私の転生事情
初投稿です。色々至らぬ点もありますが、どうぞよろしくお願いします。
私、虹野 涙
享年25歳。死因は神様のうっかりでした。
そう、私は死んだのです。人生100年と言われるこのご時世に! まさかの四半世紀で!
我が祖国日本では、私はまだピチピチとも言えるだろう社会人でございました。
体力もあり、仕事も特にブラックというわけでもなく、まあ彼氏などはおりませんでしたがお給料は好きなゲームや漫画につぎ込み、愛する推しに貢いで楽しく暮らしていました。が、私は死んでしまったのです。
日本での死因は突然の心臓発作。
しかし実際は目の前で茶を飲む黒と白のぼやぼやーっとした人型のなにか(当人たち曰く神様)のうち片方が私の魂だというガラス玉のようなものを手が滑って落っことして割ったからだそうで。そう、死因は『うっかり』だったのです。
神様ってだけでファンタジーなのに、人の命がガラス玉っておとぎ話かなにかかと思いましたね。
件のガラス玉はテーブルの上に置かれており、それは綺麗に真っ二つに割れておりました。
私の命を割った当の黒い神様は「綺麗に割れたから片付けんの楽だったわー! ははっ! めんごめんご」なんて笑ってました。ははっ! まじかよ。
まあ兎にも角にも私は死んでここに突然連れて来られたわけですが、今は落ち着きまして二体·····二人? に茶を勧められて飲んでいるところです。はい。
にしても死んでも味って感じるんだなあ·····この緑茶美味いわ。
「··········い·····にじのるい·····聞いてますか?」
「あ、はいすみませんもう一度お願いします」
名前を呼ばれ我に返る。
やばいやばい、話してたんだ? 全然聞いてなかった。
「はぁ·····私たちも暇ではないんですから、次はちゃんと聞いていてくださいね。諸事情転生番号1001番虹野涙、あなたは我々の·····主にこっちの黒いのの不手際で死にましたので特別措置として貴女を異世界に転生させます。あぁ、先に言っておきますが元の世界には返せません。もう貴女の以前の体は死亡が確認されてますので。あとついでに拒否権もありません。もう向こうの世界に話が行ってるので」
白い方の神様が淡々と告げる。
もはや転生拒否の選択肢もないらしい。
というか暇じゃないもなにも不手際って認めてるんだからもう少し同情してくれても·····無理か。なにせ神様だもんね。
「正直今でも実感わかないけど、わかりました。·····最終確認ですけど夢じゃないんですよね?」
「つねりましょうか?」
白い神様が尋ねると、黒い神様が両手を前にしてにじりよって来た。
え、なにその手?
「代わりにつねってやるよ!」
「いっっっ!! ひゃひゃひゃひゃ!!!!」
黒い神様が言いながら思いっきり頬をつねってきた! 力に容赦がない! ·····ってかなんで死んでるのに痛覚あるのよ!
早く離してほしくて顔をブンブン振ると、黒い神様は手を離してひょいっと下がりました。こんのイタズラっ子が!!
黒い神様が私がつねられた頬に手を当てて痛みを逃しているのを見てケラケラ笑いやがります。白い神様も顔を反らして肩を小さく振るわせていますね、おい、顔がわからんと思ってるな。
「こほん、それでは諸事情転生番号1001番虹野涙、貴女には新しい世界で生き抜くためのスキルを与えます」
白い神様の方が軽く咳払いをし話を戻します。
いよいよ私は地球とおさらばするそうです。
·····それにしても考えみたら『諸事情』とやらが私のときみたいな不手際の転生なら、私で1001番って随分と事故の転生が多いんですね。人類誕生から数えるとそれなりに失敗してませんか?
「なんか失礼なこと考えてない?」
「いえなんにも?」
黒い神様に指摘され、速攻で否定する。
そういえば神様でも心を読めたりはしないんだな。それはよかった。
これから別の世界に送られるのにここでヘマするとかごめんだし、下手なこと言わんように黙っとこ。
「まあいいでしょう。私からは今までの世界に関する願いを、黒い方からはこれからの世界に関する願いを聞きます」
「今回は手違いのため、なんでも希望を聞こう。なにが望みか言ってみろ」
くくく黒いの~! お前が悪いくせにやけに偉そ·····いや、悪態つくのは次の世界に行ってからにしよう。
しかし継承と付与·····ねぇ?
ゲーマーの血が騒いで何をお願いしようか迷ってしまう。
「そういえば、新しい世界はどんなところですか?」
「貴女が生前やっていた『げぇむ』に似てますね。魔法のある世界へと転生することが決まってます」
なんと! 魔法のある世界!!!?
それはいいことを聞いたぞ!!
「転生って一からですよね? 赤ちゃんから?」
「そうですね。数年は動けないと思った方がいいでしょう」
なるほど。うん、じゃあ白い方の神様にお願いすることは決まった。
1.『虹野涙』の記憶25年分そっくり丸々継承
白い神様は本当なら『転生』だから駄目なんですけど·····とかぶつぶつ言って黒い神様を見ていたようだが、黒い神様がなんでもって言ってたし手違いということを最大限利用させてもらいそれでチャラにした。
2.『虹野涙』の中身の能力継承
これは一か八かだけど、今の私はそれなりに手先も器用だと思うし、運も悪くない方だと思う。
これを転生先の体に継承すれば能力にプラス補正がかかるのでは? というものだ。
記憶を継承したところで結局は別の体なわけだし、これで2人分の能力が最初からひとつの体に入るかもしれない。これだけでチートじゃない?
