表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Delivery Bullet☆  作者: G
南東部 サンタ・ソンブラ編
8/35

黙示録のラッパ吹き




リジーとメイが少女を連れて部屋を後にするのを見送る。




部屋に残されたシャルは床で蹲るホルヘを見つめていた。



「くそ……俺が悪かった。一緒に仕事した仲じゃねぇか……他の奴らには弾かねぇよう言うからよ…見逃しちゃくれねぇか……」



未だ鮮血が溢れる傷口を抑え、荒い息遣いでホルヘは命を乞うた。



ゆっくりと、腰の右に提げたホルスターから得物を引き抜く彼女。


彼を見下ろす瞳に揺らぎは無く、彼女は淡々と回転式弾倉シリンダーを回しながらローディングゲートから空になった薬莢を排莢させる。



「そうですね、では……貴方が()()()と連絡を取る為の端末をこちらに渡して頂ければ特別に助けてあげます」


「ほんとか…!?」



彼女の言葉に喰いつくように、ホルヘはその瞳に希望を浮かべながらそう告げた。


傷口から手を離し、真っ赤に濡れた指先で彼は近くの机を指さした。



「そこの上に乗ってるのがそうだ!周波数チャンネルはもう固定してある!嘘じゃねえ!!」



ホルスターと一体になった弾帯に並ぶ弾丸センターファイアを一発ずつ抜き取り得物へ装填していた彼女は僅かにその動きを止めた。


視線を机へ移した後、その端末を目視した彼女はすぐに彼へ視線を戻した。



「嘘を言ってるようには見えないですね。ありがとうございます」



彼女は笑みを浮かべ、そう告げた後にローディングゲートを閉じた。



片手で手にした得物の撃鉄ハンマーを起こす彼女。


その矛先を彼の頭部へと向けた彼女は微笑みを浮かべたまま告げる。




「今までお世話になりました」


「さっきのは嘘です」




そのサミングを見た彼は何を想っただろう。


きっと、「こうなると思った」と心で告げたに違いない。


驚く様子も無く、ただただ果ての無い深い絶望を浮かべたまま、彼は無力に彼女の瞳を見つめていた。




その部屋で最後の銃声が鳴り響く。




床を埋める様に倒れ込んだ6人の死体は物言わず、その瞳は見開かれたまま虚空を見つめていた。


その顔を己の血で塗らしながら――――。







瞬く間にその場を血の海へと変えた一人の少女。




漂う煙の臭いと未だ頭に響く爆発音。


映画や漫画の世界とは違い、現物で見るそれが私に与えた衝撃は余りにも大きかった。




「こんにちは。また逢いましたね」




そう告げた彼女の衣服は赤色に濡れ、その瞳はどこまでも続く深い深い闇のようであった。


心底怯えた様子でベッドの隅に身を寄せる私を、彼女は微笑みながら見つめる。



少女にとってホルヘ達はまだ安全と思える存在であった。



彼らもまた暴力を生業とする者達であろうことは想像ができたし、目的こそ定かではないものの……少なくとも彼らは自身を救った恩人であると認識していたからだ。


そんな彼らを蹴散らし笑う彼女の事を危険であると認識しない筈はない。




「だ……だ…誰…です…か…?」




身体が恐怖で震えた。


喉の奥から必死に捻り出した言葉は途切れ途切れで、目を合わせる事もままならなかった。



彼女の目的は?


彼らとはどういう関係?


私を殺すの?


