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新しい弟!

【この作品は、アンリ様の《告白フェスタ》企画参加作品です】

 突然だが俺の母親が再婚した。

相手は母親より十歳年上のサラリーマン。人間的にはいい人だ。前の父親とは違い酒に溺れて暴力を振ってくる事などまずない。煙草も吸わず、趣味は釣りと映画鑑賞だという。

 

 そんな新しい父親には息子が一人いた。その息子は俺より年下の高校生。なんとこの俺に義理の弟が出来たのだ。ちなみに俺は今大学生。


「……新しい弟か……」


正直、年下の高校生とどうすれば仲良くなれるのか分からない。

そこまで歳が離れているわけでは無いが、やはりどことなく不安だ。いきなり襟首掴まれて……


『ぶちのめすぞクソ兄貴ィ!』


とか言われたら泣いてしまう。

しかし弟の見た目は普通だ。どこにでも居るような大人しそうな男子高校生。

許せん事に俺よりイケメン。

高校ではさぞモテている事だろう。


 その弟は今、我が実家の二階の自室に一人。

ちなみに俺は普段アパートで一人暮らし。大学が実家から離れている為、せっかくだし……と始めた一人暮らしだが、休日は実家に帰ってきて飯を食っている。断じて寂しいからではない。


「弟か……名前は確か……大和(やまと)だったか……」


なんともカッコイイ名前だ。俺は大和と聞くと、とある宇宙戦艦を思い出してしまうが大和君は当然そんな世代では無い。いや、俺もその世代からは外れているが。あれだ、再放送勢だ。


 俺はそっと実家の階段を昇る。

勿論新しい弟の部屋へと赴くのだ。なんかドキドキする。まるで彼女の部屋に行くような感覚だ。

彼女は居ないが。


 弟の大和君の部屋、その扉にはホワイトボードが掛けられていた。

恐らく母親が書いたであろう『大和君の部屋! ノックは人類最高の発明です!』の文字が。

 母親も可愛い息子が出来て嬉しいのだろう。なんだろう、この釈然としない気持ちは。

まさか大和君に対して焼き餅を焼いているのか? まさかまさか、そんなバカな。


 しかし俺にとっても可愛い弟だ。

出来る事なら一緒にキャッチボールしたり、兄弟仲良く遊びたい!

正直憧れていたのだ、男の兄弟に。


 一度深呼吸しつつ、大和君の部屋をノック。

すると中から何やら倒れるような音が。なんだ? どうしたんだ。


「だ、だれだ! 名を名乗れ!」


慌てた様子の大和君の声が聞こえてきた。

名を名乗れって……どこの武士だ。まあ面白そうな弟君だ。


「あぁ、すまん。俺だ、祥吾(しょうご)だ。入っていいか?」


「お、お兄様! ちょ、ちょっと待たれよ! 今俺はちょっとアレなんだ!」


おお、お兄様と呼ばれてしまった。

ちょっとアレってなんか凄い気になるが……まあ、アレだろう。

男なら皆分かる筈だ。


「あぁ、悪い悪い。出直すわ」


「ちょー! ちょっと! 別に変な事してないから! 勘違いしないでよね!」


なんかツンデレ対応が来た。

部屋の中ではドタバタと大和君が慌ただしい。

変な事をしてないのなら……開けても大丈夫だよな?

いや、ここはむしろ開けるべきだろう。これも男同士のスキンシップだ。恥ずかしい経験こそが、男を大きくするのだ!


「入るぞ、大和君」


そのまま扉を開け放ち入室する俺。

すると目の前に飛び込んできた光景に……思わず開いた口が塞がらなくなった。


「ちょ、お兄様! 入ってくるなって言ったのに!」


「……や、大和……君?」


目の前のNewな弟の姿に唖然とする。

いや、弟だよな? 断じて……妹では……なかった筈。


「お、お兄様のバカぁー! も、もうお嫁に行けない……」


そう言いながら顔を両手で覆い悶える大和君。

その姿は……女子高生。どこからどうみても女子高生。

大和君は女子高生の制服に身を包んでいた。

しかもウィッグなのか、髪型もショートボブっぽくなっている。


「や、大和君なのか? いや、実は大和ちゃんだったのか?!」


「っく……バレてしまっては仕方ない」


まるでラスボスのような事を言いながら、俺の前で仁王立ちする女子高生。

その場で一回転し、俺に女子の制服姿を見せつけてくる。


「お兄様……実は俺は……女装が趣味の弟! つまりは男の娘なのさ!」


「…………」


バタン……と扉を閉め弟の部屋を後にする。

そのまま何事も無かったかのように階下のリビングへ赴くと、新しい父親である京志郎(きょうしろう)さんが釣り具の点検をしていた。


「こんにちは、京志郎さん。それ釣りの道具ですか?」


「ん? 祥吾君帰ってきてたんだね。あぁ、そうだよ。次の連休にまた釣りに行こうかと……良かったら祥吾君もどうかな」


「いいですね。川釣りですか?」


「うん。山の中で小さいキャンプ場も近くにあるから、家族皆で行きたい所だけど……大和が日焼けしたくないって中々一緒に来てくれないんだよね……」


あぁ、大和君か……。


って


「ええええええええええええええええ!」


「え?!」


突然奇声を発する俺に、京志郎さんは目を丸くして驚く。

しかし俺はもっと驚いている! まさか新しい弟に……あんな趣味が!


