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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鬼娘の災難

作者: 窓井来足

しかし。

果たして鬼娘、あるいは鬼っ娘好きって。

どれくらいいるのでしょう?


 鬼娘の災難


「ったく、なんでアタシがこんな目に……」


 私の名前は気障崎(きざさき)鬼々(きき)。世間でいうところの〈鬼〉だ。

 世間でいう鬼なんていっても、伝承に出てくるようなのから。

 漫画やアニメなんかに出てくるようなやつまでいろいろあるから。

 その言い方でいわれた方に、私のイメージが伝わるのか。

 ちょっと自身がないんだけど。

 まあ、鬼だ。

 頭に二本、角は生えているし。

 普通の人間より腕っぷしは強いし。酒好きだし――そんなヤツだ。

 ちなみに、仕事では妖怪退治をやっていたりもするけれど、これもまあ、「鬼のイメージ」としては結構あるだろう。特に最近は。

 で、そんな私だが。

 今日はうんざりするような目に合っている。

 何故なら今日が「節分」だからだ。

 え?

 豆をまかれたり、家から追い出されて悲惨な目に合っているのかって?

 いや、それがそういう訳じゃあないんだ。

 まあ、聞いてくれ。


 ☆ ☆ ☆


「鬼はー外、福はー内!」

「うわぁ、これはたまらん! 逃げなくちゃ!」


 都内にある、とある幼稚園。

 ここで私は毎年、行事で行っている豆撒きの「鬼の役」を買って出ているのだ。

 本物の鬼が「鬼の()」というのもどうかと思うんだけど。

 まあ、普通の人たちは本物の鬼の存在なんて信じないので。

 子ども達や先生に対してはあくまで「鬼役のお姉ちゃん」として接しているということだ。

 ちなみに、この幼稚園で私が本物の鬼だと知っているのは、ここの園長だけだ。

 住職でもある園長と、私に共通の知り合いがいた関係で。

 私はその知り合い経由でここを紹介されて幼稚園の行事につきあっているという訳だ。

 坊さんが鬼と仲良くしていいのかって疑問を持つ人がいるかもしれないけど。

 仏教には帰依して仏に仕えるようになった鬼も数多くいるし。

 あるいは鬼と怖れられた伝承がある人に、寺院を開いたという別の伝承があったりもするんで……。

 まあ、この辺りは、本筋とは関係がないからこれぐらいにして。

 興味がある人には自分で調べてもらおうと思う。

 ただ一応言っておくと。

 別に私は仏門に帰依している訳じゃあない。

 第一、私と園長の共通の知り合いも霊能力者であって、僧侶とかそういう仏教の関係者じゃあないのだ。

 私みたいな仕事をしていると、結構幅広い宗教関係者と面識ができたりもする。

 これは教えは違えど、人々を救いたいとか、そういう意志を持っていれば結果として個人としては行き着くところが同じようなところになる。

 ということなのかもしれない。

 それはさておき。

 今年の節分も私はこうして「鬼の役」をしていたのだ。

 まあ、これ自体が収入にもなるし。

 それに最近の子どもは、行事では〈お約束〉として「鬼は外」といっているとはいえ。

 実際には「良い鬼」が出てくるアニメなんかを観ている関係もあって、鬼の役の私に結構親切にしてくれるので。

 これはこれで楽しかったりもするのだった。

 しかし、文化的な行事に協力し。

 子ども達と親しくするというのも悪くないかもしれない。

 今後の私は「子ども達を守り、文化を未来に繋ぐ鬼」というのを、キャッチコピーにして売り出していくというのはどうだろうだろう。

 そういう方向でやるなら……子ども向け番組に出演して「鬼のお姉さん」とかになるべきだろうか?

