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Delivery Bullet☆  作者: G
中部 フィフス・ハーモニー編
33/35

カウンタースナイプ


コンクリートの床を空の弾倉が転がった。


小さく音を響かせ、1,2回と跳ねた後に停止する。


それを見届けて、己の持つ残弾を確認したサツキは表情を曇らせた。



何十、何百発と携行した筈の銃弾は底を尽き、残るは手にした拳銃と異なる口径の物だけ。


そして、それを装弾可能な得物は無残にも敵の足元付近でくつろいでいる。


絶望的と言わざるを得なかった。



肩の傷が痛む。


ガーゼに血を滲ませ、じんじんと痛みを響かせる。



「…………アイリ、拳銃シグを貸して」



「What…?サツキ、どうするの?」



小さく、表情に確かな哀愁を隠しながらも語りかけるサツキに、アイリスは不安を抱いていた。


何をするつもりなのか。


その拳銃を何に使うつもりなのかと。



「……………私が、私がアイツをどうにかする。その隙にアイリはリジー達を探しに行って」



「Are you serious!?サツキ、何言って────



「私だって馬鹿なことだってわかってる!!でも、でもこのままじゃ二人ともやられるよ!」


「私はいい!でも、でも……アイリが殺されるのだけは絶対に嫌だよ………!!」



サツキは動揺していた。


先の顛末を悲観し、その目に涙を浮かべながら。



「アイツのポーチにM67が入ってるのが見えた。これ以上アイツを近づけたら木っ端微塵にされる……」


「ごめん……ごめんアイリ………」



「サツキ」


「………?」



乾いた音が響いた。


振りかぶったアイリスの小さな手は、力いっぱいにサツキの頬を捉えた。



「Stupid!!バカ!それでサツキが死んじゃったらどうすればいいの!!?自分のこと考えないで突っ走ろうとして!!私だってサツキが殺されるのなんて嫌に決まってるでしょ!!!バカバカバカ!!!!」