「ど、どうしたの? あぁ、もしかして大和が日焼けしたくないって事がそんなにショックだったかい?」


「いえ、チガイマス。京志郎さんは知ってるんですか? 大和君の……」


いや、待て待て待て。

これで京志郎さんが知らなかったらどうする。大惨事が起きるぞ。

まだ彼の趣味を知っているのは俺だけかもしれない。ここは黙っておいた方が……


「大和の……何?」


「いえ、なんでもないです……」


やはり京志郎さんは知らないようだ。

弟の秘密を守ってやれるのは……俺しか……


「ちょっとお兄様! いきなり逃げるとは何事か!」


リビングにいきなり現れる大和君!

思い切り女装したままじゃないか! なんでそのままやねん!


「や、大和! その恰好は……!」


ほら見ろ!

大惨事発生だ! 息子が娘の姿をして現れたら誰でも……


「その制服は聖モモル女学院のか! 一体どこから入手したんだい?」


ってー!

何言ってん、この人! もしかして知ってたのか?!


「おう、お父様。桃子さんが新しい息子にお祝いだよって……買ってくれた」


ちなみに桃子とは俺の母親の名前。

ってー! 母親も知ってんのか! つーか新しい息子にプレゼントする物が女子の制服ってどういうことだ!


「中々似合ってるじゃないか。おや、もしかして……祥吾君は……知らなかったのかい? 大和の女装癖……」


「知るわけないだろうが!」




 ※




 《時は流れて……次の連休》


 あの衝撃のカミングアウトから二週間後。

俺は今、岐阜県のとある山中のキャンプ場に赴いていた。

当然だが新しい家族でだ。俺、母親、京志郎さん、そして……


「お兄様、なんか暗いぞ。もっと楽しくせよ」


麦わら帽子に……可愛らしい白のワンピースを着た大和君。

というか、外出するときもそれなのか。

そこまでオープンなら、何で俺が初めて大和君の部屋に行った時はあんなに慌てたんだ。


「お兄様に暴露するのはもっと後にして……驚かしてやろうと思ってたんだ」


「十分驚いたわ。というか大和君……肌はいいのか? 日焼け止めはちゃんと塗ったか?」


「ぬかりは無い。まあ俺も男だしな。多少焼けても問題ない。男はワイルドに生きねば」


ならワイルドにしたらどうだ。

なんでキャンプにまで女装で……。


「祥吾君、こっち手伝ってもらっていい?」


「あ、はい」


京志郎さんの愛車であるワンボックスカーからキャンプ道具を運び出す。

すると大和君も手伝おうと、かなり重たそうなテント一式が詰まったバックへと手を伸ばした。


「大和君、それ重いぞ。俺が……」


「ああん? お兄様、俺を見くびるでない。これでもレスリング部だぜ」


あぁ、成程。

そんな細腕でヒョイヒョイ重たそうな荷物を運び出せるのも、あのハードなスポーツ格闘技をやっているからか……


ってー! レスリング?! 


「や、大和君……レスリング部なのか?!」


「ありゃ、お兄様にはまだ言ってなかったか。おう、俺は歴とした男子レスリング部のマネージャーだぜ」


マネージャーなんだ?


