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七夕祭り!

 夕暮れ時、日は既に沈みかかり、歩道沿いの提灯(ちょうちん)が仕事を始める頃、俺は昔見たドラマを思い出していた。確かアレだ、今まで男だと思ってた同級生が、実は女の子だった! みたいな内容の……


「ごめんなさい……」


何度目か分からない謝罪の言葉を口にする目の前の女性。

その女性こそ、本日デートする筈だった奏さん。

非常に申し訳なさそうな顔で俺に何度も謝ってくる。


 それに対し、俺は……


 ・勿論気づいてました!

 ・美少年の方がいい!

 ・奏さんって実は男?

 ・後ろに幽霊が……


 あぁ! なんて答えればいいんだ!

まるで美少女ゲームの選択肢のようだ。ここでセーブして、あとでロードする事など勿論出来ないが。


っく、ここは無難に……


「奏さん……後ろに半透明の落ち武者っぽい幽霊が……」


って、何で俺これ選んだ?!

四つの選択肢の内、最も選んじゃいけない奴だろコレ!

まあ、冗談だって一撃で分かる……


「う、嘘……え? ちょ……え?」


途端にポロポロと泣き出して震えあがる奏さん。

って、ぎゃー! どうしよう! 最悪だよ俺!


「じょ、じょじょじょじょ冗談ですよ! 奏サン! 冗談ですから! 嘘ですから! 軽いイタズラ心というか何というか……」


「……本当?」


奏さんは涙目プラス上目づかいで俺を見つめてくる。

ぁ、やばい……可愛すぎる。


「ほ、本当ですとも……ごめんなさい」


「ぁ、いえ、謝るのは私の方だし……」


男装していた事を言っているのだろうか。

別にそれは……ぶっちゃけどうでもいいんだが。

俺は俺で楽しめたし……たぶん。


「奏さん……男装趣味があったんですね。っていうか本当は男?」


「違います! 私は女です! 確かめてみますか?!」


いえ、いいです。

この小説全年齢向けなんで。


「でもなんで男装なんて……さっき男と男の子として遊びたかったとか言ってましたけど……」


「……えぇ、バレてしまっては仕方ありません」


いや、バラしたのはお前だ。

そのまま再びウェッグを装着し、大和君が女装姿を俺に初めて晒した時のように、その場で一回転する奏さん。ふむぅ、こうしてみると完全な男だな。しかし……胸がぺちゃんこでござるよ。


「サポーターで潰してるんで……っていうか、一発でバレると思ってたんですけど……」


何それ。俺が鈍感だって言いたいのか?!


「はい」


一言で肯定され、胸に何かが突き刺さる俺。


「あんまり気づかないんで……ちょっとイタズラしてやろうと……」


「ふ、ふむぅ、やりおったな小娘」


「ぁ、ちなみに私二十四なんで……」


……! なん、だと。

ちなみに俺は二十歳。俺より四つも年上だと!

ヤヴァイ。俺はこう見えて年上が好みだ。


「えっと、二十四歳の奏さん……ちょっと質問いいですか」


「なんでしょうか……」


「何故に男装だとこのタイミングでバラしたんですか?」


俺の質問に奏さんはチラっと横目に。

それを追いかけるように俺も横を見ると、そこには浴衣姿の女性が二、三人連れ添って歩いている。


「一応……私は祥吾の彼女だし……浴衣の方がいいかなぁ……って……」


あぁ、もしかして俺に気を使って……

いやいや、気使ってたらそもそも男装なんてしないわ。


「ほ、本当はすぐに着替えるつもりだったんです! でも祥吾は全然気づかないし……ちょっと調子に乗っちゃって……」


「ま、まあ……それは別に構わない? んですが……」


とにかく奏さんは……俺の恋人として浴衣で行った方がいいと思ってくれたようだ。

しかしナンダ。恋人と言っても……俺はこの人の事を好きなのか? と言われたら答えはNOだ。

俺は今でも奏さんの事を『ちょっと変な楽しい人』程度の認識でしかない。


「奏さん、その……俺の事を恋人扱いしてくれるのは非常に嬉しいんですが……やっぱり止めましょう」


「えぇ! 何で?! 私が歳行ってるから?!」


いや、そこまで行ってないだろ。全国の二十四歳の方に謝れ。


「そうじゃなくてですね……やっぱり好きでもないのに恋人って言うのも……」


「……ま、まじめか!」


真面目ですとも。真面目が一番だと某引越センターのCMでも言っていらっしゃる!


