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Delivery Bullet☆  作者: G
南東部 サンタ・ソンブラ編
1/35

オープニング

建物一つない、見渡す限りの広野。


真っすぐに伸びた一本の道が丘を越えて続く。


その広野にそびえ立ち、地平線の彼方へと続くフェンスを守るのが彼らの勤めであった。


有刺鉄線が張り巡らされた、目に見えない境界線を隔てる鋼鉄の柵。


地図上に引かれた国境線という名の血塗られたレールを死守し、ボードゲームの縄張り争いの如き小競り合いに命を懸ける屈強な男たち。


見たこともない国の統治者の為、またぐ者の血でその手を汚し、平和に一日が過ぎれば感謝を述べた。


その大地に足を着いてからどれだけの月日が経過したのか、彼らにはもうわからない。



「北方1km先に大型車両トラック一台を視認。時速30km程で此方こちらへ接近中」



遥か先、彼方まで続く名も無き一本道。


それを辿る一台の車両の存在を一人の部隊員が発見した。



「了解。モッカー、そのまま偵察を続けてナンバーの照会をしろ」


「他は展開、車両の確認はヨークとライリーで行け」



発見の報告を聞いた部隊長は即座に部隊へと指示を出し、各々が与えられたポジションへと展開した。


彼方に見える件の車両を鮮明に視認できるようになった頃には、既にお迎えの準備は整っていた。


何日か振りに外された小銃の安全装置セーフティ、僅かなときを経て思い出された火薬の香りに、隊員達の表情は僅かにこわばる。



「データ無し。未登録車両です」



車両のナンバーの照会を終えたモッカーが口早に告げた。



「全員警戒を怠るな。不審な動きを見せたら各々の判断で撃て。ヨークとライリーを撃たせるな」



報告を聞いた後、部隊長から命令が告げられた。


目前の車両は既にターゲットとして認識され、先に車両の確認へ行く二人の安否が優先される。



フェンスの繋ぎ目、彼らのまもるゲートに隣接された高台から。


正面の道へと向けられたバリケードから。


左右に伸びる壁の隙間から、二人ずつ配置された、計6丁もの銃口が車両へと向けられる。



「これはこれは、憲兵さん達、お勤めご苦労様です」



澄ました表情で運転席の女はそう告げた。


ウェーブショートの黒髪、大きな黒の瞳と、童顔で整った綺麗な顔立ち。


全身は確認できないが、彼女はどうみても成長期半ばの少女であり、状況が状況だけにライリーは困った表情を浮かべて眉をひそめていた。


続いてモッカーも彼女の姿を双眼鏡越しに捉え、困惑した様子でPTTスイッチを手にした。



「運転席に少女を一名確認」



「了解。だが荷台は未確認だ。ターゲットの全乗員を確認するまで気を緩めるな」



駐車した白色の大型貨物自動車トラック


僅かに錆びついたトラックコンテナの中身が知れぬ以上、警戒を解く訳にはいかなかった。


中に武装した戦闘員や爆発物を積んでいる可能性もないわけではない。


モッカーの通信を聞いた部隊長もまた困惑を隠しきれなかったが、こと戦場においては()()()()()()も日常的に目にする物である。



「嬢ちゃん、ここはおつかいで来るような場所じゃないぜ」


「ともかく、ゆっくりそれから降りて積み荷を開けてくれ。おじさん達も嬢ちゃんみたいな子を好き好んで撃ちたきゃねぇ」



ライリーは冗談を交えたつたない言葉遣いで出来るだけ優しく少女へと語りかけた。


少女の素性すじょうは知れないが、部隊員には子持ちも何人かいる。


彼の言葉通り意図して子供を傷つけたいとは誰も思っていなかった。



「お優しいんですね。やはりここは良い国です」


「わかりました。私から目を離さないで。シートベルトを外しますね」



僅かに微笑み、彼女はライリーが視認できるようゆっくりとシートベルトへと手を伸ばす。


ライリーはその様子を見つめながら、心底困惑した表情で疑問を浮かべていた。


大災害から幾年もの時が過ぎ、衰退した人類間で絶えない小競り合い。


秩序は崩壊しかけ、世界各国の大半の国家機関も死滅した最中で領土と境界線のみ残る国の残骸。


腕力だけが価値として生き、緩やかな足取りで終末を迎えつつあるこの世の中で一人旅に興じる目前の少女。


か弱く、無防備な身を晒す少女一人がこのような場にやってくるのは控えめに言ってとしか言いようがなかった。


しかし、だからこそ、この少女が何らかの罠である可能性を懸念するべきであるのは確かであった。


部隊員全員が肝にそれを命じ、得物の安全装置セーフティの解除はもちろん、瞬きすら許さず少女の行動を見つめていた。



「ああ、外してくれ。何があったかはあっちの詰め所でゆっくり聞こう。コーヒーくらいしか――――



ライリーはコンマ数秒、僅か一瞬視線をゲート後方にある詰め所へ向け、指を指した。




刹那――




広野に一発の銃声が響き渡る。


丘を越え、谷を越え、遮る物は無く輪のように広がり、消えていく筒音。


振動を与えられたコークのように、一発の鉛玉が開けた穴から真紅の血潮が吹き出し、瞬く間に命を喪失した肉は地面へと崩れ落ちる。



「お気遣いありがとうございます」



少女の右手、シートベルトへとやった手に握られた回転式拳銃シングルアクションアーミー


硝煙しょうえんの充満する車内で少女は微笑んだまま、そう告げた。




「 撃て!!!! 」




そして、あとは流れるように。


ごく普通に、自然な形でその一時は崩壊し、ささやかな復讐に暮れた殺人鬼たちは一斉に火薬を弾きはじめた。





ここでもまた、ごくありふれた日常の如く、その世界観は世界を侵食して行く。



<< FAQ >>



【レギオン...って?】:

大災害後の世界全土を示す言葉。

一つの超巨大な大陸。


【大災害...って?】:

数百年前に発生した自然災害。

地球に衝突した隕石に眠っていた地球外の病原菌により世界人口の9割が死亡し、衝突による海面上昇からレギオンが生まれるまでを指す。


【運び屋...って?】:

レギオンで盛んな配達ビジネス。

指定の物を指定の場所まで届けるだけの簡単なお仕事。


町の特定の場所で依頼人から仕事を引き受ける。

対談や掲示板等場所によって違い、報酬もピンキリ。

命の保証はない。


【トラッカー...って?】:

運び屋に従事する人間の事を示す言葉。


【国、国家... って?】:

レギオン上の地域を指す。

国家機関が生きている国もあれば、大災害以前にあった国の名前を取り地名としてのみ形を残しているものもある。


【国境...って?】:

国と国の領域の境目。


【最終戦争...って?】:

大災害後に行われたレギオン上での領土争い...のやばいやつ。

大災害を生き残った様々な文化の人々がレギオンでの領土を取り合った戦争。

数百年に渡ってレギオン各地に血が流れ、つい最近終戦した。

国ができたりすぐ崩壊したり、国境はその際に作られた。

三国志とか戦国時代とかそんなイメージですよ。


【通貨…って?】:

基本的な資源の取引は物々交換によって行なわれる。

依頼と報酬という形もあるが、主流となっているのは生活用品や弾薬を対価とした取引。

その国で需要の多い弾薬や、希少な物ほど価値は高い。

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