「一年の時は普通に選手してたけど……腰やっちまって。ドクターストップ中なんだ。それが解除されるまではマネージャーやれって言われて……」


ちなみに今彼は高校二年生。

腰……ヘルニアか何かだろうか。それはキツイな……。


「大和君、なら尚更俺が重い物を……」


と、テント一式を持ち上げようとした時。

俺の腰から嫌が音が響いた。




 ※




 幸い、俺の腰は大事には至らなかった。

嫌な音はしたが、一瞬痛かっただけだ。たぶん。


そんな俺は今、新しい父親である京志郎さんと釣りにきている。


「のどかだねぇ……」


「ですね……」


岩の上から糸を垂らし、男二人でボーっと魚を待つ。

ふと空を見上げると、風で揺れる木の葉が直射日光から守ってくれていた。

なんとも癒される光景だ。ここは風が吹き抜けて気持ちいし。


「ところで祥吾君……大和の女装には驚いたかね」


「……まあ、それなりには……。でも今流行ってますからね、ネットとかで……男の娘」


京志郎さんは釣り竿を見つめつつ、何か思いだすように川を見つめる。


「実は……大和の女装癖は……あの子の実の母親の事があるからなんだ」


実の母親……。あぁ、俺の母親から少し事情は聴いている。

大和君の母親は、まだ彼が小学生の時に病に倒れ帰らぬ人となった。

小学生と言えば……まだ親に甘えたい時期だ。

きっと母親が恋しかったんだろう。だから女装をして……


「祥吾君、あの子の女装は母親そっくりだよ。だからというわけではないが……俺も昔の家内を思い出してしまってね……。桃子さんに申し訳ない……」


「いや、申し訳ないなんて思う必要ないでしょう。忘れちゃいけない記憶っていうのは……思いだす物なんです」


「中々感慨深い事を言うね。そうか、大和に女の子の服を与えたのも……死んだ家内の事を忘れてはならないと思ったから……」


「ってー! 女装癖のキッカケを作ったのはアンタか!」




 ※




 数時間後、なんと俺はニジマスを三匹も釣ってしまった。

まあキャンプ場の釣り場だしな。このくらいは当たり前なのかもしれないが。

ちなみに京志郎さんは五匹程釣ったが、ボウズの他の客に一匹残してあげてしまった。

まあ、四人だから四匹で十分なわけだが。


「祥吾君、じゃあ僕はあっちで内臓とか取ってくるよ。大和達の方、手伝ってもらっていい?」


「わかりました」


ちなみに彼らはバーベキューの準備をしている筈だ。

まあ、準備といっても炭に火を入れて野菜を切って……肉は焼くだけだったからな。

特にそんなにやる事は無い筈……。


 ゆっくり回りの風景を楽しみながら、大和君と俺の母親が居るバーベキュー広場へ。

周りの家族も楽しそうだ。小さな子供がワタアメを片手にシロクマと戯れている。平和だ。


「大和君は……お、あれか」


麦わら帽子に白いワンピースの後ろ姿。

そっと肩を叩き、こちらを振り向かせる。


「お待たせ。準備出来てる?」


「……? はい?」


ってー! 大和君じゃない! もっと年上のお姉さんだ! 

しまった! 人違いだ! 


「す、すみません、間違えました……」


「あぁ、いえいえー。今日は麦わら帽子にワンピースの女の子多いですからねーっ」


おお、なんとも感じのいい人だ。

これを機に仲良くなりたい。中々可愛い人だし。


「お兄さんの……彼女さんが私と同じような恰好してるんですか?」


「いえ、弟です」


「え? 弟……さん?」


ぁ、しまった。

男でワンピースとか普通着ないよな……スカートだし……。


「え、えーっと……その……」


「お兄様ー! こっちだぞー、そっちじゃないぞーっ」


その時、噂の弟が駆け寄ってきた!

ぎゃー! なんてタイミングで!

不味い、このままでは大和が変な目で見られてしまう!


「萌え萌え……きゅんきゅん……」


「……え?」


なんだ、今のワードは。

俺が間違えて話しかけた女性が、素っ頓狂な事を……


「萌え萌え! きゅんきゅん! ぜ、ぜひお名前を! 連絡先交換してください!」


って、おーいっ! なんか逆ナンし始めたぞ!


「むむ、お姉さん。もしかして男の娘好き?」


「大好き! 大好物! ご飯五杯は余裕でいける!」


あぁ、俺の新しい弟が食べられてしまう!

このままではイカン、大和を守ってやらねば。


「や、大和、行こう。この人は少しマニアックな人だ」


「失礼な! 今時このくらいノーマルです! これだから耐性のない一般人は!」


どうしよう。この人は危険だ。

とりあえず大和を守るように肩を抱き寄せる。

その瞬間、女性の目が太陽のように輝きだした!


「貴方達……兄弟でBL展開迎えてるの?!」


何言ってんだこの人!

怖い、怖すぎる! 逃げよう大和!


「お兄様、俺は……構わないぞ?」


何故か俺に肩を抱かれて恥ずかしそうに縮こまる大和君。

その瞬間、女性は口元を抑えて膝をついた。

なんだ、どうしたんだ。


「っく……鼻血が……なんて恐ろしい子!」


いや、アンタの方が恐ろしいわ。

なんで鼻血出すまで興奮してんだ。


「まあいいわ。弟君がダメなら……お兄さん! 私と恋人になりましょう! そしてゆくゆくは……弟君は私の弟に!」


「おお、お兄様、結婚前提を押してくる彼女が出来たぞ」


「あぁ、彼女居ない歴イコール年齢の俺にとっては少し重いが……」


俺はもう少しマトモな彼女が欲しい。

少なくとも、弟を見て鼻血を出さない子がいい。


「ハァ、ハァ……お兄さん、私とお付き合いしませんか! 私の得意料理はビーフシチュー! そしてコスプレ衣装も作れます! 理想の奥さんだとは思いませんか!」


うーむ。

俺としてはまだ恋愛を楽しみたいんだが……。

得意料理はビーフシチューか。それにこの人は結構楽しそうな人だし……まあいいか。


「分かりました。じゃあ……とりあえずIDを交換しましょう」


「はい! よろしくお願いします!」



こうして俺は……意味の分からん内に彼女が出来ました。


しかも結婚前提の……。




つづく



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