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Delivery Bullet☆  作者: G
南東部 サンタ・ソンブラ編
2/35

変わらない日常


一面に広がる荒野。


草木は枯れ果て、広大な大地を黄土色の砂が覆っている。


ひび割れ、石のように固くなった大地と、燦々と降り注ぐ灼熱の光。



あらゆる生態系の死滅したその地はさながら、地の果てとでも言い表せばよいだろうか。



生命の気配一つない無限に続く道の上を一台の車両が通過した。


蜃気楼の先に見える錆びた大きな塊。



石油のける音を響かせ、僅かにノイズの入り混じるスピーカーから生命の音を垂れ流し、それは走り続ける。



<< ここにはヒーローなんて必要ねぇ >>


<< ここにはヒーローなんて... >>



繰り返されるフレーズ。


異国の言葉で奏でられた皮肉めいた歌詞に、()()()()は僅かに笑みを溢した。


同じ荒野を一人の男が歩いていた。


裾の長い汚れたローブを羽織り、日光から身を守るように深くフードを被っている。


乾燥し、フケが溜まり切ったボサボサの髪と、手入れのされていない無精髭ぶしょうひげ


食料はおろか荷物ひとつ持たず、男はこの広大な荒野を彷徨さまよっていた。


客観的に見れば死に急いでいるようにしか見えないが、このご時世に男のそんな行動に口を出す人間なんて一人もいない。



男は腹部を抑え、今にも倒れそうなふらふらとした足取りで歩き続ける。



男の後を追うように、地面には赤い斑点はんてんが続く。


男の肌を伝い、衣服に染み、地へと零れ落ちたのは彼の命の証に他ならない。



じわじわと、男を取り巻く全ての環境が、ゆるやかに死へと誘う。



その流血を死神の足跡であるとも言わんばかりに。



だが、男は倒れるわけにはいかなかった。


背にぴったりとくっつく死の気配を必死に振り払いながら、生にしがみつく。





奇襲アンブッシュを警戒して暫く様子を見ていたんですが、ただの行き倒れみたいですね」





唐突に、男へ少女が語り掛けた。


風一つなく、静寂に包まれた灼熱地獄。


はっきりと聴こえた少女の声に男は周りを見渡したが、自分以外に人の気配は見当たらなかった。



……それもその筈だった。



気が付けば、男の身体は空を仰ぎ見るように、地に倒れていた。


視界に入る全ての物が、ユラユラと揺れている。


身体中が砂に覆われ、あとは大地と同化するのを待つばかりであった。




そんな男の真っ赤に焼けた顔を覗き込む少女が一人。




「水………水を……」



男は乾燥し切った口を動かし、喉から掠れた声を絞り出して少女へと乞うた。


そして、男は少女へと腕を伸ばす。




「だめです。ですが、せめて貴方の最期は看取ってあげます。その後で価値のありそうな物は全て頂いていきます」




太陽の影となり、少女の表情を伺う事は出来なかった。


少女は膝をつき、男の伸ばした手を両手で優しく包み込みながら、そう告げた。




「最期に何か言い残す事はありますか」




裾の長い民族衣装と思しきローブに身を包み、フードとストールで顔を隠した少女の姿は、その非情さも相まって本当に死神のようだった。



聴き取れない程の、蚊の鳴くような声。




「―――――――――――」




男の口元へ顔を近づけた少女はその囁きを聞いて静かにを閉じた。



「周囲の状況に異常は無さそうだぜ。おまえの言う通りほんとにただの行き倒れみたいだな」


「・・・」



彼女の様子を見て、二人の少女が歩み寄る。


男勝りな口調でそう告げたリジーと、未だ周囲を警戒する様子で押し黙るメイは互いに顔を見合わせた。



「いえ、そうとも限らないようです」



そして、男の最期を看取ったシャルは男の顔を覗き込んだまま告げた。


困惑した表情を浮かべるリジーを他所に、シャルは男のローブをはだける。



開かれたローブの下に露になる防弾着プレートキャリア


