リファのお母さん
「あなたニホン人でしょう?」
リファのお母さんは真剣な顔をして俺に聞いてきた。
「ま、まあニホン共和国から来てますからね。」
一応設定をやり通すことにした。すると、リファのお母さんは笑いながら
「ふふふ、安心して、私も日本人よ。私の名前はヨーコ・ポランセヌ。旧姓は杉本。杉本陽子よ。」
と言った。
驚きを隠せなかった。自分の他にこの異世界に転移してきた人がいるなんて。しかも、日本人でだ。
「えっと、、。陽子さんはいつ頃この世界に来られたのですか?」
自分と同じ状況にある人がいて少し安心した。それと同時に、陽子さんの異世界に来た経緯が気になった。
「そうねぇ。私もあなたと同じくらいの歳の頃にこの世界にやってきたわ。最初はあなたと一緒ですごく混乱したわ。だけど、この世界でやっていくと決められたのは、間違いなく夫のおかげよ。」
陽子さんは夕食のときと同じような悲しい顔をした。
「あの、、、。俺、行くとこがないんです。だから、その、俺を陽子さんの所で働かせてください。旦那さんの代わりになれるかは分かりませんが、少しでも役に立ちたいんです。」
俺は陽子さんを気の毒に思い、ここの酒場で働こうと思った。すると、陽子さんは
「だめよ。学生の本分は勉強。そうでしょ?心配しないで、このお店は結構繁盛してるから。それよりも、もっとこの世界のことを知って、強く生きるために努力しなさい。今日からこの家に住んで、学校に行くといいわ。宿代とご飯代と教育費は出世払いよ。いい条件でしょ?」
話が進みすぎてよく理解できなかったが、よく出来すぎている。なにか裏があるのか。いや、こんないい人がなにか隠すはずがない。俺は陽子さんの親切を素直に受けることにした。
その夜はあれこれ考えすぎて眠れなかった。異世界に来てしまったこと、陽子さんのことや、この家に住むこと、学校に行くこと。そして、何よりも気になったのは元の世界に帰れるかどうかだ。陽子さんは俺に強く生きろと言ったが、元の世界に帰れるのなら強く生きる必要はない。そもそも容易く帰れるのならば陽子さんはとっくの昔に帰っているだろう。陽子さんは途中で諦めたのか、最初から帰る方法なんてないのか、色々な可能性があるが、とりあえず当面は帰る方法を模索しながらこの世界で生きてみようと決意した。