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Delivery Bullet☆  作者: G
中部 フィフス・ハーモニー編
18/35

天使と散弾銃



「くそっ!あいつら……嫌な予感がしてたんだよ!」



街の片隅に設けられた射撃場。


旧時代の残骸をそのまま利用した二階建ての建物の一階部分で彼らは立ち往生していた。



先頭を行き、容疑者となる少女達へ接触を試みたオリビアが人質に取られてしまったからだ。



やむを得ず一階部分へ引き返し、その後の動向を伺えない彼らの間には不穏な空気が流れていた。


イラつきを抑えられないカーターは少女達を怨みながら、そのやり場のない怒りを言葉に変える事で発散していた。



「落ち着けカーター。行き詰ってんのは奴らも同じだ」



そんなカーターの肩に手を添え、仲間の男は告げる。


逃亡不可能な彼らのテリトリーの中、人質を取らざるを得ない状況に陥った彼女達に成す術は無いと。


男が言葉にせずとも、彼女達から見たその状況の深刻さは分かり切っていた。



「あぁ、わかってる。わかってるよ……」



励ます男にカーターは僅かに平静を取り戻し、深呼吸する。


この状況で優位に立っているのはこの自警団であり、時間が全てを解決してくれると心に言い聞かせて。



彼らとて戦闘を望んではいない。


まして相手がどんな悪党であれ、本心で子供を撃ちたいと思う者は一人としていなかった。



理想とされるケースがあるとすれば、少女達が武器を捨てて投降すること。


今はただ、突然の状況に彼女達も咄嗟の行動に出てしまったと、彼らはそんな希望を胸に抱いていた。



「くそ……待機班、狙撃班、全員準備できてるよな?動きがあったらすぐに突入できるよう準備しておけよ」



カーターは一度悪態をついてから無線機を手に取り、外で建物を囲む待機班と彼女達の居る二階部分を狙う狙撃班へ指示を出した。


最悪の事態に備え、オリビアの悲鳴でも聴こえようものならすぐに突入してやると、彼はなんとかその闘志を奮い立たせる。



そんな矢先の出来事だった。



彼らの返事を受け取るよりも早く、彼らの目前の階段へ何かが投げ込まれる。


金属が奏でる地面との衝突音。


一階と二階を繋ぐコンクリートの折り返し階段の踊り場にぶつかり、そのまま一階へと向けて転がり落ちる一丁の拳銃グロック



彼ら全員が見慣れたその拳銃は、オリビアが所持していた物であった。



その拳銃に釘付けになる6人の男達の脳裏には最悪の可能性が浮かぶ。




刹那、階段脇の壁を背に並んだ男達の先頭に立つカーターの身を、大きな衝撃が襲った。




踊り場の壁から顔半分と拳銃の銃口のみを覗かせた短い金の髪の少女。


彼女が容赦なく弾いた得物は大きな炸裂音を反響させ、カーターの防弾着を穿つ。



一発、二発と、防弾着越しにその銃撃を受けたカーターは苦痛に顔を歪ませ、その場に倒れ込んだ。



その光景に事態を察知し、男たちは一斉に得物を少女へと向ける。


……が、少女の姿は既にそこにはなく、気づいた時にはカーターの後ろに立つ男の手を取っていた。



手にした散弾銃ショットガンを向ける間も無く、銃口を抑えられたその男。


僅か十数センチ程の距離に見えた少女の表情には笑みが零れていた。



再び鳴り響く銃声。



男の持つ散弾銃を抑えた手と逆側の手に握られた拳銃は男の大腿部へと向けられ、それが開けたであろう数センチの穴からは鮮血が漏れ出していた。



「ぐぅっ……あぁっ!……」



僅かに遅れて男の身体を襲った痛みに、男は表情を歪ませる。


そうして残る男たちは一斉にその少女の方へ得物の銃口を向けるも、少女はその男の肩を支え、男の身体を盾に射線を妨げていた。



成す術無く、一瞬にして2人の隊員が無力化された事で部隊の統率は崩壊する。



そこからは止めどなく、男達の持つ得物以外が奏でる炸裂音が反響し続けた。


少女へ続くように、遅れて踊り場へと駆け出した2人の少女達。


彼女らは一早く獲物を見定め、行動を決めかねる残りの男達へ銃弾の雨を降らせたのだ。



大腿部、上腕部、防護の施された胸部と、少女達の放つ弾丸は全て致命傷を避けたものであったが、その時にはもう男達に動ける者は誰一人として居なかった。



「うっ……はっ…はぁっ……」



カーターは銃創の残る防弾着に手を添え、身体を震わせながら息を荒げる。


外傷こそ彼の身には見当たらなかったものの、この至近距離で発砲された弾丸が与えた衝撃は防御を貫き、軽い呼吸困難を引き起こしていた。


霞む視界で状況を把握せんと、周囲を見渡すカーター。




自身と同じくしてその場に倒れ込む仲間の姿を目にし、彼は悟った。




ここで彼らの敗因を挙げるとすれば、答えは何だろうか。


単純な戦力?反応速度の遅さ?あるいは、統率力の無さ?


