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走り出したシンイチ


──……「2」という数字はまるで絶望の中でうなだれる人の姿のようだ。


 2222年、その言葉と符合するかのように原因不明のゾンビパンデミックによりゾンビが街に溢れかえり世界は大混乱に陥った。


 政府は機能しなくなり国家は崩壊、秩序は失われ世界からは文明の灯が消滅した。……そう、人類はあまりにも無力だったのだ。




 さて、ここに我猛心一という若者がいる。


 通称シンイチ、そして絶対に諦めない男。

 この崩壊した世界でも愛機のスーパーアイアンハルクとともに果敢に戦う彼の姿を見れば誰もが希望を取り戻すことだろう。


 さあ、絶望に満ちた世界で奮闘するシンイチの活躍を見逃すな!

 衝撃の実話を基に予期せぬ恐怖に襲われるサバイバル・ヒューマンドラマが今始まる!




 「シンイチ!ゾンビが来た!今度こそもうお終いだ、諦めた方がいい!」

 「落ち着け。まだ諦めるには早いぞ」

 「シンイチ!ゾンビが来た!いよいよこれはお終いだ、もう諦めた方がいい!」

 「落ち着け。まだ諦めるには早いぞ」




 軽い気持ちで仲間のキャンパーたちとドライブに出たものの、突如現れたゾンビの群れに襲われスーパーアイアンハルクは大破。

 仲間のキャンパーたちはゾンビに殴られ蹴られ踏まれ投げられ噛みつかれ、残ったのはこのさっきから助手席で大げさにわめき続けている友人の男とシンイチのただ二人だけだった。


 こいつの名前は……なんだっけ?


 まあいい、取りあえずこいつを落ち着かせないとドライブもままならない。ハンドルを握るシンイチの手に力が入る。




 「シンイチ!ゾンビが来た!スーパーアイアンハルクも大破している状況ではどこまでもつかわからない!そろそろ覚悟を決めよう!」


 「落ち着け。まだ諦めるには早いぞ」

 「シンイチ!どうしてだ、スーパーアイアンハルクが大破している状況でどうして諦めないんだ!」

 「落ち着け。まだ諦めるには早いぞ」




 シンイチの脳裏に苦い記憶がよみがえる。なんやかんやあってスーパーアイアンハルクを大破させてしまった記憶だ。


 自分のミスで崖から落ちてスーパーアイアンハルクを大破させてしまい、そのせいでゾンビに気づかれて多くの仲間を失ってしまったのだ。

 その後も大破したスーパーアイアンハルクを段ボールとガムテープで補強したのも束の間、奮闘むなしくスーパーアイアンハルクは大破。

 友人たちに口裏を合わせてもらったもののまたスーパーアイアンハルクを大破させてしまい、全く身に覚えのない罪に問われたりと様々な困難がシンイチを襲った。




 しかし、それでもシンイチは諦めなかった。


 さっきもスーパーアイアンハルクをスーパーマーケットの屋上から落としてしまったせいで少し大破しているが、これまでも仲間たちの助けを借りて辛い目にあいながらも持ち前のポジティブ思考で乗り越えてきたのだ。


 今回もそうだ!ここで簡単に諦めてたまるものか!

 最後まで戦って必ず生き延びてみせる!




 「シンイチ!ゾンビが来た!もうお終いだ、がんばらない方がいい!!」

 「落ち着け。まだ諦めるには早いぞ」

 「シンイチ!ゾンビが来た!この車ももうそろそろ限界だ!早く逃げないと!!」

 「……」

 「シンイチ!シンイチ!シンイチったらシンイチ!」

 「…………」


 助手席の友人の男の叫び声にたまりかねたシンイチが、ついにハンドルから手を放して怒鳴りつけようとしたその時だった。


 いきなりドアががちゃりと開き、後部座席に何者かが乗り込んできたのだ。




 「ねえ、この車かっこいいね!わたしも乗せてってくれる?」

 「うわああああ、ななななんなんだよぉこいつ!!!」


 友人の男は大慌てで助手席のドアを開けようとしたものの窓がウイーンと下がっただけでドアは開かなかった。




 「ねえ?早く行こうよ」


 「……あ、あの、君は?」

 「わたし?わたしは、優柔不断ゾンビの優ちゃん」

 「シンイチ!ゾンビがしゃべった!きっと俺たちの脳に異常が起きたんだ!もうどうしようもないんだ!」


 友人の男は6cmくらい開いた窓ガラスの間に鼻先をねじ込み、必死に車内から出ようともがいている。

 シンイチはそんな友人の男の髪の毛をわし掴みにしながら助手席に引き戻すと冷静に告げた。


 「落ち着けって」

 「シンイチ!ゾンビが乗り込んでんだよ!何を落ち着けることがあるんだよ!」

 「落ち着け。よく見りゃかわいい子じゃねーか、きっと楽しい旅になるぞ」

 「ん?」


 よくよく確認してみればちょっぴり肌が腐っていて、イチゴのような甘酸っぱい匂いがわずかにするものの、なかなか愛嬌のある顔をしたゾンビの女の子だった。




 「本当?よかった!」


 「シンイチ!いくらカワイイったってなあ、追い出した方がいいって!」

 「落ち着け。優ちゃんはお前と違ってシートベルトもしてるし、それにほら、普通じゃないくらいかわいいじゃねーか、な?」

 「ん?」


 インナーピンクの黒髪ツインテールにハートの形の愛らしいリボン、フリルのたくさんついたフリフリのワンピースは少し傷ついていたものの、彼女の姿はまるで絵本から抜け出してきたお姫様のようにかわいらしかった。




 「えへへ」


 友人の男は優ちゃんの方をちらりと横目で見るが屈託のない彼女の笑顔にすぐにばつの悪そうな顔をして視線を逸らす。


 「シンイチ!そんなことより地球はもう持たないぞ!ほら見ろ!この星から脱出すべきだ!」


 「落ち着け」

 「わたし海に行きたいな」

 「ああ、いいね。まずは街を脱出してそれから海に行こう」

 「シンイチ!聞けっての!かわいそうだけどゾンビの面倒なんか見てられない!さっさと車から叩き出すんだ!」

 「落ち着け。別に乗せるくらいいいだろ。結構かわいい顔しているし」

 「ん?」




 こんな時こそスーパーアイアンハルクだ。

 友人の男の不安をよそにシンイチはアクセルを踏み込んだ。


 慣性の法則に翻弄され、友人の男ががつんとフロントガラスに頭をぶつけたのも一瞬、車はぐんぐん加速していく。


 「いてっ!」

 「だから落ち着けって言っただろ」

 「わああ、すごーい!わたしこんな速くて大きい車はじめて!」


 優ちゃんはきゃあきゃあとはしゃぎながら窓から身を乗り出す。

 そんな彼女にシンイチは微笑みを浮かべて語りかけた。


 「危ないからあまり乗り出さないようにね」

 「うん!わかった!シンイチくんってすっごく優しいね!」

 「シンイチでいいよ」


 「ああ……お終いだ、もうお終いだ、俺たちは……」



 絶対に諦めない男シンイチこと我猛心一。そしてその友人である名前すら明かされない謎の男。そして優柔不断ゾンビこと優ちゃんを乗せ、スーパーアイアンハルクが今走り出した。



 衝撃の実話を基に予期せぬ恐怖に襲われるサバイバル・ヒューマンドラマが今始まった!

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