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Delivery Bullet☆  作者: G
中部 フィフス・ハーモニー編
26/35

自己像幻視

対峙した両者の歩みはとても緩やかであった。


コンクリートが剥き出しとなり、ひび割れた伽藍の室内。


周囲で奏でられた両者の仲間の物と思しき銃声は遠く、ゆっくりと。


それはその時すでに、両者の意識の外の出来事として捉えられていた。



「折角の機会ですもの、すぐに殺してしまうには余りにも惜しいですわ」



視線を合わせ、数メートルの間隔を開けて立つ二人。


先に口を開いたのはミラであった。



「シャル、ちょっとした余興ゲームをしないかしら?」


「いいですよ。ただ、内容を聞いても?」


「私が小さい頃によくやった遊びよ。即興で少しアレンジを加えた物だけれど、この機会には相応しいと思うわ」



ミラからの提案、彼女は余裕の表情でそれを快諾すると、ミラはそう言って微笑んだ。


前置的に遊びの背景を告げたミラであったが、話の流れを汲むにその正体は俗に言う()()()()()と遜色ないものであろうとシャルは察する。



「私たちは似た者同士よねシャル。だから()()を使いましょう?6回勝負。貴女が先に私を撃って、私を殺す事が出来なければ私の質問に正直に答えるの」


「私はシャル、貴女の事を知りたい。貴女がどこで生まれ、誰に生きる術を学び、何を想って死んで行くのか」



「貴女に興味があるの」



ミラは遊びのルールを語りながらそっと、自身のホルスターに収められたSAAを指差した。


彼女達にとってそれは第三の手足とも呼べる一心同体の殺人兵器。


それを主体に用いるルールとしては、彼女のアレンジも十分納得のいく物だろう。


ただ、遊びと呼ぶには邪悪。


それでいて大層な自信を内包する提案。


ミラの言葉を聞き終えたシャルは乾いた笑みを溢さずにはいられなかった。



「はは、自信家なんですね貴女は」


「ただ、フェアじゃない。貴女が私の質問に答える機会が無いじゃないですか。自信があるのは良い事ですが、死してなお貴女は口を開けるとでも?」



愚痴を告げるように、シャルは呆れた様子でルールを指摘した。


そんな彼女の様子にミラは僅かに首を傾げ、疑問を浮かべた様子で彼女を見た。



「何を言ってるんですの?シャル。貴女が私を殺せる筈無いでしょう?これでも私は貴女の面子に対して譲歩しているのよ?」


そういうことか、と。


自信家という言葉からリジーの姿を思い浮かべたシャルであったが、ミラはそれを遥かに凌駕している。


絶対的と呼ぶに相応しい傲慢さ。


無謀とも形容できる彼女の満ち満ちたそれに、シャルは呆れる事を通り越してただただ笑みを浮かべるしかなかった。


さながら、出来のいいジョークを聞いた時のように。


心から楽しいと思える()()だった。



「あははは、すみません。わかりました、どうやら野暮だったようですね」


「約束してください。万が一私の銃弾が貴女に届いた時、貴女には数秒生きるチャンスをあげます。その時は私の問いにも正直に答えてくださいね」



シャルにとってそれはよほど滑稽であったのか。


笑みを浮かべながら僅かに溢れた涙を拭い彼女はそう言った。



「わかりましたわ。約束しましょう。万が一、そうね、万が一そんな機会があれば何でも答えて差し上げますわ」


「交渉成立ですね」



互いの意思を再確認するように、再度笑みを交わした二人。


そんな短いやり取りを最後に両者は動き出す。


肩に掛かる負い紐を解き、ウィンチェスターを少し離れた壁に立てかけるシャル。


シャルの様子を横目に腕の機械を操作し、SAAのシリンダーを回転させながら弾丸の装填状況を確認するミラ。


たとえ視界を逸らし背を向けたとしても決して不意打ちはせず、ゲームのルールを重んじた彼女らの間には信頼があった。


それは互いに抱いた()()と呼ぶ物のせいか、純粋な性格ゆえか。


確かな事は、その胸の奥に秘められた期待感のみであった。


遊びに興じつつも、背景として確かにそこに存在する本来の目的。


それらを経た後にある信憑性は定かでは無いにしろ、互いの都合を鑑みれば今回の事の顛末を辿る上で十分な出来の手段と言える。


奇妙なモノだが、いつかこの出来事をそれぞれの仲間へ語る機会があれば全員が納得するだろう。


”ああ、彼女らしい”と。



「では、お言葉に甘えて先に撃たせて頂きます。合図は必要ですか?」


「いいえ。厳密には決闘とは違うわ。貴女の思うように、貴女の好きなタイミングで始めてよろしくてよ」



高飛車に、凛とした眼差しで告げるミラ。


