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Delivery Bullet☆  作者: G
中部 フィフス・ハーモニー編
23/35

「中部には決闘が必要なんだ」


旧時代の遺物を所々に残す廃墟街。


かつて空高く聳え立っていたであろう石造の建築物は至る所に穴をあけ、見るも無残に崩落している。


ひび割れた壁面を覆うように草が生い茂り、その遺物達はひっそりと自然に帰そうとしていた。



そんなゴーストタウンに佇むビルの残骸。


地上から数十メートルは離れているであろうその一室に、2人は居た。



「エミリア、後悔は無いですか?」



「………大丈夫です」



その一室で誰かの来訪を待つように、静かに佇むシャルとエミリア。


シャルは彼女が選んだ交渉という選択に対し、躊躇いは無いかと問うた。



その真意を、彼女は理解している。



つい先ほどまで彼女達が居た車内で、シャルは今回の作戦内容を告げていた。


あの工場跡地でムスターマンが告げた予言。


ミラと逢い見える事になるだろうと告げた彼の言葉は、ミラが彼女達を執拗に追い回すという意味合いを含んでいる。


それに対しシャルは、この人里離れた廃墟街を舞台にミラと接触を図ろうと画策したのだ。


それはあくまでも自身らで彼女を出迎えるという意味で。



そしてシャルは今まさに、ミラが此方へ接近して居ることを直感で予告しているのだ。



エミリアは自身の選択に迷いはないと、そう心に言い聞かせる。


ミラの目的とシャル達との認識には相違があり、それはお互いが話す事で解消できるのだと、そう信じて。


彼女はまだ、人という生物の在り方を信じていたのだ。



その時だった。



小さく、静寂に包まれた室内に響き渡る足音。


この一室へ続く階段を一段ずつ、それは登っていた。




そうして、彼女はその姿を露にする。




緑色や黄土色、その他数色程度の色をベースに描かれた形容しがたい迷彩模様の戦闘服、ポーチの付いたハーネス状の装備と腰に携えた革製のホルスターに刺さる一丁の回転式拳銃シングルアクションアーミー


