13. かばう理由
ジョンの体躯は僕の身長を優に越えており、街の人々と比べてもやはり大きい。
太く濃い眉と分厚い鼻が顔立ちを強く印象づけ、頬には無精髭が不揃いに生えている。
肩まで垂れる荒れた長髪とその彫りの深い眼が、相手を威圧する雰囲気を醸す。
「......ジョンさん。」
ヘルガはぎこちなくジョンに目を合わせては逸らすのを繰り返し、気まずそうに窺いながら、小さく身をすぼめて脚を半歩後ろへ引いた。
「クソッ!なんで......」
ジョンの顔には、驚愕と焦燥が入り混じった表情が浮かんでいる。
背筋と肩を強張らせて、拳を固く握りしめ、緊張と苛立ちが体全体から伝わってくる。
この様子だと、まじでヘルガをあそこで死なすつもりだったんだな。
斧で絶命させなかったのは、この焦っている様子も見るに、他人に殺害を知られたくなかったんだろう。
現代日本と違って死体の検視のプロもいるはずがないく、調べも雑なはず。
ラッシュボアーによる怪我が体に大きく刻まれていれば、太ももの裂傷なんて誰も気にしないだろう。
「おい、ちょっと来い。」
ジョンは拳を固めたまま大股でヘルガへ詰め寄る。
近づくほどに、その大きな体格と苛立ちが際立ち、何をしでかすのか分からない危うさを漂わせる。
「え、あ......」
ヘルガの口元はわずか開き、顔全体が強張らせ、どうしてよいかわからないという表情で後ずさった。
あの土壇場でヘルガの脚を切る判断をするようなやつだ。こいつがまともに話すとは思わない。
最低でも、二人っきりの状況を作ってあの事を口外しないように脅すだろう。
あの時ヘルガの脚を傷つけたように、ヘルガに暴力を振るう可能性だって高い。
最悪の場合、口封じで殺すかもしれない。
僕はとっさに、ヘルガに歩み寄ってくるジョンを止めるように立つ。
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名前:ジョン・シュスター
種族:人間Lv18
状態:通常
HP:79/100 MP:61/78
攻撃力:34 敏速:30-5 防護:17+7
魔力:25 知力:27
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あの時よりもレベルが一つ上がってる。
攻撃力と俊敏に関して言えば、こいつはもうラッシュ・ボアーを上回るな。
僕もレベルが11になってステータスもアップしたが、それでもその2つの数値は僕の1.2倍以上もある。
僕のこれまでの感覚だと、この差は格闘技でいうと二,三階級くらいの身体的の差だと思う。
ジョンは歩みを変えずにそのまま僕に歩み近づき、見下ろすように顔をぐっと近づけ、その荒い息が僕の顔にかかる。
「......何だよお前は。」
ジョンは太い眉を釣り上げ、顔全体を強張らせて低く唸るように言った。
目を大きく見開き、白目をぎらつかせるその様子には、脅し慣れている気配がある。
こいつは苛立ちの感情からこんなことをしているというより、ヘルガを囮にした事実を広められたくないから、詰め寄っているのだと思う。
だとすれば、囮にした事実をヘルガ以外の僕も知っていると認識させられれば、その対応は変わるはず。
いざとなれば、恨みを買いたくないから最後の手段ではあるが、公衆の面前でジョンが囮にした事実を叫ぶことだってできる。
「僕は......ヘルガとラッシュ・ボア―を討伐した者だが。」
僕はその威嚇に負けないよう、ジョンへさらに一歩詰める。
ジョンは僕のその言葉を聞くと、威嚇のために強張らせたその眉を少し緩め、焦ったように口を歪め、片足を半歩下げる。
「......その件で、リーダーとしてこいつと話さないといけねぇんだ。急いでるんだよ。どけ!」
――その時、ジョンが腕で僕の胸を強く突き飛ばした。
それは軽い押しではなく、体重と魔力が込められた本気の突き飛ばし。
まさかこの程度のやりとりで、こんな自棄みたいなことをするとは僕は思っておらず、体勢を崩され、斜め後ろに飛ばされた。
とっさに右手を地面で支えたので背中はつかなかったが、尻もちを付く形で倒された。
「チ、チアキさん!」
「はっ!何だお前、大したことねえじゃねえか。」
ジョンは嘲笑するように顔を歪めて僕に叫ぶと、ヘルガへ再び詰め寄り、その腕を掴もうとする。
「わ、私は大丈夫です!......ちょっと話してくるだけなので!」