どれも多少はそれに影響したかも知れないが、決定打となったのは単に彼らの()()()()である。



最終戦争から幾年かの時間を経て、危険から隔離されたこの平和な町で警備に当たる彼らたち。


その幻想は外の非情な現実を忘れさせ、彼らの心に少しずつ隙を孕ませた。



相手は年端もいかぬ少女達だ、この町を知り尽くす俺たちにあの数で敵う訳がないと。



彼らは忘れていたのだ。


このレギオンがどんな場所であるかという事を。


性別も年齢も関係なく、この地に住まう人々は等しく獰猛で、いざとなれば躊躇いなく牙を向く。


そんな最も忘れてはならぬ危険性を、彼らは忘れてしまっていたのだ。



例えば男達が南東部を生きる麻薬組織の構成員であったとしたら、これほど簡単に事は進まなかったかもしれない。


今となってはそれも、ただの皮肉に過ぎないだろうが。




断片的に室内を照らす閃光。


元々建物内を仕切っていたであろう壁の残骸を背に、サツキは男の一人から入手した小銃ブラックライフルを弾き続けていた。


そこから少し離れて外から見えぬ位置で男達の得物を物色するリジーと、男達に止血を行いながら男達自身が所持していた手錠でその身を拘束するアイリスと少女。



外に待機していた残り4名の自警団員は銃声により事態を察知し、建物内で籠城する少女達と銃撃戦を繰り広げる。


サツキはそんな彼らの侵入を防ぐため、あえて直接その身を狙う事無く、彼らの盾とする2台の車体を撃ち続けた。



「Don't worry, 命までは奪わないからおとなしくしててよね」



リジーの指示にアイリスは彼らを一人ずつ止血し、それが終わったのを確認してから少女が手錠で拘束する。


そんな少女達の行動に彼らは心底困惑した様子を浮かべつつも、その瞳は無気力に揺れていた。



「うっ……お前たち…どういうつもりで…」



「Huh?こっちだってあなた達と喧嘩したくてしてるわけじゃないんだよ。それより、Shut up, 黙って」



ある男からの問いかけにアイリスはそう答えて、再びその男の防弾着を撃ち抜いた。


声にならない叫びを上げ、咽るように息を漏らす男。


そんな悲痛を浮かべる男の様子に少女は僅かに心を痛め、「ごめんなさい」と一言添えてからその男の腕へ手錠を掛けた。



「そろそろ弾切れ!リジー!そっちはまとまった?これ以上あいつらが増える前にここ出るよ!!」



「Да!わかってる!それよりさ、いいもんあったぜ」



男達の放つ銃撃を壁で防ぎ、手にした小銃の弾を再装填しながらサツキは問いかける。


自警団の総数が確認出来ない以上いつ応援が増えてもおかしくはない。


これ以上戦闘を過激化させぬ為にも、サツキは一刻も早くここを脱出したいようであった。



僅かに急くサツキの様子を他所にリジーは答え、その手の得物をサツキへと見せる。



リジーの手には一丁の散弾銃ショットガンが握られていた。


無機質な黒の体に、銃身へ放熱口の空いたカバーが着せられたその得物モスバーグを見てサツキは首を傾げる。



「こいつら鎮圧用のゴム弾なんて持ってやがる!これは使えるぜ!」



補足として告げられたリジーの言葉。


少女は聞き覚えの無い単語に疑問を浮かべるが、対するサツキはその顔に笑みを浮かべた。



「いいじゃん!それと弾!適当にアーマー剥がしてこっち投げて!!」



嬉しそうにそう告げたサツキ。


リジーはそんな彼女の反応に自身も笑みを浮かべると、散弾銃から一度全ての弾を抜いてゴム弾を再装填した。