肩から指先までにかかる機械のような物が装着された右腕を胸に、その少女は一礼する。


紅色に輝くその瞳で彼女達を見据え、リボンのついた長い金の髪を揺らすその姿は、もはや神々しくも見えた。



「ごきげんよう。私はミラ。我が国に仕え、我が国を愛し、我が国の為に秩序を護る者……『秩序の番人』ヴァルハラ直属の調査員よ」


「こうして貴女に逢える日を心待ちにしていたわ。シャル」



透き通るような声で、彼女は微笑みながらそう告げた。


どこか邪悪に、背筋も凍るような冷たい眼差しを浮かべたまま。



「ええ、私も楽しみにしていました。ミラ、貴女と――――いや、『フィフス・ハーモニー』と呼ばれた貴女達と逢い見える、このときを」



シャルはそっとエミリアの手を取り、ミラへ笑顔を返してそう告げた。


「こちらは既にお前の正体を知っているぞ」と圧し、同時にムスターマンからの情報に整合性を求めるように。



その時、ミラはこの地に来て初めて驚きを浮かべていた。



それは勿論、シャルがその名を知っている事に対してだろう。


ただ彼女の反応を見るに、それは逆説的にその秘匿性を証明していた。



「正直に、驚きましたわ」


「その名を告げた相手は全て始末してきた筈でしたもの。貴女達も一筋縄ではいかないようね」



シャルがその名を告げた事で得られた新たな推測。


同時に、ミラもまた彼女達に情報を提供した何者かの影がある事を見抜いていた。


手ごたえは五分五分といったところだろう。



「そう急がないでくださいミラ」


「こちらはあくまで平和的交渉をしようと、こうして貴女達を出迎えたのですから」



「あら」と、シャルの言葉にミラは再び目を丸くする。



「貴女は結構せっかちな方だと思っていましたのに、意外でしたわ」


「いいでしょう。残念ながらここではお茶を交える事もできませんが、お話くらいは聞いて差し上げますわ」



予想に反して平和的な選択を下したシャルに彼女は笑みを溢す。


その機嫌に乗じて故か、少なからず話を進める事の出来る相手であったことにエミリアは内心胸を撫でおろしていた。



「ミラ、貴方の目的は……この子…ですか?」



「……ええ」



「理由は?」



「その子の親はヴァルハラのとある権力者なの。居なくなった娘を探すのに理由が必要かしら?」



シャルからの質問に、ミラはオリビアから聞いていた話と同じ話を口にした。


その瞳に揺らぎは無く、動揺する素振りも見せる事無く。




「嘘ですよね」




そんな彼女の言葉を切り捨てるように、シャルは言い放った。



「まったく、何故そう思うのかしら?」



「何故……というよりは、貴女達ヴァルハラは最初からこの子の持つ()()が目的だったのではないですか?」



「………」



ミラに劣らず、シャルもそれを隠す素振り無く淡々と告げる。


自信と余裕に満ち溢れたかのように笑みを浮かべ、その実その問一言一言に鎌を掛けて。


そんなシャルの告げた言葉に、ミラは言葉を返すことが出来なかった。



「……貴女、少し知り過ぎていないかしら」



「さて、どうでしょう?」



僅かに間を置いてから告げるミラ。


シャルの問いかけを否定せず真っ向から受け止めた彼女の瞳は先程とは打って変わり、確かな殺意を抱いていた。


彼女を必ず殺さなくてはならないと、確固たる意志を込めるように。



「ま……待ってください!」



2人を取り巻く不穏な空気。


このままではどちらかが得物を弾きかねないという一触即発のその空気を察して、エミリアは仲裁した。



「私、目が覚めてからなにも覚えていないんです……ミラさんが望んでいるような記憶に関しても…今はもう、心当たりが無いんです……」


「だから……」



「貴女、何か勘違いしていらっしゃるんじゃなくて?」



「………え?」



「貴女自身が直接それを語らなくても、貴女の身体から()()さえ無事に取り出す事が出来れば……幾らでも知りたい情報は得られるのよ」


「もっとも、その貴女自身には死んで頂く事になるでしょうけれど」



声にならない声が漏れた。


そう告げた彼女の眼光、表情、口調……


全てから止めどなく溢れる漆黒の殺意は闇の様に深く、その正体を余す事無く曝け出す。


エミリアはそんな彼女に心底怯えた様子で、僅かに後ずさる。



「それが……『秩序の番人』たる貴女達のやり方ですか」



「その子の持つ記憶はね、我が国の永劫的な繁栄と国民の幸福の為に必要不可欠なのよ」


「同情するわ……本当に。でも安心なさって。瞬きする間も無く、一瞬の痛みも無く死ねると約束致しますわ」


「だからシャル、その子――――()()()()を此方へ渡して頂けないかしら。我が国の()()の為に」



エミリアは理解した。


自身が答えを求め続けた、自身の価値という物を。


そして、その代償を。



この世界で初めて、最も身近に感じた命の危機。


自覚の無いまま求められた死刑宣告は、理不尽と言う名の苦悩を残して彼女の心を恐怖に蝕む。


手足を震わせ、小刻みに歯を鳴らしたエミリアは、成す術が無かった。


シャルの手を強く握り、目元に涙を浮かべながら視線を合わせる。


「助けて」と、そう言わんばかりに。



「フフ……可愛いですね貴女は」


「この世界では人は常に、何かの為に生きています。その渇望が希薄であるほど、淘汰され行く物なんです」


「残念ながら、彼女に貴女の言葉は届きません。この交渉は――――決裂してしまいました」



シャルは指先で優しくエミリアの涙を拭いながら告げた。


彼女は微塵も怯えた様子を見せずに、淡々とその結末を嘆く。


そして彼女は言い終えるとエミリアの手を引き、その震える身体を抱きしめる。



「メイが待っています。貴女はこのまま逃げて下さい」



耳元にシャルの吐息がかかる。


鼻先に香る彼女の匂いと、小さな囁き声。


肌に感じた彼女のぬくもりに、エミリアは心から安堵を浮かべていた。



直後、シャルはエミリアから身体を離す。


優しく、突き放すように彼女の背を押し、再びミラへと視線を合わせた。



隣接した別室に控えたメイはそれを察知し、シャルと交代してその手を取った。



駆け出すように。


一刻も早くこの場から逃げ出さんと、彼女の手を取ったメイは走り出す。



エミリアは見つめていた。


徐々に視界から遠ざかり消えていくシャルの背中を名残り惜しむように。




「正直に言って、貴女は最初からこの展開を望んでいたのではないですか?邪魔者を払うような言い方でしたよ」



「あら、気づかれてました?」



「ええ。私も少し、貴女の事が気がかりでした」


「似た物同士、是非こうして立ち会ってみたいじゃないですか」



「フフ……奇遇ね。私もずっと、この構図を待ち侘びていましたわ」




両者は睨み合う。


舞台を荒野から、この寂れたビルの一室に変えて。



最初から、言葉にせずとも両者の意志は通じていた。


自身と同じ得物を操り、同じ殺し方をする()()に………心惹かれていたのだ。



本来の目的であるエミリアという少女の争奪戦をすべて部下へと投げ、己はただ、大将首である彼女を獲ればいい。


そんな、愛国心も利益も捨てた私利私欲、心に芽生えた興味に付随する最大限の我儘は、こうして無事に実現された。


互いが互いに己の仲間を信じ、その信頼を得ているからこそ成し得たこの結末に、奇しくも2人は同じ感慨を胸に浮かべる。




本当に、似た者同士であると――――




< あとがき① >


この場を借りて是非お礼をさせていただきたく、この度後書きを書かせて頂きました。


さて、第二章中部編も佳境に入りました。


以前活動報告にも書きましたが、やはり私も一人の人間として読者様がついて頂けて嬉しい限りです。


前章に引き続き、ブックマークを登録して下さった2名の方に心から感謝致します。


本当にありがとうございます。


その効果で評価のポイントが増えたおかげか、若干読者様も増加されていらっしゃるようで、頭が上がらない思いです。


拙いミリタリー知識に文献を漁ったり細かな展開に四苦八苦する毎日ではありますが、これからも温かい目で見守って頂けると幸いに思います。


また、こちらも拙い画力ながらもキャラクターのイメージを描いたりも検討しておりますので、いつかまた公開できればと思っていたりもします。


それでは、宜しくお願い致します。




……あ、ちょっとした遊び心を踏まえてこの先のヒントを少しだけ。


前話にてアイリスが欲したという銃についてですが、ある固有名詞を持つマズルデバイスが装着された細身でイケメンな子を想定しております。


その名にもある特徴的な色合いがシンプルながらもカッコいいですよね。


では、またお会いしましょう。

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