると、彼女は心配そうに、僕とレヴァンの顔を交互に見比べていた。


 ......どうしてもここに泊まらないとダメ?

 いや、ヘルガがここに泊まってるんだ。

 知ってる人が近くにいるのといないのは随分違う。

 それに、ヘルガはここは個室だと言ってたし、それは確かに魅力的だ。


「まあ、今こっちは忙しいから、あとで部屋も紹介してやる。とりあえず食え。1マリャルだ」


 レヴァンはそう言うと、カウンター前の机に、パンとチーズが積まれた深めの木の皿を二枚、乱暴に置いた。

 手のひらよりも厚い切り身の黒いライ麦パンが三切れ、拳ほどの大きさに割られた白いチーズがごろりと一つ。


 1マリャル?

 それ、日雇い労働一日分とかヘルガが言ってなかったか?

 一晩の宿代じゃん。

 これで一食って、高すぎだろ。

 それに、僕はまだ食べるなんて一言も言ってないのに、勝手に出しやがったぞこいつ。


 しぶしぶ小銀貨1枚――1マリャルをカウンターに置き、そのまま長椅子に腰を下ろす。


 ヘルガも1マリャルをカウンターに置き、僕のとなりに座る。


「ち、チアキ、ここのご飯はかなり美味しいんだよ。食べていくうちに次々出されるからね。」


 僕の不満げな顔に、ヘルガは焦ったように目を泳がせ、気を遣うようにそうフォローした。


 あ、なんだ。

 これだけじゃないのか。


 すると、レヴァンは大ぶりな木のジョッキが二つを無造作にカウンターへ置いた。

 縁からは泡がこぼれ、麦が発酵したような匂いが鼻を刺す。

 揺れるその濁った黄色の液体は、見た目だけで酒の類――大麦の常温発酵酒、エールだと分かった。


 続けざまに、深めの木の皿に盛られた熱々のスープが二つ置かれる。

 湯気に混じって豆の香りと煮崩れた野菜の青臭さ、さらに肉の匂いが立ちのぼり、腹を刺激する濃厚な匂いが漂った。

 表面には脂の膜がきらめき、豆と野菜のかけらが沈んでは浮かび、薄切りの肉がほぐれて混ざり合っているのが見える。


 ......思ったより豪華だな。

 これだけ食ったらかなりお腹いっぱいになりそうだ。

 日本でもこれだけ出してくれる飯屋はそうないだろう。


「......いただきます。」


 ここの言語に"いただきます"に該当する言葉はない。

 だから、僕は日本語でこっそりそう呟いた。


 ヘルガを横目に見る。

 厚切りの黒パンを左手に持ち、湯気の立つスープに浸すと、右手に握ったスプーンで掬った豆や野菜と一緒に口へ運んでいった。


 僕も真似をして、黒パンをスープに浸して食べてみる。


 厚切りの黒パンは、ずっしりと重く噛み応えがある。

 かすかに酸味のある生地が口の中でほぐれると、穀物の甘みがじんわりと広がる。

 それが熱いスープとか編み合い、豆の素朴な風味と野菜の旨みに、肉から染み出た滋味深さが重なり、塩気が全体を引き締める。

 味は濃いがくどさはなく、むしろパンの酸味とよく調和していて、噛むほどに口の中で味が膨らんでいく。


 木のジョッキを両手で持ち上げて口をつけると、小さな泡が唇に触れ、麦の香ばしい匂いが一気に鼻へ抜ける。

 舌にまとわりつくような厚みにほのかな甘み。

 さらに苦みと酸味が後から追いかけてきて、喉を通ると胃の底からじんわり温まっていく。

 粗野ではあるが、麦の力強さをそのまま味にしたような一杯だ。


 続けてチーズをかじる。

 白い塊は硬めで、噛むとほろりと崩れ、強い塩気が舌を刺す。

 だがその奥には乳の甘みと深い旨みが広がり、先ほどのエールの苦みと混じり合って心地よい後味を残す。


「これは旨い。かなり美味しいよ、これは。」


 チーズはナチュラルチーズに近い味で、正直言うと日本のスーパーで売っているカマンベールの方が僕は好み。

 だが、この酒とスープは、日本の外食で食べられるものよりも何倍も旨い。

 食べる前はそれほど腹が減っていなかったのに、口に運ぶごとにむしろ空腹を覚えるほどの旨さだ。

 しかも量もたっぷりある。

 これはかなり当たりだ。


 「でしょ?ここのスープは、毎回肉もたくさん入れてくれてて、この街で一番美味しいよ。私もここにくるまで、こんなに美味しいご飯を食べたことなかった。」


 僕が必死に食らいつきながらそう言うと、ヘルガは嬉しそうに僕に笑顔を向ける。


「レヴァンさん、これすっごい美味いですよ!」


 あまりの旨さに、僕はさっきまでの怒りを忘れ、カウンターにいるレヴァンへそう声を掛けた。