所々のモールが解れ、一部が焼き切れたカマーバンドと男の脇腹には血が滲んでいた。


隠しきれぬ戦闘の証に、リジーは眉をひそめる。



「こいつ、どこのやつだ?」



それらを確認したメイは一度リジーの肩を叩くと、ひとり道から外れて自身の身に着けるPTTスイッチへと手を伸ばした。


男の装備品を物色するシャルはリジーのその問いかけに動きを止める。



「特に目ぼしい物は所持していないようですね。プレキャリ自体はよく流通している物のようですが……」



そこまで告げて、シャルは顔をしかめた。


彼女はゆっくりと、男のプレキャリに装着された空の弾嚢マグポーチへと手を伸ばす。


二本の指先でポーチの底にのこされた小銃用の一本の空薬莢からやっきょうをつまみ出し、リジーへと差し出した。



徹甲弾アーマーピアシングです」



リジーは受け取ったそれをまじまじと見つめ、困惑した様子を見せた。



「徹甲弾?たしかに珍しいけど……それがなんだって言うんだ?」



リジーの返答に少しだけ面食らう表情を浮かべながらも、シャルは続けた。



「薬莢は一発だけじゃありません。何と戦闘していたのかは定かではありませんが、彼あるいは彼付近の人間がこれらを使用してた事自体が問題ですね」


「なにより、これらの薬莢は刻印が無い上に再利用された形跡はおろか僅かな劣化すらも見当たらない程状態が良いんです」



「……つまり?」



彼の装備の隙間から更に2発分の薬莢を取り出し、淡々と告げるシャル。


なお合点の行かないリジーは一言で催促を促した。



「私たちにれ程の弾薬を卸せる相手にリジー、貴女は心当たりがありますか?」



物色していた手を止め、リジーを見据えて彼女はそう告げる。


「はっ」とした表情を浮かべるリジーはシャルの考えを理解したようであった。



いつかの大災害により大きく衰退した人類と、崩壊を遂げた数多くの文明。


現在も尚各地で戦火を上げるものの、その規模はそれ以前と比べてあまりにも小さなものだった。


そんな時代において、()()()()()を製造し得る組織は大きく限られていたのだ。



「彼自身、あるいは彼と闘った何者かは民間の人間でない可能性が高いです」



リジーの言うようにそれその物自体は決して入手不可能ではない。


厚さ6mm程の鉄板すらも貫通し得るその弾丸は評価に対して製造コストの関係から以前の時代でも製造数を絞っていたようだ。


そんな前時代の忘れ物を稀に発見する事はあれど、それらを製造して配備するなんて事は空想に等しい。



「あたしが部隊にいた時すら、ここまで配備された話は聞かなかったな……」



リジーは小さくそう呟いて若干焦りを見せた。



「メイやサツキも同じことを言うと思います」


「とすると、仮にそんな事が可能なレベルっつーのは―――




<< ザザッ――― >>




彼女の言葉を遮るように無線のノイズが走る。



<< 例の車両に動き。リアシートに誰か寝てる >>



リジーとシャル、僅かに離れて周囲を警戒していたメイは首元に装着した骨伝導こつでんどうイヤホンから聴こえたサツキの声に動きを止めた。



「……どうする?」



顔を見合わせた3人の中で最初にそう問うたのはリジーだった。


シャルは答えを出す前に一度メイへと視線をやる。


「周囲に異常はありそうか」という意図を含んだ目くばせにメイは首を横に振る。



「リジーは道の右側から、メイはこのままの距離を保ってリジーに続いてください」


「発砲は各自の判断で。斥候ポイントマンは私が務めます」



「「了解」」



シャルの指示に対し、メイとリジーは得物を構えなおして各々の配置へ移動した。



シャルがあの男に接触する十数分前から、彼女たちは彼の動向を伺っていた。


男が走らせる錆びついた緑のセダンを視界に捉えてからというもの、一秒足りとも警戒を怠らなかった彼女たちだったが、同乗者の存在には気が付かなかったようだ。


とはいえ、男からの視認を避ける為に取った距離からすればそれは些か仕方のないことだろう。