 鬼には結構、歌やら楽器の演奏やらに長けていたりするヤツもいるというし、私もそういう方向で……いや。

 それではどこぞの特撮ヒーローの二番煎じだと誤解されてしまう。

 しかも「鬼のお姉さん」だとどこかの小説の「鬼のお兄ちゃん」の二番煎じとも誤解されてしまうじゃないか。

 私の方はまったく言葉遊びになっていないのに。

 やっぱり、今みたいに「鬼の力」を使って妖怪退治でもして、地道に稼いでいくしかないのかなぁ。

 仕方がない。

 ま、今日はお金も結構入ったことだし。

 酒でも飲みながら、一人鍋でもつつきますか……と。

 そんなことを考えながら幼稚園での仕事を終えた夕暮れ。

 ここからの帰りにいつもお酒を買っている酒屋に向かい。

 愛飲している日本酒を一升瓶で購入して、店を出た。

 その時。

 シュワッ! と風か切れて。

 私の帽子をどこか遠くへぶっ飛ばしたのだった。

 むう、この場面。

 こうやって説明してみると、どこかの戦隊ヒーローのオープニングの歌詞みたいな感じだ。

 ……なんて、呑気に考えている場合ではない。

 これでは角が丸見えではないか。

 普段なら、ぱっと見では分からないように、髪型やアクセサリーなんかで角を目立たなくしているんだけど。

 今日は「角を出す」仕事をしていたので、帽子だけで適当に隠していたのだ。

 だが、やはりそんな面倒くさがりな手抜きがいけなかった。

 帽子を無くしてしまった今、私は角を隠せなくなってしまったのだった。


 ☆ ☆ ☆


 さて。

 ここからが不幸だった。

 何が不幸かというと、この世界には実は結構、妖怪退治を仕事としている人々が多く。

 私は彼らに狙われることになってしまったということだ。

 といっても、別に「鬼退治」されそうになったのではない。

 むしろ、その逆に近い意味で狙われてしまったということだ。

 具体的にいえば。

 酒屋から、帰宅のために利用する駅までの、たかが三キロあるかないかの道のりの間に。

 しつこいナンパをしてくるヤツが何人も現われたのだ。

 最初の頃はそれなりに相手をしてから断っていたが。

 途中から面倒になって適当にあしらったので具体的に何人ぐらいいたのかは定かではないけど。

 多分十人近くはいたと思う。

 何故そんなことになったのか。

 まず一つとして、私がこの付近をテリトリーとして「妖怪退治」をしていた事が理由に挙げられる。

 そのためどうやら同業者の間では「この辺りには女の鬼がいる」と噂になっていたらしい。

 で、それに追加して今回問題だったのが、「節分」という訳だ。

 実際に鬼である私は、別段「節分」だからといって、現代の鬼が豆をぶつけられて追い払われたりというような悲惨な目に合ったりはしないと知っている。

 だが、それはあくまで私自身が鬼だから知っていることであって。

 仮に「妖怪退治」の専門家だといっても、大抵の人は一般的な「鬼の普通の生活」までは知らない。

 なので彼らの頭の中には。

「鬼の女の子はきっと節分は豆をぶつけられたり、家から追い出されて悲惨な目に合っているに違いない」

 という妄想が沸いていてしまったのだった。

 そして。

 この手の「妖怪退治」を仕事としているヤツらには結構「妖怪好き」も多かったりする。

 妖怪好きなので研究していたら、その手の知識がついてしまったので、仕事もそっちの方面になった……とか、そういう連中が多いのだ。

 好きなものを退治することを仕事にするのかと疑問に持つ人もいるかもしれないが。

 私も含め、こういう仕事をしている人が「退治」するのは基本的に「悪い妖怪」だけだ。

「良い妖怪」に関してはむしろ保護したりするぐらいだ。

 まあ、その「良い妖怪を保護する」という価値観が。

 今回私に対しては悪く働いているという訳で。

 つまり「節分で可哀想な目に合っているときの鬼の娘なら、口説き落とせるかもしれない」

 と思われてしまっているので。

 こうしてナンパをしてくる連中が大勢出てきてしまったということだ。


「ったく、なんでアタシがこんな目に……」


 いや、一部の男性の間では鬼娘とかは、世間でいう「萌え要素」だとかは聞いたことがあったけど。

 本当にそれでモテるとは思っていなかった。

 だが、それって普通の、人間の女性で例えるなら。

「スタイルがいい」とか「顔が好み」とか、そういう理由でモテているのと同じな訳で。

 そんなのでつきまとわれるのは、ちょっと、いや、非常に嫌なのだった。


 ☆ ☆ ☆


 で、結局。

 今日は無事に帰れそうにないんじゃないかと思ったので。

 自宅に帰るのは諦めることにして。

 私は幼稚園から私の自宅よりは近くにある。

 先に話題に出した、霊能力者の友人の家に向かった。

 そして、今置かれている事情を彼女に打ち明けて、一泊させてもらうことにしたのだった。

 これで安心か――と思ったのだけれど。

 残念ながら、そうはならなかった。

 その理由は私が持っていった日本酒にあった。

 彼女は酒好きなのだが、すぐに酔うという意味ではアルコールに弱い人間だった。

 しかし、私は彼女と酒を呑んだことがなかったのでそんなことは知らず。

 要求されるままに彼女に酒を注いでしまったのだ。

 結果として彼女は酔っ払ってしまい。

 そして何故か、


「鬼のアンタってやっぱり虎柄のパンツとか入っているワケぇ?」


 とか、セクハラオヤジみたいなことをいってきたり。

 ベタベタと身体(特に角)を触ってきたり、抱きついたりしてきたのだった。

 いや。

 酔ったときのこいつを見るのは初めてだったんだけど。

 まさか、まさかそういうヤツだったとは……。

 これじゃあしつこいナンパを全て断って家に帰った方がマシだったような。

 くっ、後悔先に立たずというヤツか。

 だが、後になってしまったと思っても、もう遅い。

 このまま酔ったこいつを放置して帰るのも色々マズイし……。

 かといって、一晩こいつと過ごして何事もないという保証もないし……。

 って、うぉ、お、おいやめろ。

 角を舐めようとするなァ――ッ!!


 ☆ ☆ ☆


 やっぱり、鬼にとって節分は厄日なのか。

 二月四日、立春の明け方。

 目の下にクマをつくった私はそんなことを考えながら。

 始発電車に乗って住んでいるアパートに帰宅しようとしていたのだった。

ちなみに。


この作品は1年くらい前にpixivに載せていたのですが。

書いたのはさらに前で。

実は自分でも「こんなの書いたっけ?」と思った事がある作品でした。


が、読んでみると。

どう考えても自分の好みで書いていたという……。

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