視線を合わせたシャルは無言で得物の撃鉄を打ち下ろして答えた。



銃声────



室内に反響し、鼻先をくすぐる火薬の香り。


シャルにとっては申し分ない一撃だった。


いつものように自然体で。


僅かに体を仰け反らせ、ホルスターの手前で肘を曲げて保たれたSAA


目にも止まらず行われた一挙手一投足。


眼前で立ち尽くす彼女の首元を撃ち抜いた筈の未来。


だが、そんな予測とは裏腹に、シャルの耳に不純した異音が残響する。



金属音だった。



激しくぶつかり合い、内包されたエネルギーの発散先を彷徨うように磨耗し、力なく飛び散る金属片。


放たれた筈の弾丸は彼女の手前1〜2メートルほどの位置でその衝撃を打ち消されていた。


それは、自身と境遇を同じくした一発の弾丸によって。



正直に、驚きを隠しきれなかった。



シャルにしては珍しく、唖然とした表情でその結末を見届ける。


己の中では一番の自信としてその身を守り、外敵を討ち滅ぼし続けた技術。


それを見破る事はおろか、同じかそれ以上の速さを以ってその威力を相殺して見せたのだ。


精密さとスピード、双方を一つとして欠く事なく潜在させた彼女の技術にシャルは賞賛を贈る他なかった。



「素晴らしいわシャル。私、こんな事は始めてよ。貴女、とてもはやいのね」



「はい、私も驚きました。貴女の、()()()に」



嬉々として笑みを浮かべ燥ぐミラの様子を他所に、シャルは彼女の腕を包む機械を見つめてそう言った。


若干の熱を帯びた様子で、その関節部から小さな電子音を奏でる機械。


シャルの目には視えていた。


己の射撃動作を捉え、その発砲に対応するように動き出した機械。


正確にシャルの弾丸の軌道を読み、ミラの意識の届かぬ範囲でその効力を発揮させたのだ。


その証拠に、先の結末とミラの視線には若干のタイムラグがあった。


この場で真の敵となるのは彼女の技術ではなく、その技術を補完し装着者の限界以上の力を引き出すその武器であると。


その時シャルは理解していた。



「卑怯とは言いませんわよね?ここは無法地帯レギオン。そして、私はそのレギオンで右に出る者の居ない絶対的な存在の一員なのよ?」


「はい。貴女の自信とその背景にある物に今回は一筋縄ではいかないであろう事は理解していました。結果は正直予想外と言わざるを得ませんでしたが」


「ふふ、謙虚ね。貴女のそういうところ、好きよ」



「じゃあ、一つ目の質問」


「貴女、()()の扱い方を誰に教わったのかしら?」



投げかけられたミラの質問。


ルールに則ればこの展開は至極当然の流れであるが、その質問内容はミラの性格に相応しい。


シャルへの純粋な興味の他に、彼女の生い立ちや裏に就く者の存在を炙り出そうとしての物であろう。


だが同時にそれは、シャルの持つ秘匿性の高さを指し示していた。


シャルが抱える秘密は少なくはない。


生い立ちや素性、経歴、一般的な個人情報の一切を彼女はひた隠しにしている。


一部とはいえ、それは自身の仲間に対しても。


あの国で既に調べられているであろう彼女たちの中で、特にシャルの情報が少ないであろう事は想定済みだ。



「貴女たちの事ですし、それは既に把握済みなのでは?」


「貴女の口から聞きたいのよシャル。こうして相見えた私たち二人の関係で、お互いの口からお互いの事を深く曝露するのは人間関係の中でも当然の事ではなくて?」



それを知ってか知らずか、そんな推測を隠すように、あるいは露呈するようにミラは返す。



「ルール、ですものね。仕方ありません」


「……私には()()が居ました。あの人の事を家族と呼ぶのにも遜色ありません」



諦めたように、シャルは語り出す。


遠い過去の事を懐かしむように、その表情に僅かな翳りを落としつつも彼女は告げた。



「おおらかで自由に、何者にも囚われず己の持つルールにのみ従って彼女はこのレギオンを生きていました」


「今思えば、身寄りのない私を育て、教育した事も彼女にとっては気まぐれの類であったのかも知れません」



シャルの話に聞き入るように、静かにミラは彼女を見つめる。


その一言一言を決して聞き逃さぬよう。



「彼女はいつか言っていました。”()()は私の武器であり、水であり、肉であり、手であり、足であり、私という個そのものである”と」


「彼女の父や祖父から受け継がれた家訓のような物だったと思います」


「でも、それに続けるように彼女は言いました。”これが私そのものであるとすれば、相手を殺す事も止める事も全て私の意思だ。私はいつだって自由に生き続ける。こんな物は私が自由に生きる為の意思を後付けするガラクタでしかない。……だが、これでなくちゃならない。これ以外の物は全て私ではない赤の他人だ”と」