ちなみに、ガス欠により動きを止め、車両から這い出て荒野を歩きだした後の男の経緯いきさつは言うまでもない。



「これから車両に接触を試みます。攻撃する様子があれば射殺してください」



マイクを口元にやり、小さな声でシャルは告げる。


何百メートルか離れた地点で待機するサツキとアイリスへ向けたものだ。



<< …了解 >>



サツキの返答を聞いたシャルは腰の右側に提げた拳銃嚢ホルスターに手を添え、車両を見据えて歩き出した。





------------------





<< 男に銃創、戦闘の形跡あり。継続して周囲の警戒をお願い >>



「Yes ma'am」



男と接触したシャルの元にメイとリジーが合流する。


僅かに男の亡骸を物色する様子を見せれば、ひとり周囲を警戒する様子で離れたメイから指示が下った。


得物のトリガーから指を離し、スコープを通して様子を伺うアイリスは返答した。



「hmm...シャルはああ言ったけどやっぱりアイリの推理は当たってたでしょ?right?」


「そうは言っても明らかに虫の息だったし、結局アンブッシュの気配もなさそうだったしね。ていうか、アイリの場合は誰にでも敵意剥き出しなだけでしょ……」



先行するシャルらの数百メートル後方。


岩陰に身を隠したアイリスとサツキはそれぞれ得物のスコープ、単眼のスポッティングスコープを通して彼女らの様子を伺っていた。



「Serious?身体にIEDでも巻き付けられてたらどうするの?」


「状況を考慮してもその可能性は低いよ。このご時世に無差別爆弾テロ犯なんて気が触れてるとしか思えないしね」


「Boo...でも結局は戦闘員だったんでしょ?あの男の人」


「どこかで戦闘に巻き込まれただけの可能性もあるけどね」



サツキの返答に対し頬を膨らませ、不服そうな面持ちで告げるアイリス。


それを軽くあしらうようにサツキは返答する。



「ただ、さっきのメイの様子を見る限り……()()あったみたいだね」


「That's what I thought...私もそう思う」



先のメイからの連絡に含まれた僅かな違和感。


それを感じ取った二人は言葉を交えながらも決して気を抜いた様子を見せなかった。


彼女らの間において、シャルの抱く僅かな違和感や直感というのはそれほどまでの信憑性を帯びているのだ。


それが吉と凶どちらに転ぶかは定かではないが、彼女らは彼女らの仕事を遂行するだけだと。


二人は無意識にも口元に笑みを浮かべ、その話題に終止符を打った。



「アイリ、例の車両。リアシートに一人居る」


「...Fire?」


「だめ。距離670、無風。シャルの返事を待つけどヤバそうならやって」


「OK。but、距離はヤード・ポンドで言って」


「・・・」



単眼鏡スポッティングスコープを通して見た車内。


砂埃にまみれたリアドアガラスから僅かに上下するように動いた布のような物をサツキは見逃さなかった。


あくまで偶発的な物では無く、人為的な動作によって描かれた物だったと経験から推測したサツキはすぐにアイリスへその旨を伝えた。


対してアイリスはすぐにその目つきを変え、得物とする狙撃銃スナイパーライフルの銃口を車内へ向けた。


リアシート付近へレティクルを合わせ、サツキの伝えた情報を基にエレベーションダイヤルを調整してからグリップを握りなおす。




「例の車両に動き。リアシートに誰か寝てる」





< 調査報告書 No.1 >


氏名: Лидия (Lydia) - リディア

愛称: リジー


性別: 女

年齢: 17

出身: 北部


役割: 斥候, 突撃兵

銃器: СР-2 Вереск, MP-443 Грач

戦闘: 近接格闘


特徴: 白人, 白金のショートヘア, 翠眼


注意: 対象の2m以内への接近禁止

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