ヘルガは慌てたように僕にそう言ったが、腕を僕の方へ伸ばしかけたり、自分の胸へ寄せたりと落ち着かず、明らかな興奮と動揺が浮かんでいた。
僕の中で何かがキレた。
ジョンに突然突き飛ばされたことも、その後に嘲笑されたことも、こんな状況でもヘルガが弱気に僕を気遣ったことも、そして僕自身が今とんでもなくみっともない状態であるということも。
「ヘルガがラッシュ・ボア―を倒した!」
「......!」
ジョンは僕の大声を聞いて足を止めた。
鋭い視線を僕に向けながらも、その表情には焦りがいっそう強まっていた。
もう穏便な駆け引きはしない。
核心は避けるにしても、ジョンが悪行をしたという事実を詳細を避けつつ叫んでやる。
「僕は加勢したけど勝てなかった。でも最後はヘルガの魔法がとどめを刺した。......はっ!だがそれにしても、なんでヘルガが森の中で一人だったんだろうな!その間リーダーのお前は何をしてたんだっけな!?」
「お、おい!てめぇ!」
僕が尻を地面につけたまま叫ぶと、ジョンは慌てたように僕に詰め寄り、胸ぐらを掴む。
「お、お願い!やめて!」
ヘルガが僕とジョンの間に腕を差し入れ、必死に引き剥がそうとするが、びくともしない。
僕も負けじと、ジョンの胸ぐらを掴み返しす。
「......お前、俺が誰だか分かってんのか?見ねぇ顔だ。きっと知らねえんだろ。俺は......」
ジョンは威嚇するように胸ぐらに力を更に込め、額を合わせて低く唸るように言う。
だが、それを言い終わる前に、僕は自分の口元をジョンの耳元に持ってくる。
「ラッシュ・ボアーに尻見せて逃げて、ヘルガを囮にした小心者だろ?念入りにヘルガの脚まで切って。わざわざ教えられなくても知ってるよ。」
神経を逆なでするような、嘲笑した声で小さくジョンに囁いた。
「てめぇ!」
ジョンは怒声を上げ、その口から飛び散ったつばが僕の頬にかかる。
すると、拳を高く振り上げ、僕に向けて叩きつけようとしてきた。
「大声で言ってやってもいいんだぜ!?」
「おい!おめえら何やってんだ!」
――僕が叫んだその時、遠くから男の声が響いた。
ジョンはその声にすぐに反応し、そちらに視線を向けると、掴んでいた僕の胸ぐらを放して、表情を歪めて後ずさる。
胸ぐらを放されると、僕は地面に足をしっかりつけ、体勢を立て直して周囲を見渡す。
「また喧嘩か?」
「またジョンがやってる」
「もう一人は見ない顔だな」
「道で喧嘩は頼むからやめてほしいよな」
この周りには、すでに十人ほどの野次馬が集まっていた。
通りを行き来していた商人や荷を抱えた女、親に手を引かれた子供までこちらに視線を向けている。
数人は小声で言葉を交わし、別の者は眉をひそめて成り行きをうかがっている。
「ジョン!次は罰金では済まされんぞ!」
声の方に目をやると、整えられた口ひげが印象的な男がジョンに詰め寄っていた。
体格では明らかにジョンのほうが大きいのにも関わらず、それでもその男の鋭い声に圧され、ジョンは背を丸めてに下を向き、唇を固く閉じて悔しさをこらえていた。
その男は輝く白い鎧――革紐で無数の小板を編み上げて帯状につなげたラメラアーマ――を身にまとっている。
背には金色のさやに収められた太い剣を負い、その立ち姿は周囲とは一線を画していた。
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名前:パウル・シュミット
種族:人間Lv29
状態:通常
HP:231/231 MP:159/159
筋力:80+59 敏捷:68-26 防護:38+32
魔力:55 知力:53
特性
『武術の才能Lv12/20』『魔導の才能Lv4/20』『炎魔法適性』
特技
『体術Lv5/20』『剣術Lv15/20』『炎魔法Lv7/20』『魔法制御Lv8/20』
魔法
『フレイム・ウェポンLv8/20』『ファイア・ウォールLv4/20』『ファイア・ボムLv4/20』
スキル
『ダッシュLv10/20』『キックLv5/20』『ステップLv13/20』『スラッシュLv7/20』『集中Lv7/20』『受け流しLv5/20』『岩砕きLv14/20』『一閃Lv5/20』
称号
『ガラン王国カルデン公爵領臣民』『冒険者』『騎士契約当事者』『騎士階級』『準男爵』
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『ミスリルのグレートソード』
