旅の始まり
ユーマは家から出る前に、もう一度二階に上がり、リファがいつもつけていたゴーグルを取ってきた。
(復讐が終わるまで、どのくらい掛かるかわからないけど、終わるまでの間、リファとヨーコさんのことを一時も忘れないために、俺はこのゴーグルをつけよう。)
ユーマはそう心の中で呟きゴーグルを額の上に装着した。
『準備は整ったか?』
贖罪の剣が問いかける。
「あぁ、完了した。」
ユーマは間髪入れず答える。
『お前はまだ、経験値が浅いと見た。そこで、少しの間お前の体を私が借りる。私はお前の「復讐しなければならない相手」がわかる。たとえ、お前自身が認識していなくとも、私の能力で自ずとわかるのだ。いいか?』
長ったらしく説明されたがユーマの頭には何一つ入ってこなかった。
「お前に任せるよ。」
ユーマは復讐のことしか頭になかったので、そう答えた。
『了解した。では、いくぞ。』
ユーマの周りを、またあの靄が覆った。
「『さて、奏でよう。呪いの鎮魂曲を。そして、降らせよう。断末魔の雨を。』」
ユーマと贖罪の剣は村を襲った輩の残党を殺すべく、街に繰り出した。
「チッ!埒が明かない!何人いるんだ!?」
ジャックは残党の討伐に苦しんでいた。手負いであった上に、多勢に無勢であった。
「クソ!ジリ貧だ。一か八か、大魔法を使うしかない!」
ジャックは敵の一瞬の隙をつき、残りの僅かな体力を振り絞って大魔法の準備をした。
「燃え尽きろ!獄炎大竜巻!」
火災旋風のような炎の渦が、残っていた賊の全てを飲み込んだ。
「グフッ!やはり、ここまでか、、、。」
ジャックは吐血し、その場に蹲った。
ザッ、、ザッ、、ザッ、、。
その時後ろから足音が聞こえてきた。
「まだ残ってたのか、、、。クソ!動け!俺の足!俺の腕!」
ザッザッザッザッ。
足音は段々早くなり、近づいてくる。
「クソッ!動けぇぇぇ!!」
ジャックは残りの体力を振り絞り、振り向きざまに剣を振った。
ガキィン!
金属と金属が激しくぶつかり、甲高い音が空に響き渡った。
「止め、、られた、、。」
ジャックは自分の剣を止めた剣の主を仰ぎみた。そこには、ユーマの姿があった。
「危ないな!もう少しで首が落ちるところだったじゃないか!」
ジャックはユーマの顔を見た途端、急に疲労が彼を襲いその場に倒れてしまった。
「おい!ジャック!しっかりしろ!リペア!」
ジャックの傷は全て完璧に塞がった。だが、ジャックは体力が底を突いていたので、深く眠り込んでしまった。
「、、んっ。ここは、、。」
ジャックが倒れてから数時間後、目を覚ました。
「ジャック!よかった。立てるか?」
ユーマがジャックに手を差し伸べる。
「ああ、ありがとう。そして、、、。すまなかった、、。お前に辛い思いをさせた。」
ジャックは涙を流してユーマに謝った。
「よしてくれ、悪いのはジャックじゃない。むしろジャックは仇を討ってくれたじゃないか。」
ユーマは顔をしかめながら言った。その時ジャックはユーマの目に光がないことに気がついた。
(ユーマの目に光がない。泣きすぎて乾いたのか、はたまた闇に心を呑まれてしまったのか。)
「ユーマ。お前はこれからどうする。行くあてはあるのか?」
ジャックはユーマを心配し、問いかけた。
「俺は奴らに復讐する。罪を贖わせるのさ。」
ユーマはきっぱりとそう言った。
「どんな集団かわかっているのか?お前一人では手に負えんぞ。俺はもう誰も失いたくない。どうしても行くというのなら、俺を倒してから行け。」
ジャックが真っ直ぐな瞳でユーマを見る。
「容赦はしないよ。」
こうして、ユーマの復讐の旅が始まるのであった。




