デート!
先日、俺に彼女が出来た。
しかし俺の新しい義理の弟である大和君狙いだ。
ここまで下心丸見えだと逆に清々しいが、意外と言うか何というか、本日は二人きりでデートがしたいと言ってきた。
「大和は居なくていいのか……」
待ち合わせ場所で待ち惚ける俺。
ちなみに本日は最寄りの町で『七夕祭り』なるイベントが開催される。
今まで数回行った事はあるが、要するに盆祭りみたいなものだ。盆踊りはしないが、出店やら花火やらが打ち上げられる。
現在時刻は午前十時。
待ち合わせ時間は十時半だが、初めてのデートで舞い上がって早くきてしまった。
弟狙いと分かってはいても嬉しいものだ。彼女とデートというのは。
「あのー……」
その時、俺に声を掛けてくる茶髪の美少年が一人。
なんだ、このイケメンは。どっかのアイドル事務所に所属してそうな……
「待ちました?」
……あ?
誰も貴様のようなイケメン待ってないわ! モテない男の敵め!
「えっ、えーっ……お兄さん結構モテると思いますけども……」
「よし分かった。喧嘩売ってるんだな。いいだろう、俺はこう見えて……体育の成績だけ良かったんだ」
他の科目は平均以下だが。
「け、喧嘩なんて売ってません! っていうか私ですよ、私! よく見ておくれ!」
ああん?
貴様のようなイケメン知らんわ! おととい来やがれ!
「うわーん! 酷い! 気合入れてオメカシしてきたのに!」
「ええい、男のくせにワンワンと泣くな! 俺はこれから素敵な女性とデートなのだ。邪魔はさせんぞ」
「……素敵な……女性?」
なんか顔を赤くするイケメン。
何故貴様が赤くなる。
「そ、その人……そんなに素敵なんですか?」
ふむ。
ならば教えてやろう、俺の待ち人がどれほど魅力的な人か!
「…………まあ、胸は大きかった気がする……」
あとは何だ……えーっと……
「俺の弟を見て……鼻血だしてたな。正直怖かった。まあ、何処が魅力的かと言われたら……顔と胸くらい……」
「うわーん! 最低! 最低だよ! お兄さん!」
なんだコイツ、さっきから俺の事をお兄さんなんて呼びおってからに。
俺は貴様の兄では無くてよ!
「ところでお兄さんの待ち人ってこの人ですか?」
スマホを出して俺に画像を見せてくるイケメン。
そこには正に、俺が待っている彼女のパジャマ姿が……。
「な、何故貴様が彼女のパジャマ姿を! まさか……そういう関係なのか?!」
「フフフ、秘密です。ついでに言うと彼女は来ません! 彼女は私……僕が預かっている!」
なん……だと。
まさか貴様……誘拐……
「ぁ、いえ。そういう犯罪じみた事じゃなくて……とりあえず彼女は来ないんです! だから今日は僕と遊びましょう!」
「悪いがイケメンに興味は無い。とくと去れ」
「うわーん! そんな事言わずに! 遊んでくれなかったら彼女の身の安全は保障しません!」
お巡りさん! こっちです!
「ぎゃー! 違う! そういうのじゃ無くて! 僕はえーっと……この人の弟なんです! 今日は変わりにきました!」
ふむ。
そういえば顔がどこなく似てないような気もしないでもない。
「お兄さん、チョロいって良く言われません?」
「帰る」
「あぁ、待って! いいから! 今日は僕と遊びましょう、そうしましょう! まず何処行きますか?!」
※
そんなわけで何故か俺はイケメンとデートする事に。
いや、デートじゃないな。ただ男友達と遊んでるって感じだ。
今は男二人で大型ショッピングモールを闊歩している。
「君は今何歳だ。彼女の弟って事は……」
「あ、えーっと……今僕は大学生くらいです」
くらいってなんだ。
まあいい。とりあえずは俺と同じくらいと言う事か。
「なら敬語で話す必要はない。俺も大学生だ」
「ほふぅ、年下か……」
年下?
君は大学生以上なのか?