ランク:C
必要筋力:62 攻撃力:+59 敏捷:-12
特殊能力:
魔法耐性Lv8/20
【濃い魔力にさらされ続けた、"魔銀"の異名を持つ鋼――ミスリルで作られた両手剣。
魔力に満ちたその刃は、精霊やアンデッドに特に効果がある。】
『黒鋼のラメラアーマー』
ランク:D+
必要筋力:40 防護:+32 敏捷:-14
能力:
斬撃耐性Lv14/20、打撃耐性Lv8/20
【細かな小板を革紐や縄で綴じ合わせ、帯状に連ねて全身を覆う鎧。
全体が柔軟かつ丈夫で、斬撃や衝撃を分散して受け止める高い防御力を持つ。】
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「何度言ったら分かるんだ!本当に街から追い出したっていいんだぞ!」
男――パウルはジョンを見上げ、鋭い眼差しを向けながら、激しい口調で言葉を浴びせた。
「......クソがっ!」
ジョンは苦々しそうに呟くと男に背を向け、背を丸めたまま、荒々しい足取りで歩き去った。
ざわめく野次馬たちが道をあけると、ジョンはその間を抜けて遠ざかっていった。
「全く、あいつは街のためにも追い出した方がいいんだがな。おい、お前大丈夫だったか?」
パウルは深いため息をつくと、こちらに声をかけてきた。
苛立ちと興奮のせいか、口調にはぶっきらぼうな響きがあった。
「......ありがとうございます。」
今まで見た誰よりも高いLv29に加え、『騎士契約当事者』『騎士階級』『準男爵』の称号を持つ。
この男はただ者ではない。
レベルだけのハリボテじゃなくて、スキルも火力型として十分な構成だ。
「あいつには関わらんほうがいいぞ。あいつは一年前にここに来てな。最初のほうは大人しかったんだが、ここ最近何度も乱闘騒ぎを起こしてる。なまじ腕が立つから困る。」
「そうなんですね......」
あのジョンが"腕が立つ"ね。
そうなるとお前は一体何なんだよ。
色々聞きたいこと、ジョンについて言いたいこともあるが、今は僕もこの人も興奮してるし、この街での暮らしも安定してない。
ここは穏便に引き下がるのが最善か。
「チアキさん!すみません。私のせいでこんなことに......!」
ヘルガが申し訳なさそうにしながら、動揺した様子で僕の服についた汚れを払う。
「......いや、こっちこそごめん。余計に大事にしてしまったかな。」
「い、いえ!あの件はもういいんです。元はといえば私がジョンさんの指示を聞いて雷魔法を使わず、回復魔法ばっかり使ったのがダメだったんです。あのとき聞かずにちゃんと雷魔法を使っていれば、ラッシュ・ボアーを倒せてたんです。今も、私が慌てちゃったせいでチアキさんに心配させて、こんなことに......私が全部......!」
ヘルガはそう言いながら、右手で髪を乱暴にかき回す。
「それは違う!ヘルガは悪くない。回復魔法はジョンが指示したからだし、今のは僕が勝手にムカついたからやったんだ。君は......」
「おい!二人とも道で言い争うな。ここはみんなの道だ。お前らの家じゃないんだよ。とりあえず帰って頭冷やせ!」
僕が必死に言葉を続けると、パウルは軽く僕の頭を小突いた。
「す、すみませんでした。パウルさん......」
「はぁ、良いってことよ。んじゃ、さっさと帰れ。」
ヘルガがパウルに頭を下げて謝ると、パウルは苛立ちをにじませる足取りでその場を離れていった。
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都市を囲む石造りの壁は高さ10メートルに満たないほどだが分厚く、その街の中心を抱え込むように築かれていた。
ところどころには監視塔を兼ねた円塔が突き出し、壁を補強している。
あの後、一度宿を取って休もうということになり、ヘルガに案内されて市壁に囲まれた中心街へ向かうことになった。
今はその中心街に入る門の前にいるのだが、先に進んでいた馬車が何か規定に違反したらしく、門番と口論になっている。
そのせいで僕たちは足止めを食らっていた。
「チアキさん、さっきはありがとうございました。」
ヘルガは気まずそうに視線をこちらに向けてそう言った。
パウルが去った後、あれほど賑やかだった道中とは対照的に、僕とヘルガは最低限の会話しかしなかった。
僕はヘルガを助けた立場ではあるものの、さっきのジョンの件ではついかっとなって騒ぎを起こした。
