仕事
なぜ、ギルドや役所ではなく、教会に来たのか。
答えは簡単。
教会だけが無料で身分証を発行してくれるのだ。
(正確に言えば、無料ではなく、労働を対価として取られているのだが…。)
身分証の発行自体大したことはない。
白鉄という摩金属のプレートに血を一滴垂らすだけ。
「プレートの原価は、カスみたいな値段なんですけどね。ハハハ。」
普通の少年は楽しそうに笑った。
エリンギ
種族
普通人LV3
職業
勇者教信徒LV1
スキル
悪食LV3
擬態LV2
「悪食は何でも食べられる能力みたいですね。うわっ、しょぼ。とりあえず、明日から仕事を用意するので、今日は休んでください。聖堂の奥のスペースで寝てください。」
少年は笑顔で言った。
俺は、とぼとぼと歩いて行く。
聖堂の奥のスペースは本当にただのスペースだった。
屋根があるだけで、他には何もない。
俺より前に4人の男が寝ころんでいた。
俺は会釈し、適当なところに座る。
しばらくして、シスターの女の子がやってきた。
「エリンギさん。この服に着替えてください。」
俺は、学生服を失った。
ごわごわする服は、学生服とは違った着心地の悪さ。
何も考えず寝よう。
「朝ですよ。」
シスターさんが、パンとスープをくれた。
俺は久しぶりのまともな飯に感動した。
「お尻は大丈夫?」
昨日からお世話になっている普通の少年。
いや、普通に後ろ暗い少年は言った。
「…?」
俺が首を傾げるとその表情に疑問を感じたのか、後ろ暗い少年が言う。
「君、LV3だし、犯されちゃうと思ったんだけど…。あ、そうか擬態で逃げ切ったのか。まあ、それはいいや。事務連絡だけど、君の入国を観光からボランティアに変えたよ。これで一ケ月はこの街に滞在できるよ。」
こいつすげーこと言ってるのな。
まあいいや。
「一ケ月は教会のボランティアに協力しなきゃいけないってことか?」
「うん、そうだよ。仕事内容は公衆浴場の掃除。一日二ヶ所ね。」
「休みは?」
「ないよ。ボランティアだからね。」
「給料は?」
「ないよ。ボランティアだからね。」
「逃げたりしたら?」
「教会では一回しかプレート作成をしないんだ。それに、教会の仕事から逃げた奴は奴隷にするって決まりなんだ。」
「…。」
「他に質問が無ければ、案内するよ。」
こうして、俺のボランティアが始まった。
風呂の掃除は結構楽しかった。
でかい風呂は見たことないし、帰りにはシャワーを使わせてくれる。
結構なきれい好きな俺にはありがたい仕事だった。
「おう、エリンギ!今日もしっかり来て偉いな。勇者教なのに。」
風呂屋のおじさんとも仲良くなった。
「…勇者教はあんまり良くないんですか?」
俺は、薄々感じていたことを聞いてみる。
「おう、勇者教って言えば、街の掃除から奴隷売買までやってる悪徳業者ってイメージしかないぜ。」
「…。」
「その様子じゃ、お前さんも騙されて入ったんだろ?」
「僕はお金も身よりも無いもので…。」
「…そうか。何か力になってやれたらいいんだがな。」
「そのお気持ちだけで十分です。」
「…たく、お前って奴は。」
「お疲れ様です。一ケ月間よくがんばりました。」
後ろ暗い少年は、笑顔で言った。
「で?どうします?継続しますか?」
「いや、継続はしない。」
「一ケ月間の申請でしたので、この街から出ることになりますけど平気ですか?」
「は?」
「いえ、申請したのは一ケ月ですから。」
「ああ、そういうことか。」
このシステム作った奴すごいわ。
街にいたかったら、毎日ボランティア。
それが出来なきゃ、街にはいられない。
入国申請には、金がかかる。
詰んでるわ。