3話
────新宿にできた大穴に落ちた青年はとても運のいい人間だった。
彼の名前は霧島颯(21)という。端整な顔立ちと優れた運動神経、学業も優秀で人付き合いも悪くなく、何よりそれらを鼻にかけない爽やかなイケメンだ。
彼だってラノベはいくつか読んでいるし、大穴に落ちた直後にダンジョンという単語が脳裏に浮かぶ程には、ファンタジー的なものへの憧れもあった。
「痛っ!腰打ったよ!」
落ちた大穴の中は暗かったものの、横や地面にところどころ生えたコケが弱い光を放っていたので目が慣れた頃にはある程度周囲を見ることができた。しかしながら野生動物ならいざ知らず、人間がよく見通せるような明るさではなかったのでスマートフォンで明かりをつけることにした。そこは洞窟ではなくレンガでできた道だった。
周りの様子を確認して期待はますます大きくなってきた。もしかすると異世界という可能性も·····
上を見ると黒い渦が存在するので帰れないということもなさそうだ。これはやはりダンジョンに違いない。
とりあえず彼は定番であり、この手の世界観に不可欠なアレをたかぶったテンションに任せて叫ぶことにした。
「ステータスオープン‼」
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《Name》霧島颯
《Species》人間
《Level》1
《Parameter》str:1 vit:1 int:1 min:1 agi:1 dex:1
《Unique Skill》【無限吸収】
《Rare Skill》【ナビゲーション】
《Normal Skill》
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「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ‼ スゲェェェェーーー‼ マジでダンジョンだよこれ!」
まさにゲームそのものだ。いささかパラメーターという部分が低すぎる気がするのが不安だが、いかにも強そうなユニークスキルがある。それに加えてレアスキルの枠によくわからないスキルがあるが·····
「この【ナビゲーション】っていうのはなんだ?」
(はじめまして、霧島颯様。ワタシが【ナビゲーション】です。)
「うぉっ‼ 何だ!」
いきなり脳内に直接響いているような声が聞こえた。いきなりのことで驚いたがこれもこれでテンプレのような気がする。
「あー、名前的に色々教えてくれるんだな?」
(はい。ワタシは【鑑定】を主としていくつかの探索系スキルが統合された上位スキルになります。物や生き物の情報だけでなく、この世界の一部の情報を提供できます。さらに、霧島様の次取るべき行動をご提案させていただきます。)
「この世界の情報ね·····。じゃあ、ここはダンジョンで間違いないのか?」
(はい。ついでにいいますと、ワタシはダンジョンに世界で最初に入ったものに与えられるスキルです。)
「じゃあ、【ナビゲーション】スキルを持ってる人は俺だけなんだよな。」
(そうなります。)
「それなら、お前もユニークスキルになるんじゃないの?」
(いえ、ワタシはレアスキルで間違いありません。レアスキルとはノーマルスキルの上位スキルの呼称です。確かに他の人が【ナビゲーション】を獲得することはありませんが、あくまでもワタシは【鑑定】の上位スキルの一つなのです。)
「へー、そうなのか。じゃあ、結局ユニークスキルって何なんだ。」
(ユニークスキルとは、個人に発現する一つとして同じもののないスキルです。ワタシは誰のスキルとなっていても同じ効果であるという点でもユニークスキルではないと言えます。)
「なるほど。なら‥‥‥」
(失礼します。奥より魔物が来ています。)
それを聞いて入り口の渦の反対方向を見ると、通路の奥にある分かれ道の左側から子供がこちらに向かっている様子が見えた。
(申し訳ありませんが、説明する時間がないので指示に従ってください!)
「分かった! どうすればいい!」
(明かりを消して『ナビゲーションスタート』と発音してください。)
「ナビゲーションスタート!」
変化は劇的だった。今まで明かりがなければよく見えなかった通路の様子が昼間のようにはっきり見える。さらに敵の位置が分かるようになった。
子供に見えていたそれは、緑色の肌に大きな頭と醜く歪んだ顔を持つ小人だった。間違いない‥‥‥
「ゴブリンだよな。ステータスって分かる?」
魔物のうちでも弱いだろうゴブリンのステータスを見ておきたいところだ。
(はい、こちらになります。)
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《Name》
《Species》緑小人
《Level》3
《Parameter》str:4 vit:3 int:1 min:1 agi:2 dex:1
《Normal Sukill》【棍棒術Ⅰ】
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「‥‥‥あれっ?強くね?」