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文学少女は星を見上げた。

作者: tani

ほおずき団地の今日のお話。

 手元の文庫本から栞は顔を上げた。どこからか視線を感じたからである。辺りを見回すが、人の影は見当たらない。視界に入るのはドウダンツツジの葉ばかりである。

 栞は子供の頃から夏になると、この場所で本を読むのがお気に入りだった。ほおずき団地の広場の隅っこ。植えられた木々の間にうずくまるようにして座り込みむと、葉が陽の光を遮ってくれて意外と涼しいのだ。

 しかし栞も高校生。さすがにこの場所は窮屈になってしまった。太陽が頭をじりじりと焦がしている。

 ここで本を読むのは諦めることにし、文庫本を閉じて立ち上がると長い髪が揺れた。先ほど感じた視線は何だったのか。気にはなったが暑さには勝てず部屋に戻ることにした。

 

 やはり室内は涼しい。302号室。クーラーの効いた自室で文庫本の続きに入り込む。集中すると周りの音が何も気にならなくなる、この瞬間が栞は好きだ。しかし、なぜか今日はうまくいかない。外で感じた視線を思い出してしまった。

 本を持ったままベランダに出てみた。広場の隅っこ、ドウダンツツジが植えられたスペース。つい数分前まで栞が座っていた場所に金色の頭が見える。

(金髪…)

 気になった栞はあの場所へ戻ってみることにした。


「あの…」

 声をかけるが先が続かない。金髪頭が立ち上がった。

「この季節は星が見えませんね。」

 優しい声だった。しかし栞は何を言っているのか理解できないでいた。星なんて陽が落ちればどの季節でも見られるではないか。返答に困ってだまっていると、

「ドウダンツツジのことですよ。」

見透かしたように会話の続きが始まった。

「ドウダンって漢字で満天星って書くんです。昔の中国の人が白い花が咲き誇るすがたを満天の星に見立てたそうですよ。花の季節は春ですからもう過ぎてしまいましたが…。毎年花の季節が終わってから茂みに入っていく女の子を見かけていたので気になっていたんですよ。」

 

 金髪の髪が風に揺れた。栞の髪である。

「髪、お似合いですよ。」

 優しい声に伏せていた顔が赤くなったのがわかった。栞は元来おとなしい性格で、これぞ文学少女といった美しい黒髪だったのだが、高校進学を機に髪を染めたのだった。あこがれの人と同じ色に…。

 教室で本を読んでいると目立つことこの上なく金髪にしたことを後悔しかけたが、もうどうだってよくなった。顔を上げて叫べ。

「私の話聞いてもらえませんか!」


——満天星ツツジの花言葉、“私の思いを受けて”


栞のあこがれのこの人物、男性?女性?

栞と同じ高校生?大人?それとも年下?


あなたはどんな人を想像しましたか?


ほおずき団地という名前の架空の団地を舞台に、そこに住む人々のさまざまな日常を描いています。一話完結の物語ではありますが、この話に出てきた人物が別の話にちょこっと登場することもあります。ぜひ、ほかの小説も読んでいただけると嬉しいです。

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