……


脳裏に幾つもの不安が浮かぶが、私に成す術は無かった。




「失礼、申し遅れました。シャル…と呼んでください」


「貴女をこの男たちから救いに来ました」




目を閉じ、お辞儀をしながら告げるシャルという少女。


その言葉が嘘であることは私でもわかる事であった。



「私を……殺すんですか…?」



恐怖の果ての脱力。


絶望と言う無力感が私の身体を支配した頃、私は恐る恐る彼女へと問うた。




「救いに来たって言ったじゃないですか。貴女を殺すなんてとんでもない。私は――――




彼女がそこまで告げたところで、再び部屋の扉が開かれた。


僅かな警戒心を含んだ眼差しで部屋へと足を踏み入れる二人の少女。



「あーあー、全員殺っちまってるよ」


「いえ、ホルヘだけはまだ生きてるみたいね」



「二人とも、丁度いいところに。メイ、ホルヘはまだ殺さないでくださいね」



「了解」



言葉を交わす二人に振り向き、指示を告げたシャル。


三人は知り合いであるようだった。



「シャルおまえなぁ!なにやらかしたのか知らねぇけどその子怯えちまってるじゃねぇかよ!」



「えっ」



二人のうち、金髪の子が私の姿を見るなり驚いた様子でシャルへと告げた。


対するシャルもまた驚いた様子で、若干の焦りを見せながら一度私へと目をやった。



「そんなに怖かったですかね……」



「見りゃわかんだろ!焼かれる前のウサギみたいな顔してんぞ!」



シャルの言葉は誰へ向けた物なのか。


私を動物に形容しつつ、心配そうな眼差しでその少女は私へと歩み寄った。




「すまねぇな、こいつが脅かせちまったみたいで。あたしはリジー。あっちにいる根暗そうなのがメイ」




腰を落とし、ベッドの上に座り込む私に視線を合わせながらリジーは告げた。


ストックホルム症候群とでも言うのであろうか、どこか乱雑な言葉遣いでありながらも、その少女に安心感を覚えた私は少しずつ己の内に在る恐怖を薄めていた。


リジーの言葉に対し彼女を鬼のような形相で睨みつけるメイと言う少女の事は除いて。



「あの…あなたたちは……」



「まだゆっくり話してる時間は無いんだ。悪いけどちょっと攫われてもらう」



私の問いかけを静止するように、彼女はそう告げて私の右腕を取った。


空いた方の腕で自身の背中へと手を伸ばした彼女の手には金属製の棒のような物が握られている。


彼女が身に着けた鎧のような衣服の背中部分から取り出されたそれが斧の一種であることを理解するのに時間は掛からなかった。




「手、動かすなよ。怪我するぞ」




腕を切り落とされるのかもと一瞬恐怖した私を知ってか知らずか、リジーは私の右手首を拘束する手錠に視線を落としてそう告げた。


それを聞いて安堵した私は無言でうなずいた。



金属と金属がぶつかり合う音。



僅かな衝撃を経て、私をこのベッドに拘束した鎖が断ち切られる。


手錠そのものは依然私の手首に着けられたままであったが、それでもマシだろう。


そうして手に入れた小さな自由を確認するように、私は右腕を動かして見せる。



「あ、ありがとう……」



おどおどと、それでもまだ不安の消えない私は呟くように感謝を口にする。


元々の立場を考えればそれもおかしな話であるが。



そんな疑問を他所に、リジーは私に視線を合わせてウインクした。




「さて、それでは行きましょう。貴女に――――



「選択肢は一緒に来るかここで死ぬかとか言うつもりだろシャル。そういうとこだぞ!こういう時は黙って連れてくんだよ!」



「う………」




私の拘束が解かれた様子を見たシャル。


彼女の言葉を遮りながら告げるリジーは彼女を睨みつけていた。


それはおそらく図星だったのであろう。


先程の血に濡れた姿が嘘のように、彼女は慌てた様子で引きった笑みを浮かべていた。




「さ、歩けるか?ゆっくりでいいから行くぞ」




そう言って私へ手を差し出したリジー。


彼女らが何者であれ、シャルの意図を汲むに私に選択の余地は無いだろう。




そうしてリジーの手を取った私はベッドから足を下ろし、ゆっくりと歩き出した。







何発もの銃声が鳴り響き、茜色に染まった空へと消えていく。



木を削り、石を削り、鉄を削る。



彼女らに向けられた何丁もの小銃は止まることなく弾丸を吐き出し、射線上に並ぶあらゆるものへ暴力の雨を降らせていた。




「Сука!!あいつら見境なく撃ってきてんぞ!!!」



「リジー!!悪態つく暇があったら手を動かしなさい!!」




横開きの大きな二枚扉ゲートを抜けた先、その工場の正面玄関となる大きな広場で銃撃戦は行われていた。


扉を抜けてすぐに積み上げられた幾つかのドラム缶に背を預け、四人は身を寄せ合いながらその身を守っていた。



広場に隣接する一本の道路に三台の貨客兼用車を停め、車体でその身を隠しながら20人余りもの掃除屋達が彼女らを亡き者にせんと得物を弾き続ける。



彼らを寄せ付けぬ為、定期的にその身を乗り出して小銃による牽制射撃を行うメイと、早々に諦めた様子で得物の弾倉を交換するリジー。


リジーへ怒りを露にするメイの声は虚しくも殆どが銃声により掻き消されていた。