そうしてゴム弾の込められた散弾銃、男の一人から適当に剥がした防弾着ソフトアーマーをサツキへと投げ渡した後、男の弾帯に着けられたシェルポーチを続けて投げ渡す。



そんな二人の様子を見た少女とアイリス。



「OK, これで全員かな」



最後にアイリスは治療と拘束の漏らしが無いかを確認してからそう呟くと、背を低くして足早にリジーの元へと歩み寄る。


少女もまた彼女へと続き、その場を離れた。


一度だけ振り返り、倒れた男達へ心の内で謝罪を告げながら。



「Hey, リジー!わたしの分は?」



「はいこれ。ショットガンは二丁しかねぇからお前はこいつで牽制な」



「What the fuck!ええー!わたしもそっちがいい!!」



「Блин!駄々こねんじゃねえ!!」



リジーの手渡す防弾着プレートキャリア小銃ブラックライフルを見て頬を膨らませるアイリス。


怒るリジーに観念したのか、アイリスは渋々その防弾着を着込み、小銃を手に取った。



「わたしはどうすればいいですか…?」



防弾着に腕を通すアイリスを横目に、少女はリジーへと問う。



「先頭を往くのはあたしとサツキの役目だ。アイリスのケツにぴったりついていってくれ」



リジーはウインクをしながら少女へと告げ、手にした散弾銃に弾を給弾する。



「Get it, 私が守るからしっかりついてきてね!」



そんなリジーの言葉を聞いて嬉しそうに微笑みながら、アイリスは少女へと告げた。


彼女は駄々をこねていたついさっきまでの態度とは打って変わり、与えられた役割に満足した様子であった。



「わかりました……」



僅かに俯き、少女は呟くように返す。


心に罪悪感を抱きながら、何かを決めかねる様子で。



少女の返事を聞いたリジーはどこか不安を胸に抱いていた。


この戦闘が始まってから何かを悩む様子の少女。


その心当たりは無く、掛ける言葉も見当たらないリジーは僅かに困惑する。



とはいえ、今ここで人生相談に耽る時間が無いのも事実である。



余裕が出来たら話を聞いてみようと、この場でリジーが下した決断はそれであった。




「よっし!それじゃあ、おっぱじめるか!!」




声高らかに叫び、サツキとアイリスへ次の攻撃の開始を合図するリジー。


2人は手にした得物のグリップを強く握りしめ、リジーへ視線を送る。



無言で交わされた再始動の合図。



掲げられた反撃の狼煙に、三人は笑みを浮かべた。







<< くそ!こっちの位置を感づかれてるのかは知らねぇが奴ら姿を全く見せねぇ! >>



建物の外で自身らが乗ってきた車体を盾に少女の一人と交戦をする男が狙撃手の男へと問うた。


狙撃手から返ってきたその返答に、彼らの支援は受けられないと悟り、男は眉間に皺を浮かべる。



こんな筈ではなかった。



相手は少女4人、その内1名は誘拐されたとされる無関係な民間人。


それを連れながら自身らをここまで相手取る少女達に、自警団員達は若干の焦りを見せていた。



応答がなく、安否の確認もできないオリビアやカーター達。


こうして建物の入り口を挟み銃撃を行う少女の姿を見るにその結末は絶望的だろうと皆は考えていたのだ。


そんな想定外の被害に彼らは遠い記憶を呼び起こされる。



この地がまだ戦火に包まれ、阿鼻叫喚の叫びを常に聞かせていたあの時代を。



長らく忘れていた男達の心にはその時既に、少女達が紛れも無い敵であることを思い出させていた。



そんな矢先、交戦を続けていた少女の銃声が止む。