「…………アイリ…」



鳩が豆鉄砲を食らった様に、唖然としたサツキはただアイリスを見つめていた。


泣きじゃくる様に心の叫びをあらわにし、その両腕はポカポカとサツキの胸を叩く。


そして、サツキは己の愚かさを痛感した。



自分が傷つき、死ぬことの意味を。


自身が告げた言葉がどれだけ彼女にとって辛い言葉であったかを。



この世界に一人、()()()()()()恐怖を。



「……ごめんアイリ。ちょっと、焦っちゃった」



「……Stupid。いいから、早く二人でアイツらやっつけよ」



そこで二人は手早く状況確認を行った。


現状として、残された弾薬はアイリスの持つ拳銃の予備弾倉が一本と、拳銃内に残る残弾が半分ほどだけ。


サツキは軽機関銃ミニミ用の弾倉を一箱持っているものの、銃本体は被弾の際に喪失。


アイリスの狙撃銃の現状については言うまでもない。


それ以外は各々の持つナイフが一本ずつと、手榴弾がいくつかあるのみだった。



戦況は圧倒的にこちらが不利。


このフロアの最奥となる事務室に追い詰められ、この部屋から外へと通じる経路は窓と扉一つ分の出入り口だけ。


その出入り口はコールの弾幕によって封じられ、窓からは得体の知れない狙撃手スナイパーの視線が覗く。


更に言えばいつ室内を手榴弾によって吹き飛ばされてもおかしくないというオマケ付きだ。


そんな中で、二人が最初に狙う標的は……



()()()の方であった。



「……狙撃手の方?」



「Yes…最初に狙撃された時、気配を感じなかった。私の勘だけど、狙撃手は窓の方に一人いるだけだと思う」



狙撃手を叩きたいと告げたアイリスにサツキは疑問を浮かべる。


対するアイリスはその理由を説明していく。



「一発目と二発目で口径が違った。一発目は二発目より小口径で、何か遠隔で仕掛けか何かを操作して狙ったんだよ。たぶん位置をごまかすために」


「サツキが撃たれる時、何かすごく嫌な予感がしたんだ……そうとしか、説明できないけど…」



「アイリが言うなら間違いないよ。でも肝心の位置は?」



「Maybe…1kmくらい先の山の斜面あたりだと思う」


「サツキが撃たれた時の弾丸、窓のガラスと日よけにほぼ垂直に入ってきてた。その弾痕とサツキの傷を見るに、貫通力の高い弾を使ってると思う」



「……50口径か、338……」



「Yeah, そう。.338ラプアマグナムだと思う」



前時代において、軍事的な兵器および武器、装備の開発は目まぐるしく行われた。


幾度かの戦争を経てその需要は大きく高まり、日々強力な力を持つ武器が生まれていたのだ。


決して壊れぬ信頼性。


瞬く間に敵を殺傷する攻撃性。


あらゆる局面で使用可能な汎用性。


需要となる要素はその時々で異なったが、その一つにこんな声があった。



『強靭なボディーアーマーを長距離から貫くことができる弾薬が欲しい』



進歩を続けたのは武器だけではない。


敵の攻撃から身を守る為の防具もその性能を向上し、武器の歩みと共に防弾性能は進化を続けた。


そこで生じる矛盾。



()()()()を貫く()()()()が欲しいと。



進化の果てに求められた声は圧倒的な矛盾を孕む更なる力であった。



そして、それは生まれた。


1〜2kmの空を高速で駆け抜け、幾重にも折り重なる鉄壁の防御を貫く鋼鉄の槍が。



結論を言えば、アイリスの推理は当たっていた。


ジューンの持つ得物、TRG-42。


前時代において軍や準軍事組織に配備された狙撃銃だ。


流動的なフォルムを持つストックからフレームにかけて、真っ直ぐに伸びるバレル。


大きく存在感を確かにするマズルブレーキ。


その全てにおいて長距離の狙撃を目的とし設計されたモデルが彼女の武器だった。



「Trust me…アイツはあそこにいる。今も、今までも。あえてここまで私たちを追い詰めたんだ」



固唾を飲んでアイリスは告げる。


こと狙撃において、狙撃手は標的に居場所を知られてはならない。


相手に居場所を悟られる事なく、相手からの反撃の可能性を無とし、亡霊のようにその命を摘む。


仮に敵へ居場所を知られたとすればすぐに位置ポジションを変える事。


それは狙撃手という役割に課された鉄則である。



だが、ジューンが狙撃位置を変える事は無かった。


それは言わずもがな……



『標的から攻撃を受ける可能性が消滅しているから』



サツキの持つ得物の有効射程距離を超え、アイリスの持つ狙撃銃は()()を失っている。


彼女はただ、残された仕事を遂行するのみである。



サツキはわずかに窓から顔を覗かせ外を見た。



窓の外。


立ち並ぶ大小の廃屋ビルに、その隙間から遥か彼方に顔を覗かせる山の斜面。


純粋にこの室内へ狙撃可能な場所という括りであれば選択肢はいくつもあった。


このビル以上の廃屋や、少し離れた場所に佇む給水塔の上。


だが、その中でもその場所は一番遠い場所に位置する。



それだけの距離を狙撃し得る自信を敵は持っている。


そして、その自信に遅れをとらぬだけの確かな技術を。



「サツキ」



アイリスが呼びかける。


その表情は強かに。


強い眼差しには覚悟の火が灯る。



