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【第一章 孤独な人造神】 創世神話④

 翌朝には、神の子の誘拐を企てた罪で枢機卿五人が捕らえられた。


 いずれも古参の反教皇派で、スクーロを王に戴く神政国家樹立を目論んでのことだったらしい。

 もちろん、王なんていったって、操り人形に過ぎないことはキアロにも想像がつく。


 ミケーレは疲れた様子も見せず、ふたりに不安が残らないよう丁寧に事情を説明してくれた。


「前々から怪しい報告を受けてはいたんだが、なかなかやつらの尻尾をつかみきれなくてね。結果的に、君たちを危険に晒すことになってしまった。私の落ち度だ、本当に申し訳ない」


「にいにのせいじゃないよ、にいには俺たちを守ってくれた」


 その言葉は本心に違いないはずだが、群青の瞳はミケーレのキャソックの裾をさまよっている。

 ミケーレはそれを悟ってか、困ったように微笑んだ。


 スクーロがちらりとキアロに目をくれる。


「それに……こいつも。だからへーき」


 キアロとミケーレは思わず顔を見合わせた。ミケーレが瞳をうるうるさせ、「キアロくん、私からも感謝するよ」と言ってくれる。


 せっかくよい雰囲気になったところだが、キアロの脳裏には今も昨晩の男たちの白目を剥いた顔が焼きついている。


「ミケーレさん。つかまった枢機卿や実行犯たちは、一体どうなるんですか?」


 ミケーレがまとう柔らかな空気に、一瞬ぴりっとしたものが走った気がした。


「もちろん、しかるべき措置が取られるよ。もう、君たちを恐ろしい目に遭わせたくないからね」


「しかるべき……裁判とか、そういう?」


 深い苔色の瞳が「まあね」ととろりと微笑む。


「心配ないよ。それに、いい子のキアロくんには関係のないことさ」


 従順ないい子でいても母は戻ってこないし、大人の世界の真実を知らされることもない。きっと、わがままにならなくては何も変わらないのだ。


 ミケーレが宮殿に戻ると、スクーロがためらいがちに口を開いた。


「明け方、教皇がここに来てたんだ。にいにと一緒に、現場検証ってやつかな。俺は物陰に隠れて、ふたりの様子をうかがってた」


「えっ、スクーロくん一度起きてたの」


「お前の膝、骨っぽいから首が痛くなっちまったんだよ! もっと食っていい枕になっておけよな」


「いい枕に……!? 絶対やだけど、えっと、教皇様はなんて?」


 スクーロの喉仏がごくりと上下する。


「『粛清理由を考える手間が省けたな』って。もともと反教皇派を排除したがってたから、今回のことは都合がよかったんだろ」


 スクーロがひどい目に遭ったことを政治的な好機ととらえるその感覚に、なんだかキアロまで傷ついてしまう。


「ミケーレさんは?」


「にいには……『まったくです、危険分子でしたからね』って」


 キアロが眉根を寄せて黙り込むと、スクーロは「ちげーんだよ!」と声を荒げた。


「にいには、仕事でそう言っただけだから! だから、そんなのは別によくて。ただ、びっくりしたんだ。そのあとにいにの口から、オウガの女神の話が出たことに」


「え? でも、オス・サクラム教にはオウガの女神なんていないし、君だって女神様のこと知らなかったんだよね?」


 スクーロが遠くを睨むようにして頷く。


「にいには言ってた。あいつらはオウガの女神の神話を真に受け、その復権を望んでゲリラと結託した過激派だった、って。そんで、教皇は『神秘時代への逆戻りを望むとは愚かな』って……」


 神秘時代というのは、創世神話の時代のことだ。


 これまで見逃してきた小さな違和感が、キアロの中で急速に膨れ上がっていく。


「僕、気になっていたことがあるんだ。ミケーレさんさ、僕らが創世神話の絵本を見ているときに、『ちょうどよかった』って言って部屋に入ってきたよね」


 そうだっけ? という顔でスクーロが宙を睨む。


「そうだったの! 創世神話と僕の役目にどんな関係があるのかな~って思ってたから、覚えてるんだ。でも、特訓の説明のときには、創世神話の話なんてされなかった。もしかしたらなんだけどさ、ミケーレさん、うっかり口がすべっちゃったのかなって」


