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Delivery Bullet☆  作者: G
中部 フィフス・ハーモニー編
16/35

引鉄を引くという事


朝。


小鳥がさえずり、この町での人々の営みが徐々に音を大きくする。


自身の失われた記憶に対し止めどなく心を満たす不安は私の眠りを妨げ、気が付けば実際に眠りについたのはつい先ほどの事だった。



そんな事情はいざ知らず、私の部屋の扉は大きな音を立てて開かれた。



「朝だぞ!起きてっかー!!?」



微睡に顔を歪め、僅かに開かれた瞳でそんなリジーの姿を見つめる。


つい先ほどまで私を蝕んだ不安とは別に、彼女の様子を見た私は嫌な予感を胸に抱いていた。







昨晩メイから渡されたファーのついた緑のミリタリージャケットの下に防弾着プレートキャリアを着込む。


旧時代に「りんどなぁほふ」という企業が作ったもので、よくわからないが5代目のモノらしい。



僅かに感じる窮屈感と、両手の動きを妨げるその着心地に私は顔をしかめる。


その手に、同じくメイから渡された件の拳銃を持って。



事の発端は今朝。


私を起こしたリジーは目を輝かせながら射撃場に行こうと私を誘い出した。


サツキとアイリスを連れて。



もともと彼女達はサンタ・ソンブラとの戦闘で砂に塗れた銃を整備するために射撃場へ向かう予定で、ついでに私へ射撃を教えようと画策したらしい。


もちろん私は拒んだが、自分の身を護る術を少しでも学んだ方がいいと押し切られてしまった。


因みにメイとシャルはサツキらが車両の修理を依頼したガレージへ修理費を支払う為、今は別行動をしている。



「それじゃ、指はトリガーガードの外に出したまま、銃口は前を向けてマガジンを装填してみて」



私の横に立つサツキが微笑みながらそう告げた。


その横でアイリスもまた目を輝かせながら心底楽しそうに笑みを浮かべていた。



私はおぼつかない手つきで先にリジーより教わった各部の名称を頼りにサツキの指示に従う。



町のはずれに佇む旧時代のビルの残骸を利用した射撃場の二階部分に私達はいた。


リジー曰く、町で弾薬や武器を扱う売人が所有する物らしい。


数十メートル、数百メートル先に並んだ大小のガラクタ。


壁に空いた大きな穴から、開かれた土地に土を積み整備されたその的を見つめる。



常に銃口は的の方向を向くように。


決してトリガーに指を掛けず、目前の机に置かれた弾倉を手にする。


拳銃の底部に空いた穴にそれを差し込み、グリップを握る右手に添えるように左手を重ねる。



「おっけー上出来。じゃ、スライドを引いて弾を給弾してみて。その拳銃はトリガーセーフティだから、それでもう撃てる状態になるから気を付けてね」



耳当て越しに聴こえるサツキの声。


正面を見たまま、私は小さく頷いた。



右手はそのまま、私は左手で拳銃のスライドを引いた。


金属の擦れる音を奏で、勢いよく前進するスライド。



サツキの言った「それでもう撃てる状態」という言葉を思い出し、私は僅かに動揺した。


指に力を加えるだけでこの武器に内包された暴力は開放される。


容易に人の命を奪い、あらゆるものを破壊する力の具現。



無機物の的を狙うというだけでも、私の心には僅かな躊躇いが生まれていた。


こんな物を息をするように弾き、彼女達は命を摘んでいたのかと。


そこに生じた覚悟の差を、私は痛感したのだ。




「Fire!」




私の心の内を知る由も無く、声高らかにアイリスが叫んだ。


その言葉に驚いてか、反射するように私は引鉄を引く。



辺りの森に響き渡る炸裂音。


私の指を、腕を、肩を伝い、その身に伝達する大きな衝撃。


三点の白いドットによって定められた照準の先、木の枝から吊り下げられた大きな鉄板を目がけてソレは飛んだ。



高く、大きな音を奏でて命中の証を告げる金属板。



サツキから伝えられた射撃姿勢をとっていたものの、想像を超えた反動は大きく私の姿勢を崩す。


その様子を見たサツキが咄嗟に私の背と銃を持つ腕を支えた。



「初めてだとすごいでしょ、反動」



「Hit Hit!やったね!」



微笑むサツキと、その場で跳ねながら命中を喜ぶアイリス。


頬を伝う汗に、私は苦笑いを浮かべた。




「どうだった?」




それから数マガジン分の射撃を行った。


この地方ではあまり流通していない拳銃だった故、予備の弾倉が無く全て消費しては弾を込め直してを繰り返した。


射撃位置から離れ、私たちは壁際の椅子に腰かける。


テーブルを挟んで座るサツキが唐突にそう告げた。



「なんて言っていいか、わからないですけど……ただ、銃の()()を感じました」



私は無意識にも二つの意味を込め、サツキへと返す。


腕にのしかかる鉄の重さと、武器を使う事に対する心の重さ、その二つの意味を込めて。



「Weight...?重さ?」



サツキの隣に座るアイリスが首を傾げ私へと問うた。


対するサツキは無言で、僅かに考え込んだ後に口を開く。



「その銃を使えば貴女の意志で生き物を殺める事が出来る。それが敵でも私達でも、見知らぬ誰かでも」



サツキは腕を組み、真剣な眼差しを私へと向けた。



「武器はね、この世界で生きるには必要不可欠な物なんだよ。人が水や食料無しでは生きられないように」