これはあっさり受理された。記憶を継承してるんだから同じことだろうと。私の思惑はちょっと違うけど、これは本当に転生されてから確認するしかない。どうか付与されてますように!!
よしよし。白い神様の方はこんなものだろう。さて、問題は黒い神様の方だ。
色々要望はあるが、どうしようか。
「ちなみに·····いくつまで叶えてくれます?」
「お、ちゃんと聞くのか。これ聞かずに転生してくやつ多いから賢いなー。白のと合わせて5つまで! だからあと3つな。ちなみに越えたら願ったやつのなかからランダムになる」
あっぶな! 先言ってよ! ·····いや、きっと前に転生した人たちも黒い神様が『なんでも』って言ったから確認しなかったのかも。
しかし全体で5個か·····慎重に考えないと
「新しい世界に行ったら、自動的にその世界の言葉を理解できるようになりますか?」
「おお、それを聞くのもいいな。なる。それを聞かないで言語理解能力を願ってくる奴いるんだよなー。転生してその世界に存在してる奴になるのにいらないだろー馬鹿だなーって思ってた」
黒い神様はケラケラ笑う。なるほど、聞けば教えてくれるが聞かなければ教えてくれないのか。不親切と言えば不親切だが、たしかにそこまでする義理もないんだな。神様だし。
それなら他にも聞きたいことがある。
・私が転生する体に魔法を使う適正はあるか
・もしなければ付与することは可能か
・もし可能なら『転生先の体が魔法を使えるようになる付与』で願い一回消費&『使える魔法の属性』を選ぶことで願い一回消費か
それを訊ねると白い神様と黒い神様は顔を見合わせて黙ったかと思うと、黒い神様は正座する私の方に近づいて髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ははっ! そこにも気づいたか! いいねいいね! 教えてやるよ!」
曰く、『魔法なき世界からの転生者』は転生先が魔法のある世界であっても魔法適正がない体へ転生させる決まりがあるらしい。
元々、魔法のない世界からある世界へと転生させるときの約束事で神様が独断で付与することはできないんだそうだ。
『魔法を使えるようにする』という願いをかければ転生先の体への付与は可能。願いの回数についても合ってる。体への付与で一回消費する。
そして火や水など付与される属性を希望するなら、属性一種につき願い一回。だから全属性使いたいと願った人は5回の願いで全属性は賄えないので属性がランダム付与になる。
逆に、転生先の体へと魔法使用可能の付与を願うだけなら属性はランダムになるが一種は使えるようにしてくれる。
叶える願いの回数が残ってるなら希望した属性も付与されるとのこと。
これの怖いところは、魔法のない世界から転生する人が魔法の使用権を願わず全属性を願った場合、属性は体に宿っているのに使用権がないせいで魔法の発動ができないということがあるということだ。
黒い神様はちゃんと全部答えてくれた。白い神様よりも飄々としてるし子供っぽいけど神様の仕事はちゃんとするらしい。人の命をうっかりで転生させるし、聞かないことは教えてくれないけど、いい神様なのかもしれない。
さて、属性についてだけど希望したら願い一回消費なんだよね? それなら他に願いたいこともあるから属性はランダムで運に任せよう。
使えるってだけでも全然夢がある。
決まった。私は黒い神様に願う。
1.転生先の体へと魔法が使えるようにする付与
2.対戦闘時になったときの魔法以外の対応術
3.転生先に私を大人になるまで育ててくれる人がいる環境
「1と3はオッケー。属性の希望は無しだな。あと2つ目ってどういうこと?」
「なにかと戦うことになったときに護身ができる術が欲しいです。付与される魔法が必ずしも攻撃できるものである確信もないので。武術でも剣術でもいいです、武器は現地調達しますので技だけください」
それだけ言うと黒い神様は楽しそうに愉しそうに笑った。
さすがに願いすぎたかな? と心配になったが、2つ目も許可してくれた。
ここまで考えた人は初めてだったらしい。
ゲーマーなら考えそうなことだが、ゲームが発達したのも近年だ。私の前の転生が何年も前ならそこまで確認できなかったのもわかる気がする。
一通り黒い神様が笑った後、いよいよ転生の時間になった。
ぶおん! っと音をたてて私の足元に大きな魔方陣が現れた。
「じゃあ、頑張ってね」
「最後に聞き逃したことはないか?」
多分、にやにやしながら黒い神様が私に尋ねた。
このにやにやに良い思いは全くしないが、正直何かあったところで今更感もある。もう転生させられそうだし·····っとああそうだ
「じゃあ神様たちの名前は?」
最後に手違いだったとしても色々便宜を図ってくれたお礼を言おうと名前を聞くと、そんな質問が来ると思ってなかったのか一瞬間が空いた。
「あ·····『○◇※』」
「『★▲*』」
そうか、日本語であるとは限らないのか…
えっと·····?? ニュアンスでいける???
あ、なんか体が浮き上がってきた、時間なさそう
「ありがとう! えっと○◇? ★*!」
呼べたと思ったが、間違ってるよ! と下の神様たちに同時に言われた。
でもその声はちょっと嬉しそうで一瞬だけはっきりと笑う神様たちが見えた気がした。
それを最後に私は光に包まれた。