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最終章:奇跡のレシピと、輝く未来

ホロニガの体から湧き上がる光に、ヌメヌメ大王は「ヌメェ! な、なぜだ!?」と驚きを隠せない様子だ。腐敗のしぶきは、ホロニガに触れるたびに弾かれ、やがて消え去っていく。彼のへたは、まるで空に向かって突き立つようにピンと伸び、その瞳には強い決意が宿っていた。


「俺は…、俺はピーマンだ! 苦いだけじゃない! お前なんかに、俺たちの未来を奪わせない!」


ホロニガは叫び、これまで封じ込めていたピーマン本来の力を解き放った。彼の体から、みずみずしい緑色の光が放たれ、その光はヌメヌメ大王の黒い体を少しずつ、ほんの少しずつではあるが、溶かし始めた。ヌメヌメ大王は苦しそうにうめき声をあげる。しかし、ヌメヌメ大王の力は強大だ。ホロニガの光だけでは、完全に倒すには至らない。


その時、キッチンから、ハルキの声が聞こえてきた。


「できた! ピーマンとトマトピューレの、スペシャルカレーだ!」


ハルキは、グツグツと煮込んだカレーを、小さな器によそった。そこには、赤と緑が鮮やかに混ざり合った、見るからに美味しそうなカレーが。湯気からは、食欲をそそる香りが漂ってくる。その香りには、僕の「元気のシャワー」の輝きも、そしてホロニガの、あの熱い「食べられたい」という願いも、すべてが溶け込んでいるようだった。


「この匂い…!」


ホロニガが、まるで吸い寄せられるように、ハルキのカレーに目を向けた。今まで彼が知っていた、ただ「苦い」だけのピーマンの匂いとは違う。トマトの甘みと、スパイスの香りが、ピーマンの苦味を優しく包み込み、新しい美味しさを生み出している。それは、まさに「奇跡のレシピ」の香りだった。


ハルキは、スプーンでカレーを一口すくい、恐る恐る口に運んだ。ごくり。ハルキの顔が、みるみるうちに変化していく。最初は警戒していた表情が、やがて驚きに変わり、最後には、とびきりの笑顔になったのだ。


「う、うまいっ! ピーマンなのに…ピーマンなのに、美味しい!」


ハルキの歓声が、野菜室にまで届いた。その声は、僕の「元気のシャワー」を何倍も強くし、そして、ホロニガの体を、さらに輝かせた。ホロニガのへたからは、まるで花が咲くように、小さな新芽が伸びていく。それは、彼が「美味しい」と認められた喜びと、友情の証だった。


「な、なんだこれは…! ピーマンが…輝いているだと!?」


ヌメヌメ大王は、ハルキの笑顔と、ホロニガの輝きに、恐怖で体を震わせた。ヌメヌメ大王は、腐敗の魔王だが、人間が食べ物を「美味しい」と感じる喜び、そして食べ物への感謝という、最も純粋な感情には弱いのだ。ハルキの「美味しい!」という声と、ホロニガの「食べられたい」という願いが一つになった時、それが最も強力な光となり、ヌメヌメ大王を打ち砕いた。


ヌメヌメ大王の体が、キラキラとした光の粒となって、ゆっくりと消えていく。残されたのは、ほんの少しの、黒い塵だけだった。


「やったね、ホロニガ!」


僕は、ホロニガに駆け寄った。彼の体は、以前よりも一層、深い緑色に輝いている。そして、彼の口元は、これまでの「へ」の字ではなく、少しだけ微笑んでいるように見えた。


「ったく…、うるせぇな。でも…悪くねぇかもな。」


ホロニガはぶっきらぼうにそう言ったが、その声には、以前のような刺々しさはもうない。代わりに、どこか照れくさそうな、温かい響きがあった。


それからというもの、ハルキは、ママと一緒に様々なピーマン料理に挑戦するようになった。ピーマンの肉詰め、チンジャオロース、そしてピーマンを使ったサラダまで。ピーマンが嫌いだったハルキは、すっかりピーマン好きになったのだ。


野菜室の僕たちも、以前にも増して賑やかになった。ホロニガはもう、すみっこで不貞腐れることはない。時々、ハルキが「今日はピーマンが主役の料理にするぞ!」と言うと、嬉しそうに体を揺らす。僕とホロニガは、真の友達として、これからも野菜室の平和を守り続けるだろう。そして、野菜たちが食卓で輝くたびに、僕たちの心も、シャキシャキと、喜びで満たされるのだ。

◆あとがき:ピーマン愛、爆発!◆


こんにちは!『フレッシュとホロニガの奇跡のレシピ』、楽しんでいただけましたでしょうか? 著者の私、実は筋金入りのピーマン愛好家なんです。一口食べれば、あの独特の香りとほろ苦さがジュワ〜っと広がる…あぁ、たまらない!


この物語は、そんな私のピーマンへの溢れる想いから生まれました。冷蔵庫の野菜室って、なんだか秘密の場所みたいで、いつも「中で何が起こってるんだろう?」って想像を膨らませていたんです。そんなある日、ふと「もし、ピーマンが話せたら…」と妄想が暴走し始めまして(笑)、気づけばレタスの精霊フレッシュとピーマンの悪魔ホロニガという、なんとも魅力的なコンビが誕生していました。


執筆中は、まさにピーマンとの対話の日々でした。ホロニガのひねくれた性格や、本当は認められたいという切ない願いを描くのは、まるでピーマンの隠れた魅力を引き出す作業のようでしたね。「なぜ彼はこんなに拗ねているんだろう?」「どうしたら彼の心を開けるんだろう?」と、ピーマン愛が深まるにつれて、ホロニガのキャラクターもどんどん膨らんでいきました。特に、彼のへたの動きで感情を表現する部分は、ピーマンの個性を最大限に引き出すためのこだわりです。読者の皆さんが「ああ、このピーマン、生きてる!」と感じてくれたら、もう感無量です。


一番苦労したのは、やっぱりあのヌメヌメ大王の描写でしょうか。腐敗の魔王ですからね、ただの悪者じゃつまらない! どんなふうにピーマンの美味しさを脅かすか、そして、何が彼の弱点になるのか…。ピーマン好きとして譲れなかったのは、最終的にピーマンの力が、そして「美味しい!」という純粋な喜びが、悪を打ち砕くことでした。だって、ピーマンって、本当にすごい力を持っているんですよ! ビタミンCも豊富で、元気の源。物語を通じて、ピーマンの秘めたるパワーを伝えられたら嬉しいです。


次回作の構想も、すでに私の頭の中でシャキシャキと動き始めています! 今度は、野菜室を飛び出して、もっと広大なキッチンの世界が舞台になるかもしれません。あるいは、別の「嫌われ野菜」が、誰かの心を開く冒険に出る…なんてことも? ぜひ、皆さんの「こんな野菜の物語が読みたい!」という声も聞かせてくださいね!


この物語が、お子さんたちの食卓に、そしてピーマンへの見方に、ちょっぴり新しい発見と笑顔を届けることができたら、著者としてこれ以上の喜びはありません。ピーマンが苦手な子も、ちょっぴり勇気を出して、一口だけ食べてみませんか? きっと、新しい美味しさの扉が開くはずですよ。


それでは、また次の物語でお会いしましょう! シャキシャキ!

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