「私はこれを握る時、いつもそう語る彼女の姿を思い出します。その時点での私の境遇を思い返せば、私にとって彼女ほど自身に似た存在はありませんでした」


「彼女はこの世界で誰よりもこれの扱いに長けていました。彼女から生きる術を学び、これの扱いを学びました」


「誰よりも速く、全ての先に立つ事が自身の自由を保障し、その意思はどんな存在にも届きうると信じて────」



「あの人は誰でもない。このレギオンを誰よりも自由に生きただけの、ただの()()です」



「そしてミラ、先の一撃を交えてハッキリと理解しました」


「貴女は()()()です。貴女は決して、私やあの人と異なる存在です」




「私たちは似た者同士ではありません」




静かに、ミラはシャルの語った物語へ拍手を贈った。


目を閉じ、僅かな微笑みを浮かべながら。



「貴女の宗教は理解できましたわ。どういう過去から貴女がそれを受け継いだのかも」


「でも、私たちは似た者同士よ。同族嫌悪だとしても、その事実は曲げられないわ」



「このレギオンで、この世界で奇しくも同じ物を手に取り、同じ戦い方、他者を殺める者である貴女は私であり、私は貴女よ」



「そして、私もさっき確信しましたわ。私は貴女よりも疾いという事を──」


「ルールを変えましょうシャル、最後の一発は私から先に撃たせて頂くわ」



ミラの表情は変わらなかった。


そう語っている最中も、最後に提案を投げかけた時も。


だが、彼女の心の内に芽生えた怒りをシャルは見破っていた。


ミラがどういう理由を以ってしてシャルとの関係性に拘るのかはわからないが、ここにきて珍しく焦る様子を見せたミラにシャルは発言の撤回や修正を求めることはなかった。



彼女と私は違う()()であると。



シャルの中にあるその確信はミラの言葉で拭い切れるものではなかった。


シャルが持つ、先の過去とは異なるもう一つの理由。


今はまだそれが明かされる事はない。


しかし、シャルの中に芽生えていたはずのミラに対する興味という感慨はその時既に失われていた。



「ええ、ルールの件は構いません。とはいえ、先の話は貴女が理解できないというのならそれはそれで仕方ありません」


「最後の一発、貴女が用意した舞台でそれは身をもって理解できると思います」


「あぁ…それと、私の質問に答える準備もお忘れなく」



睨み合う二人。


遊びという名目で始まったこの戦いは、現状では遊びという定義に相応しい物であるのか。


血の流れる気配と、色濃く漂う殺意の最中。


その時浮かべた笑みに余裕を孕んでいたのはシャルの方だった。







飛び散る火花と、重なり合う金属音。


無邪気に笑みを浮かべ刃を振るう殺人者は、心底その瞬間を楽しんでいる様子であった。



「あはは!あははははは!!」



止まることを知らぬ連打。


触れれば確実に命を摘まれるであろう一撃一撃に、焦りを浮かべた様子でリジーは対応し続けていた。


頰を伝う汗、見る見る内に切り刻まれる衣類。


終わることのない危機感にリジーはその打開策を探し続ける。



そんな時だった。



到底届きうる筈の無い距離から大きく振るわれた一撃。


その挙動の最中で一瞬にして加速され、収縮した距離感は触れる事の無かった現実を彼女の胸部目掛けて露呈する。


致命傷となり、一撃の必殺として在る技がジャブの要領で小出しされる恐怖。