「その銃を撃つ前、あなたは躊躇いを感じたと思う。その銃を撃つ事によって得られる結果を想像して」



あの時、私の心の内を彼女は見抜いていたのだろう。


彼女の言葉に、私は小さく頷いた。



「私たちはさ、殺すためにそいつの引鉄を引いてる。その理由はそれぞれだけどさ、例えば私は……この子のため」



複雑な心境に顔を歪める私に、サツキは微笑み、隣のアイリスの肩を抱いてそう言った。


唐突に肩に触れたサツキの手に、アイリスは顔を赤らめる。



「What!?サ…サツキ…?」



動揺する彼女の顔を見て可笑しく感じたのか、サツキは僅かに吹き出すように笑い声をあげた。



「ハハ、ごめんごめん。でもほんと。仲間の事も大切だけど、私にとってこの子は特別。自分が生きる為、仲間を護る為……そして何よりこの子を護る為に私は引鉄を引く」


「でも、あなたはそんな覚悟はしなくていい。ただ自分を護る為、本当に必要な時にだけ()()()()引鉄を引けばいいの」


「あくまで受け身の姿勢で居ればきっと、そいつらとは上手くやっていけるよ」



そう言って、彼女なりのソレとの付き合い方を説いたサツキの瞳はどこか切なく、どこか…慈愛に満ちていたように見える。


私はあの時、何を想ってその引鉄を引いただろう。


それが命を奪う物、何かを壊す物であると意識して、私は引鉄を引いた。


それがたとえ無意識であったとしても、そこには確かな()()という意思を込めて。



彼女はそんな私の姿勢が躊躇いを生んだと言うのだろうか。



サツキはアイリスの為にそれを使い、人を殺めると言う。


自分を護り、仲間を護り、アイリスを護る為。


そんな彼女の理由は理に叶っているようにも思えるが、私は彼女の心を察する事が出来なかった。


一見シンプルに見える動機に、どれだけの想いが込められているのか。


この世界で生きた時間の短い私にとって、その重さを測り知る事は出来ない。



だからこそ、だろうか。



受け身として、私に敵意を向ける誰かの刃から己を護る為にソレを使えと。


仮にそんな状況に陥ったとして、その姿勢が示す意味は確かな事かも知れない。



意図して誰かを傷つける訳ではない。



仕方なく、私は…仕方なく、己の身を護る為にソレを使う。


そうすれば、私は躊躇う事無く引鉄を引く事が出来るだろうか。



「そうで…しょうか…」



小さく、私は呟く。


サツキに、己にその覚悟を問うように。




「それは貴女が決める事だよ。もしも……もしもその後で相応の理由が出来た時は、それに従えばいい」


「人は何度でも理由を変えられる。心が迷った時、人は何かと理由を付けたがるんだ」


「そいつらとはね、そうやって付き合っていかないと心が壊れてしまう」



「大切なのは最初に撃つ時、何を理由にその引鉄を引くか。それだけだよ」




そんな私にサツキはそう答えた。


結局それを撃てるかどうかは私次第であると。


そして、最後にもう一度だけソレとの付き合い方を説いて。



私は、机に置かれた拳銃に視線を落とす。


その答えを出せぬまま。




「―――――――――――――――!!!」




矢先、リジーが驚いた様子で何かを叫ぶ声が聴こえた。


一斉に入り口側にて銃の整備を行っていたリジーへと振り返る私達。



気が付けば、数人の男女がこの射撃場に足を踏み入れていた。



紋章のような物が刺繍されたジャケットと防弾着を身に着け、その手に銃を握る何者か。


真剣な眼差しで緊迫した空気を醸し出す彼らは、リジーに何か問うているようだった。



そんな彼らの様子に、サツキとアイリスは机上に置かれた自身らの拳銃をホルスターへと仕舞い、表情を変える。


いつしか目にした、戦闘に備えた眼差しを浮かべて。



そして、彼らは私達へと歩み寄った。



並んで歩くリジーの表情はどこか困惑を浮かべた様子で、その頬を汗が伝う。




「貴女達には傷害罪、不法入国罪、誘拐罪の容疑が掛けられているわ。事務所の方で話を伺ってもいいかしら」




昨日、この町の入り口で目にした若い女の人。


冷たく、私達を容疑者として敵意を込めた眼差しで彼女は告げた。


その手にある拳銃を、強く握りしめながら。




「彼女はそういう理由でソレを使うのか」と、私が最初に浮かべた感慨はそれだった。


緊迫した様子で、反抗を決めかねる3人を他所に。




私はただ呆然と、その女の人の銃を握る手を凝視していた。




< 設定資料 秋季 衣類 >


シャル: ダークブラウンの革ジャケット, グレーのフーディー, スキニーデニム, 黒のブーツ


リジー: グレーのニット, 黒に白線の某ジャージ, グレーのショートパンツ, 黒タイツ, ブラウンのブーツ


メイ: 白の長袖シャツ, デニム, ダークブラウンのブーツ


アイリス: レンジャーグリーンのソフトシェルジャケット, タンのショートパンツ, 黒タイツ, タンのハイキングシューズ


サツキ: グレーのキャップ, グレーのパーカー, 黒のスキニーカーゴパンツ, 黒のハイキングシューズ


少女: ODのミリタリージャケット(ファー付きフード), 白のシャツ, 黒のスキニーパンツ, ブラウンのブーツ

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