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Delivery Bullet☆  作者: G
中部 フィフス・ハーモニー編
35/35

集結



「ほら、キビキビ歩くのよ。両手を組んでそこに伏せなさい」



建物の屋上部。


晴天の空が二つの影を照らし出す。


榴弾フラグによりその身を歪め、大きな穴を覗かせて鉄の残骸となった給水塔が無惨に転がっていた。


その傍らで拳銃を突きつけるメイと、地面にうつ伏せで倒れたアルの姿が在った。



「うぅ……なんでボクがこんな目に…」



根城を吹き飛ばされ、拳銃を突きつけられながら脅迫されるアルが愚痴をこぼす。


彼女は先の戦いで拠点とした給水塔に敵の無線を傍受する為の通信機器や、手駒のボットを操作する為の電子機器を持ち込んでいた。


敵の無線を傍受・妨害することで撹乱を行い、標的に定めた相手を()()()()()()()()()()()位置から追い詰める。


それは、仲間の補助バックアップを行いながら同時に攻撃を展開し維持するということ。


それが彼女の役割と戦術であり、絶対的な神の俯瞰とも言える優位にはもはや快感すら覚えるほどであった。




その頭上から爆弾を放り込まれる、その時までは。




「な……なんでボクの居場所、バ…バレたの……?」



「さて、どうしてかしらね?少なくとも、私の小間使はあんな従僕ポンコツに遅れを取らないわ」



おずおずと問うたアルに、メイはポーチから樹脂製の手錠ハンドカフを取り出しながら答える。


彼女の問について、メイの使役するドローンの持つ先の戦闘で見せた物とは異なる形態が鍵となるが、彼女がそれを知る由もない。


もちろん、それを正直に答えてやる意義も。



やれやれといった面持ちでメイはアルの腕を拘束した。



「ところで、無線を妨害してるのはアナタの仕業?私の投げたフラグでその設備も壊れ────


───くっさ!!!!!!!」



彼女を拘束しようとその背に身を寄せた瞬間、メイは咽せた。


嗅覚を強烈に刺激する酸っぱさと、何十倍にも濃度を増したニンゲンの香り。


蒸し風呂状態の密室に閉じ籠もり促された発汗と、皮膚に浮き出た皮脂の織りなす合体技。


年相応の少女の物とは到底思えぬ程の生臭さと、ほのかに香る()()()()のような臭いを彼女は醸し出していた。



「……え?…エ゛ッ!!!?」



彼女から飛び退き、涙を浮かべながら鼻を押さえたメイに彼女は戸惑いを隠し切れなかった。


動揺に疑問の声を上げ、メイの言葉の意味を察して羞恥に頬を赤らめる。


すぐさま彼女は身を起こすと自身の両腕を上げ、腋窩の臭いを確認した。



「そんな非道いこと言わなくてもいいじゃ゛ん゛か゛ー!!うぅ……ボク臭くない?臭くないよね!?」



「いいえ最悪よ。蒸れた日のリジーの足より臭いものはこの世に無いと思っていたけれど、アナタのそれはもはや……殺人級ね」



未だ若干咳き込みながら、メイは自身の顔半分を左腕で覆った。


その表情は怒り半分、呆れ半分といった面持ちで、メイは再び彼女へ拳銃を向ける。



再び捉えた彼女の姿。



やせ細ったガリガリの身体、伸び切ったままのボサボサの髪と、首元に残るマイク状の機械。


一枚のみ羽織られた汚れが目立つ白のキャミソールに、若干垂れた小振りな胸部。


裸足に纏った下半身の衣類は黄色のワンポイントが目立つ純白のショーツのみだった。



その出で立ちから推測される彼女の性格と不衛生さ。



臭いの原因を理解するには十二分な程であった。



「もういいわ。自分で結びなさい」



メイはそう言うと、投げやりに手錠を地面へ放った。







「愛していますよ、メイ」


「メイ、愛してる」


「この世界の誰よりも貴女を愛しています、メイ────




