6話
僕は今、資格を持った探索者として、あの大穴の中にある迷宮にいる。
僕は友人から一緒に探索者にならないかと誘われて、一番最初の迷宮探索者の資格試験で受験をしてをいる。そのときの受験者はおよそ30万人いて、合格者5000人という狭い門をくぐり抜けて見事探索者となったんだよ。
この試験は政府が設置した迷宮管理局が行う国家資格の試験であり、一般人が迷宮に入るためにはこの資格が最低限必要となる。その後、迷宮管理局に所属して迷宮探索を行えば公務員として遇され最低限の賃金と成果の提示による追加の報酬がでる。
現在の一般の探索者は活動している範囲に関して地図のデータやそこの状況を提出するとその情報を買ってもらう形で成果の提示をおこなう。ほかにも、迷宮内の植物や石、魔物の死体も買い取ってもらえる。いくつかの有用な部位以外は研究用としての買い取りとなる。
もちろん、探索者を一般人からつのるのは政府としても苦渋の決断だったはずだ。今は迷宮に対する恐怖が世間では強く根付いている。若い人たちには、迷宮に興味を持つ人はかなり多いものの、自衛隊でなんとかすべきだという批判は今でも多い。
しかし、それまで自衛隊が行ってきたものの、人手が全く足りずにいっこうに探索が進まなかったのだ。日本全国に100カ所を超える大穴があいたため、そのすべてをカバーすることは絶対に欠かせないが探索に手が回らなくなり、さりとて1カ所に集中して対応しようにも魔物は勝手に出てくる。
現に大陸では対応仕切れなかった大穴から次々に魔物があふれ出し、甚大な被害が出ている。各国は大都市と呼ばれるところに人を集め防衛力を集中させながら高い壁を建造しているところで、放置された大穴からさらに魔物が出続けているということが続いている状況だ。
日本は幸い、すべての大穴を把握してそれぞれに人員をさけていて、出てくるたびに駆除していたものの、いつ新宿のように強い魔物が出てくるかわからない。そんな状況を打破するために送り込んだ部隊は、広い迷宮に翻弄された。いくら魔物を駆除しようと、魔物は迷宮内で繁殖しているわけではなくどこからともなく発生しているようで一向に減ることはなかった。さらに強い魔物と遭遇して壊滅することもあり、探索は遅々として進むことはなかったそう。
こういった海外と国内の状況にあせりを感じた政府は人員を確保するため一般人から募ることにしたんだ。
それでも一般人から死傷者がでてしまったとなれば問題になってしまうし、迷宮探索者の資格試験でできる限りふるいにかけたいと思うのも当然なんじゃないかと思う。
誰も彼もを入れてしまえば目が届かなくなる部分が増えていく。外から来た物や死体などが時とともに消えていく迷宮ではカメラを設置などできない。迷宮で人が死んでも、犯罪が起きても、政府はそれを御せなくなる。
そんな試験は難しかったというより疲れるようなものが多結構あった。命に関わる状況にいつなってもおかしくない探索者の仕事をする以上体力がいると判断されたのだろう。体力テストをするものが多かったんだ。筋トレでは速筋、つまり瞬発力のある筋肉を鍛えるメニューが多くて持久力にはあまり自信がなかった。僕が合格できたのは単純な力の測定でいい成績が出せたからだろう。そこにはもちろん自信があったから。
僕の友人はソロで戦っているらしく、今は自衛隊の部隊が進んでいる場所を越えて活動しているらしい。本当にたいしたやつだと思う。ここぞという時の行動力は目を見張るものがあると思うよ。てっきり僕を誘ったのだから一緒に探索者として活動するつもりなのかと思っていたんだけど。
まあ、それは個人的なこともあるだろうし特にいうつもりはないし、僕は僕で探索そっちのけでやっていることがあるせいで、人に一緒に探索しようなんて言えるわけないんだけどね。僕もステータスを得てから約2週間くらいたっているけど、レベルはまだ5で魔物とはそんなに戦っているわけではないんだ。迷宮の地図を書いているわけでもない。
まあ、ズバリ僕のすることなんてどこでも変わらないってこと。つまり筋トレをやっているのだ。迷宮で行っている筋トレはバーベルを使ったものがほとんどだ。バーベルは筋トレにも武器にも使えて便利なんだ。
僕の迷宮での活動はほとんどこれをやっているだけだ。なぜ迷宮で筋トレをやっているかというと、迷宮内では消費カロリーが大きく増えるために探索者の食事は迷宮内で得られる食べ物を支給されているんだよね。消費カロリーが増えているということから、普通の運動でも激しく運動することと同等な運動になっていると考えた。そこで迷宮内で筋トレを行ったら効果が大きくなるかなって考えたんだ。
結果は予想通りで僕の筋肉はより大きくなってきた。それも目に見る早さで。
僕は迷宮での筋トレにはまってしまった。筋トレに集中したかったから、魔物がいない場所を探した。わざわざ、迷宮に探索に来たあげく魔物のいないところを探す僕に友人はあきれていたが、彼は僕にいいところを教えてくれた。
情報を頼りに1階層で見つけたそこには重厚そうな扉があった。
中にはゴブリンより二回りは大きく筋骨隆々であるホブゴブリンというべき魔物がいて、倒してもだいたい1日して戻ってくると復活していた。
2階層へ続く道からはかなり離れていて人が来ないし、ボス部屋といえる場所だからか、ホブゴブリンを倒した後は魔物がいない。まさに、おあつらえ向きの場所だった。ホブゴブリンは1階層に現れる魔物とくらべて少し強いらしくて、これだけ倒していてもレベルが少しは上がるし、ついでにホブゴブリンを倒せばポーションが宝箱から出てくるので、かなり多額で売れるしで一石三鳥だったんだ。
ちなみに、人が来ないので、僕はその場所を占有する形で利用しているが、一般人でホブゴブリンくらいの強さの魔物は厳しいらしくポーションを売りにだすことで黙認されている。
ちなみに僕がホブゴブリンと戦うときは持参しているバーベルを片側だけに重りをはめて殴っていて基本的に一撃で終わる。これを繰り返していたからか、【攻撃力強化Ⅰ】というスキルも獲得していた。これはパラメーターのstrを強化するスキルらしい。
strが物理攻撃に関する補正、vitが物理防御に関する補正、intが魔法攻撃に関する補正、minが魔法防御に関する補正、agiはいろいろな速度への補正、dexはいろいろな技術への補正というふうになっているそうだ。
僕のパラメーターはstrにしか割り振られたことがない。いくらなんでも、かたよりすぎのような気がするけど、迷宮に入ってすることなんてホブゴブリンをバーベルで殴り殺すだけだから、使ってない分野が成長するはずもない。
これらの情報は迷宮探索者を管理する迷宮管理局の支部にそれぞれある、迷宮内で見つかった石版による情報だ。これは物や人を鑑定するものでスキルの力なども知れる優れものだ。人に関しては、自分のステータスを見ることは誰でもできるが、詳しい内容まではわからないんだよね。
なので、スキルの内容など知りたいことがあるときにもこれを使う。