「......それは良かった。」


 レヴァンは僕の言葉を聞くと、わずかに表情を緩め、必死に食べている僕の様子を見て小さく息をもらした。


ーーーーーーーーーーーーーー


 食後、僕は1ヶ月分の前払いとして、グリヴナ大銀貨を4枚渡した。

 大銀貨は断られるかと少し身構えたが、普通に受け取ってくれて驚いた。

 まあ、こんな家屋を所有できるくらいだ。街の中ではそこそこ資産がある方なんだろう。

 それに、高額の支払いだとグリヴナは許されるのかもしれない。


 その後は、レヴァンが昼の片付けを終えるまでヘルガと雑談しながら待った。

 具体的には、物価について色々と聞いた。

 そして、感覚的に三十分ほどたった。


 恐らく今は十四時をそこそこ過ぎたくらいだろうか。

 一通り仕事を終えたレヴァンが、部屋を案内してくれている。

 どうやら、一階は大部屋で、二階が個室になっているらしい。


 入口近くの狭く段差の大きい階段を上がると、薄暗い廊下が伸びていていた。

 その両脇には狭い間隔で扉が並び、十を超える部屋が並んでいる。

 アパートと民家を合わせたような造りに感じた。

 

「ここがお前の部屋だ。」


 レヴァンがそのうちの一つの扉を開ける。

 すると、窓と寝台が一つだけ備わった部屋が目に入った。

 広さは四畳ほどで、ベッドが空間の大半を占めている。

 ベッドの高さは膝ほどにすぎず、床からわずかに持ち上がった程度。

 頭側には細長い枕袋が置かれ、色の異なる毛織りの布が3枚、掛け布として用意されていた。


 ......まぁ、こんなもんだろう。

 むしろ、思ったよりもベッドが小綺麗で嬉しい。

 多少色はあせているが、土汚れなどは見当たらず、空気も換気が効いているのか埃っぽくない。


 ただ、どうやらこのドアに鍵がないのだけが気になる。

 貴重品は肌見放さず持ち歩くしかなさそうだな。


「いいか?ここではルールが三つある。これを一つでも破ればすぐに出ていったもらうからな。」


 僕が感心したように部屋を見回していると、レヴァンは眉間に皺を寄せたまま、指を三本立てて示し、少しきつめの声で言った。


 ルール、か。

 そう言われるとつい身構えてしまうし、気分も萎える。

 もっと気楽に暮らしたいな。


「一つ、部屋を"毎日"掃除しろ。道具は貸してやる。言うまでもないが、ゴミが出れば翌日の朝に必ず出せ。毎日昼に部屋をチェックするからな。」


 えぇ。

 毎日部屋見られるの?プライバシーゼロじゃん。

 まあだけど、難しい話ではないな。

 コンビニとかもない世界だし、ゴミもそんなに溜まらないだろう。


「二つ、騒ぐな。特に朝と夕方。当たり前だが喧嘩はもってのほかだ。酒を飲んでいたってのは言い訳にならんぞ。というか、静かに酔えないやつは飲むな。」


 これはそう。


「三つ、部屋に他人を連れ込むな。話したいことがあるなら1階の食堂で話せ。たとえ同じここの住人だとしても、連れ込むな。」


 .....まじか、部屋でトランプもどきとかできないのか。

 まあ、食堂でできるならそれでいっか。

 考えてみると、人を部屋に連れ込めば客は一つ目と二つ目の規則を破りやすくなるってことだろうな。


「はい。」


「返事はいいのは結構だが......お前のその血で汚れた服。このままにしてたら腐るぞ。ヘルガの脚の汚れもそうだが、さっさと洗濯屋に出してこい。」


 レヴァンはそう言うと、僕の背中にある傷跡――今朝ゴブリンに刺された箇所を、そっと指先ではじいた。


 そういえばそうだったな。

 怪我も完治したし、背中で見えにくい場所だからすっかり忘れてた。

 ......確かに、このままにすれば虫とか湧くだろうな。


 となると洗濯屋か……どこにあるんだろう。

 ヘルガに聞けばわかるか。


「部屋の中で腐らせてみろ。俺は本当に追い出すからな。どんだけ金を積まれても関係な......」


 ――レヴァンが鋭い口調でそう話していると、後ろで何かが倒れる音がした。

 振り向くと、廊下にヘルガが仰向けに倒れていた。


「ヘルガ!?」


「お、おい。大丈夫か?」


 僕はすぐにヘルガのもとへ駆け寄り、呼吸が妨げられないようヘルガの顔を横に向けた。

---------

名前:ヘルガ・バウアー

種族:人間Lv10

状態:通常

HP:54/62  MP:8/88

---------

 『状態』の欄は何も異常がない。

 だとすると......貧血か?

