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012「夜」

――結局、弟夫妻も巻き込んでの五者会談の末、私の荷物は佐々木家の倉庫に保管することになった。初めから、こうしておけば良かったかもしれないと、ちょっと反省。それからヒカルさんが家に連絡すると、トオルさんが運転する軽自動車で、サトルさんも一緒にやってきた。四つあった段ボール箱を一箱ずつ運び終わると、家の中では、マサルさんが料理を作って待っていてくれた。カオルさんのセーブのおかげで、作りすぎには至らなかったので、大助かり。


「血の繋がった弟より、いわば他人の義弟のほうが、よっぽど親身だわ」


 二組の布団が並べて敷かれた六畳間で、鏡台の前のスツールに腰かけ、カチューシャで前髪をオールバックにしたカスミが、顔に貼っているスキンケア用のフェイスマスクを剥がしながら言うと、グッ、グッ、とハンドグリップを握っているヒカルが応える。


「血の繋がった家族だからって、何でも許せるわけじゃないさ。距離が近いだけに、衝突することもある」


 そこで一旦沈黙すると、ヒカルはハンドグリップからダンベルに持ち替え、遠慮がちに小声になりながら、さらに話を続ける。


「家が近所でなければとか、タクミくんが生まれなければとか、俺が卒業式の日に告白しなければとか、カスミが俺と同じ高校に入らなければとか、いろんなことが複雑に絡み合って、今に至ってるんだ。結婚するからって、そう簡単に過去をリセットしようとするなよ」

「……そうね。早計だったわ」


 カチューシャを外してライトを消したカスミが、鏡の前に並ぶ化粧水やクリームの容器に視線を落としながら、しみじみとした口調で言うと、ヒカルは、後ろからカスミの腰に両手を回し、その肩の上あたりで耳元に囁くように言う。


「すぐには無理だろうけど、子供に恵まれて、その子を育てるようになれば、きっと今日のお義母さんの気持ちが分かるようになるさ」

「そういうものかしら?」

「そういうものだよ、マイハニー」


 耳慣れない言葉にハッとしたカスミが、顔を上げて鏡を見ると、すぐにヒカルは、気恥ずかしげに赤面した顔をカスミの背中で隠す。


――あらあら。これじゃあ、まるで十代に逆戻りしたようなものね。ヒカルさんったら、いつまで経っても、恋愛に不器用なんだから。


 カスミは、鏡の前にアーガイル柄の布を下ろしてガラス面を覆うと、少し照れながら話す。


「子供に恵まれるためには、その前段階があるんじゃないかしら、マイウルフ? ――ヒャッ!」


 カスミが言い切らないうちに、ヒカルは膝立ちから立ち上がりながらカスミをお姫さま抱っこし、そのまま布団の上へと運んで行った。 

 壁一枚を隔てた隣の部屋で、翌朝のために一人黙々とラップトップのキーを叩いていたトオルによれば、二人の夜は、長くたのしいものになったそうである。

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