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Delivery Bullet☆  作者: G
南東部 サンタ・ソンブラ編
10/35

モーセの十戒



シャルから少女へと手渡されたイヤーマフ。



その意図を察する事が出来ずに僅かな困惑を浮かべた少女は周りを見渡した。


気が付けば少女を除く全員がその耳にヘッドセットを装着し、バンドやマイク位置の調整を行っていた。



密閉された車内。



銃器によって弾かれる火薬の爆発音が保護無しの鼓膜に与える影響は強大であり、その反響音から耳を保護する為に彼女達はそれらを装備していた。


その光景を見てようやく必要性を理解した少女は急いで耳にイヤーマフを当て、これから起こるであろう惨劇に身を震わせる。




「ようやく来やがったぜ…!!シャル!もう撃っちまっていいんだよな!!!」


「構いません!盛大に出迎えてあげてください!!」



「Патимейкерだぜ!!!」




すっかりと暮れた陽、夜の闇を切り裂き視界を妨げるように彼らは大きく灯りを灯した。


その訪れを合図にシャルへと問いかけたリジー。


彼女はシャルからの了承を得るや駆け出す様に機銃席へと身を乗り出した。


その手にアイリスから受け継いだ軽機関銃ミニミを抱えながら。



落とされた開戦の火蓋。



とどまること無く響き渡る銃声にシャルとメイは後部座席の両端のドアを開け放った。


まだ遠く、男達の乗る貨客兼用車に穴が開き、無数の火花が飛び散る。


メイとリジーの得物から弾き出された高熱の薬莢がポップコーンの様に車内を跳ね回った。



対する男たちは蛇行運転を繰り返し、その銃撃を避けながら反撃を開始した。



メイの持つ小銃とはまた違う、少しだけ大きな発砲音。


貨客兼用車の助手席と荷台から向けられた20近くの銃口は負けず劣らず、彼女らの車両を蜂の巣にせんと火花を飛ばした。




「こちらに彼女が居る以上RPGは飛びません!!絞らず3台共に弾幕を張って下さい!!!!」


「Да!!」「了解!!」




シャルの声にリジーとメイは狙いを定めず敢えてバラけさせるように弾丸を飛ばした。


荷台、運転席はおろか車体にまで、余す所無く飛来する銃撃に男達は身を出しあぐね、僅かにその勢いを落とす。




「アイリス!!!」


「Yes ma'am...」




その様子を見て、唐突に助手席のアイリスへと振り返るシャル。


彼女からの呼びかけを待っていたように、アイリスは助手席側の扉を開け放ってその身を乗り出した。



僅かな静止、照り付ける白色にアイリスは得物スナイパーライフルのスコープを覗き込み、僅かに息を吐いてから得物を弾いた。



小さく、ガラスの割れる軽い音が響く。



1台の貨客兼用車のフロントガラスが赤く濡れ、操縦不能に陥った車体は道を外れて横転した。




「Enemy Down」




風に髪を揺らし、小さく呟いたアイリス。


その顛末を見送ってからアイリスは車内へ身を戻した。



同時に、軽機関銃を抱えたリジーもまた車内へと駆け込む。




「Чёрт!弾切れだ!!」


「リジー!それをこっちに!!」




リジーが言い終えるより早く、状態を察したシャルはリジーへ手を差し出した。


対するリジーもそれを聞いて弾の切れた軽機関銃をシャルへと受け渡す。



「もう今日だけで二箱つかっちまってる!!サツキが手ブラになんぞ!!」


「私の...5.56.....」



運転を続けていたサツキは正面を見たまま呟く。


その表情は伺えないが、どこか落ち込んだ様子を見せていた。



腕力を武器として、弾薬が貴重となるこの現代。


サツキが愛銃として用いるこの軽機関銃ミニミは制圧力こそ秀でている物の、その真価を発揮するのに多量の弾丸を消費する。


特に流通量の多い5.56x45mm規格の弾薬は部隊の中で共有する分とは別に、サツキ専用の枠を設けていた。


そんな彼女専用に保管されていた弾薬箱が先の広場と今とで2箱分空になっているこの状況は……()()()()()()()()におけるお財布事情に例える事でその悲痛さを実感できるだろう。