 

 ヘルガはこの街までの道中、自然回復したMPを全部、僕の腹の怪我への『ヒール』に費やしてくれた。

 ヘルガはもう何も外傷がないし、大丈夫だと思っていたが、最大値よりも8少ないHPは、失った血の分だったのかもしれない。


「とりあえず、水と濡れ布を持ってくる」


 レヴァンはそう言うと、素早く一階へと駆け下りていった。

 その動きは鋭く、通り抜けざまに風を切る音が耳に残った。


 驚いた。

 あの動き、この人かなり高レベルかもしれないな。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「大したことはない。ただの目眩だったようだ。」


 僕が一階の食堂でやきもきしながら待っていると、レヴァンが階段を降りてきて安心したようにそう告げた。

 あの後、ヘルガを自室に移して寝かせることになり、その看病もレヴァンが引き受けていた。


「そうですか......」


「お前を街に案内するとか言っていたが、あれは休ませたほうがいい。明日には元気になってるだろ。案内は明日にしてもらえ。」


 レヴァンは疲れた様子で食堂の僕の向かいに腰を下ろした。

 その声には安堵がにじみ、ヘルガへの情をきちんと抱いていることが伝わってきた。


 ヘルガの言った通り、この人はちょっと不器用なだけで、根が良い人であるのは間違いなさそうだ。


「そうですね。」


「......おい、お前敬語使うの気持ち悪いぞ。」


 レヴァンは眉間を指で押さえながら、低い声でそう僕に告げた。


「お前がどんな環境で育ったかは知らんが、お前は俺に金払ってんだ。もっと自然に話せ。敬意を払うのはいいことだが、お前の場合ただの形だけだろ。」


「......あぁ、そうなの?」


 ヘルガから気難しいと聞いていたから、人一倍ていねいに接したつもりだったが、逆効果だったか。

 多分、この人には、ただ常識的に振る舞っていれば、それだけで普通に良い関係を築けるのだろう。


「あぁ。ここの人間は同格相手ならもっと気さくだぞ。無遠慮とも言うが......。ヘルガのせいで変な癖でも染み付いたか?あいつもやめろと言うのによく不要な敬語を使う。」


 ヘルガの名を出したが、その声は僕に対するそれと違って和らいでいた。


 僕がこの街に来てまともに会話したのは、ヘルガとジョン、パウル、そしてレヴァンだけだ。

 だから確信までは持てなかったが、やはりヘルガはこの辺の人より何倍も気を遣うのだろう。


「......ヘルガって、やっぱり普通の人とはちょっと違うの?」


「......そりゃそうだろ。」


 レヴァンはそう返すと、なんとも言えない表情を浮かべる。


「まず女で冒険者してるのが、いるにはいるが珍しい。それに光魔道士ときた。本人はただの村娘と言っているが、まあ普通ではないな。」

---------

『光魔法適性』

【光属性系統の魔法に対する適性を持つ。

一方で闇属性系統の魔法を修得することはできない。】

---------

 『ヘルプ』で『光魔法適性』を調べてみても、大したことは書かれていないが、恐らくレヴァンのその口ぶりから察するに、これはかなり珍しいのだろう。

 街の属性適性の特性を持っている人は五人に一人程度で、もちろん『光魔法適性』なんていなかった。


「理由は本人曰く......」


「……レヴァン?」


 レヴァンはそこまで言うと、突然言葉を止め、眉をひそめて僕の顔をじっと見た。


「......やっぱやめた。本人から聞け。」


 なんだよ。

 そこ一番重要だろ。


「ヘルガは変なところが多いが、それでも滅多にいないぐらい良い奴でもある。お前があいつとどういう関係なのかは知らんが、大事にしてやれよ。」


 レヴァンはそう言うと、強張っていた顔をわずかに緩め、かすかに温かみを帯びた表情を見せた。


「あぁ、当たり前だ。」

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