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その4


 霊界帰りの伯爵無双は村に相当の衝撃を与えたが、翌日にはそんなものなど比較にならぬカタストロフが訪れた。伯爵同様なにもせずに死んでいたROM民ゆーろの復活である。初日に自動で死んだあと5日後に生き返る程度の能力を持つ彼は奇術師つるぎの力で牛男爵とアイコンを入れ替えられていたため、IDは『元ユーロ』に変わり果てていた。中国の為替レートみたいなことになっている。

 色々ありすぎて今まで取り上げるのを忘れていたが、最初に死んだと思われた男爵はゆーろの体を乗っ取って生きていたのだ。ちなみに入れ替わったのは、つるぎが能力セットしてなくてランダム発動したおかげなのだが……何故よりにもよって初日に死ぬ能力持ちのゆーろと、たいせつな仲間の牛さんを入れ替えるかね……。名もない雑魚プレイヤーとか入れ替えておけば何の騒ぎにもならなかったのに。まぁおかげで(アイコンを返す代償として)酒をゲットできたので、結果的には最高のランダムだったけどな。


 そんなことはどうでもいい。

 さて……墓下から舞い戻ったゆーろが実行したのは、『恋窓リストを全プレイヤーに公開する』という、後先まったく考慮しない破壊的暴挙だった。裏窓を持つ者にとってはおおかた把握していた情報ではあるが、なにも知らなかった村人にとってはまさにブルースカイ霹靂。窓なしで孤独に推理していた庶民どもの頭蓋を一撃のもとに粉砕する、神の鉄槌であった。

 考えてみてほしい。敵も味方もわからず、表以外の窓もなく、己の頭脳だけでゲームを進めていた矢先に、狼と狂人と妖魔の完全リストが貼り出されたのを目にした村人のショックを。しかも半数以上の者が『あーあ、やりやがったよコイツ』みたいな対応してるのだ。たのしく人狼ゲームやってたらいきなり後頭部をハンマーで殴られて『こんなげーむに まじになっちゃって どうするの』と煽られたに等しい。

 この無慈悲きわまるファーストインパクトによって、漣博士の実験村は10割がた崩壊。やる気を失って突然死を選ぶ者まで出る大惨事に至るのであった。断言してしまうが、この時点で村は終了していたと言って過言ではない。


 ゆーろはリストを公表する前に、こう述べている。

『私は確定的に村人側なので、この情報をそのまま投下するか結構悩んだが、抱え込んで落ちるよりはいいだろうと判断した』

 彼を知る者なら誰でも言い返すだろう。『嘘をつくな。1ミリも悩んでないだろ。おもしろそうだからやっただけだろ、このゆーろ!』と。あるいは『さすがゆーろ! 俺たちにできないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!』と。

 ……いや誰も憧れねーよ! よく結婚できたな、この人非人! すのーはこれを読んだらすぐに離婚するんだ! その男は村と同じように家庭も崩壊させるぞ!


 大袈裟に言ってるように見えるかもしれないが……実際問題、彼が動く前から半数以上のプレイヤーが恋窓リストを持っていたのだ。それでも公の場にさらそうとする者は一人もいなかった。やったらどうなるか想像がついていたからだ。ゲームがゲームでなくなる、と。にもかかわらず一切の躊躇なく公開してしまう、ゆーろという男。やはりただものではない。某匿名掲示板5ch人狼ヲチスレで、伯爵と並んで叩かれるだけのことはある。

『この手元にある恋窓リストを白ログに貼る、なんてことをしたらゲームが壊れるに決まってる……そんな重大な責は自分には負えない……現に誰もやってないし……』などと些末なことを気にする凡俗とは違うのだ。必要とあらば(おもしろそうであれば)ためらいなく核ミサイルの発射スイッチを押す男。それがゆーろだ!

 彼が大統領選に出馬していればトランプにも勝てたに違いない! 彼ならば『メキシコとの間に巨大な壁を築く』など生ぬるいことを言わず、『メキシコに核を撃ち込む』と公約して履行したはずだ! 民族浄化万歳! あとブタから借りた2万円は早く返しとけよ大統領!


 この近代まれに見る暴君ゆーろの手によって恋窓リストが民衆へ開示されたことで、妖魔陣営と伯爵陣営は完全に死んだ。それまでは『ほぼ詰んでるけど、このリストさえ出回らなければワンチャンある……かも!?』と一縷の希望を残していたのだが、それも泡と消えた。少数民族は絶滅せよとの、大統領令が発動されたのだ。ついでに言えば一度死んで四天王の資格を喪失しているゆーろの勝ち目もほぼゼロなのだが、大統領たる者こまかいことは気にしないのだよ! いや気にしろよ! なにやってんだよ大統領!

 わかってない人のために言っておくが、ゆーろはROM民であると周知されている(というかゆーろ自らが周知させた)ので、村側であることは確定している。にもかかわらず、村側の勝利をかなぐり捨てるかのような恋窓リスト大公開。

 少々……かなり意味がわからない行動だが、おもしろそうだからやっただけだと本人は言うだろう。あのトランプ大統領でさえ、そんな理由でメキシコや北朝鮮に核をブチこんだりしないのに。まぁ今のところやってないだけで、そのうちやるに違いないが。


 さておき控えめに言っても、ゆーろの投下した核兵器によって人狼ゲームは人狼ゲームでなくなってしまった。そりゃそうだ。すべての狼と狂人がプレイヤー全員にハッキリ見えているのだから、推理もへったくれもクソも味噌もない。

 しかし、ここはねじれ天国。通常の人狼ゲームのように狼を吊れば終わり、とはいかない。狼を滅ぼすより先に、妖魔、恋人、黒幕、復讐者……などの第三陣営を潰さなければならないのだ。

 賢い者は瞬時に理解した。ここから先はまったく別のゲームになるのだ、と。漣博士考案のトチ狂ったクソ村を、愉快犯ゆーろが完膚なきまでにブチ壊しやがったのだ、と。……でもまぁどうでもいいや、と。


 ところで、さっきチラッとログ読みかえして気付いたんだけど……墓下で恋窓リストをゆーろに渡したのフィオナじゃねーか! 『ゆーろさんがどう使うかはもう丸投げ』じゃねーよ! 赤の他人じゃないんだから、こんなヤツにそんなモン見せたらどうなるか想像つくだろ! キチガイに刃物って言葉を知らねーのかよ! どう考えても真の戦犯はコイツじゃねーか! 良識のカケラもない人格破綻者ゆーろにまで『一番良識がない』とか言われてんぞ!



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