「というわけで奏さん、普通に友人として……健全なお付き合いから始めたく存じます。今日は大地君で……」


「いいの? それで……」


良いも悪いも俺が言ってるのよ!

というわけで男同士祭りに行こうぜ!


「まあ、祥吾がそれでいいなら……」


美少年モードの奏さんは、どこか申し訳なさそうに頷く。

俺はそっと、そんな美少年“大地”の頭をクシャクシャと掻きまわした。


「うわっ、ちょ、ウィッグずれる……!」


「男がそんな女々しい事言うな、行くぞ大地、祭りだ!」


 そのまま気分を切り替え、俺と大地は七夕祭りの会場である神社付近へと向かう。

辺りは薄暗く、神社の方角からは太鼓の音と香しい匂いが。


この匂いは……あれか。

トウモロコシを醤油で焼いてる奴か。あぁ、食欲がわいてきた!




 ※




 七夕……それは彦星と織姫の話だが、実はこの町が七夕祭りを開催する発端となったは全く別の男女が関係している。

 この町は元々二つの村が合併してできたのだが、昔……その二つの村は対立しあっていたらしい。

ここまで言えば、もう分かるかもしれないが……その対立しあっている村の男女がある日恋に落ちた。まるでロミジュリのように。しかし当然の如く周りから反対され、二人は橋の上から川へ身投げしたという。


「って……いうのが七夕祭りの発端だそうだ」


「なんでそれが七夕祭りに……?」


まあ、二人が身投げした時期が夏だった事。

そして最初は七夕祭りではなく、純粋に二人を弔うための行事が行われていたそうだが……段々と変わってきたと言う事だろう。ちなみに二人が身を投げた橋の両端には、向かい合うように地蔵が設置してある。この辺りの人は『むかい地蔵』と呼んでいる。


「祥吾詳しいね、そういうの学校で習うの?」


「いや、爺ちゃんに聞いた」


大地と二人で神社へと向かう坂道を上る。

そこには既に出店がいくつか出ており、俺達は何か食べようかと目移りさせながら足を進めていた。


「とりあえず……喉乾いたな。大地、何か飲むか?」


「ぁ、うん……」


俺の切り替わりの速さに付いていけないのか、大地こと奏さんは何処か余所余所しい。

時折浴衣姿の女性が目の前を横切ると、食い入るように見つめている。

もしかしたらまだ俺に気を使ってくれているのだろうか。しかしもう俺達は恋人では無い。今は男同士の友達なのだ! ワイルドに祭りを楽しもうぜ!


「よし、ビールでも飲むか。大地飲めるか?」


って、しまった。

いくら男装しているとはいえ、その正体は女だぞ。

女性に酒を勧めるっていうのは……どっかでセクハラだと聞いたことがある。

酔いつぶれた女性をドコゾに連れ込んで……


「ぁ、のものもーっ、ビール大好き!」


ってー! この人に警戒心とか無いのか!

まあ俺を信頼してくれているからかもしれんが……。

いや、でもそれって……俺の事を男と意識してないって事に……。


いやいやいやいや、自分から友達宣言しておいて何言ってんだ俺!

好きでもないのに恋人なんておかしいって言ったばかりだろ! 

男として意識されてなくて何がおかしい。そもそも俺達は今……男同士のダチなんだ!


