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007「左右」

「おかわりするか、トオル?」

「いいや。もう、これで充分だ」

「わかった。それじゃあ、俺が全部いただくぞ」


 食卓の左端でホウレンソウのゴマ和えを食べているトオルが返事をすると、ヒカルは杓文字で内釜の中身を一粒残さず茶碗によそい、炊飯器の保温を切って食卓に着く。炊飯器は、ピーッという音とともに、液晶のデジタル表示が保温時間から現在時刻に切り替わる。


「夕方に五合も炊いたのに、もう食べきっちゃったのね」

「胃の中に、底無し沼を持ってる男が一人いるからな」

「まぁ、まだ白米オンリーだから、この程度で済むんだよなぁ」

「炊き込みご飯だと、どうなるんですか?」


 カスミが素朴な疑問をぶつけると、トオルが回答し、それにヒカルが追補する。


「茶碗五杯は、かたいな」

「あぁ。確実に五杯は、いけるな。――試しに豆ごはんでも炊いてみろよ。一人で半分は平らげるから」

 

――もはや、フードファイターの域ね。本人不在だと思って、ずいぶんなことを言うものだわ。


「機会があれば、炊いてみます。でも、なんだかエンゲル係数が急上昇しそうな話ですね」

「エンゲル係数ね。うんうん。そうだな」


 そう言って、ヒカルは藍の七宝模様が描かれた丸鉢に箸を入れ、納得した様子で小さく頷きつつ、煮崩れかけのジャガイモを丸ごと口に入れる。そこへ、まるで頭の中を見透かすように薄く笑いながら、右手に茶碗を持ったトオルが、すかさず問題を出す。


「エンゲル係数とは何か、食費、ドイツ、割合の三つのキーワードを用いて説明せよ」

「おい、勉強小僧。食事中にテストしないでくれ。せっかく蓄えた栄養が、脳で浪費されてしまう」

「ボケ防止のためにも、今のうちから脳を働かせることを、オススメします」

「遠回しに、普段は頭を使ってないと言われてる気がするんだが?」

「はて? そんなことは一言も口にしてませんよ。被害妄想でしょう」

「ケッ。煮ても焼いても食えない野郎だな」


――フフッ。学の無さを露呈させようとするトオルさんも意地悪だけど、知ったかぶりをしようとしたヒカルさんもイケナイわね。

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