ウォーダム
翌朝 ウォーダム門前
「さてと、ウィルさんがどんな人か確かめに行きますか。おい、贖罪の剣。昨日の取り決めは覚えてるよな?」
『当然だ。』
そんな会話をしながら、ユーマが門からウォーダムに入ろうとした時、目の前から二人の男が歩いてきた。
「やあ!こんにちは!僕がウォーダム工場長のウィル・クアットです!工場に何か御用でしょうか?」
ウィル本人が現れた。第一印象は何か胡散臭いような人物だ。顔にこびり付いた笑顔が不審である。年齢はユーマとそう変わらないように見える。
「俺は〜ウィルさんの付き人の〜ランツで〜す。」
情報にはないランツという男がウィルの隣に立っている。
「いえ、初めてこの街に寄ったものですから、この大きな工場が最初に目に留まりまして、興味が湧いたので伺いました。」
ユーマは本当の理由を隠し、そつ無く答えた。
「それはそれは、ありがたいことで。良ければ、工場を案内しましょうか?」
ウィルはニヤついた顔でユーマに提案した。
「いいんですか?ぜひ、お願いします。」
ユーマはチャンスと思い、少し不安ではあるがウィルの提案を受けた。
ウォーダム 廊下
「ここ、段差がありますから、注意してお進み下さい。」
ウィルがユーマを案内する。
「弊社では様々な水に関する工業製品を生産しておりまして、フィルネの街の人々のほとんどのご家庭で弊社製のウォーターサーバーをご利用いただいております。」
ウィルは少し自慢げに工場の説明をした。
「そうなんですね。そういえば、ウィルさんは街の人に随分と慕われていると聞きました。自分も人に慕われるにはどうしたらいいですかね。」
ユーマはウィルから情報を引き出そうと必死だ。
「いえいえ、僕なんてとても。寧ろ街の人々には感謝しかありませんよ。強いていうのであれば、信頼関係を大切にすることですかね。持ちつ持たれつの関係、これが僕の座右の銘というか心情なんですよ。」
ウィルの顔からはこびり付いた笑顔が取れて、自然な笑みが溢れていた。
「なるほど。参考になります。あと、もう1つ質問しても良いですか?」
ユーマはさらにウィルから情報を得ようとする。
「『ピース・カンパニー』ってご存知ですか?」
途端、ウィルの顔から笑顔が消える。
「、、、。はい。知っていますとも。あの非営利団体のことでしょう。彼らの行いには見習わなければならない部分が多くありますので。それがどうかしましたか?」
ウィルは少し早口で答えた。平常を装ってはいるが、動揺が伝わる。
「いや、そうなんですよ。彼らはとても素晴らしいです。裏では何をしているのか分かりませんけどね。」
そう言うとユーマは贖罪の剣の柄の部分を3回小突いた。
ーーーー昨晩のこと
「あ、そうだ。おい、起きろ。少し決めておきたいことがある。起きろ贖罪の剣くん。」
ユーマは何かを思いつき贖罪の剣を起こす。
『なんだ。騒々しいぞ。くだらない事であれば二度と耳を貸さんからな。』
贖罪の剣は眠りを邪魔されて不機嫌そうであった。
「明日ウィルに会いに行くが、俺が口頭でお前と入れ替わるときの合図を言うとややこしくなる。1つハンドサインかなんかを決めておこう。そうだな、、、。俺がお前を3回連続で、隙間なく少し叩く。そうしたら入れ替わる。こういう取り決めをしよう。」
ユーマは贖罪の剣に提案した。
『ふん。勝手にしろ。私はお前の復讐が完了するのならば後はなんでもいい。』
ーーーー現在
「『、、、。良し。上手く乗り移れたようだ、、なっ!!』」
ユーマに取り憑いた贖罪の剣が自身の剣でウィルを攻撃した。
「あぶないよぉ〜。野蛮なマネは辞めてねぇ〜。」
ランツが剣を腕で止め、その攻撃からウィルを守る。
「『ふん。赤か。やはりな。お前達がピース・カンパニーとやらだな。』」
贖罪の剣は眼を光らせて言う。
「あれ。なぁんでバレてんの〜?ウィルさぁ〜ん。なんで俺たちがぁ〜、ピース・カンパニーの一員ってバレたんスかねぇ〜?」
ランツは不思議な顔をしてウィルに質問する。
「、、、。まあ、バレたところで関係ない。ランツ、片付けをお願いします。」
ウィルは落ち着き払った物言いでランツに指示を出し、奥まで歩いていった。
「りょ〜か〜い。それじゃあさぁ〜。死なないように頑張ってねぇ〜。」
ランツは贖罪の剣を睨めつけ、楽しそうな顔をした。
「『まずは、お前からということか。まあまあ楽しめそうな相手だ。』」
そう言うと、贖罪の剣は自身の剣をランツに振りかざした。