 出店のオッチャンから缶ビールを一本買い、その場で大地と乾杯。そして一気飲み。

喉が渇いていたからか、体にビールがしみ込んでいく。某ギャンブルアニメを思い出してしまう。


「うぃー……うまっ……もう一本貰おうかなー」


って、この人結構飲むな。俺より早く一本飲み干しおった。

しかし二十四歳の年上女性なのだ。会社の飲み会とかで鍛えられているのかもしれん。


 そのまま俺も新たに一本缶ビールを買い、再び坂道を上り始める。

坂を上りきると、車の駐車スペースを全て利用して多くの出店が立ち並んでいた。

そして既に人でごった返している。


「うわぁ……凄い人だねぇ」


「盆踊りの時はもっとすごいぞ。町の商店街の方にも出店が……」


と、その時……試験用なのか小さな花火が一発空に。

まだ空は真っ暗ではない為、一見何なのか分からないが……一気に祭り感が膨れ上がる。


「ぁ、たこ焼き……祥吾! たこ焼きをビールで流し込もう!」


「オッサンか」


いいつつ、たこ焼き屋の前に行くと……そこには見慣れた顔が。


「あぁ、祥吾君。来てたんだね」


「京志郎さん! 何してんすか」


「たこ焼き屋……」


ですよね。

というかまさか京志郎さんが店番しているとは。


「実は急に頼まれちゃって……腰やっちゃったから代わりにってね。まあ昔これでも居酒屋を経営してたから、結構慣れてるんだよね。こういうのは」


「そうだったんですか……ぁ、もしかしたら大和君も?」


「うん、大和も来てるよ。今は神社の人にコキ使われてて……ぁ、戻ってきた」


京志郎さんは大和君へと目線を移し手を振る。

むむ、どれだ? 人が多すぎて分からぬ。大和君は何処に……


「ぁ、お兄様! 来てくれたのですな!」


「……? え? 君、誰」


目の前には坊主頭にタンクトップ、そしてハーフパンツにスニーカーの少年が。

首にはタオルを掛け、全身汗だく……


「誰って……お兄様、拙者の顔を見忘れたと?!」


「……もしかして大和君……男バージョンか。あまりにも男らしいから気づかんかった。というか髪切ったのか?」


「ああ、お兄様がデートに行ってる間に。もう夏だし……」


と、その時、今まで隠れ潜んでいたわけでは無いが、その存在を一瞬作者に忘れられていた大地(偽名)が飛び出した! 


「可愛いー! 坊主頭可愛いー!!」

 

「う、うわ! なにやつ!」


そのまま大和君の坊主頭を撫でまわす大地こと奏さん!

酒で酔ってるのかテンションが高い!


「むむ、お兄さん……もしかして……この前のお姉さん? まさか男装趣味があったとは」


ってー! 大和君凄いな! 何故一発で分かった!


「フフフ。お兄様、俺を見くびるでない。これでも女装趣味なんだぜ」


凄まじい説得力だ。

というか今日は女装してないんだな。てっきり浴衣でも着てるかと思ったが。


「お兄様がご所望なら……いつでも」


「まあ、うん……それより大地よ、いつまで俺の弟の頭を撫でまわしとるんだ。離れよ」


「あぅー、もう少しー」


大地の襟首を捕まえて無理やりに剥がす俺。

そんな俺達のやり取りに、大和君は首を傾げ……何か納得するようにポン、と手を叩く。


「成程……BL路線ですな。流石レベルが違うぜ」


「いや、違うから。ぁ、京志郎さん、たこ焼き一つください」


「はいー、マヨネーズ付ける?」


勿論。




 ※




 それから大和君と京志郎さんと別れ、祭りを堪能する俺達。いつのまにか辺りは真っ暗で、月が優しく祭りを照らしていた。

 俺達はたこ焼きを食した後、イカヤキに焼き鳥など、悉くビールに合うメニューをチョイスしまくり、もはや仕事帰りのサラリーマンのように飲んでいた。


「あー、飲んだ飲んだ……祥吾、シメに何か食べる?」


「そうだなぁ……お好み焼きでも……」


しかし散々食った後にお好み焼きは少し重い。

ラーメンとかの方が……


「今からラーメン食べるっていうのも中々重いと思うけど……デザート的なのでいいんでない?」


ふむ、デザートか。

それならアイスクリームでも……


「お兄様!」


その時、聞き覚えのある声が。

後ろを振り向くと、そこに立っていたのは浴衣姿の大和君が! 勿論女装している!