「どういうことだよ?」


「創世神話とオウガのツノの力には、何か関係があるんじゃないかってことさ」


 言わんとすることが伝わったようで、スクーロの顔がこわばった。


「オウガの話も、元の聖書から書き換えられたんじゃないかって意味か?」


「だって、変だと思わない? 聖書にはオウガのツノは罰として与えられた悪しき印って書かれてるけど、実際には天気や人の考え、未来まで読むことができたり、君みたいに祈りを天に届けたりすることだってできるんだよ! そんなの、まるで罰っていうか」


「祝福みたい、だろ?」


 自分が言おうとしていた言葉でスクーロが締めくくったことに、キアロは驚いた。スクーロも教えに疑いを抱いていたのだ。


 ずっとオス・サクラム教の教義を叩き込まれてきたのだろうに、よく違和感を抱けたものだ。

 おかしいものをおかしいと思える勇気と、それを口外せずにきた思慮にキアロは感心した。


 スクーロが顎に手を添えて言う。


「日付が変わる頃、俺の部屋に来い。チビどもには気づかれるなよ」


 きらりと光る群青の瞳に向かって、キアロは力強く頷いた。


***


「おい! 押すなよ、転んだら蝋燭の火で火事になるんだからな!」


 キアロはスクーロの背中に触れた手を引っ込め、辺りの暗闇を見回す。

 一応今のところ、おびただしい数の本が並ぶ書架しか目に入らない。


「ごめん、でもここ、なんかいそうで……」


「なんかってなんだよ!? 怖いこと言うなよな」


「え~、スクーロも怖いとかあるんだ? 安心しちゃった」


 へらっと笑うキアロに、スクーロが勢いよく振り返る。

 顔の下で火が揺れているせいで、闇に浮かび上がるお化けみたいだ。


「怖くねーよ。あと、スクーロさん、な」


「なんでこれまでより距離が開いてんのさ。仲良く悪いことしてるってのに」


 真夜中、ふたりは古代神殿の秘密の地下書庫にいた。

 無人のはずだが、不法侵入している手前、どうしてもひそひそ声になる。


「秘密の地下書庫」とはスクーロの言だが、実際に教皇の許可なしに入れるのはミケーレだけらしく、普段は施錠されている。

 そして、その鍵を管理しているのはもちろん、この神殿の監督官であるミケーレだった。


「さっきは本当にびっくりしたよ。まさか君がミケーレさんから鍵を盗むなんてね」


「人聞きの悪いこと言うなよな! ほんのちょっと借りただけだ」


 スクーロはそう言うが、地下書庫の鍵はミケーレの部屋の隠し金庫に保管されていた。

 金庫には複雑な仕掛けがいくつもあったようだが、スクーロはやすやすと解錠してみせたのだった。


 ふたりは蝋燭の灯りを頼りに奥へと進み、とあるところで足を止めた。スクーロが書架を照らす。


「ここら辺には、創世神話の時代にまつわる書籍が並んでるんだ。オウガの女神に関する本もあるかもしれない」


 スクーロは何度もこっそりとここに来て、禁書を読みふけったという。

 多くはとても古い時代のもので、スクーロが教えられてきたのとは、少しずつ違うことが書かれていたそうだ。


 彼は背表紙を照らし、書名を確認し出したが、まだ字の読めないキアロにはすることがない。

 せめて蝋燭係を請け負ったが、もどかしいし退屈だ。


「あのさ、聞いてもいい?」


 忙しく目を本の背に走らせているスクーロが、なんだよ、とぶっきらぼうに言う。


「どうして、写し間違いじゃなくて、聖書が意図的に書き換えられているって思うの?」


 ああ、とつぶやいたスクーロはより一段と声を低めた。


「だってあの教えって、すごく都合がいいんだ。オウガを支配するにも、男が女に言うこと聞かせるにも、教皇が国を統べるにも。全部がそのために書かれてるって感じすんだよ」