そして今は街を案内してもらっている身でありながら、拗ねたように口を利いていない。
ヘルガはそんな僕を煩わしげに見ることもなく、むしろ僕をうかがうように感謝の言葉をかける。
本音はどう思っているのやら。
「......僕のこと嫌いになった?」
「い、いえ!そんなことは絶対ないです!"私なんか"のために、こんなに身を張ってくれて......助けてくれて......迷惑ばかりかけてしまって......ただただ自分が情けないです。」
僕がいじけたように口にすると、ヘルガははっとしたように目を見開き、両手を胸の前で振りながら、必死にそう否定した。
「あの時も私、チアキさんにお礼を言わずに自分のことばっかり言ってしまって......。本当はまず、お礼を言わないといけなかったのに......」
言葉尻では、拳を握り、悔しそうに視線を落として俯いていた。
"私なんか"、か。
中学の頃のあの子を思い出す。
ヘルガとは性格は全く違うし、しかも男だったが、同じように"僕なんか"が口癖だった。
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中学二年になったばかりの頃、僕たちのグループに入ろうと、たまに話しかけてくる子がいた。
あの子には"どもり"があって、さらに話下手で、いつも僕たちの会話の中に一言二言頓珍漢に口を挟んでは流されていた。
最初は話の輪に食い込もうとしていたあの子も、徐々に来なくなった。
他のグループにも同じように試みていたようだが、全部失敗したようで、あの子は一学期の中盤には一人で過ごすようになっていた。
その頃の僕は、コミュニケーションに対して妙な全能感を抱いていた。
気弱そうなその子が気の毒に見えて、臆せず話しかけることにした。
基本会話は弾まなかった。
あの子はただでさえ口数が少なく、言い切るのに時間がかかるくせに、内容は文脈からそれる頓珍漢。
それに、あの子はとんでもなく卑屈な性格で、少しでも会話に沈黙があると、「"僕なんか"と話しても楽しくないでしょ」と悔しそうに口にした。
正直メンヘラ臭くてめんどくさいなと思ったけど、しょうがなく付き合った。
僕が話すようになって、僕のグループの友達もあの子に興味を持ち始めて話しかけるようになった。
でも、よく面と向かって、その陰気さや空気の読めない頓珍漢な発言を、その友達からきつく指摘されていた。
そのたびに、僕はあの子をかばって擁護して、その友達ともそれ原因で喧嘩したこともあった。
あの子は本当に卑屈な子で、いつもその終わりには、気まずそうに「"僕なんか"のために、別にいいのに」と言った。
その時の僕は、それを強く否定しなかった。
実際それは事実だったからだ。あの子と話すのはそこまで楽しいわけじゃなかった。
純粋に可哀想だったから、他愛もない会話の話し相手になってあげているだけだと本気で思ってた。
――ところがある日、あの子は突然引っ越していなくなった。
朝礼の連絡事項で、その日から引っ越してこないことを少し伝えられただけ。
みんな少しざわついたがそれだけで、先生が静かにするように言うと、もうそれ以上は誰も話題にしなかった。
後に僕が先生に問い詰めると、本人の意向で引越し当日までクラスに知らせなかったと言われた。
その時僕は腹がたった。
なんで一番仲良くしてやっていた僕に少しも引越しのことを話さなかったのか。
......多分、結局、あの子にとって僕は"話してくれる相手"にすぎなかったんだ。
そして僕にとってもあの子は究極的には"話してあげる相手"だった。
お互い、本当に欲しかった友達でも、大切な間柄でもなかった。
――でも、いざいなくなると寂しかった。
"話してあげる相手"であることには間違いなかったが、それでも、僕は心のどこかでその関係を楽しんでて、自ら維持していたし、友達と喧嘩してでもその子をかばった。
あの子は僕のことをどう思っていたんだろう。
"話してくれる相手"としてでも、それなりに楽しんでくれたとは思う。
卑屈な子ではあったが、僕と話すときにはなんだかんだ笑顔があり、どもりも少なかった。
でも、結果として、別れの挨拶はなかった。
――"僕なんか"と言われた時、それを強く否定するべきだったのか?あの子に友情を感じてることを僕自身が自覚して、その気持ちを伝えるべきだったんだろうか?
