HIGHWAY STAR
「おっせーぞ悪ガキ!!!!」
「Asshole!ヒーローは遅れてやって来るものなのよ!!」
広場の中央、掃除屋達の射線を塞ぐように高機動多用途装輪車両は停車した。
地を揺らし、耳を劈くような銃声が囁き声にも聴こえる程の爆音を奏でながらその扉は開かれる。
機銃席のアイリスを目視したリジーが叫び、彼女もまたリジーの声を聞くや否や異国の暴言で答えた。
私達側の後部座席の扉を開けたサツキが手招きする。
「早く乗り込め」と言わんばかりに。
止まる事無く軽機関銃を弾き続けるアイリスに続く様にメイとリジーも攻撃を開始する。
バリケードから飛び出し、車両の陰を歩きながら行われる牽制射撃。
降り注ぐ銃撃の嵐に掃除屋達は成す術無く、その身を自身らの車体に隠して静止した。
「あの二人も仲間です。さぁ立って」
彼女らを見て笑みを浮かべたシャルが件の少女へと語りかける。
状況を把握し切れず困惑し、怯えたままの少女の手を取り、二人もまたリジーらの後に続いて車両へと向かった。
飛び込むように車両の後部座席に乗り込んだ四人を見つめて、運転席へ移動したサツキが微笑む。
「おつかれ。潜入って言った割には結構派手にやってんじゃん。おかげでアイリがテンション上がりっぱなし」
「結果オーライよ!サツキ、ナイスタイミング!」
ハンドルに片手を置き、振り返りながら告げたサツキにメイが親指を立てて答えた。
「Damn it!!弾切れ!サツキ!しゅっぱつしゅっぱつ!!!!GOGO!!!」
銃撃が止み、慌てた様子でアイリスが車内へと身を戻す。
重そうに抱える軽機関銃のベルトリンクは途切れ、箱型の弾倉は空になっていた。
「おっけー!みんな掴まって!」
アイリスの様子を見たサツキが正面へ視線を戻し、告げながらサイドブレーキを解除した。
その際、抱え込むように身体を抱いてきたシャルに少女は困惑するが……すぐに答えは得られた。
強く突き飛ばされるような衝撃。
僅かにタイヤを滑らせながら急発進した車体に、車内に転がっていた薬莢が宙を舞う。
外の掃除屋達は銃撃が止んだのを合図に一斉に攻撃を再開した。
急発進で急旋回を行う車体に弾丸を浴びせるが、車体に設けられた防弾ガラスと防弾プレートがそれら全てを弾いた。
道路上に並ぶ掃除屋達の車両を避け、隙間から敷地外へ飛びぬけた彼女らを追うように彼らは得物を弾き続けるが、結局それも意味を成さない。
男達は彼女達の逃走を止める事が出来なかった。
◇
大きく下げられた音量。
その爆音をようやく満足に音楽として聴き入れる事が出来るようになった頃、おずおずと少女が口を開いた。
「お…終わったん…ですか…?」
「いや、ここからが本番だぜ。アイリ!そいつこっちに寄越してとっととお前のСолнышкоんとこ行っとけ!!」
「Fuckin' Mother fucker!!北部の言葉わかんないって言ってるでしょ!はいこれ!!!」
少女へと答えたリジーは視線を合わせ、期待するように笑みを浮かべた。
アイリスは彼女の言葉を受けてその意図を察し、悪態つきながらも手にしていた軽機関銃をリジーへと投げ渡す。
そのまま尻尾を巻いて逃げる様に助手席へと駆け込んだアイリスは一度サツキへ目をやり八重歯を見せて、「褒めて褒めて」と言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。
サツキはハンドルを片手にアイリスへと微笑み返し、先の銃撃戦を制したアイリスを褒める様にその頭を撫でる。
「騒々しくて申し訳ありません。あいつらはまだまだ追って来ます。そこで姿勢を低くして衝撃に備えていてくださいね」
少女の身体を抱いていたシャルが少女を離して告げた。
対する少女は「まだ終わらないのか」と僅かに絶望を浮かべて後部座席の端で力無く蹲った。
「何言ってるのかわからないのはお互い様でしょ!あんたたちちょっとは黙れないの!!?」
一部始終を見ていたメイは少女を案じてか、叫ぶようにリジーとアイリスへ怒りを露にする。
「「はーい」」
渋々、不満そうな表情を浮かべて返事をするリジーとアイリス。
故意か偶然か、その言葉はピッタリと調和っていた。
アイリスより受け取った軽機関銃のボルトカバーを開き、足元に置かれた金属製の弾薬箱から弾薬を取り出して再装填を行うリジー。
助手席へと移動したアイリスは窓際に立て掛けられていた狙撃銃を手に取り、その装填状況を確認する。
各々が次の戦いに向けて準備を行っていた。
僅かに訪れた安寧に心を休める暇も無く次の波乱の訪れを予兆するその光景に、少女はただただ憂鬱を浮かべるばかりであった。
「シャル!この後はどうすればいいの?」