ここ数ヶ月間においても一日で使う量としては十分に在り得る量ではあったが、問題視されるのはその使用ペース。


あと2台分の敵を残したこのカーチェイスを継続する上でこの先想定される消費量は如何ほどの物だろうか。



先のリジーの発した言葉にはそれを心配する意図が含まれていた。



「………」



部隊において弾薬と言う名の金銭を管理するシャルもこうして考え込む程に、それは想像以上に深刻な事態であった。


とは言え、このレギオン上において今まさに銃撃戦を行いながら弾薬の消費状況を不安視できる者は彼女達くらいなものであろうが。




「家計が火の車に成りかねないですね……わかりました!アイリスの仕事は私が引継ぎます!メイはそのまま、リジーは9mmで牽制射撃を継続してください!!!」



「Да!」「了解!」「やった!!!!」




シャルの指示に対する了承に交じって喜びを露にするサツキ。


勝ち誇ったように気分を持ち直した彼女を見てアイリスは苦笑いを浮かべていた。







得物ウィンチェスターのレバーを下ろし、シャルが白い息を吐いた。




数時間にも及ぶカーチェイス。


中部との国境を目前とするこの地まで来るにあたってその障壁は数を増すばかりであった。



応援からの応援による応援。



脇道から合流した者や進行ルート上に待ち伏せる者、幾度にも渡って駆け付けた増援部隊を薙ぎ倒しながら、彼女達の表情には疲れが伺えた。




一発の銃声。




車体を覆う風に銃口から昇る硝煙が流される。


箱型の貨物自動車バンの運転席を捉えたシャルの弾丸はその運転手の眼孔を貫き、シートに血液を飛散させて車体ごと真夜中の荒野に消える。



「Сука!!どんだけいやがんだよ!!バレルが!!バレルがイカれる!!!!」



暴言を吐きながら再装填を行うリジーが慌てふためく。


彼女の持つ得物ベレスクのハンドガード部分からは白い煙が上がっていた。



「そんな骨董品に愛着持って使ってるからいけないのよ」



そんなリジーの様子を見たメイはそう呟いて自身の得物に水筒の水をぶっかけた。


「ジュウゥ...」と、熱した鉄が急速に冷める音を奏でながら僅かに昇る水蒸気。



「Ой!!?おまえ正気か!!?お前には愛着ってもんがないのかよ!!」



心底驚いた様子でメイへ怒鳴ったリジー。


そんなリジーにメイは見当がつかない様子で疑問を浮かべていた。



「こんな忌まわしい銃に愛着なんてないわ。身に染みてるだけで撃てればなんだっていいのよ」


「Неужели......」



唖然とした様子でメイの言葉を聞いたリジー。


その表情は呆然というよりはある種の恐れを感じた様子であった。




「メイ……はともかく、リジーはもう射撃を控えても大丈夫です!!サツキ!国境までの距離は!?」



「あの丘を越えてすぐ!!国境まで数百メートルだから銃声はもう十分聴こえてる筈!!!」



「わかりました!アイリス!準備をお願いします!」




サツキへと国境までの距離を問うたシャル。


それを聞いたサツキは片手で正面を指さし、国境との距離、そして、国境を護る者達が待ち構えているであろう国境検問所に注意するよう促す。



そっと、アイリスは頷いた。


シャルの意図した事を察するように、その手中にある狙撃銃のグリップを強く握り込む。



未だ彼女らを捕らえんと追跡を続ける貨客兼用車と貨物自動車、計2台に乗る数名の男達は得物を弾き続ける。


その勢いは衰える事無く、異国の言葉を叫びながら聖母と組織への忠誠を謳っていた。



再びメイは発砲する。


闇夜に華状の閃光を咲かせ、迫る彼らの手を振り解かんと必死にその身を衝撃に揺らしながら。



そんなメイや彼女達の姿を見たシャルは心の内で小さく感謝を口にした。


得物のレシーバー側面に設けられた装弾口より弾帯から抜き取った弾丸センターファイアを一発ずつ装填しながら。


ここまで自身の我儘に付き合ってくれた事、ここまで来ることができた事、最後の戦いに備えるように、彼女はただただ感謝を浮かべた。




車体が僅かに宙を舞う。


丘の緩やかな陵線を超え、小さく跳ねた車体が数百メートル先に建てられた国境検問所の視認範囲内に着地した。




「FREEEEEEEEEEEEZE!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




国境検問所に取り付けられた無数の光源ライトがこちらへ向く。


