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Delivery Bullet☆  作者: G
中部 フィフス・ハーモニー編
22/35

和解と決裂



「オリビア・ジョーンズ、彼女は容疑者の少女達の逃亡を手助けし、少女達へ自警団を殺すよう命じました」


「この方こそが、今回の事件における()()ですわ」



フォレストフィールド自警団の事務所の中、大勢のメンバーや町人が見守る中で、ミラは私を指さしてそう言った。


平然と、息をするように嘘を並べて。


そこに、何の躊躇いも無いといった不敵な笑みを浮かべる。



「このガキは嘘を言ってるわ!みんな!私とこいつどっちを信じるの!!?」



勿論、私は反論した。


このミラこそが私達自警団のメンバーを死に追いやった張本人だと。


だが、ミラは私が生き延びていた事を知っていたようだった。



射撃場のメンバー達の死体には9mmによる銃創が残されていたこと。


私が持つ拳銃がまさに同じ口径であること。


自身は一人で、その惨劇を止められなかった事を悲観すること。



そんな嘘を証拠に、彼女はこの町の住民たちを丸め込む。




話は変わるが、私は現実主義者だった。




この町で生まれ、20数年余りの歳を生き、その幼少期は父親の背中を見て育った。


最終戦争の最中、多くの人々をその戦火から守り、この町を護る為に命を懸けて戦った父。


そんな彼に、私は憧れていた。


だからこそ、彼が命を賭して護ったこの町を、今度は私が護る番だと思った。



でも、現実は甘くない。


このレギオンで生きる為には、必ず何かを犠牲にしなくてはならない。


彼はその代償に、自らの命を差し出したのだ。



私は、そんな風にはなりたくなかった。


この町を護り、住民たちを護る為には、私の存在が必要不可欠だと自負していたからだ。



だから私は、正直に言えばあの少女の事は気がかりだった。


記憶を失い、この世界で必死にその欠片を集めようとする彼女の事が。


でも、それは本当に私の意志なのだろうか。


彼女を保護し、少女達を捕らえる事が自警団の務めであっても、私の務めはこの町を第一に考える事。


私自身の心情に問いかけるのなら、そんなことはどうでもいいことだ。



彼女を見捨て、ミラと少女達の間で繰り広げられるであろう銃撃戦が。


この町で繰り広げられる事を避けられれば、それでいい。



私はミラを見据える。


その瞳に深い憎悪と、深い怒りを浮かべて。



「私はいつだってこの町の事を第一に考えて来た。貴女がこの国でどれだけの地位に就いていようと、私達の団結に揺らぎは無いわ」


「カーターやメンバーに手を下したのは他でもないこいつなのよ!!」



あの血に塗れた射撃場の中で、私は何を感じ、何を得ただろう。


覆いかぶさった仲間の死体に埋もれ、恐怖に怯えて何も出来なかった私は。


その深い深い絶望の中、押し寄せる後悔の波の中で。



このミラを必ず殺すと、そう誓った。




そして、銃声が鳴り響いた。




身体に空いた小さな穴。


足元に血を垂らし、衣服に真紅の華を開花させる。



少なくともその銃声は私の得物から発せられた物ではないという事を……喉を伝って遡る生暖かい感触を感じた時に、私は理解した。



「う………あ……?」



咽るように、口元から零れ出た鮮血。


感じた違和感に己の胸元へと伸びた掌は、真っ赤に濡れていた。



腰元に感じた重み。


拳銃がホルスターに収まるその重みは、私が得物を手に取ってすらいないことを示唆する。



虚ろな瞳で、力無く見つめた視線の先。


ミラもまた、その手には何も持っていない。


ただただ不気味に微笑み、私を見つめて佇んでいた。




そこで私は、唐突に理解する。




そっと、今にも倒れそうな足取りで私は後ろへ振り向く。


そこには、狩猟用のライフルを手にしたサミュエルの姿があった。



崩れゆく身体。


傾く視界。


頬に触れた、冷たい地面の感触。




消えゆく意識の底で、私は仲間に撃たれた事を悟った。




私の声は、彼らに届かなかったのだろうか。


いや、彼らはわかっていた。


私を信じていて尚、その引鉄を引いたのだ。



なぜって?