その緊張感はすぐさまリジーを防御の姿勢へと転換させ、彼女は成す術なくその事実を受け入れる。



だが、それはフェイクであった。



寸止めとして、元の現実のままに。


それは当然の事のように触れる事がなかった。


当たり前だ。


初動から既にそうなる事は明らかで、リジーもそれを理解していた。


だが、それはこの命のやり取りの相手が忌わしく憎たらしいあのクソガキでなかった場合に限る。


またしても、一瞬にして捻じ曲げられた現実。



リジーの一歩手前で全ての身体的行動を停止させたレンは、再度その脚に装着された機械を始動させる。


先の一撃を受け止めるため、両手で得物を握ったリジーはその時どんな表情を浮かべていたか。



()()()()と言うには、そのクソガキの前ではあまりにも遅く。



圧倒的な力を以って加速されたレンの右足はリジーの顎先目掛けて飛躍する。



衝撃だった────



リジーにとってその日最初のクリティカルヒット。


大きな失点は痛ましい程の打撃音と共にその脳を揺らす。


唐突に揺られた頭部へのダメージは拡散し、その災厄は対応を遅らせた彼女の舌にまで伝わった。


上下に生え揃う歯に挟まれ、裂傷を負った舌先から血液が染み渡る。


よろよろと、痛みに身を震わせ後ずさるリジー。


汗と共に地へ溢れた()に、レンは満面の笑みを浮かべた。



「やったやった!!初めて当たった!!!どう?痛い?痛かった??」



ぴょんぴょんと、その場で跳躍し大きな喜びを見せるレン。



「はぁ、はぁ……сука…」



リジーは睨んだ。


悪態をつきながらも、その言葉は短く力なく。


己の悪態に対する語彙ボキャブラリーも尽きつつあるこの現実は、その事態の深刻さを表していた。


休む間も無く蓄積されていく疲労と、拮抗を破り与えられてしまったダメージ。


絶望的とも言える状況に、両者の意識は対極的であった。



「お姉ちゃん疲れてる?もう限界?まだまだレンは遊び足りないんだけどなー」


「あ、ちょっとくらいなら休憩してもいいよ?」



尚も、余裕を見せリジーを煽るレン。


その慢心は戦闘において付け入る隙となるが、この状況ではそれも不可能であろう。



改めて、リジーは目前の少女へ対する危機感を理解する。



だが、彼女は決して諦める事はなかった。


絶望的な状況でも、打開策が見つからなくても。



リジーは目を閉じた。



ジンジンと、未だ頭部を侵蝕する痛みの最中、脳裏には仲間の顔が浮かんだ。


つい先ほどから各所で鳴り響き出した銃声。


自身が心を置く仲間の鼓動を感じていた。



「あたしだけ満身創痍で合流してもカッコつかねぇもんな……」



呟く。


目前の少女に対してでなく、自身に語りかけるように。


リジーは力強く右手の得物カランビットを握りしめた。


俯いた視線を戻し、きょんとした表情を浮かべたレンを睨み、口元に小さな笑みを浮かべる。



「調子乗んなよクソガキ、()()()()()()()んだよ」



レンから見れば苦し紛れに、未だ疲労の拭えぬ表情でリジーは告げた。


そして、彼女は左腕を自身の背後へと伸ばし、その手で柄を掴む。



僅かに擦れる音を立てながら抜刀されたその左手には、小ぶりのトマホークが握られていた────



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