 昨日、創世神話の話になったとき、スクーロはこう言った。

『そう書き換えるよう指示した人間がいたんじゃないか』と。


 じゃあ、書き換える指示をした人間というのは、つまり。


「……ずっと前の教皇たちが?」


 スクーロが「たりめーだろ」と肩をすくめる。キアロは、心臓にぼっと火をくべられたような気分だった。


 オウガ村にいた頃には、女神様を慕いつつもオス・サクラム教の教えに特に疑問を持つことはなかった。

 だが、スクーロのおかげでこれまでは見えなかった世界が見えてきた。オウガや女性たちが蔑まれるように仕向け、世の権力をほしいままにしてきた者たちがいるとしたら、到底許せる話ではない。


「僕たちってもしかして、ものすごいことに挑もうとしてる!?」


「なんだよ今さら。歴史の闇を暴くんだから当然だろ」


 血湧き肉躍るという表現がぴったりな気持ちと、背筋がぞわりとする感覚が一緒に押し寄せてくる。

 と、その瞬間、スクーロのツノから淡く光る靄が飛び立つのが見えた。


 それはスクーロのずっと向こう側、壁際までふわふわと進むと、瞬く間に人の形を取った。


 スクーロ、とキアロは穏やかに声をかける。


「今度はなんだよ」


「あのさ、君ってなんとなく僕より、幽霊とかお化けとか怖がりそうなタイプかなって気がするからさ」


 はあ? と苛立たしげなスクーロに、にこりと微笑んで言う。


「だからね、振り向かないでね。絶対に」


 スクーロは少しの間のあと、白目を剥いて倒れた。

 キアロが慌ててその華奢な体を支える。


 振り向かなくてもこれか、と思ったが、声さえ上げずに倒れてくれたのはよかった。

 悲鳴が響き渡ってしまったら、さすがに使用人たちが気づくかもしれない。


 スクーロを抱きかかえながら尋ねる。


「そこに、何かあるんですか?」


 まとめ髪の女性のような姿をしたそれは頷くと、再びおぼろげな靄になってすうっと戻ってきた。そして、キアロにじゃれるようにして飛ぶと、やがてスクーロのツノへと消えていった。


