010「番付」
――消防署のほうから来ました、という訪問販売だった。夫は消防士ですけど、と言いかけたら、家を間違えましたとか何とか言いながら、慌てて逃げて行った。リサーチ不足にもほどがある。
カスミがダイニングへ戻ると、レンズ越しの目に、広げたままにしていた朝刊を見ながら、カオルとトオルが会話をしてる姿が映る。カスミは、二人の様子を伺いつつ、そっと足を止め、珠のれんの手前で聞き耳を立てることにした。
「さそり座は、ニ位か」
――星座占いでは、三月二十三日生まれで牡羊座のヒカルさん、五月十七日生まれで牡牛座のマサルさん、七月十一日生まれで蟹座のサトルさん、九月十九日生まれで乙女座の私、十一月十三日生まれでさそり座のカオルさん、そして、二月二十九日生まれで魚座のトオルさんの順になる。
「店の順位と同じだな、レオン」
「首席さまは黙ってな。てか、その名で呼ぶんじゃない」
――カオルさんは、ナンバーツーらしい。
「別に、ナンバーワンになれなくて良いんだ。俺は、オンリーワン路線だから」
「貴様は花か。もう一度、エースを狙えよ」
「トップになったら、あとは落ちるだけなんだぞ? だいたい、顔面偏差値が違いすぎて勝負にならない。俺が六十として、あいつは七十五を超えてる」
「それでも、二番手に甘んじ続けるより良い。また失うことが怖くて前に進まないでいたら、いつまでも変われないぞ?」
「ケッ! 綺麗事を言ってくれるぜ」
――あぁ、そうだ。カオルさんには、サッカー部エースから転落した過去があるんだった。通院生活から不良化して、そのまま出席日数不足で中退したのよね。ホストの仕事に収まる前は、ずいぶん手を焼いたって言ってたっけ。その当時の痕跡は、今もカオルさんの右肩に、青紫の蝶々として残っている。
入ろうか戻ろうかカスミが廊下で逡巡していると、カオルはトオルから逃げるように廊下に出る。そこで、カオルはカスミの姿を認めて一瞬、立ち止まったが、何も言わずにすれ違い、駆け足で階段を上って行く。