「ちょっとこれスゴイじゃない」




眼を輝かせ、鼻息を荒くしながら首元のマイクへと発声し続けたメイ。


そのマイクにはメイの持つ無線機が接続され、出力された音声はシャルの物と瓜二つであった。



「……これ、なにか別の媒体に録音はできないの?」



「エ、ぁ…うん…なにか書き込み出来るハードにその端子を繋げればできるよ……ヘヘ」



メイの圧に、アルは苦笑いを浮かべながら答える。


あの後、その場で無線の傍受が解除されている事を確認したメイはリジーとサツキへ連絡を取った。


幸い仲間は全員無事で、奇しくも捉えた敵を移送する為行動を起こす手前であった。



部隊の敗北を知ったアルは僅かに動揺した様子であったが、全員が命までは失っていない事を把握すると安堵を浮かべていた。



そこから階層を上り、開けたスペースへと歩みを進めるまでの十数分間、二人は歩幅を合わせ横並びに歩いていた。



「ボ、ボクも聞いていい……?メイのボット、すごくかっこよかった…あんなのボク、見たことなくて…それで……」



「……仕方ないわね。見るだけよ」



もじもじと言葉を選ぶアルに、メイは小さく溜息をついて自身の腰の右側に装着された操作端末コントローラを手に取る。


小さな長方形の板。


その面上に並ぶ小さなボタンを操作し、メイは魔女を展開した。



小さく羽音を立て、先の戦闘で目にした物が空を舞う。


魔女たちはアルの頭上を僅かに飛び回った後、メイの背負うバックパックへと帰巣した。



数秒程度の演舞。


それでもアルは笑みを浮かべ、無邪気にその光景を楽しんだ。



「あ、ありがとう……ボク、ボクね。最初は殺されるかと思った。怖かったけど…ボクが戦ったのがメイでよかった…」



照れた様子でアルは呟く。


まさかそんな言葉が飛び出して来ることを想定していなかったメイは驚いた表情を浮かべていた。



「何言ってるのよ。貴女と私は敵同士よ。貴女達がどういう組織なのかは知らないけど、それは自覚しなさい」



「……………まぁでも、少なからず貴女の臭いには慣れてきたわ。それだけよ」



歩く速度を上げ、アルの一歩先へ出たメイ。


背後からその表情は伺えなかったが、アルは少しだけ暖かな気持ちを抱いていた。



メイはふと、自身の行いを思い返した。



戦闘を終え、仲間との連携を阻害していたこの少女を無力化し、当初の目的は果たされた。


その先での少女とのやり取りを経て、自身が抱いた感情は何であるのか。


また、敵となる少女への処遇は適した物であったのか。



少女、否───アルと仲良くなることができたのかもしれない。


敵同士という関係性を超えて、一人の少女同士として。


それはもちろん、結果だけを見れば。



自身の使役する魔女を彼女が見たとき、その瞳に曇りはなかった。



きらきらと眼を輝かせ、その瞳は闇を知らぬ無垢な子供のようであった。


それだけを見てメイは判断し、確信した。



だがその顛末は、シャルが望むものであるのか。


彼女の一言次第では綺麗に感情を切り離し、躊躇いなくその指先を動かそう。



メイにとってはそれが全てであり、この感慨はその覚悟を確認する為であった。


そして、それは今なお揺らぐことはなかった。



「お、メイじゃねぇか」



曲がり角。


目的の広間へと続く廊下の分岐点一歩手前で人影が飛び出す。



そこには意識を失った幼い少女を背負うリジーの姿が在った。



「あらリジー………その様子を見ると、結構手を焼いたみたいね」



メイの姿を捉えるや否や、笑みを浮かべて手を挙げたリジー。


彼女の衣類は所々が切り裂かれ、僅かに見えた皮膚には細く長い赤の線が見えた。


刃物による近接戦闘の跡。


彼女の得意とする戦いで彼女がそこまで切り刻まれる事は珍しい。