目前の入口の奥に見えていた筈の人影は消え、不気味なまでの静寂が辺りを包み込んでいた。


あまりに唐突の出来事に4人は顔を見合わせる。


手にした得物のグリップを強く握りしめ、いつでもその銃口を向けられるように。




地面に何かがぶつかる音。




その身を隠す車体を挟んで地面を転がる野球ボールサイズの物体に、彼らは目を丸くした。



手榴弾グレネード!!!!!!!!」



曲線を描き、楕円形をした鉄の塊。


その爆発で何人もの人間が大小の肉の塊をぶちまけた様を思い出し、声を震わせながら男は叫んだ。



一斉に身をかがめ、その身を車体の後ろに隠す男達。



だが、それが爆ぜる事は決して無かった。



いつまで経っても微動だにしない手榴弾。


未だ静寂なままのその状況に、男達は困惑を浮かべるばかりであった。


が、同時に彼女達の真の目的に気が付くのに時間を要する事も無かった。



車体のボンネットに佇み、身を低くする男の一人に得物を向ける少女。




「га́в」




不敵に笑みを浮かべた少女がそう呟くと同時に、その散弾銃モスバーグは放たれた。



防弾着によって護られていない男の脇腹。


炸裂音を奏で、硝煙を吹きながら飛来したソレは男の肋骨幾本かを粉砕する。



「……がぁっ!!!」



大きく口を開け、苦痛を露にするその男。


地面に崩れるように倒れ込み、その手を離れた得物を拾い上げる力さえ、男には残されていない。


力無く、神にも縋る想いで男は狙撃手の方へ視線を送る。



しかし、その祈りも虚しく彼らからの支援が得られる事は無かった。



散弾銃を手にしたその少女に続くように外へと駆け出した長い金の髪の少女が小銃を弾き、狙撃手の居る方向へ牽制射撃を行っていたのだ。


「いつその存在に気付かれていたのか」と悔やむ間もなく、男の防弾着を2発の弾丸が穿った。



止めを刺すように、片手で握られた拳銃から放たれた弾丸。




その男の意識はそこで途切れた。




続けて、一人二人と地面に倒れ込む男達。


対処を見誤った彼らを嘲笑うかのように、散弾銃を手にした2人の少女は容赦なくその得物を弾き続けた。



背後で虚空へ向けて消え行く小銃の音を奏でながら。



そうして、男達の中で一人としてその地に足を着ける者が居なくなった頃。


少女達は狙撃手の居る方向から身を隠すように車体に背を隠し、4人で身を寄せ合う。



「ピン抜いてすらいなかったのに、思ったよりうまくいったな」



「What are we doing next?次はどうするの?」



「どうするっつても。あいつらやり過ごす為にもこの車かっぱらうしかねぇ」



散弾銃へ一発ずつ弾を装填するリジーとサツキ。


成功を驚きつつも喜ぶ様子でリジーは呟き、未だ牽制射撃を続けるアイリスが問うた。


対するリジーはそう言って、指先でもたれ掛かる車体を小突く。



2人はそんなリジーの提案に否定する素振りは無く、力強く頷いた。




そこからは一瞬の出来事だった。




成す術無く釘付けにされ、得物のスコープを除く事さえ許されない狙撃手。


当然、彼女達の逃避行を妨害する余裕も無く、されるがままにそのSUVは強奪された。



大きく蛇行運転を繰り返しながら森の奥へと姿を消すSUVと、その場に残された地面に蹲る仲間たち。




狙撃手の男は大きく溜息をついた。




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