彼らもまた、私と同じようにこのライズバーグという町を心から愛していたからだ。



法を創りし、法を超えた例外。


この町やこの国の秩序を護るヴァルハラという存在がこの町で守った秩序とは、そういうことなのだろう。



自警団が護る物が法であるなら、彼女達ヴァルハラは秩序を護る物であると。


まったく、よく言ったものだ。


そういう意味であれば、恐怖により正義を謳って国民を都合よく管理するというその現実こそが……


彼女達ヴァルハラであり、この国を覆いつくす本質なのだろう。




「パ………パ……」




止めどなく溢れ、小さな水たまりとなった彼女の体液。


声にならないほど掠れた小さなその声は、そう囁くように波紋を広げる。




見開かれたまま虚空を見つめた彼女の瞳は、幼き頃に父の背中を見つめた彼女の瞳と――――


同じ眼差しをしていた―――







「――――これが、ムスターマンと名乗るその男との取引の全容です」




東部の国境を目指して進むSUV。


夜が開け、木々の隙間から少しずつ朝陽が差し込む山道を、それは進んでいた。



シャルは告げた。


数時間前、工場跡地で交わした彼との会話内容を包み隠さず。


あの後、約束通り一台の車両と彼女達の装備を持って現れたオリビアに別れを告げ、彼女の誘導を基に町を後にしてからシャルはそれを話し始めた。


その話に仲間たちは時折疑問を浮かべながらも真剣な面持ちで、口を噤んでその話を聞いていた。



そして、そう締めくくったシャルとは別に、リジー達は僅かな解放感に浸りながらも各々なりに結論を導こうとしているようだった。



「結局そのムスターマンってやつ、信じられるの?」



「あたしもそれ聞きたかった」



「Me too!わたしもわたしも!!あと、私が欲しがってたてっぽーっていうのも気になる!」



結局、論点はそこだった。


サツキを筆頭にリジー、アイリスと続いて彼女達はムスターマンへの不信を露にする。


アイリスの場合は若干、異なる疑問も抱いているようであったが。



「メイにも言いましたが、そこをこれから測ってみようと思います。彼の言葉が本当なのかを」


「アイリス……自分で言ってたじゃないですか。心当たりないですか?」



彼女達にシャルはそう返答した。


名前を呼ばれたメイは自身の装備の確認を行う手を止め、無言でシャルを見つめる。


工場跡地で同じ質問を問いかけたメイだったが、未だに少しだけ不安を抱いているようだった。



「どうやって測るんだ?規模がデカ過ぎて掴みどころがねぇじゃねぇか」



「hm………?」



リジーは尚、疑問を露にする。


ムスターマンは信用するにあたるか、「それを測る」と告げたシャルだったが、その方法が具体的でなかったからだ。


同時に、アイリスも疑問を浮かべるが……それはもう完全にムスターマンでは無くシャルの告げた()()()()に関しての物だった。



「本気ですかアイリス……。とはいえ、彼が約束を守ればわかります。きっと貴女も思い出しますよ」


「測る方法についてですが、簡単です。彼の発言の裏付けがとれればいいんです。とはいえ、その裏付けが取れたとしても疑う余地はあります。あくまで取引ができる相手か見定めるという意味で考えてください」



