話したいこと
「おかぁさーん!」
リファは元気よく母親を呼んだ。
「はいはい。なんですか。今お仕事中だから後でね。」
リファの母親は忙しそうにカウンターの向こう側で働いている。
「この子、今日泊まる宿がないらしいの。うちで泊めてあげられないかな。」
リファは俺に指をさしてそう言った。
「その子は誰?リファのお友達?」
リファの母親は怪しげにこちらを見ている。やはりこの服装が珍しいのだろう。
「そうよ!外国から来たの!」
いつの間にか友達になってしまった。
「うーん。そうねぇ。泊めてもいいけれど、母さん、リファがイタズラされないか心配だわ。」
かなり心配そうにこちらを伺っている。
「そ、そんな!イタズラなんて、、、。泊めていただけられるのなら、どこででも寝ます。」
確かにリファは俺の高校に居た女子高生よりも数段かわいい。だからといって見ず知らずの女の子に手を出すほど俺は下衆ではない。
「ふふ、冗談よ。生憎お部屋はリファの部屋と私の部屋しかないから、リファのお部屋で寝てもらってもいいかしら?」
よかったぁ。でもリファと同じ部屋で寝るのは少し気が引けるなぁ。
「あなた名前はなんて言うの?」
夕食をご馳走になっているときに、リファのお母さんが話しかけてきた。
「えっと、ヒイラギ・ユーマって言います。ヒイラギが姓でユーマが名前です。」
リファのお母さんの表情が一瞬険しいものに変わったが、俺はこのとき気づかなかった。
「それで、どこの国から遥々ここまでやってきたの?」
「えっと、ニ、、」
「ニホン共和国よ!聞いたことないでしょう?」
リファがオレが答えるのとほぼ同時に言った。すると、リファのお母さんの表情は今度はわかりやすく変わった。
「そうねぇ。聞いたことないわね。」
だが、すぐに元の笑顔に戻った。
「そういえば、そこの壁にかかっている剣ってなんですか?」
俺は向こう側の壁にかけてある剣が気になって仕方がなかった。なにか禍々しいものを感じる。
「あぁ。あれはね、ポランセヌ家に代々受け継がれている剣よ。気になるからといって触ってはダメ。あれは呪われているの。夫もあの剣に触った日の翌日、原因不明の病気にかかって亡くなったの。」
リファのお母さんが悲しそうに言った。どうやら聞いてはいけないものだったようだ。
夕食も終わり、食器の片付けをしている時にリファのお母さんが俺にそっと耳打ちした。
(今晩話したいことがあるから私の部屋に来てちょうだい。)
俺はそっと頷いた。なんの事かあまり見当のつかない俺はその晩、内心不安ながらもリファのお母さんの部屋のドアを開けた。