「その表情かお、何か思いついた?」


「Yup, とびっきり大きいカウンターパンチをね」



アイリスの表情にサツキは笑みを零した。


アイリスもまた、その口元に八重歯を覗かせながら答える。



「オーケー。やってやろうじゃんか」



サツキの言葉を最後に、二人は拳を合わせた。







「ジューン!予定の位置まで着いた!あんたの負けだよ!」



声高らかに、コールは笑みを浮かべながら通信機へと語りかける。


その手には手榴弾が握られ、今まさに安全装置ピンを抜かんとしていた。



二人の間で小さな賭けが行われていた。



内容は至極単純。


どちらが先に獲物を仕留められるか。


言い換えれば、相手が痺れを切らして廊下に飛び出るか、狙撃位置を割り出そうと窓から顔を覗かせるか。


そのどちらかであった。



だが、結果としてはコールの持つ手榴弾が決め手となりそうであった。


その結末をコールの得点とするかノーカウントとするかで小さく議論が行われたが、話は前者でまとまった。



手榴弾は金属音を奏でた。



ピンが弾け、放たれた安全装置は地面へと転がり落ちる。


宙を舞った球体は地面を一度跳ね、吸い込まれるように敵の潜む室内へと転がる。



その直前、聞き慣れぬ音が聞こえる。



「シューーーー」



と、何か霧状のものが吹き出されるような音だった。


そんな異変に対してわずかに警戒したコールであったが、その正体はすぐに判明する。



室内から入り口にかけてじわじわと漂う白い煙。


発煙手榴弾スモークグレネードによるものだった。



「ハハ、無駄な足掻きだね」



その状況をコールはそう結論づけた。


ジューンの狙撃から身を隠そうと敵が放った物だと。


そしてそれが遅すぎる足掻きであった事を笑った。



数秒の時を経て、手榴弾は爆発した。



轟音を響かせ、その衝撃に壁を、床を揺らして。


室内にあったであろう石や木を四方八方へと飛散させる。



物陰に潜みながら敵の断末魔を聞こうと聞き耳を立てたコールであったが、聞こえたのはけたたましく響く爆発の残響だけだった。



時を同じくして、ジューンもその光景を目視する。


彼女の目に装着されたデバイスはコールの身につけたカメラの視線をジャックする事が可能であった。


スコープと、カメラ越しに映る景色。


白煙に隠れながらも、逃げ場なく室内を満たした衝撃に彼女は敵の死を確信する。


コールではないが、その最期は静かな物であったと感慨を浮かべた。




だが────




彼女が捉えた物はそれだけではなかった。


風によりわずかに晴れた白煙。


室内ではなく、()()()にそれは在った。



スコープ越しに表情を捉えた。



八重歯を覗かせ、勝利を確信するように笑みを浮かべた少女の姿を。



「コール!!!!!!」



それが、その戦いで彼女が最後に発した言葉となった。



スコープが割れた。


いつかの再現と言わんばかりに、飛来した弾丸はスコープを捉え、レンズを貫きながら侵入する。


ただ、先と異なる点があるとすれば……


それは彼女に逃げる隙を与える事なく、その眼までをも貫いたという事。



その身を衝撃が襲った。


眼球から脳を揺らすように伝播するエネルギー。


身体を大きく後方へ仰け反らせ、金属片と流血を散らせて倒れこむ。



彼女の装着した機械の眼球にはぽっかりと穴が穿たれていた。



────


───


──



彼女の呼びかけを、コールは確かに耳にしていた。



「ジューン!!ジューン!どうしたの!?応答して!!」



焦る彼女の呼びかけに、答えはない。


彼女に何があったのか、それもまた彼女にとって知る由もない。



彼女は恐る恐る歩みを進めた。



得物のグリップを強く握りしめ、研ぎ澄ました神経で万事を見逃す事なく。


そうして室内へと覗かせた視線に映ったものは……



人影なく、伽藍堂となった室内だった。




ジャリ──────




彼女の背後で音がした。


地面に散らばったガラス片を踏みしめる音。


そこにある、確かな生き物の気配を。



「後ろの正面だあれ」



知らない唄。


どこか懐かしく、哀愁に満ち、おどろおどろしく不気味な。



咄嗟に彼女は振り向く。



頰を伝った汗は宙を飛び、恐怖にも似た動揺を浮かべる彼女は見た。


地面に滴り落ちた流血。


自身の血で真っ赤に濡れた腕で斧を振り上げるサツキと、廊下の端に設けられた、開け放たれたままの消火設備を。



斧が振り下ろされる。



力いっぱいに。



その挙動一つ一つにあふれんばかりの憎悪と怒りを込めて。



力任せに彼女の背負う弾薬箱を切り裂く。



金属と金属がぶつかり合い、大きく火花を散らせながら。



表面に走る亀裂は大きさを増す。



薄暗い廊下には鈍い衝撃音と、息を切らしながら斧を振るい続けるサツキの呼吸音が響き続ける。


その最中だった。


地面に伏せ、身体を震わせながら蹲るコールの体を()()がのしかかる。


感じた事のない、感じる事の無い筈の重量感。



それが表すのは、自身の身につけた機械が活動を停止したという事に他ならない。



コールの表情が青ざめる。



奇しくも背中を守る盾となった弾薬箱。


