キミドリイロの世界
スキマスイッチ
キミドリ色の世界より。
キミドリイロの世界。
キミドリが浸食して、くる。
観葉植物は心を癒してくれる。
ふと目に入るその色には魔法がかけられているのか、気づいたら話かけていたりする。もちろん可愛い。
1年半付き合っている彼女が買ってきたけれど、ここ最近仕事が忙しく夜遅くに帰ってくる彼女の代わりに水をあげたり世話をしているのは私で休みの日に友達と遊びに出かけてくると午前から忙しい彼女の代わりに世話をする。
仕事が最近遅いので、夕飯を作って待っている。気のせいだろうか、最近買ってきたと思われる食器はキミドリイロ。レタスと同系色になってサラダがあんまり映えないので、そこまで好きになれない。やはりサラダに使う皿は白か透明がベストなのでは、とヒトリで盛り付ける。
スマホのバイブレーションの音がした。メッセージが届いた知らせだ。
着信を見ると彼女と私が世話をしている観葉植物とのツーショットのアイコンがポップアップしていた。メッセージを読むと、一度、画面を下にしてテーブルの上に置き、台所を見る。
キミドリのサラダボールが怪しくヒカル。
やたらキミドリが目立つように感じられるようになってきた。
深く息を吸い込み、吐き出す。スマホを手に取り、嫌味を飲み込み。たった二文字。
了解
その後、すぐそれだけでは怒っていそうに思われると思ったので、もう一文を添える。
週末になり、彼女と久しぶりに出かけた。
なにやらカーテンを買い替えたいのだとか。同棲しようとなった時にカーテンの色を二人で決めたので、3年ほど経ったけれど、私は全然気に入っていたのだが、最近仕事でストレスが溜まっているので気分を変えたいのだとかなんとか色々と言っていたし、言い出したらなかなかこちらの意見を聞いてくれないので、仕方なく折れるという現象はここ最近のことだったりする。
「これが良い!」
彼女の見ている先には淡いキミドリイロをしたカーテンがある。濃淡があり、グラデーションが綺麗だった。外から光が差し込んだら一層美しいかもしれない。
良いと思った。これなら私も納得だと思った。
しかし、部屋の内装を思い出してみると緑色が多いのでちょっとしつこいのではないか。彼女に伝えると、確かに。と納得してくれそうだったけれど、違った。
「統一感がまだないだけで、もうちょっと緑を増やせばいい感じになるじゃない?」
その数日後、彼女と同棲を始めた記念に買ったカーテンはメルカリに出され。多少のお金に変わり、さらに緑色の時計に変わった。
彼女と喧嘩をした。
きっかけは些細なこと。本当にくだらない。そう、ただサラダの皿を白色の皿で出しただけ、いや、彼女の苦手なミニトマトも添えていたかもしれない。
気に食わなかったのか。
食べないと言い出したので、さすがの私も怒った。どうやって怒ったか今となっては分からない。
気付けば数日会話もろくにしていない。
彼女が荷物をまとめている。
部屋から出て行って欲しいと言われて翌日の事だ。
つまり、まとめているのは私の荷物で追い出されるのも私だ。
改善の修復は試みたが全くといって効かない。
理由を聞いたがイロイロなものが積み重なったのだと言う。
「あなたは赤い、キミドリと反対の色だから」
少し機嫌が良かった時、冗談のような理由を伝えられたが、なんかこれが一番納得できてしまった。
この部屋はキミドリに覆われ赤の私は他人になり。
キミドリイロに染められた君の部屋は私と入れ替わりで他の人が入った。
イロトリドリだった君がキミドリイロの世界に浸食されて、緑を引き立たせてしまった赤の私。
多くはない荷物を抱え、一人夜の駅前で煙草を燻らしながら、2代目のスマホをバックから取り出して、画面をスクロールし、タップ。
「今何してる?」いや、君の声が聴きたくて」え? 嘘じゃないって本心だって」っていうか会いたいから家に行って良い?」うん、すぐ行く……」
なんだか合点がいかない。