……いや、当時の僕には、あの子にそんな気持ちを抱くことはできなかっただろう。
なぜなら、事実として、僕が友情を実感したのは、あの子が引っ越してからだったから。
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「......ははっ。」
「あ、え?」
僕がその記憶を思い出してつい苦笑すると、ヘルガはそれに反応して、困惑したように小さな声を漏らした。
「いや、ちょっと昔のことを思い出して。」
"私なんか"という言葉で思い出しはしたが、やっぱりヘルガはあの子とは全く違う。
あの子は陰気で、話下手で、人と付き合うのが苦手で、会話も楽しいものではなかった。
でも、ヘルガとはこの街までの道中で賑やかに会話ができた。
お互い楽しかったはずだ。
それに、僕自身についてもあの時と違って、自分がしたいからヘルガを庇ったということを自覚できている。
しかし、唯一共通する部分がある。
ヘルガもあの子も、自己肯定感の低さで、僕の心底を理解することができていなかった。
僕がかばったのは、不憫に思ったから"だけ"じゃない。
心の端で、どこか友情のようなものを感じていたから、友達と喧嘩してでもあの子をかばったし、あの乱暴なジョンからヘルガをかばった。
僕は元々そんなに正義感が強い方ではない。
ゴミ箱の近くに空き缶が落ちてても汚いから拾わないし、満員電車では真っ先に席を取りに行く。
老人が座れずに困っていても、誰かがどうせ譲るから僕は譲らない。
このジョンとかいうやつの騒ぎが、もしヘルガとの騒ぎじゃなかったら、「治安悪いな」とだけ思って通り過ぎたと思う。
ヘルガにどうこの気持ちを伝えるべきなのか。
いや、気持ちを伝えたところで、自分に自信のないヘルガは理解してくれないかもしれない。
実際、ヘルガに抱く友情の気持ちは、あくまで心の端で感じている、重要ではあるが小さな思いに過ぎないのだから。
......そもそも、僕は"何のために"、ヘルガに"何を"伝えたいんだ。
――そうか。僕が言うべきことは......
「ヘルガは本当に優しいよ。ラッシュ・ボアーに当てたライトニング。本当は自分に回復魔法をかければよかったのに、僕のためにその魔力を全部使って、身を張って助けてくれた。」
「......そんな、私はほとんど何も......」
ヘルガは口元を固く結び、申し訳なさそうにうつむいた。
「たとえヘルガが自分のことをどう思ってようが、君は僕の命の恩人で、......友達なんだ。だから、僕の友達を卑下せず......それで、もっと気楽な言葉で僕と話してほしい。」
「......気楽な言葉?」
ヘルガは優しい子だ。
それに、教養もあって、魔法の才能も飛び抜けている。見た目も良い。
他人からそれを指摘されたことはあるはずだ。
なのにどうしてヘルガはここまで自己肯定感が低いのか。
家庭環境が良くなかったんだろうか。
「僕もお礼を言えてなかった。……ラッシュ・ボアーをあの間一髪に倒してくれてありがとう"ございました"。"僕なんか"のために。」
僕は嫌味に聞こえないような柔らかな口調でそう言い、言い終わるとヘルガに向けてニカッと笑みを見せた。
「え、えぇ......」
ヘルガは僕のその言葉に本気で困った様子を見せ、斜め下へ視線を逸らした。
ヘルガは、本来は人の心を推し量ることのできる子だ。
僕が何を言ってほしいか分かるはずだ。
ヘルガは僕の顔と地面とを何度も見比べていたが、やがて視線を上げて上目づかいにこちらを見つめて、恥ずかしげに口を開いた。
「......へへっ。”私”のために、身を張ってくれて"ありがとう"。」
「こちらこそ、"僕"を助けてくれて、本当に"ありがとう"。」