 キアロのツノは、しばらく優しく痺れていた。

 怖くなかったのは、あの光から温かさを受信していたからだ。


 もしかしたらオウガの女神様だったのかな、でもなんでスクーロのツノから? と思いつつ、とりあえず壁際へと進む。


 見るだけではわからなかったが、触ってみると緩やかに凹んでいる箇所に気づいた。そこをぐっと押してみると、石壁がスライドする。


「隠し部屋だ……!」


 蝋燭を掲げてみると、ここにもびっしり本が詰まっていた。

 しかも、ほかの書架のものよりずっと年代物のようだ。さっきのところに戻って、スクーロを揺すり起こす。


「は……お化けは!?」


「そんなものいないよ、ちょっとした冗談さ。それより見てよ、あれ」


 スクーロは「お前が見つけたのか」と、隠し部屋に目を丸くした。

 お化けさんが教えてくれたんだよ。しかも彼女、君のツノから出てきて……とは言えないので、笑顔で頷いておく。


 スクーロは感心したようにキアロを見つめると、行くぞ、と先陣を切った。


 中はごく狭いうえ、壁の四方が本棚に囲まれているので圧迫感がすごい。

 だが、スクーロはすぐさま背表紙を確認し始めると、違う、これも違う、と独りごち始めた。


 キアロは入室してからずっと、ツノがむずむずするのを感じていた。

 字が読めないからって、スクーロ任せにしたくはない。


 目を閉じ、どこからこのかすかな振動が伝わってくるのかを探る。

 いろんな書物にピントを合わせていくうちに、ぴんとくるものがあった。


「スクーロ! その茶色い巻物だ!」


 まるでテレパシーで通じ合っているかのように、スクーロが書架の上段から、さっと一巻を抜き取った。

 部屋の真ん中の小さな机に置き、内容をあらためていく。


 使われているのは古代語だそうで、さすがのスクーロも苦戦しているようだ。

 が、しばらくすると、その苦渋の表情が興奮に変わった。


「あった……! 今、訳してやるからな」


 スクーロが読んでくれたのは、おおよそこんな内容だった。


 §☆§


 神様は日の槍と夜の槍で世界を創ったあと、男と女を生み出した。

 彼らが殖えると、神様は殊のほか感心なひとりの女に恵みの果実を与え、智慧をつけさせた。


 そして、彼女にリリスという名と、神に愛されし印としてツノを贈ったのだった。


 リリスはツノを通して神の啓示を受け、人間たちを導いた。

 また、ときには人々の祈りを神に届け、その恩寵を地にもたらした。人々は彼女を女王と崇めた。


 リリスは人と交わって子を産み、ツノのある子らには彼女の「神の声を聞く力」のみが伝わっていった。


 ツノのある者たちは畏敬を込めてオウガと呼ばれ、土地の祭祀者となり、人々に神の声を伝えて国を治めた。

 一方、殖え続けた人間たちは、オウガによる管理を次第に快く思わなくなった。ついに彼らは反乱を起こし、オウガたちを捕らえて奴隷とした。


 リリスは逃げのびて世の混乱を悲しみ、もう人の子のために尽くすこともないと、神に祈りを届ける力を返上した。

 リリスを憐れに思われた神様は、彼女に美しい島を一つ与え、長き余生をそこで暮らすよう言われた。


 こうして、彼女はお供の神獣たちとその島へ渡り、とこしえにも近い時を過ごすこととなったのだった。


 §☆§


 スクーロがこれを読んでいる間中、キアロは震えが止まらなかった。

 スクーロの声もところどころかすれ、そのたびにごくりと喉が鳴る。


「全然……全然違うじゃないか、今の僕らに伝わっていることとは。ツノが、まさか、神様に愛された印だったなんて……!」


 これまで散々、罪深い存在と罵られ、辺境の地に隔離され、重税に苦しめられ、大人たちがなんの保障もなく戦争に取られてきたのはなんだったのだろう。

 キアロの父は戦地から帰ってきて以降、ぼんやりと遠くを見つめるばかりで、人が変わってしまった。そして、とある雪の降る晩に、「皆、幸せに」と残して逝ってしまった。


 キアロが怒りに震えている間、スクーロは文字を追い続けていた。やがて、その唇からぽつり、ぽつりと詩がこぼれる。


 新たな日の暁を言祝ぎなさい。暗晦のまどろみに憩いなさい。

 光に向かって歩み、その背に伸びる影を抱いたなら、

 汝こそが手負いの者を隠し守る暗闇であり、迷える者を導く光であれ。


 キアロにも聞き覚えのある文句だった。


「それ、オウガ村の教会でよく聞いたよ。マルコ神父が読んでくれた。えっと、なんていうんだっけ」

「心戒な。こういうよい生き方を心がけなさいよって、説教。でも、この巻物には俺らの知らない最後の行がある」


 望みの朝と夜が一度に訪れるとき、オウガの王は新しき世の開闢(かいびやく)を祝福するだろう。