「いえ! 僕は大学生くらいですので! 同い年くらいです!」
だからくらいって何だ。
なんか怪しいな、コイツ……。
「そういえばお兄さん。とりあえず何処に?」
「そのお兄さんっていうのも止めよ。祥吾でいい」
「祥吾……じゃあ僕は大地で! ウフフフ……」
なんだコイツ。凄まじくニヤニヤしおって。
「とりあえずドコ行きます……ぁ、ドコ行く? 祥吾っ」
敬語をタメ口に直しつつ、俺に親し気に話しかけてくるイケメン。
コイツ……モテそうだな。許せん。しかし俺もいい大人だ。いちいち腹を立てていては器が知れる。
「そうだな……涼しい場所にでも行くか。ぁ、ちょうどいいのがあるな」
大型ショッピングモールの一角、夏の恒例イベントと称してオバケ屋敷が開催されていた。
なんか面白そうだな。男二人でっていうのが……ちょっとアレだが。
「えっ、オバケ屋敷……いや、僕はちょっと……」
なんだコイツ……もしかして怖いのか?
ククク、ならば……
「いいから行くぞ。男があんなのにビビってどうする」
そのまま大地の手を掴みお化け屋敷の受付へと。
なんかコイツの手……柔らかいな。まるで女みたいだ。
オバケ屋敷なんぞにビビっている辺りからしても……物腰が女々しい。
そんなんではダメよ!
「だ、ダメって?!」
「俺が鍛え直してやる。大地なんてカッコイイ名前しおって。完全に名前負けだ。行くぞ!」
「ひ、ひぃ!」
受付を済ませていざ、オバケ屋敷へ!
中は予想どうりというか何というか……肌寒いくらいに冷房が効いている上に暗い。
これは涼めそうだ。
「ひぃぃぃ! 祥吾ぉ! いない?! オバケいない?!」
いきなり俺の腕に抱き着いてくる大地。
お前ぇ、まだ入ったばかりだぞ。
「シャキっとせよ。こんなんでビビってどうする。俺は幼少の頃、本物の幽霊を見た事があるぞ」
「えっ、嘘! 嘘でしょ!?」
嘘ではない。
まあ詳しくは話せない。文字数が増えるから。
「あれは……そう、今みたいな夏の時期……」
「ちょぉぉぉ! 話せないとか言いながら話しだしてるじゃん! 文字数増えるんだから止めて!」
「ビビりすぎだ。というか男が男にくっつくな。暑苦しいだろ、離れよ」
「うわーん! そんな事言わずにぃ……」
情けない奴……。
こんな作り物と分かっていてビビる男なんて何処に……
『シクシク……シクシク……』
その時、何やら女の子の泣き声が。
大地は相変わらず俺に抱き着いたまま離れない。
しかもさらに俺の肩に顔を隠すようにし、前を見ないようにしている。
イケメンのくせに情けない奴だ。
まあいい、俺が見せてやろう、真の男の姿を!
『ドコ……ドコ……?』
暗い通路を進み続けると、如何にもな女の子がしゃがみ込んでいた。
白い着物に長い髪。顔は見えない。あぁ、これタブン……顔に特殊メイク施してある類の物か。
「ひぃぃぃ! 祥吾ぉ……なんかいる……なんかいるよ……!」
「分かっとるわ。しっかり前を見よ。驚かしてくれる人達だって仕事でやってるんだ。ちゃんと見ないと失礼であろう」
そのまま泣き続ける少女の真後ろまで。
すると少女はこちらを振り向きながら、長い髪を分けて……
『私の……コンタクトレンズ……どこぉ……』
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
『落としちゃったんですぅ……探すの手伝ってくださぃぃ』
「いやぁぁぁぁぁ!」
『お願いしますぅ……おねえさぁん……』
「やだやだやだやだ! おうちかえるぅ!」
暫く幽霊役の女の子と大地のやり取りを見つめる俺。
というかコンタクトレンズを探す幽霊って……。
『ねえ、おねえさぁん……』
「いやいやいやいやぁ、もう帰るぅ……帰るぅ……」
どうやら幽霊はコイツを女と勘違いしているようだ。
まあ声も高いし顔も女っぽいイケメンだしな。
「ほら、次行くぞ次。コンタクトレンズ探す幽霊なんて居るわけ……」
と、その時……足元から何か……パリっとした感触が。
あれ? もしかして……
『あぁ! 私のコンタクト! お兄さん壊したぁ!』
って、えぇぇ! 本当にコンタクトレンズ探してただけか!
『当たり前じゃないですかぁ! コンタクトレンズ探す幽霊なんて居るわけないってお兄さん言ったじゃん!』
す、すまん!
