9話
「見てもいいか、凪?」
「好きにして‥‥‥」
僕は今、それどころじゃない。
「ぅわ、何このチート性能。鍛えたら文字通り無敵じゃん。」
「ホントにそうだね。凪くんは攻撃力も高いし、このままレベルが上がればトップクラスの探索者になれるよ。」
「そうそう、攻撃力への補正値であるstrはあくまでも補正だから、もとの身体能力が高いとより効果が高くなるものだし、凪のユニークスキルは筋力そのものを強くするものだからすごいいいスキルだと思うゼ。」
『だから元気だしなよ(だせって)』
「うぅ、好き勝手言わないでよ。自分の姿が嫌で筋トレ始めたのに、努力が水の泡な上にもうもとに戻れないって言われたんだよ。」
「そうかな。今の姿もいいと思うよ。かわいいし。」
「‥‥‥ホントですか? 辻さん?」
「前のマッチョなのも良かったけど、今のかわいい姿もけっこう、いやかなりいい。いいよいいと思うよ! まさに私の理想の受けキャラ!」
「ありがとうございます。少し元気が出ました。」
「えっ、今の元気出るか?」
こんななよっとした僕ではだめかと思ったけど、お世辞でもいいと言ってくれたのは嬉しい。中高ではみんなから遠巻きになにかささやかれていたので心配だったんだ。
「すみません。今日はちょっともう帰ります。」
「そう、じゃあまた明日来れそう?」
「はい、どっちにしろ筋トレはやめませんし。」
「そっか、そうだよね。筋トレをしない凪くんは、姿が変わっても想像つかないし。」
「はい、また明日来ます。」
僕はフラフラとまだふらつきながら歩き出した。
「大丈夫か、ほら肩貸すよ。」
「ありがとう、颯。」
「はぁ、弱った凪くんを家に連れ帰るイケメンは凪くんを、なぎくんを、はぁ、はぁ、ちょっとこれは帰ったら徹夜ね‼」
「うっ、なんだこの悪寒。」
「さっきから大丈夫、颯?」
「あっ、ああ。大丈夫だ。早くここ離れよう。」
僕は颯に捕まりながら、家に帰ろうと思っていたが予想以上に衝撃を受けていたらしい。疲れてバスを使うことにした。
バスの中で僕は、颯に色々質問することにした。
「ねぇ、さっきさ。颯、ユニークスキルのこと知ってたみたいだけどどうして? これってけっこう珍しいらしいけど。」
「ああ、そういえば言ってなかったっけ。俺、新宿の迷宮ができたときちょうどその上に立ってて逃げられずに落ちたんだ。」
「えっ、それって言い忘れること⁉ すごい大変だったんじゃん!」
「ステータスやスキル、魔物などについて話さないように言われてただけだよ。そのうちわかるだろうことだし、無駄だとは思ったけどね。ついでにいうと、そこでユニークスキルも獲得した。」
「‥‥‥そういうスキルとかの情報って話さないほうがいいんじゃ?というより颯もユニークスキル持ってたんだね。」
「気にすんな。俺も凪の見ちまったからな。俺のは【無限吸収】ていって、倒した魔物の経験値の全吸収とスキルの吸収って効果だ。」
「ありがちな最強能力だね。強すぎない? それ。」
「順当に強いぞ。成長が早いのは悪いことはないからな。ただ、今潜ってるところの魔物の死体は高く売れるんだが、俺が倒すと魔力が根こそぎ奪われていて使い物にならいんで買い取ってもらえない。お金にならないんだよな。そういうお前はすごい儲かってるって聞いたけど‥‥‥」
「1日に20万円ぐらいだったよ。ポーションって意外と高いんだよね。それに需要はどこにでもあるから価値が下がらないし。」
「‥‥‥ゑ? 日当20万? ってことは月に約600万の稼ぎ? 嘘だろ⁈」
「ホント。」
「お、おれの今までは何だったんだ‥‥‥」
颯はすごくショックを受たようで目のハイライトが消えていた。少し怖いや。
「まあまあ、別にお金のために探索者になったわけじゃないんでしょ?」
「あ、ああ、確かにそうなんだけど、世間で言われてるような探索者が儲かるという考えは幻想だと自分に言い聞かせてきたのに目の前に儲かってるやつがいるのは心にくる‥‥‥」
「颯?ほんとに大丈夫? 今日おかしくない?」
「俺をおかしいやつ呼ばわりすんな! おかしいのは俺じゃない! 周りだ!」
「‥‥‥119っと、」
「ま、待て、待ってください。俺大丈夫。ちょっと今日は気疲れすることが多かっただけなんだ。」
「気疲れ?」
「ああ、実は次回の迷宮探索者の資格試験に先立って迷宮内の活動について一般人に伝えたいらしい。正直、俺たち最初の資格試験の合格者が自衛隊に続いて探索しているけど、安全志向で少数しか取らなかったから、そこまで探索は好転してない。」
「そうだね。探索はやっぱり危険だし、みんな慎重になるもんね。」
「それにお前みたいに迷宮で探索そっちのけで筋トレしてるやつまでいるからな。まあそういうわけで、次の資格試験ではだいぶ多くの人を取りたいらしい。」
「へー。増えるんだね。そうしたら僕の筋トレしてた場所も次来る人たちに譲ったほうがいいかな。」
「先達としてはそうすべきだな。お前から聞く限り探索者達の中ほどの強さになった者にとって、いい狩場になるんじゃねえか。ポーションはあって損しないからな。いいか、普通はお前みたいにことごとく売っぱらったりしないんだよ!」
「わかったって。で、それが颯の気疲れにどう関係するの?」
颯はため息をついて、少しまわりを気にしつつ言った。
「俺に一番深く潜っている探索者としてテレビ出演をお願いされたんだ。」