 ふたりとも、うーんと唸ってしまった。


「開闢って何?」


「そこかよ! 天地とか世界とかの始まりって意味。俺が唸ったのは、これが前の三行とは毛色が違ったからだよ。坊さんの説教っつーより、これ」


「予言みたい、だよね?」


 肝心な台詞を取られて舌打ちをするスクーロに、キアロがお返し~と笑う。


 そのときだった。なんとキアロたちが入ってきたのとは反対の入口から、扉を開ける音が響いたのだ。


 次いで、石床を踏む足音がする。大の大人、ふたり分だ。

 キアロたちは急いで蝋燭の火を吹き消し、戸が開いたままの隠し部屋で息を潜めた。


 来訪者たちは地下書庫のほぼ中央にある大理石のテーブルまで来ると、荒々しくため息をついた。

 幸いなことに、隠し部屋は書架で死角になっているはずだ。


「ええい、忌々しい! 腐っても神聖ロンバルディア帝国皇帝か、小便小僧であったあのグイードめが!」


 キアロの隣で、スクーロが肩をびくっとさせた。無理もない。聞こえてきたのは教皇の声だったのだ。では、共にいる相手は誰なのか。


「聖下のご心痛お察しいたします。急ぎ、計画の準備を進めましょう。斥候(せっこう)たちから、皇帝の寝室までのルート、護衛や召使いの数は把握済みです。確実に息の根を止められましょう」


 キアロもスクーロも安堵のため息をついた。ミケーレではなく、もっと年かさの男の声だったのだ。

 だが、その内容自体は穏やかなものではない。


 キアロたちは一歩踏み出し、書架のすき間から漏れてくる蝋燭の灯りのほうを覗いた。


 教皇は平服である白いキャソック姿だが、対する男は聖職者の祭服を着ていなかった。まとっているのは金の刺繍が施された黒いローブ。スクーロが「錬金術師だ」とささやいた。


 教皇が恨めしそうに口を開く。


「それについてはまだ急くでない。グイードめ、勝手に出発しおって、明々後日には我が教国に到着するというのだから不敬千万! こちらの返事を待たずして乗り込んでくるとは、会談どころか戦となるもやむなしぞ」


「ほほ、返事なぞ知らぬ、話をしに参るゆえ言うことを聞けと。外交圧力というやつですなあ」 


 どこか他人事といった口調に、教皇が苛立つ雰囲気が伝わってくる。


 オス・サクラム教では、錬金術は邪教のはずだ。

 要人の間ではこうして暗躍しているのかもしれないが、きっと真っ向から政治に携わっていない分、対岸の火事のようなところがあるのだろう。


「すでに病がちな身であると聞くのに、それを押しても我が顔を拝しに来るか。冥土の土産としてくれる。会談を終えてやつが帰国したら、すぐにも計画を実行できるようにしておけ」


「御意。暗殺には、私が調達いたしましたアナトリアの秘薬を用いましょう。それにしても」


 と、錬金術師は嫌味っぽい声色に変じた。


「早々に人造神殿の発信の力が発揮されて、我が国が政治的優位に立てればこのような荒っぽいことをせずとも済むのですがね」


「わかっておる! 一刻の猶予もないと口酸っぱく言っておるのに効き目がない、まったくくだらんガキだ」


 キアロもスクーロも、息もできずに固まっていた。


 教皇が言っているのはおそらくスクーロのことだ。

 では、錬金術師が言った「人造神」というのもそうなのか。


 考えがぐるぐる巡る中、錬金術師の「あのキアロというオウガは」という言葉にさらなる緊張が走る。


「どうですかな、本当に人造神を使い物にできる器ですか?」


 教皇は低く唸ると、「まさかあの女に子があったとはな」とこぼした。


「発信と受信に相性があるとしたら、あれ以上の逸材はなかろう。しかし、スクーロがまだ簡単な天気さえ変えられぬとあっては、帝国への虚仮威しにもならん。不遜なグイードめをひれ伏させる力が、まさに、今! 必要だというのに」


 このあと皇帝と錬金術師はお金の話をし、互いに渋々ながら決着を見たようで去っていった。

 ふたりが出て行ったあとも、キアロたちはしばらく動けなかった。


 もうどこからも物音がしないことを確かめて、中腰の姿勢からへなへなと床に手をつく。


 まったく生きた心地がしなかった。

 ひと晩にしてオウガの真実を知ったうえに、教皇による皇帝暗殺計画まで聞いてしまったのだ。


 しかもスクーロが人造神? 教皇が言った「あの女」というのは、キアロの母のことだったのか? 


 キアロはスクーロと顔を見合わせると、なんとなく右の手のひらを上げてみた。

 応えてくれないかなと思ったけれど、スクーロもまた疲れた顔で、ぽん、とハイタッチしてくれた。

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