※
お化け屋敷から無事脱出した俺達。
ちなみにレンズ代は払わなくてもいいと責任者の方からお言葉を頂いたが、俺としては罪悪感MAXなのでとりあえず払っておいた。うぅ、バイトで稼いだなけなしの金が……。
大地は疲れ切った顔でベンチに座り、俺はその前に立って財布の確認。
「別に払わなくてもいいって言われたのに……あの子の過失だって言われたじゃん」
「そんなワケにはいかん。あの子学生らしいし、逆の立場だったら困るだろ」
「……ふむぅ……」
とはいえ……コンタクトって高いんだな……。
俺の財布の中身は一気に寂しくなった。
「じゃあお昼代は僕が払うよ、今日遊んでくれるお礼として」
「何を言う。割り勘に決まってるだろ、コンタクト壊したのは俺の……」
「いいから。じゃあこうしよう。今度姉さんに何か奢ってやってよ。それでチャラ。OK?」
むう。
ならばそういう事にしておこう。
ごちそうになります!
「じゃあ何食べよっか……祥吾は何か食べたい物ある?」
「そうだな……七夕祭りの出店でも何か食うだろうし……」
「七夕祭り……? 行くの?」
ああん?
行くに決まってるだろ。
とは言っても金が……まあ降ろしてくればいいか。
「祥吾は……僕と姉さんと……どっちと七夕祭り行きたい?」
突然そんな事を聞いてくる大地。
んなもん、言うまでも無いが……
「大地は行きたくないのか? まあ確かに美人と祭りを楽しむのも一興だが、男友達とワイワイやるのも楽しいぞ」
「美人……ふ、ふーん……姉さんそんなに美人?」
「あぁ、実の姉が美人とか言われても分からないか? そうだなぁ……例えるなら……」
あのキャンプ場で出会った……大地のお姉さんを思い出す。
白いワンピース姿に麦わら帽子。そう、まるで高原に咲く……一凛の花……。
「ひぁぁぁ! そうなの?! そうなっちゃうの?!」
なんか大地が真っ赤な顔に。
「俺はこう見えて人を見る目はある方だぞ。大地の姉は実に美人だ。ちょっと変だけど……まあ性格も悪そうには見えん。俺の弟を可愛いと絶賛していたしな」
「人を見る目……いやぁ、祥吾は絶対無いよ……」
失礼な奴め。
あるったらあるの!
「というか……何で大地の姉さん来ないんだ。腹でも壊したのか?」
「ぁー……えーっと……その理由を聞く前に尋ねたいんだけどさ……姉さんの事好き?」
何だ、いきなり……。
「好きとか嫌いとか以前に……俺、お前の姉さんの名前すら知らんしな。LUNEのIDしか……」
ちなみにID名は『まるちーず(モフ毛)』になっていた。
非常に変な……いや、ユニークな方だ。
「姉さんの名前……? 高坂 奏だけど……」
「奏か。いい名前だな……」
「……いい名前……」
いや、だから何でお前が赤くなるんだ。
姉を褒められると嬉しい物なのか?
「うん……そう……嬉しいかも……」
ふむぅ。
俺は今まで兄弟居なかったからよく分からんが……。
まあ、そうだな。奏さんに大和君の事を可愛いと言われた時……嬉しかったかもしれん。
※
それから二人で軽く昼食を済ませ、適当に時間を潰す俺達。
服を選び合ったり、ゲーセンに行ったり……映画も見ようとしたが時間が結構迫ってきていた。
なんの時間かと言えば……七夕祭りだ。
時刻は夕方……。
西日が眩しく輝き出し、町には半被を着た人が増えてきた。
中には綺麗な浴衣を着た女性も。
そんな女性を目で追いかける俺に、大地は意味深な視線を浴びせてくる。
「……祥吾、あのさ……」
「あん? なんだ」
突然何やら思いつめた顔で、モジモジする大地。
なんだコイツ。言いたい事があるならハッキリと言いたまえ。
「僕、今日凄く楽しかったよ。祥吾と……遊べて……」
「あぁ、俺も楽しかったぞ……って、まだ終わりじゃないぞ。七夕祭りもあるんだから……」
「……夢だったんだ」
なんだ、いきなり。
何が夢だって?
「男の子と……男として一緒に並んで遊ぶのが……だから、その……ホントにゴメン!」
「何を言っとるんだ、チミは。男としてって……お前女か?」
「うん……」
そのまま茶髪のウィッグを取る大地……って、え? ウィッグ?
「……え?」
「ホントにゴメン……」
ウィッグの下は、ネットのような物で髪を纏めている。
それも取る大地。すると目の前に現れたのは……
「奏……さん?」
「……ゴメン……」