淡々と運転を続けていたサツキがシャルへと問いかけた。
先の街から離れ、前方に連なる山々へ向けて岩肌の多くなる道路。
陰りを見せつつある空に、少女はどこか不安を抱く。
「このまま国境まで進んで下さい。彼らのテリトリーを離れれば攻撃はされません」
「おっけー!」
シャルは指示を下した。
この岩山を抜けた先にある南東部と中部を隔てる国境まで車を進めろと。
レギオン上に存在する多くの地域は、その地域において最大勢力となる国がそれぞれの規律を基にその国なりの秩序を守っている。
国境の警備が残る国においてはその守りが特に強固であり、勢力そのものの規模も強大だ。
シャルが指示した中部はレギオン上でもその筆頭であり、自由の国を謳うレギオン上最大勢力の楽園がそこにはある。
南東部最大勢力のサンタ・ソンブラといえどその国のテリトリーまで足を踏み入れれば大きな動きは出来なかった。
とはいえ、そんな秩序の番人がトラブルを抱えた彼女達をあっさりと入国させる筈も無いのだが。
リジーの発した「ここからが本番」という言葉にはその意味も内包されていた。
つまるところ、彼女らは怒り狂うサンタ・ソンブラの掃除屋達を引き連れて中部の門番に喧嘩を売りつつ、かの国を強行突破をしようと画策しているのだ。
余りにも強引で向こう見ずなこの作戦は、このレギオン上を生きる住人はおろか誰の目から見ても無謀と言えるものであった。
されど、この場にその意見を否定する者は誰一人として居なかった。
それほどまでに自信に満ち溢れた信頼関係を彼女達は構築しているのだ。
もちろん、この少女からしてみればそんなことは知る由も無いが。
「ここ最近だと一番ぶっ飛んだ作戦だけどさ、シャル。その子にそれだけの価値があるの?」
ハンドルに両手を置き、前方を見つめたままサツキは告げる。
その表情を伺い知る事は出来ないが、少女は彼女の意図する事を察していた。
蹲った身体が恐怖で強張る。
自身でも答えの見出せぬその問いかけに、彼女は押し黙るしかなかった。
「フフ、私が価値を見誤った事がありましたか?」
「ハハ、いやさ、その子の価値を確認してみただけ。私はいつだってアンタを信じてる。もちろんアンタ以外もね。最高に楽しい夜にしよう」
確証なく、直感によってのみ測られた己の価値。
僅かにすら感じ取れぬその実感に、少女は自信無く不安を募った。
「とんでもない人たちについて来てしまったのではないか」と。
選択肢は無かったとは言え、少女は自身に残された時間を案じるように、心の内で祈りと後悔を浮かべながら涙を流した。
言い終えたサツキがアイリスへと視線を移す。
その片手で彼女の頬を撫で、小さく微笑んだサツキは何を想うのか。
一つの迷いも無く、アイリスはサツキへ微笑み返した。
自身の頬に触れるその手を両手で包み込み、猫のように擦り寄りながら。
「ええ、最高の夜にしましょう」
自身の得物に視線を落としたまま、シャルは告げる。
暮れつつある夜の帳を裂き、駆け抜けた筈の地面を照らす灯りの反射をその瞳に受けながら。
後方より現れた3台の貨客兼用車。
明々とヘッドライトを灯し、警笛を鳴らしながら掃除屋達はやって来た。
その合図に心躍らすように―――
彼女たちは手にした得物の遊底を弾きながら、彼らの到着を歓迎した――――。
< 装備構成設定資料 メイ >
銃器[主]: 97式自动步枪 [補足:T97 FTU]
弾薬: 5.56x45mm NATO
トップマウント: Primary Arms prism scope 2.5x
アンダーマウント: KAC バーティカルフォアグリップ
負紐: 1点 BK
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銃器[副]: 92式手枪 [補足: QSZ-92-9]
弾薬: 9x19mmパラベラム弾
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防弾着: 16式 プレートキャリア (林地迷彩)
正面[カンガルーポーチ]: 4本分のSTANAGマグが収納可能
正面[モール] : QSZ92用2連マグポーチx3
正面左[ベルト] : PTTスイッチ
左面: ラジオポーチ, 2連グレネードポーチ
右面: 2連グレネードポーチ, 無人偵察機用コントローラ
背面: バックパック [バックパック背面モール: ユーティリティポーチ]
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弾帯: 分離型 モールシステム (林地迷彩)
左面: 95式バヨネット用シース
右面: QSZ92用 CQCホルスター
背面: ダンプポーチ