「お待たせしました! お待ちかねの可愛い大和でござる」


「おお、ホントに可愛いな……あぁ、我が弟よーっ!」


ぁ、酔ってるのか思わず抱き着いてしまった。

なんかいい匂いもする。あれだけ汗だくだったのに……風呂でも入ったのかしら。


「ここの神社経営してるのは俺の友達の家だからな。色々お世話になってるぜ」


「そうなのか……」


「ところでお兄様、あっちの人は大丈夫か?」


大和君に言われて後ろを振り向くと、地面に土下座しながら鼻血を垂らしている変質者の姿が。

やばい、怖い、怖すぎる。これではホラーではないか。


「おい、大地……顔を上げ……いや、上げれるか? 血まみれか?」


「ふぐぅ……(それがし)に構わず……どうか続きを……兄弟でちちくりあうが良い……」


だが断る。

このままでは鼻血が原因で救急車に担ぎ込まれるのが目に見えてる。


 肩を貸しつつ、大地を立ち上がらせる俺。

大和君は大地の鼻血をポケットティッシュで拭ってくれる。


「あぁ、ありがとう、大和君……こんな若い子に鼻血を拭いてもらえるなんて……幸せだよ」


「何を言うとるんだ。大和君、どっか休める所無いか?」


「むむ、それなら友達の家にお邪魔するでござるよ」


いや、それは流石に悪い気が……


「大丈夫でござる。友達の家広いし、今祭りの関係者が結構出入りしてるから……酔っ払いの一人や二人、迎え入れてくれるでござるよ」




 ※




 その後、この上なく迷惑な気もしないでもないが、大和君の友達の家へと大地を運び込む俺達。

家……というか屋敷だ。時代劇に出てくるような武家屋敷。凄まじく金持ちの匂いがする。


「ニンニン。大和君よ。酔っ払いを拾ってきたのかい?」


まるで忍者のように……いや、ニンニン言ってるだけだが、この子が大和君の友達らしい。

というかてっきり男友達かと思ったのだが。可愛らしい女の子じゃないか! もしかして彼女か?!


「かたじけない。兄上の彼女さんでござる。訳あって男の恰好をしているが……そこは察してほしいでござる」


「ニンニン。なるほど。あい分かった。まあ部屋数は余ってるから。どうぞ遠慮なく」


何が分かったのかは分からないが、とりあえず許可はもらえた。

俺と大和君は大地を畳の部屋へと運び、そこに寝かせようとするが……


「だ、大丈夫……大丈夫だから……」


怯えたワンコのように、正座で縮こまる大地。

まあ、気持ちは分らんでもない。いい歳した大人が酔っぱらって他人の家に担ぎ込まれたわけだからな……。


「お姉さん、とりあえずシャワー浴びる? 少しはスッキリすると思うけども」


「ニンニン。着替えならあるぞ。ニンニン」


大地はそこまでお世話になるわけには……と渋るが、忍者は突然、大地を押し倒して服を剥がし始めた!

って、ぎゃー! そいつは女よ! 


「ニンニン、やっぱり……胸をサポーターで潰してるから苦しいのだ。ほら、取った取った」


「ひぃぃぃぃ! 祥吾助けてぇ!」


無理でござる……。

俺と大和君はその場を忍者に任せ、二人で縁側へと。

並んで座り、二人で空を見上げる。そこには月が淡い光で祭りの夜を照らしていた。


「悪かったな、大和君……折角可愛い浴衣着てくれたのに……」


「別にいいでござるよ。お兄様から可愛いって言ってもらえるだけで……俺は幸せでござる」


あぁ、可愛い弟よ!

もうこのまま離さないぞ!


 そのまま酔っぱらったオッサンの如く大和君の肩を抱き寄せる俺。

ヤバい、完全に酔っぱらってるわ。


「お兄様は……俺のお兄様だよな」


「当たり前だろ、大和君は俺の弟だ」


お互い一人っ子で初めて出来た兄弟。

俺は今、この弟が可愛くて仕方がない。勿論女装云々は関係ない。


「お兄様、実は俺、あの子にホの字でござるよ」


「あの忍者か?」


「そうでござる。お兄様は……あのお姉さんの事好きか?」


「どうだろうなぁ……顔と胸は好みだ」


「最低! 最低でござる!」


俺もそう思う。

でもまあ……今まで大して出会いも無かったんだ。

この出会いは……大切にしなければ。


 祭りの香り、具体的に言えば醤油の香ばしい匂いが漂ってくる。

先程あれだけ食べたのに、なんかお腹空いてきたな。

その時、縁側に座る俺達の元へ、大和君が惚れている忍者がやってきた。


「ニンニン、あのお姉さんをお風呂に放り込んできたぞ。というわけでお兄さん、あとはお任せしても?」


「ぁ、ごめんね。お世話かけて……」


「ニンニン、お安い御用だぞ。じゃあ大和君、手伝いも一通り終わったし、祭りに赴こうぞ」


お、大和君、お誘いが来たぞ……ってー! 顔真っ赤!