「なんだよ、そういうお前は結構余裕そうじゃんか。あたしはてっきり────


───くせぇ!!!!!……え?めっちゃくせぇ!!」



リジーは二度言った。



「はぁ、そう初対面で失礼な事を言うもんじゃないわよリジー。人には人の事情があるのよ」



リジーの様子を見たメイは含んだ笑みを浮かべてアルを見る。


内心、リジーも同じ反応かという安堵を浮かべながら。



アルはリジーを目視した途端にメイの後ろにその身を隠し、一瞬怯えた表情で経緯を見守っていた。


メイの言葉に心底不満げな表情を浮かべて彼女を睨みつける。




「なに言ってんだ。お前だよメイ。お前めっちゃゲロくせぇ」




リジーはメイを指さしてそう言い放った。



アルとの戦闘の最中、彼女が操作するチャーリーに閃光手榴弾を放ち、その後に盛大に嘔吐した事を思い出すメイ。


激臭に対し鼻が麻痺しているアルは気にも留めず、当事者は己の臭い故に気づく事が無い始末。


事実、メイの纏う衣服からは酸っぱい刺激臭が漂っていた。



「リジー!!!あんた!!乙女に向かってなんて事言うのよ!!!!」



顔を真っ赤に染め、慌てふためきながら怒りを顕にするメイ。


アルはそんな彼女を勝ち誇った様子で見つめていた。



「メ、メイ……レンは…生きてるんだよね…?」



リジーに拳銃を突きつける勢いのメイの服をアルが引っ張った。


おずおずと、不安そうな面持ちで呟くように問うた彼女。



その様子にリジーは目つきを変える。



「あぁ、殺しちゃいない。だけどお前らを接触させるのはナシだ」



その言葉にはアルへの警戒が含まれていた。


レンの意識が無いと言え、敵同士を接触させる事で生じるリスクは少なくなかった。



「アル。嘘じゃないわ。貴女の他の仲間もじきここに来るし安心しなさい」



「う、うん……よかった。確認したかっただけ…」



二人のやり取りをリジーは無言で見つめていた。


敵や他人に気を許すことが少ないメイが気にかけている少女を見て、その意中を推測する。


なにかあったのか、単なる気まぐれか。


どちらにせよ然るべき時が来た際にその感情が邪魔にならなければいいと、彼女は自戒とも言うべき懸念を抱く。



そんな時だった。



僅かに荒い息遣いと、重い足取りで地面を踏み近づく足音。


気配に警戒した様子を見せたメイとリジーだったが、その緊張はすぐに解ける。



「Hi!リジー!メイ!元気そうだね!!」



分岐点のもう一方、廊下の角から姿を現したのはアイリスと………



片目に巻かれた包帯に血を滲ませ俯く少女。



彼女は表情を曇らせ、為す術もない現実と抗うことの叶わぬ悔しさに、握る拳を震わせていた。


そして最後に姿を現したサツキが背負う、もう一人の少女の姿。



「あーあー、ほんとに生きてんのかこれ」



サツキの背負うコールの姿を見て一瞬固まった空気。


最初に口を開いたのはリジーだった。



「生きてる生きてる。ここまでするつもりはなかったんだけどね……」



目前で佇む隻眼の少女への警戒を続けたまま、申し訳なさそうにサツキが告げた。



「ジ、ジューン!!コール!!!」



メイの元を離れ、アルが駆け寄った。


汗を流し、慌てた様子の彼女。


その心中を察するのは難しくない。




「Fleeze」




冷たく、たった一言放たれたアイリスの言葉。


アルが動き出すのを確認した彼女はすぐに拳銃シグを取り出し、その銃口を彼女へ向けた。



アルと同い年程の少女。


金の髪に、幼さの残る顔つき。



その出で立ちからは想像できぬ程の威圧感を彼女は放っていた。



「ぅ……あ……」



その様子にアルは立ち止まる。


手足を震わせ、無力に言葉を詰まらせて。



「アル。大丈夫。何も心配いらない」



アイリスの様子を伺いつつ、小さくジューンは呟いた。