拡声器により拡張された静止を促す叫び声が広大な荒野を突き抜けるように反響した。



それ以上の接近には発砲もいとわないといった様子で検問所に隣接された監視塔から屋内、屋外にまで配備された10名近い国境警備隊員達が此方に銃口を向ける。



「前門拒虎、後門進狼......」



己が弾く銃声にその音を掻き消されながらメイが呟く。


それはまさに今、この状況を表していた。


だが、そんな現状を嘲笑うようにシャルは微笑む。




「アイリス!RPGです!!」




双眼鏡を手に国境検問所を見つめたシャルが叫んだ。


検問所に隣接された監視塔、テラス状に設けられた柵の前で佇む隊員が手にしていたのは一本の携帯対戦車擲弾発射器ロケットランチャーであった。



シャルの合図に「待っていました」と言わんばかりに助手席の扉から狙撃銃を構えるアイリス。



ここに到達する数十分前、シャルは告げた。


国境検問所到着時における警備隊員の殺害の禁止と、携帯対戦車擲弾発射器への懸念を。



少女を狙うサンタ・ソンブラと異なり、国境警備隊の隊員らに与えられた任務は無認可の侵入者の排除。


銃撃を行いながら接近し、静止を無視した車両へそれを向けるのは必然であった。



されど、そんな彼らを殺める事は出来ない。


サンタ・ソンブラに対する宣戦布告とは別に、レギオン最大勢力である中部の組織から敵対意識を受けるのは些か面倒な事であったからだ。


前時代の法律を借りるのであれば、この場は殺人容疑でなく不法侵入容疑程度で切り抜けなくてはならない。




アイリスは深呼吸した。




数百メートルの距離、大きく揺れる得物、レティクルに大きく捉えられた爆発物――――


この車両に同乗する者全員の命を懸けた一撃が―――





荒野に響く炸裂音。




数千ジュールのエネルギーを内包した鋼鉄の槍は風を切る音を高らかに奏でながら飛来した。


此方へ向かって一直線に進む不審車両へと向けた携帯対戦車擲弾発射器をその肩に構え、今まさにトリガーを引かんとした腕を掠め、その弾丸は彼の右肩を僅かに抉った。



直撃を避け、軽傷でありながらも衝撃に大きく揺られた身体。



強く引き絞ったトリガーから伝達し、発射を余儀なくされた弾頭はあらぬ方向へと向かって直進した。




鳴り響く轟音。


地を抉り、砂を巻き上げながら広がる爆炎は国境検問所の十数メートル前方を吹き飛ばす。




其処に設置された、対車両用のバリケードを見る影も無い姿へと変えて――――




そうして、広がった爆炎を払うように突き進んだ高機動多用途装輪車両をその目に捉えた時、困惑した警備隊員達は一斉に小銃を弾いた。


すれ違いざま、車両の助手席の窓より顔を覗かせた中指を立てる少女の姿をその目に焼き付けながら――――






大きく空いた地面の穴、散乱するバリケードの残骸と、無残に開け放たれた国境の扉。


その場に停車し、困惑した様子で額に汗を浮かべた2台の車両の男たちを国境警備隊員達は容赦無く射殺した。






< 装備構成設定資料 アイリス >


銃器[主]: M24E1 ESR


弾薬: .300ウィンチェスターマグナム弾


トップマウント: Leupold Mark4 6.5-20x50mm

アンダーマウント: Harris Bipod BRM-S


負紐: 2点 BK


----------------------------------------


銃器[副]: P320 M18


弾薬: 9x19mmパラベラム弾


----------------------------------------


防弾着: JPC プレートキャリア (TAN)


正面[カンガルーポーチ]: 3本分のSTANAGマグが収納可能

正面[モール] : M24 ESR用 マグポーチx3

正面[上部] : PTTスイッチ

正面左[ベルト] : 止血帯


左面: ラジオポーチ

右面: 2本分のグレネードポーチ


背面[下部]: ユーティリティポーチ, ケミカルライトx2


----------------------------------------


弾帯: 分離型 モールシステム (TAN)


左面: P320用二連マグポーチ

右面: P320用 CQCホルスター

背面: ダンプポーチ

背面[右]: M9バヨネット用シース

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