ウィルとランツ
街の人々は口々に王国軍が来たと言う。逃げ惑う人々、飛び交う魔法、崩れる建物。まさに地獄絵図であった。異端排斥運動。後に現在の王「ルシフ20世」のルシフ悪政と呼ばれる忌まわしき歴史の一つである。
「ラ、、ランツ兄ちゃん!何が起こってるの?」
ウィルは不安そうにランツに近寄る。
「わっかんないけどぉ〜。ウィルはぜぇ〜ったい俺が守るねぇ〜。」
ランツは焦りながらも、ウィルが不安にならない様、毅然に振る舞う。
最初の爆発から数時間が経った。建造物は全て破壊され、街は見る影もない。ウィルとランツは運良く逃げ延び、荒れ果てた街だったものを見つめる。
「ランツ兄ちゃん、、、。僕達、、何か悪いことしたかな、、。」
ウィルは涙を浮かべながら呟く。
「何も悪いことはぁ〜してないよぉ〜。ただ俺はさぁ〜、何も出来なかった自分とぉ〜王国軍にぃ〜ムカついてるだけぇ〜、、。」
ランツは静かに怒っていた。その時だった。
「なんだ?まだ生き残りがいたのか?」
ウィルとランツの後ろから声が聞こえる。ランツは咄嗟にウィルを庇う。
「おっさぁ〜ん。何者だぁ〜?王国軍かぁ〜?」
ランツは警戒している。ウィルはその後ろで怯えながら男を見つめる。
「おっと、すまない。君たちを怖がらせるつもりはない。俺の名前は───。君たちのような難民を保護する活動を行っている。ピースカンパニーという組織の長だ。」
男はウィルとランツに手を差し伸べ、ピースカンパニーへと招待した。
その出来事から5年後、2人は自衛のための戦闘術と人前に出るための言葉遣いを身につけ、ウィルはピースカンパニーの子会社であるウォーダムの社長にランツはその補佐として選ばれた。
「ランツ兄ちゃ、、。もとい、『ランツ』。これからよろしくお願いします。」
ウィルは襟を正しながら、ランツに話しかける。
「あぁ〜。よろしくねぇ〜、『ウィルさぁ〜ん』。」
ランツは緊張するウィルにニヤつきながら返す。
────現在
「ぐっ、、。これが、走馬灯ですか、、。まさかここまで、、手元が震えていたなんて、、。」
ウィルはもう限界だった。心音は遠くなり、呼吸も薄くなっていく。ユーマに放った渾身の一撃もユーマの頬を掠めただけで有効なものになり得なかった。
「危なかった、、。はぁ、、。でもこれで、、俺の、、勝ちだ、!」
ユーマも限界が近づいていた。シャドウ・マリオネットは形を維持するので精一杯だった。
「こんな、、ところで、終わりたくない、、!ランツ、、兄ぢゃん、、!助けでっ、!!」
ウィルは最後の断末魔のような願いのような叫びをあげ、倒れた。ユーマはその声を聞くことなく気絶してしまった。すると、声が響いた瞬間、ランツの身体が起き上がった。
「お、お、お、俺れれれれを、ををを、よよよんだだだぁ〜〜???ううううぃぃるるるははおお俺れががま、ままももるよよよ!!」
壊れた機械のようにランツはユーマにトドメを刺しに来る。
「ししししねねぇぇ!!」
ランツは拳を振り上げる。その時、ランツの腕と上半身が切り落とされる。
「あああれれれぇぇ〜??なな、なななんんででぇぇぇ〜〜〜??」
ランツはそのまま倒れた。
「『まったく、、。世話のやけることだ、、。私が出ていなければ、お前は死んでいたんだぞ。私に感謝しろ。』」
贖罪の剣がシャドウ・マリオネットに乗り移り、ランツを攻撃したのだった。
その攻撃を最後に工場から音が消えた。街の人々の騒然とした声や、野次馬が集まってきている音が静かな工場内に響く。
「そっかぁ〜。じゃあ〜ウィルはぁ〜、何になりたいのぉ〜?」
ランツはウィルに問う。
「えへへ、僕はね、市長さん!市長さんになって街の人をもっともっと笑顔にしたいな!」