「……ってことは……つまり?」



「ミラに吐かせます」


「彼は彼女と私達がこの国で必ず戦う事になると予言していました。彼女自身に彼女の正体を吐かせる事ができれば、少なくとも彼からの情報の信憑性は把握できます」



「なるほど」と、シャルの言葉にリジーとサツキは理解を示した様子であった。


とはいえ、シャルも言うようにそれはあくまで情報の信憑性を確認するだけだ。


取引を行う上で、彼は最低ラインの信用を持ち合わせているのか、彼女の「測る」という言葉にはそういう意味が含まれていた。


その結果や、それ以外でも勿論、この取引は水に流れる可能性を十分に持っている。



「勿論、報酬とエミリアについての話もその延長です」


「ムスターマンとエミリアの関係性を確かな物にする事と、彼が本当に報酬を払う力を持っているか。それら全てが信用出来て初めて、彼との取引を検討します」



続けてシャルはそう告げると、エミリアの方を向いた。


後部座席、リジーの隣で何かを考えながら口を噤んだ彼女。


工場跡地での一件を経て、彼女はシャル達についていくことを選んだ。


ミラという少女に対する不信は勿論、ムスターマンとの関係性を露にする為にも。



「ミラさんは……殺すんですか?」



僅かに間を置いて、彼女はそう告げた。


自身の持つ倫理観に頭を悩ませ、言葉を選ぶように。



「殺したら、何か問題がありますか?……フフ、冗談です。貴女はどうしたいですか?」



一度、殺意を露にした目つきで、睨むようにエミリアを見つめてシャルは言った。


彼女なりに冗談を言ったのだろうが、エミリアはその一瞬に僅かに身を強張らせる。



「………」


「話し合えば、誰かが傷つくことはないかもしれないですよね。ミラさんにもなにか……理由があるのかもしれません」



おずおずと告げたエミリアの言葉に、車内を静寂が包み込んだ。


それは彼女に対する嫌悪感という訳ではなく、真にその言葉を踏まえて考察する様子で、彼女達は口を閉ざしていた。



「そうですね……エミリア、一つ聞いてもいいですか」



「……はい」



「それは、誰を想ってそう思ったんですか?」



そっと、シャルは彼女を見据えてそう問うた。


彼女はその問を受け、胸に手を当てる。



シャルはつまり、その提案に義理や情と言った感傷を含めているかと問うているのだと、彼女は理解する。



答えを言ってしまえば、その感傷は正しかった。


己も、シャル達も、ミラも。


彼女は誰の血が流れる事も望んではいない。


オリビアの告げたミラの本性を知っても、その答えに揺るぎは無かった。


とは言え、彼女の内にある何がそれを阻害しているのかは定かではない。


得体の知れない本能にも似た抑止力が、それを拒んでいた。



それこそが、偽善という物であるということを、彼女は悟っていた。


同時に、シャル達がそれを望んでいないという事も。




「私は………私の為にそう思ったんです」


「シャルさん達が、殺されてしまったら……私は…路頭に迷うから……」




嘘を、彼女は口にした。


シャル達が望むであろう答えを、彼女は己の心情を偽りながらそう告げたのだ。



「フフ……いじわるでしたね。申し訳ありません」


「貴女の気持ちはわかります。でも、貴女がそうして自分の意志を主張できる事が、私は嬉しいようです」



「わかりました。ミラとは平和的に交渉しましょう。皆さんも異論は無いですね?」



対してシャルはその顔に笑みを浮かべていた。


言葉の中にあるように、彼女のそんな心の内を喜ぶように。



「ああ。シャルがそう言うなら」



「私はシャルに従うわ」



「Yeah!わかった!」



「アイリスがいいなら私もいいよー」



彼女達はそれぞれ、その提案を承諾した。


不満そうな素振りは無く、ただ彼女の言葉に従うように肯定する。



「ただ、ミラの回答次第です。向こうが攻撃をする素振りを見せた時は容赦なく反撃します。エミリア、それなら如何ですか?」



続けてそう問うたシャルの言葉に、エミリアは射撃場での一件を思い浮かべていた。


『ただ自分を護る為、本当に必要な時にだけ()()()()引鉄を引けばいいの』


そう告げたサツキの言葉を、彼女は思い出していたのだ。


受け身の姿勢でいる事で上手く付き合えると、サツキの言葉はこういう心情を相手に意図した物なのだろう。


それを痛感したエミリアは成す術も無く、こう答えるしかなかった。




「それで、いいです……」




エミリアとシャル達を隔てる壁。


大きく異なるその価値観の原因はなんだろうか。


言ってしまえば、それは間違いなくこのレギオンに対する経験の差だろう。


あるいはそれは、この中部での一時で彼女の心の内のそれを助長してしまっていたのかもしてない。


このレギオンにおける食物連鎖、殺るか殺られるかの日常を未だ実感として知らぬ彼女にとって、それはまだ理解に及ばないだろう。


それは仕方のないことだと、この場の彼女以外の誰もがそれを理解していた。



「あの……さっきは酷い事を言ってしまって……ごめんなさい」



矢先、エミリアは呟くようにそう告げた。


彼女の言う「さっき」とはいつの事を指すのだろうとシャル達は頭を悩ませるが、すぐに工場跡地での事を思い出す。


シャルに拳銃を突きつけ言い放ったあの話だと。



「気にしないで下さい。客観的に見ても貴女の言葉に間違いはありません。言ったじゃないですか、主張は良い事です。私こそ、早まった決断をしてしまい申し訳ありません」



そっと、シャルはエミリアへ微笑む。


どちらに非があるかはさておき、険悪を望まないエミリアはそのことを心底気にしている様子であった。


少なからず、そんなシャルの様子を見てそれは晴れたようであったが。



「ところでエミリア。貴女はどう思いますか?」



「どう……って?」



「ムスターマンとの事です。あの時の貴女はとり憑かれた様でした。何か思い当たる事はありませんでしたか?」



「………」



打って変わったその話題に、エミリアは口を閉ざす。


彼女の例えた「とり憑かれた様」だという比喩に、エミリアは当時の記憶を辿った。



頭の割れるような痛みに、断片的に浮かぶ数々の光景。


思い出すことは無くとも、直感的にムスターマンという何者かは自身に関係していると彼女は確信していた。



「……あの時は確かに、口をついて言葉が勝手にあふれ出てくるみたいでした。でも、記憶ははっきりしてます」


「本当に、自分でもわからないんですけど……あの人と私は…何か関係があると思っています」



「直感……ですけど…」



俯き、己の肩を抱えながら呟いたエミリア。


隣に座るリジーはそんな彼女を心配そうに見つめていた。



「直感……ですか。やはり、正体を探ってみる必要がありそうですね」



そう言って、シャルは再び微笑んだ。


彼女もまた、己の直感に信頼を置く者だ。


時にその直感はとんでもない物を予知し、引き当てると、彼女は知っている。


その瞳はどこか、期待に胸を膨らませるようだった。




「シャル、目的地までもうそんなに遠くないよ」




その時、運転席のサツキが前方を見たままそう告げた。




「意外と早いですね、わかりました。では皆さん、準備してください」


「ミラ及び精鋭部隊『フィフス・ハーモニー』と平和的交渉―――和解を目指して―――」



「作戦行動を開始します―――」




声高らかに、シャルは言い放つ。


その心情を推測すれば、彼女は期待しているのだろう。


自身と似たミラという少女と逢いまみえることを。




彼女の掲げた和解という公約が成就しない事を―――


その時エミリアは直感で理解していた――――




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