アルを心配させまいと、力なくも小さな笑みを浮かべて。



「それにしても珍しいわね。二人が生かして連れてくるなんて」



メイはそう呟いてアルの肩へ手を伸ばす。


その身を引き寄せ、少しの力を指先へ込める。


ジューンの気持ちを汲み、アルの身を案じて。



「結構手こずっちゃったのもあるけど、アイリに怪我させたから……思わず…」



「はいはい、もう4万回は聞いた。その執拗ささ、相変わらず人狼ウェアウルフの血が抜けてねぇんじゃねーの?」



「リジー!その話は無し!!シャルも余裕があれば生かして連れてきてねくらいのニュアンスだったし、現に生きてるんだからセーフセーフ!!」



まいった様子でリジーの言葉を遮り、肩の傷を指差すサツキと、アイリスの右目を覆うガーゼ。


二人の言葉からその経緯は容易に想像できた。



「Wait a minute!サツキが人狼だった時の話!?聞きたい聞きたい!!」



「ほら!アイリがスイッチ入っちゃったでしょ!!!」



サツキの服を両手で掴み目を輝かせるアイリスと、それを振りほどかんと必死に彼女を制止するサツキ。


そして、激しく揺さぶられるコール。


彼女の様子を心配そうに見つめたアルとジューンを他所に、リジーとメイは引き気味であった。



この戦場へ到達する手前、車から降りる直前にシャルは伝えていた。


敵と相見えた場合は、()()()()()()()()()()という命令を。



今回のような、情報を得る事も目的とされる戦闘では度々ある事ではあった。


執行官という闇に包まれた素性を明かし、敵組織の裏を探るため。


あるいは、謎多きムスターマンという人物への信頼の指標を探るため。



硬く口を閉ざすであろうミラの口を割る為、少女達は()()として集められたのだ。



とはいえ、今までこういうケースで命令を忠実に遂行したのは殆どの場合メイだけであった。


彼女ではないが、敵全員が死亡していないというのは本当に稀な事であったのだ。



───そして、最後のピースは揃う。



その場に居る仲間達全員の無線機は同時に声を上げ、完全なる勝利を顕にする。


嬉々とすべき結末に心を躍らせたアイリスは直ぐに返答を告げた。



「やあ皆さんお揃いで」



ほどなくして、最後にやって来たのはシャルだった。


満面の笑みを見せて告げた彼女とは対照的に、怒りすらなく悲嘆を浮かべるままのミラ。


ただ敗北に打ちひしがれているわけではない。


仲間を人質に取られている事よりも、彼女の様子は確固たる自信を完膚無く砕かれた者のそれに見える。



シャルの登場に視線を移した仲間たちはみな、彼女らしい結末だと笑った。



「──ところで、エミリアは………」



きょとんとした様子、それでも僅かな不安から若干言葉を詰まらせて彼女は問うた。



「………………あ」



ハッとした様子でみるみる青ざめていくメイ。


彼女は完全に失念していた。


その失態は戦闘に集中しすぎた余りか、巡るめく出来事に意識が逸れたが故か。



シャルの前で大失態に気づくメイは感情の行き場を失くし、半ばパニックに陥りながら涙を浮かべた。



「シャル、私……ごめんなさい……」



「あわあわ、大丈夫ですよメイ。貴女を責めたりしません。あの子ならどこかで身を潜めてでもいるのでしょう。みんなで探しに行きましょう!…ね?」



ぐすぐすと声もなく泣くメイ。



普段見せている彼女の姿とはあまりに異なる様子に、その心の内を察するのは容易い。


シャルはすぐにメイへ駆け寄り、その身を抱いて頭を撫でた。




「メイ。なんだか今日は酸っぱい匂いがしますね」




………辺りを沈黙が包み込んだ。




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