「Чёрт возьми!!!どいつもこいつも()()()()弾きやがって!!!!あたしがほんとの祖国の味を味わわせてやろーか!!!!!」




弾倉を交換し終えたリジーは手にした得物ベレスクを水平に構え、バリケードの上から身を出して横なぎに得物を弾いた。


その怒りが届く事無く掻き消されるように、それらの銃弾もまた彼らの盾とする車体に飲み込まれて消えた。



偽物ノリンコに対する憎悪だけは恐ろしいわね……それよりシャル!例の物は手に入ったの!?」



「ええ!!無事に手に入りました!!!あとはここを脱出するだけです!!!!!」



メイはリジーを見つめて小さく呟いた後、乗り出していた身を戻してリロードを行いながらシャルへと問うた。


対するシャルは手にしたばかりの無線機をメイへと見せ、すぐに自身の身に着けた弾帯へそれを取り付けた。



「!!………」



風を切る音を奏で、件の少女のすぐ横を通り抜けた一発の弾丸。


耳を抑えて小さく座り込む少女は「ビクっ」と身体を震わせ、地面に空いた穴を見つめた。



「牽制射撃です。私達はともかく、貴女が狙われる事はありません」



少女の怯えた様子を見たシャルがそっと、彼女の肩に手を触れて耳元で呟く。


対する少女は地面を見つめたまま無言で頷いた。



少女の身柄がこちら側にある以上、爆発物による攻撃が行われる事は無い。



だが、生死の境を彷徨ったばかりの少女が満足にその足を動かせる筈は無く、施設からの脱出を試みたと思えば気が付いた時にはこの壮絶な銃撃戦が行われていた。


ホルヘが彼女達と対峙する前、状況を察して要請した応援が到着したのだ。



少女を安心させんと先の発言をしたシャルだったが、対する少女は疑問を浮かべていた。



幾ら本格的な攻撃が行われないとはいえ、この状況からどう脱出するのか……と。



素人目から見ても絶望的でジリ貧な状況。


いつまでたっても自信を胸に余裕を見せる彼女達を見て少女は困惑するばかりであった。




しかし、その疑問に答えるように――――


銃撃戦が繰り広げられるこの広場に違和感とも言える、一つの変化が起こり始めた。




大地が揺れていた。




地震のように大きなものではなく、地に響く僅かな振動。


一見不規則のように思えるも、ある一定の規則性を持ちながらそれは伝達する。


それはまるで、一定の()()()を刻むように。




「お迎えが来たようです」




その違和感に気が付いたシャルが告げる。


顔を上げ、微笑みながら虚空を見つめて。




徐々に大きくなる振動。


耳を劈くような銃声に交じる重低音。




その音の正体がある一曲の()()である事に気が付いた時には、あれだけ煩く鳴り響いていた筈の銃声が全て止んでいた。





<< フリーク達は何処だ? >>





今日一番の轟音を奏で、広場を囲むように設けられたフェンスが崩れ落ちる。



大きく開いた歪な穴から広場の中心へ飛び出した一台の高機動多用途装輪車両ハンヴィー


それは高らかにトランペットの音を奏でながら男達へ弾薬の雨を降らせた。





BRATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATA―――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!





車体の天井部に設けられた機銃席から身を乗り出し軽機関銃ミニミを弾く金髪の少女。


満面の笑みを浮かべ、幼い少女は叫ぶ。




「WELCOME TO THE CIRCUS !!!!!!!」




< 装備構成用設定資料 リジー >


銃器[主]: СР-2 Вереск


弾薬: 9x19mmパラベラム弾


トップマウント: Eotech XPS3-2

サイドマウント[右]: ZENIT 2P KLESH

サイドマウント[左]:


負紐: 1点 BK


----------------------------------------


銃器[副]: MP-443 Грач


弾薬: 9x19mmパラベラム弾


アンダーマウント: ZENIT KLESCH MINI


----------------------------------------


防弾着: M2プレートキャリア (OD)


正面[カンガルーポーチ]: 3本分のAKマグ(5.56x39)が収納可能

正面[モール] : SR-2M用 4連マグポーチ

正面左[ベルト]: PTTスイッチ


左面: ラジオポーチ

右面: 2本分のグレネードポーチ


背面[下部]: ユーティリティポーチ

背面[上部]: トマホーク用シース


----------------------------------------


弾帯: 分離型 モールシステム (OD)


左面 : MP-443用二連マグポーチx2

右面 : MP-443用 CQCホルスター

背面 : ダンプポーチ

背面[右]: カランビット用シース

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