それが切り刻まれ、致命的なダメージを負った事に。


その刃が、そんなところにまで届いてしまった事に。




「うわあああああ!!!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!!!」




彼女は叫ばずにはいられなかった。


脳へ木霊し続ける金属音とサツキの気迫に押されて。


自身の行いを悔いずにはいられなかった。



刹那───



何かが折れる音が聴こえた。


金属音でありながら、歪曲に悲痛を露わにした不協和音を奏でて、それは地面を転がる。


サツキの持つ斧が折れた音だった。



「お前の……!!お前のせいで!!!!」


「アイリがどれだけ辛い目に遭ったかわかってんの!!!?」



彼女は自身の心の奥底、深い深い深層心理に恐怖にも似た皮肉を感じた。


敵の、サツキの持つ認識。


彼女の持つ価値観もまた、酷く歪んでいると笑いながら。




サツキは倒れたコールの上に馬乗りになる。


その胸ぐらを掴んで上体を起こし、恐怖に表情を歪ませた彼女の顔面へ拳を浴びせる。



一発、二発、三発………



容赦無く、決してその威力を妥協する事なく。


心に微塵も罪悪感を浮かべる事などなく。



「ごべっ!…ごべっんな゛さ゛い゛っ゛!!!!」



腫れた皮膚。


裂傷から血を滲ませ、口元からは抜け落ちた歯の痕を覗かせる。


血の泡を吐きながら、コールは懺悔を続けた。



それでも、それでもサツキは止まらない。



歯を食いしばり、目を見開き、怒りに身を委ねた鬼の形相で。


目の前にある肉の生命活動を停止させる事だけに意識を注いでいた。



「お前が……!!お前が…!!!お前が!!!!!!!」



一発、二発、三発、四発、五発……………




「サツキ」




サツキの首元にアイリスの腕が触れた。


抱きしめるようにサツキを抱え込み、両腕は彼女の胸元で止まる。


彼女の後ろ首に頰を当て、瞳を閉じたまま寄りかかる。



そして、振り上げたサツキの腕は止まった。



彼女は徐々に落ち着きを取り戻し、馬乗りになった姿勢のまま停止する。



サツキはそっと目を閉じた。



アイリスの温もりを感じながら、穏やかに。




「シャルがこいつらに聞きたい事あるかもしれないよ」



「……うん」






「……コール……コール…」



血に濡れ、震えた手で通信機を手にする。


痛みに目を抑えながら、ジューンは掠れた声でコールの名前を呼んだ。



────。




それでも、答えはない。


最後に見た光景。



ロープを室内に固定し、()()は爆発の直前に窓の外へ飛び出したのだろう。


ロープを支えにラペリングの姿勢でビルの壁面にしがみつくサツキと、その身体を正面に抱きながらこちらへと狙撃銃を構えるアイリスの姿。



考えてみれば、不可解な事が多すぎる。



照準器を失った得物での長距離狙撃、それを実現した時間の短さと、あまりにも不安定な射撃姿勢に。


逆に言えば、それを可能にし得る相手を敵にしていたという事をジューンは理解する。


そして、自身の過剰な自信や傲慢さ、判断ミスが勝敗を分けたということも。



「コール……お願い……」


「返事して……」



自身の負った傷は致命傷ではない。


長距離による弾速低下、スコープを貫いた事による威力減衰が幸いし、右目に装着された機械を破壊するだけに留められたようだ。


その矛は眼球の背後に構成される脳髄にまでは届き得なかった。


もともと過去の事故により右眼球を欠損していた彼女にとって、ゼロに戻っただけ。


今はただ、コールの安否が心配だった。




そんな時だった。




通信機にノイズが走る。


仲間の無線傍受により固定されたチャンネル。


コールにのみ通じる筈のそれから溢れた音声は、サツキの物だった。



「武器を捨てて。まっすぐこっちまで来て。じゃなきゃこいつの頭を吹き飛ばす」



そんな脅迫に、ジューンは身を強張らせた。


脳を揺らす痛みは強さを増し、全身を伝った緊張は汗を噴き出させる。



恐る恐る、彼女はポーチから小ぶりの単眼鏡フィールドスコープを取り出す。



覗く視界に映る光景。



窓から投げ出されたコールの上半身。


後ろ髪を強引に引かれ、こちらへと向けられたコールの表情は酷く歪んでいた。


意識なく閉じられた瞳、何倍にも腫れた頰や瞼。


口からこぼれるよだれ混じりの流血に痛々しく変色した痣。



そして、通信機を片手に笑顔で語りかける血に濡れたサツキの表情。



ジューンは身を震わせた。


恐怖により歯は震え、意識はその事実を必死に否定せんと呼びかける。



「待ってるからね」



その言葉を最後に通信は途絶え、ジューンは単眼鏡を手放した。



戦う相手を間違えた。


選択を誤った。


判断が悪かった。



そんな感慨が全て可愛く思えるほど身に染みた。



この世界がこんな場所で、誰かの命を奪おうとした分、見返りに降り注ぐツケは重く鋭く、何よりも冷たいと。



彼女は自身が変えようとした世界の残酷さを再認識する。




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