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俺を拾ったお菓子な魔女が俺と姫を結婚させようとするんだがどうすればいい

作者: 黒崎ちか


「一人でお菓子を食べるのは寂しいからね」


 それは俺が拾われた理由だったらしい。


 俺には両親がいなかった。いや正確にはいたのだが、俺が小さい頃に事故で死んでしまったらしい。強盗に襲われたと聞いている。俺は両親のおかげで致命傷に至らず、魔女と自称する少女に拾われた。と言っても赤子だったせいか記憶はないので昔話程度の話だ。

 それから俺はその魔女に育てられた。と言う事になるのだろう。一緒にいた記憶はあるが、どちらかというと俺はあいつの部屋の本に育てられた気がする。

 自由奔放なあいつは家にいないことが多く、たまに帰ってきては俺に菓子作りと料理を教える。そんなこんなで気づいたら十五年近く経っていた。ある程度自立してきたからか、今度は気まぐれで捨てられようとして


「ちょっと待て、キミを捨ててはいないぞ。私はキミに所帯を持ったらどうだと言っているだけだ」


 目の前にいる長い白髪の少女が話した。見た目は十才そこらの幼い姿をしているが件の魔女だ。彼女にとっては俺の心の中を読むことくらいたやすいのだろう。こんな良くわからない会話は日常茶飯事で俺は考えているのか、話しているのかわからなくなることも多い。


 目の前の魔女は持っていた写真から一枚取ると俺に渡した。

 さらさらと流れる絹のようなプラチナのブロンドヘアーにマリンブルーの瞳は魅入られてしまうのではないかと思うくらいに綺麗だった。写真のように柔らかく微笑むだけで、大概の男はひれ伏すだろう。

 どうやら俺の見合い相手の第一候補らしい。王宮の別嬪だと鼻高々に言っているが、俺はこの御方を見たことがある、俺が一生会うことすら敵わない御方だ。どうやって縁談をこぎつけてきたんだ。


「こう見えても、魔法使いだ。ツテの一つや二つ」

「姫とツテがあるなんて聞いた事がないぞ」


 俺のような生い立ちのわからないものなどとどうやって。


「勝手に決めてはいけないぞ。形式上は私の息子だ」


 凄い自信だ。それよりも先ほどから俺はあいつに対して何も言っていない。相変わらず人の心を読むなんて悪趣


「君がわかりやすいだけだ。顔に書いてあるだろう」

「あーもう。少しくらい考える時間をくれ。そしてあんたの行動は突拍子なんだよ。突然王宮に婿入りしろって。何が原因だ?」

「原因? 理由かい? 君は最近、私とお菓子を一緒に食べてくれないだろう」

「はぁ?」


 まさか菓子のおかげで拾われた俺は今度は菓子が原因で捨てられかけているらしい。


「キミはお菓子が嫌いなのだろう。そしたら私と一緒にいても苦痛だろう」

「ちょっと待て。俺が菓子を嫌いといつ言った?」

「キミは夜にケーキを食べると太ると言うだろう」

「それは当たり前だ。時間を考えろって」


 夜中の二十一時にホールケーキを並べて、キミは何個食べるかと言われる身にもなってくれ。せめて昼なら、半分くらいは。時間。そう言うと目の前の魔女はゆっくりと考える。


「時間か……十五時くらいなら構わないか?」

「それなら別に問題ない」

「そうか。よし! 王宮に十五時の休憩をもらえないか聞いてみる」

「ちょっと待て! 今、なんて言っていた?」

「ああ。王に相談してくる」

「王! っつーか。あんたは王宮で働いていたのか?」


 姫の見合い写真を持ってくるくらいだ。王宮と何かしらの縁があると踏んでいたが、まさか王宮勤めとは。

 俺はあいつのことが全くわからない。いやわかりなたくない。今まで何不自由なく暮らせて、不思議だと思ったことがあった。だがあいつだから要領よく金を稼いで来ているといつからか理由をつけて考えなくなった。確かに気になる点はあるが、王宮勤めはないよな。普通ないよな!


「たまにだ。ちょっと待っていてくれ。許可をもらってくる」


 なんと言って良いかわからず、項垂れていると、魔女は名案だと言うばかりにどこかに行った。王宮とか考えたくない。おやつの時間に家に帰りますとかもっと考えたくない。

 家を出てから二時間。あいつが帰ってきた。あいつには珍しい、眉を下げた寂しげな表情をしていた。


「家に帰るのは無理だった」

「まぁ、そうだろう」


 おやつの時間なので家に帰ります。なんて普通ありえないだろう。


「だがキミが王宮で働くのなら仕方ないと王から許可をもらったよ」

「はっ!? 俺が王宮で」

「大丈夫。キミなら出来る。十五時に私と一緒におかしを食べる。簡単な仕事だろう」

「それで給料がもらえるなんて世も末だな」

「期待して良い。ルーチェの作ったお菓子は美味しいぞ」


 パチリとウィンクをしながら言う言葉を俺は流したかった。ルーチェ様。先程の愛らしい姫様だ。姫様の手料理。塩と砂糖の割合が違っても美味しく食べれそうだ。可愛らしい姫様が手料理をする。ときめいている場合ではない。王宮。何やっているんだ。俺みたいな男と接点が出来ちまうぞ。良いのか?


「この写真を預けるくらいだから。そこは問題ないだろう。それよりもキミが王宮に働くにあたって聞きたい事があるのだが」

「どうしたんだ?」

「キミの名を教えてくれないか?」

「今更かよ。ったく。そう言われても俺は自分の名前を知らねーぞ」


 物心ついた頃から俺はここにいた。もうキミという名前ではいいんじゃないか。


「それは困る。私がキミ以外の人間をキミと呼べないだろう」


 だから俺の心と会話をするな。ああ。もう良い。俺の名前なんてどうでも良いだろう。あんたが王宮で働けって言ったんだから、あんたに任せる。


「うむ。それもそうだな……そしたら、リンゴはどうだ?」

「随分とうまそうな名前だな」

「キミの好きなケーキが出てこなかったかたら、私の好きなタルトタタンからつけさせてもらったんだが、違う方が良いか?」

「嫌ではないが、問題はないのか? 俺はそんなに可愛くないぞ」

「問題はない。君はリンゴのように可愛い家族だ」


 魔女はそう言いながらケラケラと笑った。

 そして俺事リンゴは王宮に勤める事になったが、百七十八cm、七十九kgの俺を魔女が可愛くて気の利くリンゴという少年と言ったせいで起こるちょっとした出来事はまた別の話だ。


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