大丈夫か?! 大和君、可愛すぎるぞ!


「お、お兄様! 何か食べたい物あるか?! 買ってきてやる!」


「あぁ、じゃあ……適当に……」


俺は大和君へと一万円札を手渡し、二人を見送る。

どうでもいいが、大和君が可愛い浴衣姿なのに対し、忍者はラフすぎるTシャツに短パン。

あの二人の関係が非常に気になる。まあ、その内作者が書くだろう。







「今夜は月が綺麗ですな」


 暫く月を眺めながら、そっと一人で呟いてみる。

夏目漱石がアイラブユーをそう訳したという話だが、それは都市伝説級の曖昧な物らしい。

まあ、そんな事はどうでもいい。二人で月を見て、互いに綺麗だと思う事が大切なのだと……誰かが言ってたような気が……


「そうですね」


思わずビクっと背筋が凍る。

ゆっくり後ろを振り返ると、そこには何処からどう見ても女にしか見えない奏さんが。


「は、早いですね、お風呂……」


「まあ、シャワーだけ軽く……」


奏さんはあの忍者と同じく、Tシャツと短パンのみという大胆な恰好。

あの忍者のセンスはどうなっているのか。もう少しマトモな服を……。


「隣……いい?」


「ぁ、どうぞ……」


縁側の、俺の隣へと座ってくる奏さん。

何故だろうか、大地として接していた時は……もっとフランクに対応できたのに、今はそんな事、出来そうにも無い。


「大和君達は?」


「あぁ、祭りに……」


「ほふぅ。いいのう、若い者同士で……青い青い」


何を言うとるんだ、この人は。

貴方だって十分に若いだろうに。俺より四つも年上だけども。


「奏さん……いつから男装趣味なんて持ってるんですか」


「んー……コスプレ始めた時からだから……もう学生の頃からやってるかなぁ」


あぁ、そういえばこの人コスプレ衣装も作れるとか主張してたな。


「私としては、大和君にぜひともコスプレしてもらいたいのですが……」


「本人の許可が下りればいいのではないでしょうか……たぶん」


そのまま奏さんは……何故か俺にどんどん距離を詰めてくる。

なんかお尻で移動してくる。もう肩が触れ合うくらいまで。


「な、なんですか、俺はしませんよ、コスプレ……」


「じゃあ私と結婚して」


「あぁ、それなら別にいいですよ……ってー! 何いってん!」


「今いいって言った! いいって言った!」


子供か!

ちょっとお黙り!


「そ、そもそも……奏さんは俺の事好きでもなんでも無いでしょう。大和狙いなんだから」


「そんな事ないけど……結構好みだよ。祥吾も私の顔と胸は好みなんだよね」


っぐ……!

そんな事を言われましても!


やっぱり、好きでもないのに……


「ぁ、花火」


胸に奥にまで響く音と共に、夜空を彩る花。

祭りを楽しむ人の歓声も耳に届いてくる。

 それから何発か連続で上がり、俺達は無言で花火を見つめていた。

いつの間にか奏さんは俺の肩に頭を預け、甘えるように寄り添ってきている。


「奏さんって肉食系っすか。積極的ですね」


「実は年下が好みなんだ……」


花火を眺めながら、俺はそっと……そんな奏さんの鼻をつまむ。


「……何?」


「いや、雰囲気的に何かしたほうがいいのかなーっと思って……キスするのは流石に早い気もするし……」


「すればいいじゃん! カモン!」


「まあ、時が来たら……」


「そんな悠長な事言ってると……私別の男の所に行っちゃうよ」


それはそれで……なんか嫌だな。

あぁ、そう思うって事は……俺は気になってはいるのだろうか。


「ほら、キスしてくれないなら、私は行っちゃう……」


「それは……嫌だ」


打ち上げられる花火

それと同時に俺は、好きでもない……かといって、このまま離れ離れになるのは寂しいと……まるで子供のように……甘えるように唇を合わせた。


「奏さん……顔真っ赤ですよ」


「き、き、きっ! 君がいきなり……接吻するから!」


だって離れたくはなかったから……


傍に居たいとは……思うから


俺は……彼女へと……その言葉を告げる


「友達から……お願いします」


「それ、キスした後にいう言葉か!」




 

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